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現代文明崩壊世界のチート活用方法について  作者: 文部一升
一章 夏と死神の戦争ごっこ
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一章22 嵐の前の静けさ

この作品はフィクションである。

未成年の喫煙及び飲酒を推奨するものではないのである。二十歳になってからである。

「──浦凪。久しぶりだね」


 屋上でタバコを蒸していると茜谷が背後に居た。


「よう、一週間振り」


 肺に煙を入れて吐き出す。片手を上げて挨拶する。


 茜谷は僕の指に挟んでいるタバコを見て顔をしかめた。


「……学内、一応禁煙なんだけど」

「いいじゃねえかよ、屋外だ。バレねえよ」


 すぱー。あー落ち着く……。


 茜谷は煙を嫌って風上へ移動した。


「……それで、この学校にはなんの用事があったの?」

「ああ。まー……交渉ってことらしい。今ウチの隊長が下で学園機関のお偉いさんと話しててな。暇だからついて来た」


 隊長の護衛っていう名目だ。まあ実力的にはどっちが護衛か分からねえけど……まあ、僕への気遣いも含まれていると思う。これから忙しくなるから、旧友には顔を合わせておいた方がいい……とのこと。


 昼休みに合わせて来校した僕は手持ち無沙汰になったため茜谷を屋上へ呼び出して暇を潰している。


「学校側に動きとかあんのか?」

「取り敢えずは都市の復旧に駆り出されてるよ。毎日忙しい」

「ほーん。忙しいねぇ。兵器の開発とか急かされたりしてないの?」

「仮にも学生に、そんなことはさせない……と、いずれ言えなくなるだろうね。そういう話は少しずつ聞こえているよ」

「っつっても全面戦争にはならねえと思うけどな。上層部を根こそぎ変えねえと意味がねえし──だからまあ、傭兵を送り込んでの工作がメインになるだろうな。どの道戦争の主力は傭兵だし、その点で言うなら兵器なんて開発しても意味はあんまりねえ」

「じゃあ私たちは、特にすることがないってこと?」

「まあ──少なくとも学生は何もねえだろ」

「じゃあ君は?」

「ま、僕はすでにエースと言っても過言じゃねえし。主力も主力だ」


 リーパーはかなりクセのある味だ。いろいろ比べてみたが、好き嫌いがはっきり分かれる銘柄だと思う。僕はどハマりした。


 ──怪我と火傷は既に完治し、体の調子は絶好調。因子の活動は許容範囲内。ようやく万全に古布里を受け継ぐことが出来──それに加えてリバースコアも受容が可能になったことで最高速度は相当上がった。あの時よりも因子が体になじむことで身体能力は日に日に上がっている。嬉しいことのはずなのに、それがなぜだかひたすら不安だった。


「……もう、浦凪はここから遠い場所にいるんだね」

「──。ああ。もう戻れねえ」


 奈良宮を貫いた時の感触を、僕はまだ覚えている。


 ……僕は、あの時フロウを殺すことが、フロウにとっての救いだと思っていた。その考えは未だに変わっていないし──これからも変わることはなく、死はフロウにとっての救いであり続けるのだろう。それは僕にとっても同じだ。


 奈良宮はああなることを自ら選んだ。フロウの代わりに死ぬことで、フロウが死ぬ理由を消した……。


「……傭兵にも数人の犠牲者が出たってね。聞いたよ」

「民間の犠牲はそんなもんじゃ済まねえだろ。何百人死んだ?」

「約二百人だね。戦術級バーストレギオンへの避難が少し間に合わなかったけど、マシな方だと思う。遺族には悪い言い方だけど」

「マシ……だろ。最悪、この都市自体が滅んでいた可能性だって十分にあった話だ」

「そうだね……。君の活躍、有名だよ。遠くから動画撮られててね、まるでアニメの覚醒シーンだって話題になった」

「……その後は?」

「ちゃんと検閲を入れてあるよ。君があの傭兵──奈良宮結弦を貫いたシーンは、ちゃんとこっちで削除した上で、撮影者にも口止めはしてある。心配は要らないよ」

「……そりゃ、周到だな。だから街中歩くとめっちゃ見られたんだな」

「たった一日で君は英雄だ。まるで成り上がりもののストーリーだね」

「なあ茜谷。僕をどう思う」

「どうって──」


 フェンスに肘を掛けて空を見上げた。今日もいい天気、ちゃんと夏だ。


「僕は結局罪には問われなかった。奈良宮の死因はレギオンとの戦闘によるものとされたからな。傭兵団は今僕を裁判に取られる訳にいかない」


 大人の汚い話だ。つっても正直その辺のこと僕は何も考えてなかったからとやかく言うことは出来ない……。確かにフロウにとって救いだったはずの死は、普通に犯罪だ。自殺だって立派な殺人であることを鑑みれば、人間はそう簡単に救われないことを選んだのだろう。


