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現代文明崩壊世界のチート活用方法について  作者: 文部一升
一章 夏と死神の戦争ごっこ
10/23

一章10 ホワイトボード要る?

説明会である!

「オリジナル──」


 知っている。それが──そうか。


「そうである。レギオン発生とほぼ同時に、人々の中から急に現れた人間たちである。彼らは今の傭兵たちと同等か、それ以上に強く、また兵装を必要としない適正者たちであった」

「兵装を必要としない? どういうこと?」

「ふむ、四季よ。兵装を持ってきてくれるか?」

「あいよ」


 四季はそのまま部屋を出た。ドクターは説明を続ける。


「その話は、後ほどさせてもらおう。とにかく彼らオリジナルはそれこそホームセンターに売っているようなものを使ってレギオンをばっさばっさ倒して行ったのであるな。ただ悲しいのは人間の性であろう、すべてのオリジナルがレギオンと戦おうとしたかといえばそうではなく、終いにはただの一般人を襲うオリジナルや、オリジナル同士の戦いで殺し合いが発生したりと、そういうことも少なくはなかった」


 それは確かに悲しいな。人間とはかくも愚かな生き物だってことだね。


 ドクターもその気持ちは同じなのか、ため息を一つ吐くと再開した。


「さて──なぜ彼らが現れたかは、いまだに謎である。目下研究中であるな。とにかくオリジナルは、レギオン因子をその身に宿していたのである。身体能力の強化はそれが原因であることは容易に分かったのであるな。よって──オリジナルを人工的に作ろうという試みがされるのは、時間の問題であった」


 なるほど、段々とわかってきたのであるぞ。訳わからんが現れたオリジナルを、人工的に作ってしまおう。それは自然な発想だろう。戦える人間を増やそうという試みは自然なものだ。


「オリジナルが倒したレギオンからマナリアを採取し、レギオン因子を抽出する。そこまではうまく行ったのである。だが──レギオン因子は人間には強い毒でな。いったい吾輩たちは何十人殺したか分からん。天国には行けんのであろうな」


 ドクターは微かに後悔の念を滲ませた。僕は質問した。


「なードクター。動物実験とかしなかったの?」

「当然行ったのである。結果として、どんな種類の動物でも、必ずレギオン化した」


 ──マジで? それなんか……レギオンの正体的なものに近づいた気がする。


「だがすぐに枯れ果てた。おそらくレギオン化にはエネルギーが必要なのであろう。彼らからは消し炭のようなマナリアが採取された」

「人間は成らなかったの? レギオン」

「なったのである。彼らはすぐに激痛に襲われ、意識が無くなったのち、レギオンになる。他の動物達と違って、人間だけは体格が変わらなかったのであるな。他の動物達では体格が広がろうとする働きがあったのであるが──これだけは、まあいまだに謎として残っているのである」

「──じゃあ適正っていうのは、一体なんなんだ?」

「一言で言うなら、レギオン因子への免疫であるな。因子の強い浸食力に対する抵抗が出来るか、出来ないか」

「なるほど、出来るなら適正があるってことか」

「──いいや。逆である。適正というのは、因子への免疫がないことを指すのである」


 ドクターはホワイトボードに書き込んだ。免疫、バツ。


 思っていたことは逆だった。意外なのである。


「アナフィラキシーショックを知っているのであるか? あれはむしろ、免疫が出来たからこそ死に至るのである。過剰な免疫活動が逆に死に至るのであるな。同じことが、レギオン因子にも言えるのである」

「えーっと。どういうこと?」

「レギオン因子は、生物を浸食してリミッターを外す働きをするのである。その上で体に負荷を掛け、強烈に『進化』を促す働きをするのであるな。生命の枠組みを壊して、全く違うものに作り替えようとする──それが、レギオン因子。何故だかは分かっていないが、人間のみにそのレギオン因子に対する免疫が備わっているのである。しかしここが難しいところでな、残念ながら人間のもつ免疫力ではまともにレギオン因子に対抗することは出来んのである。しかし──免疫は働き者すぎてな、非常に活発に活動するのである。活動的すぎるほどに活動し──たいていは心臓か、血管か、脳の毛細血管が耐えきれず弾けて死に至るのである。激痛と共にな」


