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現代文明崩壊世界のチート活用方法について  作者: 文部一升
一章 夏と死神の戦争ごっこ
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一章1 学園機関の掃きだめ

 

  雷が落ち、閃光が地面を照らして影を作った。音が弾け、誰かが苦悶の声を漏らした。


「──退がりなさいッ! 全員撤退して!」

「先生⁉︎ 何言ってるんだ、それじゃ都市がッ」

「いいからッ! 死にたいの⁉︎ あとは私一人でやるわ、四季が来るまで耐えるだけだから」


  反論しようとして──仲間達の状態を確認し、衣刃は何も言い返せなかった。限界だ──見たことのない能力、速さ、強さ……。すでに血が流れすぎている。大怪我を負って、すぐに処置をしなければ助からない仲間もいる。


  これ以上は誰かが死ぬ。衣刃は感情に揺さぶられていたが、その程度の判断能力は残っていた。だが確かに誰かが食い止めなければ、都市が落ちる。


  ──四季は何をしている⁉︎ どうしてこんな時に来ない! 無線に応答がない、どうして──どうしてこんな時に!


  嘆いても状況が良くなることなど決してなく、その反対ならいくらでもなっていく現状に、焦り──。


「みんな撤退だ! すぐ一旦体制を立て直さなければならない、急げぇッ!」


  号令、自分が今の指揮官だから──決断を下さなければ。衣刃は先生を一人残していくことに限りない悔しさでいっぱいだった。


  皆、安心と悔しさの混ざった表情で背を向けて走り出した。仲間を抱え、傷を負った仲間を助けながら、やるとなれば限りなく速く。でなければ──誰が死ぬことになる?


「──君も戻りなさい、衣刃」

「出来るかッ! 私だって戦える、いつまでもあなたに守られるだけじゃない! 先生と一緒に戦う!」

「……仕方ない、かなぁ。もう、頑固なんだから──じゃあもう、守らないからね」


  その言葉がずっと聞きたかった。衣刃はやっと先生に認めてもらえて、こんな状況でもたまらなく嬉しくなった。守らないこと──それは一人前、並んで戦うことの証。背中を預け合うということ。


  雷を操るレギオン──。


  かつてないほどの脅威だが、衣刃は戦意に溢れていた。


  ──少なくとも、この時はまだ。


  この決断を、衣刃は後悔としてずっと抱え続ける。


  ずっと。









  リロリロリロリロリン。ピリロリロリロリロリン。


  ……電話の音である。人間が言語で表すとこんな感じになると思う。


  僕は呻き声を上げて、ベッドに転がってうるさく鳴り響くデバイスを乱暴に叩き潰すように掴み、画面を睨んだ。


  ──茜谷、と表示されている。僕は緩慢な指の動きで通話ボタンをスライドして電話に出た。


『ハロー。グッドモーニン』

「……、ああ──……。おはよ……」


  半ば呻き声の挨拶。女の子の声が聞こえた。


  うつ伏せたまま意識はまだ寝ている。嘘です、正しくは寝たいの間違い。


  レスポンスの鈍い僕に茜谷がハキハキと呆れるように言った。


『本当に起きてるの?』

「……もう少し、寝かせてくれ……」

『あのね、起こしてくれって頼んだのは浦凪じゃん? 朝ちゃんと起きるんじゃなかったの?』

「……今、何時……?」

『朝の六時二十分だけど。てか時間指定したのも浦凪だよ? 寝ぼけてる?』

「そうだった……。ああ、きっつ……清々しいな、クソ……」

『それはよかったね。私は毎日これくらいに起きてるけどね』

「そうかよ……。っつあ──っ! よし、起きた」

『って何、急に叫ばないでよ、びっくりするじゃん』


  ベッドから飛び起きて意識を覚醒させる。


  今日からちゃんと朝起きてきっちりした人間になるのだ。


  そのために規則正しい友人の茜谷に頼みごとをした訳である。


  カーテンを開けた。清々しい。


「よし、おはよう。サンキュー茜谷。じゃあ学校で」

『うん、おはよう。学校でね』


  ……よし。


  今日から真面目になります宣言。


  今日から僕は、ちゃんと朝起きて、一時間目遅刻したりしません。先生にも怒られません。成績ヤバくなりません。ちゃんと朝起きて、将来のためになることを学びたいと思います。