「人を殺した僕をどう思う。仲間を殺した僕を軽蔑するか」

「君は……許されたくないんだね」

「そうかもな」


 ……タバコが短くなってきて、僕は最後の煙を吐いた。それから奈良宮の遺物である携帯灰皿を開いて吸い殻を突っ込む。


「そろそろ時間だ。行かねえと」

「短いんだね」

「ああ。大方の概要はあらかじめ送っておいたらしいし、結論は出ていた。今日来たのはそいつを確実にするためだけって話だしな」


 茜谷はフェンス越しに見える、復旧中の外壁と、都市を見やった。


「もうここには来ない。これから作戦が本格化する、きっとしばらく会うことはねえと思う」

「そっか。寂しくなるね」

「ああ。きっと次会う時は、僕はもっと多くの人を殺しているだろう」

「……うん」

「なあ茜谷、一つだけ頼みがあるんだ」

「いいよ、なんでも言って」

「次会った時も、変わらず僕と話してくれるか。こうやってまた話してくれるか」

「いいよ。約束するよ」


 茜谷はとても優しい。弱い僕を許そうとする。


「──ありがとうな。お前が友達でよかった」


 歩き出した。もうこの場所に用はない。出来れば二度と来たくもない。


「私は友達のままじゃ嫌だよ、浦凪!」


 はっきりと聞こえたその言葉を聞こえないフリで誤魔化すのは無理があったが。


 そうやって逃げるから僕は救えない。


 ──次会うのが早くも億劫になった、茜谷もなかなか強い武器を隠し持っていたと言う訳か。レギオンよりよほどタチが悪いぜ。




 *




 死にそうだ。


 もうこれ以上も動けそうにないのに、体は動く。つーか動かす。この作業にも慣れた……と言いたいところだが、これは自分との戦いだから。


 腕立てを何千回やったか、正直数えてない。デバイスに管理させている。それによると、そろそろ三万回になりそう。えうっそ、そんなにやってたの? きりよく三万で終了。これで取り敢えず基礎筋力のトレーニングは終了。次はランニングだ。


 と、その前の休憩を挟んでペットボトルで水を飲んでいると、タオルが飛んできた。


「精が出るな。先生にそっくりだ」

「衣刃。悪いね」

「いい。というか、流石に無茶な訓練ではないか? 私でも出来ないぞ、こんなの」

「古布里はこれくらいやってたでしょ?」

「──ああ。まあ。あの人はまあちょっと、規格外だったからな……。玲花まで真似しなくてもいいだろう」


 訓練場へつながる階段に座って汗を拭く僕に並んで衣刃は座った。


 野外訓練所では十人程度の傭兵が同様にスクワットなり腕立てなりをしていた。やっぱ基礎的な所が一番大事なんだよな。


 つか全員ヌルすぎ……でもないか。ギリギリまでやってる。


「……なぜ。そんなに追い込む? 確かに先生もそのぐらいやっていた時期もあったが、無茶だからすぐに減らしたぞ。過剰だ」

「いや、僕にはこれくらいで丁度いいよ。一応これでもリバースコアの因子を取り込んでいるから、体力は有り余ってたんだよ。それになんか、体が勝手に動くんだ……」

「はは、それは先生の呪いだな。訓練の重要性をこの上なく感じていた人だったし、なによりあの人自身、それが半分趣味になっていたと思う。中毒と言い換えてもいい」

「ああ、納得した……。これから走り込みなんだが、衣刃もやるか?」

「……そうだな。少し気分転換がしたい所だったんだ」

「どうだ、状況は」

「まあ──気分転換くらいしたくなる程度だ。人を傷つけるための作戦なんて、初めて立てるからな」


 衣刃は少し疲弊しているようだった。無理もない。状況の変化が激しいからだ。


「明日こちらから宣戦布告をする」

「そうか──作戦はもう決まったのか?」

「ああ。玲花、君にもたくさん働いてもらう」

「それが僕の役割なら、なんだって命令してくれ」


 何の気なしに漏らした一言だったが、衣刃は厳しい顔になった。


「玲花、君は今少し精神的に危ういかもしれない。明日あたりにメンタルケアの予定を組んである、ちゃんと来てくれ」

「はは、なんだそれ。結構僕って心配されてるの?」

「人は適応する生き物だが、それにも限度がある。君の場合、変化が急激すぎたんだ。君はそのことに文句ひとつ言わずに居たが──水面下では、確かに君の精神に傷はついていたんだ。玲花、タバコにハマってるだろう」