 ──心当たりがある。確かにあの例の水晶を砕いて食べた時そんな感じだった。


「免疫がないならばこれは起こらず、レギオン因子による体の破壊、変化を受け入れることになり──人のレギオンに至るのであるな」

「なるほどね。つまり傭兵っていうのはレギオンだったって訳か。僕ももう、そうなのか?」

「ふむ。まあ、そうであると言えるし、そうでないとも言えよう」


 そこまで話したところで、後ろから足音が聞こえてきて、どさっと物を置く音が響いた。


「ドクター、持ってきてやったぞ。一応三種揃えてある」

「お疲れ様である、隊長。さて浦凪よ──始めるのであるな」

「え? 何? それ何?」


 四季が作業台に置いたのは、一見して綺麗なガラクタだ。なんか見るからに武器、さてはこれが──。


「兵装だ。こいつにはレギオン因子が埋め込まれてる──傭兵にとっちゃ外付けのエンジンとも言えるな。さて、こいつを手に取れ」

「それにより、レギオン因子が貴様の体を侵食し、レギオンに作り替える。心の準備をするのである」

「最初に言っとくが、クソほど痛え。耐えろ」


 ゴクリと唾を飲み込む。そんなことを言われると流石にビビるが──やらない訳にはいかない。


 真っ白な剣の取手に手を伸ばす。これはネットで見たことがある、一般的な傭兵の武器だ。ついに──。


 意を決して握る。そして──何も、起こらない。


「……」

「……」

「……? どうしたのであるか?」

「なんも、起こらないんだけど……」

「……ええ? なんでであるか? え? マジで?」


 剣を振り回してみようとするが──めっちゃ重たい。持ち上がりすらしない。


「どうやら、悪い予想が当たったな。やはりこうなったか。そいつは第一種兵装だ。他の物も試してみろ」


 次──クソでかい重火器の取手を掴む。何もない。


「さて──じゃあ最後か。こいつに適合できる傭兵は一割も居ない、強い因子が埋め込まれている」


 見かけはなんかめっちゃでかい剣だ。一周回ってシュールである。僕の身長より高いんじゃないか? 


 握る。なんもない。以上。


「ぶっ壊れている可能性があるのである! ええい吾輩がやってやるのであるううううッ!」

「落ち着けドクター。そもそもドクターに適正はないだろうが、私が検証してみよう。ま、故障なんてありえなんだがな……」


 四季は兵装を手にとり、めっちゃ重たいはずの兵装を軽々と振り回した。目を疑う、マジかよ……。さすがに傭兵団の隊長だ。


「問題ないな。接続に不良はねえ。つまり──問題があるのは玲花の方になるか。ま、こうなるだろうとは思っちゃいたが……。ドクター、原因を考察しろ」

「原因ならばいくらでも思いつくのである。だが、解決策が思い浮かばんのである……。だからここで上手くいって欲しかったのであるが、仕方ない……で済ませられれば、吾輩は要らんのであるぅぅぅぅぅぅうう! ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!」


 ドクターは頭を抱えて絶叫した。


 やっぱりドクターは変人ということみたいだ。こいつやべーな。てか段々雲行きが怪しくなってきたな……。どうなるんだ? 


「はあ、はあ……。落ち着いたのである。まあ原因としては浦凪の体内にある変質したバーストコアか、逆白の心臓と右手の作用。もしくはその両方であろうな」

「一応説明しとくと、バーストコアってのはな──」


 カット。一度説明を受けているのでパス。


 大体茜谷の説明と一致した。


「そして、浦凪の体内にあるそのバーストコアは変質しているのである。便宜上、そのコアをリバースコアと呼ぶことにするのであるな。さて、また説明の必要が出てきたので解説していくのである。もともと適正がなかった貴様に、適正が宿った理由、それについてである」


 ホワイトボードリセット。当分は説明は勘弁してほしいと思う。寝てていいかな。


「さて──適正者がレギオン化し、傭兵となった後では体内に大きな変化が起きるのである。すなわち、対抗因子の出現であるな。さっき適正者にはレギオン因子に対する免疫がないと話したが、一通りレギオン化が進むと、これに対する免疫が出来るのである。それが対抗因子であり、レギオン因子が変質したものである」


 対抗因子とレギオン因子。ホワイトボードに書き込み。


「レギオン因子が馴染むにつれ、この対抗因子は数を増やし、より多くのレギオン因子を許容出来るようになる。つまり、よりレギオンに近づき、強くなれるということであるな。さて、ここで貴様──浦凪のケースを検証するのである。前提として、この対抗因子とて普通の人間には猛毒であり、人に与えた場合はレギオン因子同様、大抵の人間は死に至る。だが──なんとも奇妙だが、この対抗因子に対して適正をもつ人間もいるのである」

「レギオン因子への適正がなくてもってことか?」

「そうである。ただ──一口に対抗因子と言っても、個人個人でその対抗因子は異なり、またそれに対する適正も変化してくるのである。よって対抗因子を移植し傭兵に仕上げる計画もあったが、現実的ではないため頓挫したのである。金が掛かりすぎる割にリターンが少ないが故にな。さて、話を戻すが。貴様がレギオンに襲われた際、二つのものが貴様の体内に入り込んだ。即ち、バーストコアの超強力なレギオン因子と、今は亡き逆白の超強力な対抗因子の二つであるな。そして結果的に、バーストコアは貴様の体内で一ヶ月かけて再構成され、リバースコアとして変質した。同時に、貴様はレギオン因子への適正、つまりレギオン因子への免疫を失うことになり、生き延びた。──いやーマジすげーであるな。信じられん、よく生きているのであるな貴様」


 そういうことらしい。ピンとこないが──よーく考えてみると、マジでよく生きてんな僕。体内に未だに爆弾抱えているってことだろ? 