  ──クソくらえ。寝よ。知るかそんなもん。


  僕はデバイスを放り投げてベッドにダイブした。


  この後茜谷にめちゃくちゃ怒られた。







  ──四限。


  この頃になると僕といえども流石に登校していて、とっくに研究してる。


  マナリア──。


  今日も僕はこいつと元気ににらめっこだ。


  クラスの内容がさっぱり頭に入っていないので、研究機材の使い方は正直に申し上げてさっぱりだ。だから他人に聞く。


「なあ後藤。ちょっといいか?」

「ッ、なんだ、浦凪かよ……ビビらせんなよマジ」

「何してんだ?」

「何って、サボりだよ。やってられっか、さっぱり分かんねえよこんなの」


  後藤は周囲に散らばったパーツなりなんなりを見やって持っているドライバーを放り投げた。


「何これ」

「今日の課題だよ。クソが、働きたくねぇ……。あーやっぱ俺今からでも人工知能専攻になろうかな」

「あーマジ? さっき来たばっかりで知らないんだよね僕。どういうアレ?」

「いつもの自由工作だ。あーマジやってらんねえ……」

「だって後藤図面引かないじゃん。そんなの詰まって普通だろ」

「俺は死んでも机に座りたくねえ。それより浦凪、今日学校終わったらクソ遊ぼうぜ」

「んー、まあいいよ。何やんの?」

「いい店見つけたんだ……。すっげえいい店」


  ニヤリと笑う後藤を他所に、作業台に散らかった変なパーツをいじる。


  いやこれマジなんだろ。


  ──技術開発科は今日も忙しいような忙しくないような。というか今日も実践的な丸投げ式のやり方で時間は過ぎていく。これで企業としてちゃんと利益出して回ってんだから驚きだ。天才がいっぱいいるんやな。


  さすが研究科、魔窟と呼ばれるだけはある。


  その中で僕には致命的にやる気も才能もないのが悲しい気がするけどね。仕方ないね、適度に結果出していれば、一応将来は生きていけるんだから。


  昼休みには茜谷に詰め寄られたり、ご飯を奢る羽目になったりしていた。全面的に僕が悪いので仕方ないような気がする。


  まあ僕的には茜谷みたいな可愛い女の子とご飯ができたのは相当プラスなので実質財布は膨らんだとも捉えられる。これはポシティブシンキングのお手本。


  午後からも引き続き研究、研究。つっても僕は研究課にいる割にゴミほど無能なので、来ていた企業の人とのんびりだべりながら時間を潰すだけである。優秀な連中、それこそ茜谷とかは午後はすでにインターンしている。一年からインターンってマジ?


「──っつったんだよね、なーひでーと思わねえ? ちょっと朝起きらんなかっただけじゃん」

「大いに同意するよ。どいつもこいつもちょっとでも遅刻すればやれ理由はだの対策しろだのうるさいよなぁ〜。分かる、分かるぞ玲花ちゃん」

「だろ? なのになぁ、茜谷のヤツ、あんなボロクソ言わなくても良いじゃねえかよ」

「友達は玲花ちゃんのことを思って言っているんだろ。まあそれにしたって三限から登校は流石にヤバい」

「えー」


  大手企業勤めのにぃちゃんとだべる。同じ視察員でも、真面目に学生と討論したり、研究について話し合う人も居ればこうして隅っこでだらだらサボるあんちゃんもいる。この世の中は不思議だ。


