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現代文明崩壊世界のチート活用方法について  作者: 文部一升
一章 夏と死神の戦争ごっこ
16/23

一章16 選択

 ──装置の機能で、意識は奪った。


 浦凪玲花。


 十年振りになるのだろうか、それにしては好き勝手言いたい放題だ。


 第三都市を象徴するほどの人物だった。逆白古布里というのは、第三都市をその地位たる「第三」まで押し上げた功労者で英雄だ。一般にはあまり知られていないが。


 というか第三が特殊なだけだ。


 私の都市では傭兵はもっと、市民全体から英雄的な扱いを受けるし、際立って強い隊員の名前などは都市の人間みんなが知っているほどで。だからこそ、それは縛りへと変わっているのだが。


 今でこそ、都市間は仲良くしている。貿易を行ったり、交流したり。


 だがもうおかしいのだ。流通ではなく、貿易という言葉になっているということは、それだけ都市の独立化が進んでいる証拠だ。


 いずれ戦争が起きる。


 時が経って、適正を持つ子供たちが大人になって、兵装が充実していき、レギオンを押し除ける力を都市は得る。


 そうした時、必ず戦争が起きる。


 ──奈良宮結弦を思い出す。


 あの男は──馬鹿で、愚かだとは思う。それは判断できるが──。それはきちんと分かる、分かっている。ただの使い捨てだと思っていた、そのつもりだったのに……。


 いつしか本気になってしまっていた。気がついた時には遅かった。すでに手遅れだった、これだけは私の犯した罪と認める。


 ──戦争が起きると教えてくれたのは、私にわざわざ忠告したのは。一体どんな意図があったのだろるか? 私に逃げて欲しかったのか、戦いたくなかったのか。


 嘘と演技がこれ以上ないほど下手で嫌いなあの男は、何を考えているのだろうか。優柔不断気味だし、私が何か変わってくれることを期待しているのかもしれないが、そんなことは起こらない。もう戻れない。


「マスク、居るのでしょう?」


 物陰から狐のお面をした人間が出てきた。やはりお面には口も鼻も目の穴も無く、ただ模様として描かれているだけで、不気味だ。なんなら男かどうかも一見して怪しいが……身長体格からの判断。スケッチブックとペンは常備品。


「意外ね。あなたがここまで浦凪玲花の情報を渡してくれるなんてね」

『まあほら、一応お金貰って行動してるから。たまには仕事しないと、見捨てられたら嫌だし』

「よく言うわ。さすがはユダね。あなた、本業の方はいいの?」

『いいよ別に。そろそろこの都市も滅ぶし、いっかなーって』

「滅びはしないわよ。この都市の利権や力を狙っているのに、滅びてしまったら意味がないでしょう?」

『似た様なもんじゃね?』

 マスクは、六ヶ月前に千呉へ潜入した時からの案内人だ。この都市へ手引きし、このアジトへ案内したのもマスク。本業は都市のエージェント紛いのことをやっているらしい。その伝手で様々な情報を花へと横流ししている。特に傭兵団パンドラの動向には詳しく、救われる場面は多かった。戦術級バーストレギオンを呼び寄せた際に、第一部隊隊長の入江四季を足止めできたのは、マスクの情報によるところが大きい。


『そいつ──浦凪玲花はどうするんだ? 』

「リバースコアを抜くわ。その後は……どうしようかしら。貴重なサンプルだし、連れ帰ってもいいんだけど……。まだ決めかねてるのよね、どうせ戦えないし、大した問題じゃないわ」

『かわいそうだねぇ』

「……ねえマスク。実は私、あなたのことをずっと疑っていたの。第三都市側からの逆スパイの可能性をずっと疑っていたわ」


 マスクはピエロの様に首を傾げた。多分スケッチブックで会話するのが面倒になったのだろう。


「けど違ったわね、あなた本当に若葉からの報酬に釣られただけだったのね」

『金に釣られたってのは訂正して欲しい』

「じゃあ何?」

『スリルとカタルシス。歴史ってものを一度変えてみたかったんだよね』

「大概ね。あなたも私も、同じクズね」

『違いない』


 マスクは声を出さずに笑った。私も笑った。


 気絶した浦凪玲花へ近づき、胸を貫いて心臓の左側を探り当て──引き抜く。気絶したままとは言え激痛が走っているだろう。強制的に寝かされているのはまだ救いだろう──。


「ぐ、いっつ──ああああッ!」

「目を覚ましたの? 覚さないほうが痛くなかったと思うけど」


 玲花は激痛に目を覚まし、私の手の中にある血に濡れた薄青色の水晶玉と、私の顔を見て歯を食いしばって睨んだ。女の子が強がって睨んでいるようにしか見えず、一周回って可愛らしい。