「ああ。……やめないからな」

「そんなこと言わないさ。薬物──ドラッグの本来の役割を知っているか?」

「それって違法薬物とかいうヤツ?」

「違法も合法も、両方だ」

「さあ、知らないね。興味もなかったけど──」

「精神の安定のためさ。嫌なことがあったりすると、ヤケ酒でストレスを発散したりな。もちろん体に害が無いなんて言えないが──それでも、それをしなかったせいで精神が潰れるよりはずっとマシだ。だからまあ、ストレスや精神への負担を解消するという観点で分析するのなら、タバコっていうのは一つの選択肢として十分アリだと思う。まあ、未成年は違法という点に目を瞑れば、だがな」


 ふうん……。初めて聞いたな、そんな話。


「だが忘れてはならない。アルコールもタバコも依存性のあるドラックであることに変わりはない。危険性も持ち合わせているんだ。依存するなよ」

「まあ気を付けるよ。出来ればね」


 立ち上がる。


「訓練再開だ、衣刃」

「……ああ。行こう」





 *





 逆白古布里の家は、かなりの高級取りだったにもかかわらず、こじんまりとしたマンションの一室だった。四季にもらった鍵で開けて入る。ほとんどが手付かずで、親族も居ないため、四季が代わりに管理しているのだという。


 さて、パソコンとここにある限りのデバイスぶっ壊すか。遺言だしな。


 部屋は全体的によく整頓──されていない。全く整頓されていない。


 雑誌が散らかっている。──尊敬される上司とは、夏の女性ファッション五選、潜入! 防衛隊の真実の姿、初めて始める簡単料理レシピ集。


 そんな感じの、こう、なんとも残念な二十七歳の雑誌レパートリーであった。これは見られたら死ねるな。鬼教官で通ってたんだから尚更。


 料理──。衣刃が、先生に料理を教えていたと話していた。やろうとしていたらしい。ま、僕はできるんだけどな、料理。はい死者マウント。僕の勝ち。


 服が散らかっている。散っている下着にはまあ、目を逸らしておこう。四季……こういうの片付けておいてくれよ……。


 奥の部屋へ。


 パソコンがあった。なんとなく電源を付ける。


 ……パスワードがかかっていなかった。マジかよ、このご時世に? まさかコンピュータークソザコだったんじゃないだろうな。……いや、在り得そうで怖いな。


 起動して、適当なアプリを適当に起動していく。


 めぼしいものは──なんかのメモ管理マネージャーアプリで、そこにはかなりのデータが書き込まれている。


 好奇心からクリック。死者は物言わず。


 これは──。


 書いてあったのは、第一部隊のメンバーの名前と、その戦闘能力の特徴、弱点、強み、性格など……それらが本人の考察とともに記してあり、的確とされる訓練が書き連ねてあった。


 それは一人に対して膨大な量あって、半ば日記帳としての役割を持っていた。


 衣刃のページを覗いた。


 ……。


 先日始めた対人格闘を一定のレベルで習得。よく頑張ったと思う。


 本人はやっぱり、感情に動かされるタイプでもあるんだけど、どうしてかたまに仙人みたいな悟ったことを言ったりする。うーん不思議。でももう昔みたいに感情に振り回されることはもうなくなって落ち着いた。あの頃は可愛かったのにな。すっかりクールになっちゃった。


 やっぱり対人格闘術は衣刃には合っているのだと思う。これは相手を倒す技術でもあり、人間を相手にしたとき殺さないで済む手段でもあるから。


 衣刃は第一部隊の中で最年少、人を殺した時、精神的に耐えられないと思う。他の隊員はもう大人だから、折り合いもつけられると思うんだけど……。


 でも仕方ない、最近若葉の動きが怪しいから。まったく面倒、どうして人同士で争おうとするんだろう。悲しいことばかり大好きな人間に失望しつつ、どうしても衣刃のような子供には未来っていう希望を感じてしまう。