「だがその代償として、現に貴様には身体能力の強化がされていないのである。体は一度因子に侵食されているはずなのであるが、なぜ結果的に変化は起きていないのか? それは──」

「それは?」

「……正直、よく分からんのである!」


 沈黙が空間を支配した。四季は呆れた。僕もびっくりだ。ここまできて分かりませんはねえだろ。


「そんな目で吾輩を見るんじゃない! 寝ている間に貴様の細胞を解析してみたが、きちんとレギオン化はされていたのである! だた、因子の活動が行われておらず、体はとっくにレギオンのはずなのに身体能力はただの一般人と変わららない、という訳である。マジ分かんねえ。吾輩お手上げ、ギブアップ」

「……なるほどな。もしかしたら心理的な部分で問題があるのかもしれん。心理的なきっかけが必要である可能性はあるか?」


 四季が口を開いた。おお、なんかそれっぽいぞ。


「十分にあり得るのである。その他の可能性については、体の防衛反応かもしれんな。通常レギオン化というのは死の危険と隣り合わせである。貴様の免疫が失われる直前、最後の働きとしてその活動を休止させた可能性もある。……たしかに、なんらかのきっかけが必要である可能性は高いのであるな」

「強引にその、因子を活動させる方法とかないの?」

「おすすめはしないのであるな。外部からの刺激を与えるアプローチもあるにはあるのであろうが、ケースが特殊すぎるのである。何が起こるか分からん」

「え、じゃあ今兵装に触ったのってどういう意味があるの?」

「ふむ。兵装とは、負荷を分散させる考え方から生まれたものである。一般に適正という言葉で括ったが、その強弱は人それぞれであるからして、適正があるからと言って過剰なレギオン因子を流し込めば適正者とて命はないのである。そこで適正の強弱を検査する方法を、無数の屍の上に成立させたのであるな。その適正の強さ弱さに対応して兵装を分類したのである。第一種、第二種、第三種といった具合に。第三種が最も適正が強く、比例して戦闘力も高くなるが、傭兵全体で第三種適正者は一割もおらんのである。もっとも、これは兵装の一側面に過ぎん」

「せんせー話が長いです」


 さっぱり分からん。


「ふむ。兵装というのは、いわば外付けのエンジンである。適正をもつ人間は少ないのである、さらに強力な適性をもつ人間はさらに少ない。適正とは免疫がない人間。言葉を選ばずに言うならば、人間としては不良品ということであるからな。大抵の適正者は、レギオンとの戦闘に耐えられるだけの身体能力を獲得出来なかったのである。そこで、戦闘時のみレギオン因子を活性化させ、身体能力をブーストさせる考え方が発生したのである。そのための兵装である。兵装の中にはレギオン因子が埋め込まれていて、適正者が触れると体内の因子とリンクして身体能力を二、三倍程度に強化する。もちろん体への負荷も強いが、いずれ対抗因子の数が増えてくれば負荷は軽減されていくのである」

「はーん。つまり戦える人間を増やすための兵装ってことか」

「もちろん、今では適正を覚醒させる役目もあるのである。一般人が触ると因子に食い殺されて死ぬので、マジで気をつけるのである。もちろん武器としての役目も存在するのであるぞ。質量と切れ味でぶった切るのである」

「で、僕がそれに触れて何も起きないってどういうこと?」

「まあ、なんらかの要因があって接続がシャットアウトされているか、もしくはそもそも繋がっても反応がないのであるな。貴様の体はすでにレギオンであるため、侵食は起こらず、かと言ってリンクもされない。電力の通っていない機械のようなものである。もしくは電線が切れているか。不明である、なんせ検査が非常に難しいのである」

「まとめるか。解決策はないんだな?」


 四季が腕を組んでドクターに聞いた。


「そうであろうな。それこそ、隊長の言うような精神的なトリガーに賭けるしかあるまい。何か外側からの刺激を与える手もなくは無いのであろうが、リスクが読めん。最終手段であるとだけは伝えておくが、マジで最終手段である。まあやりたいなら止めはせんのである」

「あたしは許可しねえ。まだリスクを取るには早い。ま、状況が動いたらあり得るかもな。戦力として、玲花には期待しているからな。ずっとこのままはまずいが、急いで事を仕損じても面白くねえ。玲花、一刻も速くなんか掴め」

「なんかって何だよなんかって」

「命の危険があれば、流石に目覚めるかもしれん。……やっぱりやってみるか。ドクター、ヘリコプターの準備だ。こいつを突き落とすぞ」

「隊長、落ち着くのである。落ち着くのである。隊長、誰もが隊長のように破天荒ではないのである」


 怖い発言が聞こえてきた。さすが隊長、なんかやばいことがあるらしい。流石に命の危機は勘弁してほしい。最悪そのまま死にそう。


「そういえば、古布里の兵装って何処かにあんの?」

「……どうしてそんな事を聞く?」

「いいや。別に、気になっただけ」

「お前が戦えるようになったら教えてやる。装備を引き継ぐかは、お前の好きにしろ」


 四季は立ち上がって歩き出した。


「え、マジで命の危機あるの? 今日僕殺される?」

「冗談だ。戦えないとは言え、隊員と顔合わせ程度はしておいてもらう。ついてこい玲花、今日からウチの傭兵なら、同僚の名前と顔は知っといても良いだろ?」


 そういうことになった。




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