「てめぇ……それ僕のだろ、返せ……!」

「もともとあなたのものじゃないでしょう? 私たちが持ち込んだものをあなたが食べちゃっただけよ、返してもらったのはこっちのほう」

「知るか……。勝手に僕に引っ付けたんだろうが、ご都合よろしくてよかったな、死ね」

「ああ知ってる? あなたがターゲットに選ばれた理由。マスク、教えてあげてなさいよ」

『適当に、夜に遊んでいるような人間なら誰でもよかった』


 玲花はそのスケッチブックを見て、憤ったように目を開いた。そして怒ったまま笑うという器用なことをした。


「──はは、ははははッ! なんだそれ、適当っつったのか? なんだよ、そんな運があんのなら宝くじ当ててくれれば良かったのによ」

「運が悪かったわね? あなた」

「ああそうだな──ちげえよ。僕の運が悪かったってことじゃない、お前の運が悪いんだよ」

「あら、それは怖いわね」


 噛み付いてくる玲花を眺め、水晶──リバースコアを機材にセットし解析する。


 すぐに解析は完了し、結果が出てくる。


 これは──とんでもないものに変質してしまったものだと思う。


「ねえマスク、思わぬ拾い物よ」


 マスクはこちらに歩いてきて、ディスプレイを覗き込んだ。そして口には出さないものの、驚いた気配を感じた。


「凄いでしょう? 前のコアよりずっと強い能力になっているわ。これが有れば──全ての都市を制圧出来るかもしれないわね」


 ──レギオンを操ると言ってもいい。このコア──リバースコアは特別だ。とんでもないものを手に入れてしまったかもしれない。もう後戻りは出来ない、きっとこれを本部に報告すれば、何がどうなるかは分からない。


 迷う。これはきっと最後のトリガーだ。この引き金は、正真正銘、何かを終わらせる。絶対に全てが今までのようには行かない。確実に誰かを殺し何かを壊して世界を変えるまで終わらない。


 引き金を引けば、戻らない。その責任は誰にあるのだろうか? 私にそれが背負えるか? ──結弦を殺せと言われたら、私に出来るのか? 


 間抜けな青年を思い出す。あいつの首を切れるか。彼の視線に耐え切れるか? その後、彼が死んだ後に私は耐え切れるか? その先の人生に耐え切れるか? 


「てめえもしかしてチキってんのか? 今更? もしかして大切な人が死ぬのが怖いのかよ」


 背後から声。玲花が懲りずに吠えている。


 後ろを向く。


「迷うなよ。ここでお前が迷えば、お前に殺された古布里に意味がなくなるだろうが。止めるなよ。僕に殺されるその時まで迷うな。貫き通せよ。それが責任だろ?」


 浦凪玲花は分かったようなことを突きつけた。私のことを憎んでいるはずなのに、まるで気遣いのようなそれに、私は十年前の子供の未来を見た。きっとあなたに人は殺せないと直感した。


 マスクは黙って見守っていた。行く末を見定めるように。


「……言われるまでもないわ。私は──選ぶわよ、ちゃんと」


 ここで引き返す選択もあったのだと思う。けど私は選んだ。結弦を選ばないことを選んだ。この恋は間違っているから捨てるのだ。故郷の家族や友人を選べ。最初から決めていたことだ、この任務を命じられた時から──覚悟していたことだろう? 


 メールを送信した。これでもう戻れない。全て終わるのだろう。


「選んだな。選んだな? 後悔はないな」

『気にすることはないんじゃないかな? 時が経てば、必然だったと思えるさ』

「──心配は無用。余計なお世話よ、あなたたち」


 席を立つ。準備を始めよう。ジェイとラックを集めて全て終わらせる。リバースコアを手に取り出口へ。


 マスクは私を見送り、玲花は最後まで私を睨んだまま。


 ──程なくデバイスにメールが一着届き、私たち花は戦争を始めた。




 *




「どういうつもりだ?」

『さあ、浦凪くん。これで君は自由だよ』


 顔面をフルフェイスお面で覆った男が、僕の拘束を解いたのは女が視界から消えて数秒経ってからだった。


 ってか胸がめっちゃ痛い。死ぬ、死ぬマジで死ぬ。お面野郎に相談した。


「なあ、痛くて死にそうなんだけど解決策あるか?」

『一応レギオン化はしてるし死にはしないだろ。ほっときゃ治るよ』


 クソが、頼りになんねえ。こいつ、何が目的なんだ? そもそも何者だ? 


「お前、何だ?」


 かきかき。


『しがないエージェントさ。ついてこい、脱出するよ』

「……どういうつもりだ?」


 かきかき。


『いずれ分かるさ。早く』

「お前レスポンス遅いな。会話のテンポ悪いってよく言われないか?」


 お面マンはショックを受けた。歩き出したお面マンに着いていく。胸貫かれてんだけど歩ける。マジでやばいな僕とは思うけど歩けるんだから仕方ない。


 明らかに静かなアジトを歩く。緊張感あるな……。


 奥の空間、車が停めてあった場所にシェルターがあった。ここから入ってきたのだろう。


 男はデバイスを操作するとシェルターを開けた。


『行け』

「お前はどうすんの? 裏切りバレるぜ?」

『ま、エージェントなんでね。うまくやるよ』

「……礼は言わない。例え潜入していただけだとしても、あの人が死ぬ原因の一部を作ってんだ。それにお前、一ヶ月前僕と一度会っているよな、アンパンマンのお面被ってよ」


 沈黙で仮面の男は答えた。


「お前だな、あのコアを僕に仕込んだのは。……いつか覚えてろよ。その仮面剥いでぶっ殺してやる」


 仮面の男は肩を竦めた。


 僕はシェルターを出た。急がないと……


 デバイスもぶっ壊されたし、金……はまあ無事っぽい。公衆電話なんてアンティークとして都市の賑やかしに置いてあるだけで、とっくに稼働はしていない。


 まずいな、どうする? 


 急いでシェルターを駆け上がり、外に出る。


 人気のない場所だった。大通りに出ないと……。


 デバイスがないっていうのはかなり面倒だ。大抵の機能をデバイスに代行してもらっているおかげで僕は都市の地図なんてさっぱり覚えてない。


 とにかく、警察署やらなんやらに行って、傭兵団に連絡しねえと……。


 僕は胸を押さえながら走った。

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