 よし、明日からまた訓練だ。がんばれ私、鬼教官と呼ばれてもへこたれるな。


 未来を生きるあの子たちを守るためだ。


 ──そこで僕は読むのをやめた。


 すまん古布里、やはり僕は約束には向いてないな。


 僕はスマホをパソコンに接続して、そのデータを全てコピー。四季へ送る。それから連絡。


『これ、隊員それぞれにその人のところ配っておいてくれない? 』


 ……こんなもの、壊せるわけがないだろう。


 尊すぎる。配布だ配布、全員に分かってもらわないといけないに決まっている。あの人が何を思っていたか、何を考えていたか。それは知られるべきだ。


 僕はパソコンをシャットダウンし、スマホを探したが、これには普通にパスワードかかっていたから後回し。ドクターのところ持っていって開けてもらおう。プライベートを全て暴いておこう、せっかくだし。


 押入れを物色していたところ、クソほど山積みにされたタバコの箱が出てきた。なんだこれ全部新品だぞ? 


 つーかこの臭いタバコか。ずっと臭うなとは思っていたけどこれか。


 銘柄──REAPER。リーパーだってよ、知ってる。僕も大好き。


 僕はそれを全てダンボールに詰め、ガムテープをしているあたりで後ろから声がかかった。


「おい泥棒、なにしてやがる」

「ああ四季。これには事情があってさ」


 黒スーツに凛々しいほどの男前。我らが隊長四季さんが居た。


「……勝手に持ってけよ、どうせ誰もタバコなんて吸わねえしな」

「ああそう? じゃあ貰ってこうかな」


 段ボールを持ち上げた。


 それから四季の横をすれ違って──呼び止められる。それ大好きだよね四季。僕も好き、なんかかっこいいもん。


「私とあいつはな、レギオン大戦で共に戦って、この都市を作り上げた時からの付き合いだ。十年くらいの付き合いで、唯一無二の親友ってやつだった」

「おっと、長くなりそう?」

「年寄りじゃない、まあ付き合えよ」

「いいけどさ……」


 四季は構わず語り出した。


「ずっとあいつが言っていたことがあってな。レギオンだけじゃなくて、人同士で戦わなきゃいけない時が来ると、口癖のようにな。だからあいつは、その時死なないための力を第一の連中に与えたかったのさ。ま、八年ぐらい前、あいつが可愛がっていた隊員が殉職したことの影響も強かっただろうが」

「……」

「そしてあいつが衣刃を庇い、戦えなくなるようになってから、あいつはずっとどうやって自分を託そうか迷っていた。誰に、どうやって、自分の思いを受け継いでもらうか。あいつはずっと平和を願っていた。だが同時に、底無しの強さと、溢れ出すような闘争心を持ち合わせていた。誰も知らないだろうけどな。あいつ、戦闘狂の一面があった」


 そうだったのか……。あんまり意外じゃないな……。


「結構苦しんでいたな。平和を願う反面、どうしても戦いたがった。それこそ、レギオンだけじゃなく、人間ともな──。あいつはそれを訓練で発散していた。自己コントロールが上手かった。……あいつが選んだのは、戦うことじゃなくて、平和だった。そうだな、あいつは天秤に二つの願いをかけて、迷わず片方を掴み取れる人間だったな。暖かい人間だったが、同時に合理性のためならば感情を捨てられる冷たい人間でもあった。

 ──結局あいつが選んだのは、お前だった。フロウが白状したところによると、あのレギオンの核を持たせる人間は誰でもよかったそうだ。お前が襲われたのは──運が悪かった。これに尽きるっつーことになる。どうだ、何か思うか?」

「いいや。なにも」


 僕は正直に答えた。運が悪かっただけだ。そう理解して、そこにそれ以上の意味はないことなどよく分かっている。


「そうか。……私は、お前が選ばれたことに何か意味があると思うんだ。いや、思いたい。私はな、未だにあいつに囚われているよ。あいつのことばかり、忘れられない……。もっとあいつと戦っていたかったと、今でもずっと悔やんでいる……。だからこそ、お前に見せて欲しい。過去ではなくて、逆白古布里を受け継いだだけの誰かではなくて、浦凪玲花という一人の人間が見せる未来をな……。それがどのようなものになろうと、その最後に報いがあると、信じている……」

「期待されたら、応えたくなるタイプだよ、僕は。なんせ期待されたことなんてあんまりなかったからね。話は終わり?」

「ああ、あいつのことを忘れさせるような未来を見せてくれ。呼び止めて悪かった。帰るんだな?」

「うん。それから奈良宮と古布里の墓参りに行かないとね」

「ああ……。そうか。気をつけてな」

「ああ。じゃあね」


 振り向いて見えた四季の後ろ姿は、ただ凛々しかった。




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