「まあ、玲花ちゃんはすごい可愛いからなぁ。適当に玉の輿捕まえてしまえばいいんじゃない?」

  にいちゃんは本当に何気なくそうアドバイスしたのだが──。

「……うん。まあ、うーん……」


  僕は男です、なんて正直今更言い出しづらい……。つか僕の口調と一人称で気付けよ。もしかして、とは思わないのか。


「まあほどほどに考えとく。想像付かねえし」

「おおう。お節介かもしれないけど、割と学生のうちが勝負だから。ここで色々経験しとかないと、マジで俺みたいに拗らせて一生独身コースになる」

「でもお金だけはあるっつってたじゃん」

「んー、それはまあ、学生のうちはかなり頑張ったから、まあ」

「はー。いいなー」

「本当にそう思ってるんならちゃんと研究成果あげたほうがいいよ。もしくはなんか発明するとか」

「絶対僕には無理だ。マジで無理、もうこんな作業やってられんし」


  スパナを放り投げた。


  マジ間違えた、この学科選ぶんじゃなかった。今からでも学科変えようかな。それこそどっか、商業科の方とかこんな難しいこと考えなくていいところに。このままじゃ卒業までロクな成果出せず終わる気がする。そうなったらマジで僕将来なくなる。



  そのあと授業が終わるまで僕は名前も知らないにいちゃんとダラダラ喋って時間を潰した。授業が終わって別れた後、そういえばあのにいちゃん誰だったんだろうと僕は思った。多分どっかの企業の人だったと思う。知らんけど。


「──おい浦凪、いくぞ」

「はいはい。他誰が来るって?」

「沖島と木村。夜まで暇だし、ゲーセン行ってからカラオケな」

「おっし──」


  ──どれだけ優秀で、名門と呼ばれ、実績を出している学校でも、企業でも、人の集まる場所では必ず生まれるものがある。


  それは上澄みと底辺。人間が集まれば順位が付く。そして同じような順位のヤツとつるみ、行動を同じくするようになる。いくら学園機関が凄くても、僕らのようなクズまで凄くしてくれる訳じゃない。


  ゲーセン、ゲーセン。平日にゲーセンに来る連中はどいつもこいつもロクなやつは居ねえ。柄悪いし、頭悪そうだし……。まあ染まる、僕もそんな感じになる。


  一通り遊び通してカラオケへ。


  やたら歌のうまい男連中は狭いカラオケボックスで踊り狂う。なんかもうカオス。


  そこに運ばれるアルコール。店員の目はよほどの節穴らしく、明らかに未成年の僕らにもダルそうに酒を出す。さすが流行りのカラオケ店だ。学生をよく理解してる。


  後藤はよくこんなクソみたいな店見つけたな。最高だぜ。


  ……明日は土曜日だ。つまりいくらアルコール入れても問題無い……!


「男浦凪、テキーラいきま──すッ!」

『ぅいうえ──ぇい!』


  僕はワンボックスの熱狂に身を任せて率先して身を滅ぼしにかかった。


  アルコール度数にして四十度が喉を焼く。


  そしてすぐに酩酊、酩酊。気分が上がってきた……。


「九十点いかなかったやつテキーラな!」

「はあふざけんじゃねえよてめえだけ勝手に飲んでろ!」

「俺普通にサワーがいい……」

「僕がやったんだからお前らもやれよ!」

『いやお前が勝手にやったんだろうが』


  もがもがもが……。


「僕は君のことが〜、好きだって気づいたよ──どうだ!」

「えー、発表します。八十二点」

「やっぱ沖島だわ。童貞なだけあるわ、曲選からもう」

「童貞じゃねえし!」

「でも彼女いねえじゃん」

「そりゃお前らもだろ⁉︎ なに上から目線だよ!」


  うごごごご……。


「だからさぁ。違うんだってぇー、女どもは見る目が無いんだよぉ」

「おいバカ島、飲み過ぎだ。それ以上はヤバいって、やめろ」

「後藤はいいよなあ〜。なんでお前にできて、俺にはさあ──」

「おい浦凪、こいつそろそろヤバい。ここらで切りあげようぜ、救急車呼ぶ羽目になっちまうよ」

「──くそ、なにが女だ。揃いも揃って、僕のことなめてんじゃねえよ、ちくしょう……」

「こっちもダメか……。おい木村起きろ、沖島と浦凪連れて帰んぞ」

「う、ううん……」


  この世の終わりみたいなカラオケボックスの一室。すでに午後十時を回っていた……と、思う。正直視界が定かじゃ無い。


  僕はベロベロで朦朧としたまま後藤の肩を借りて立ち上がってカラオケのレジに行くあたりで──人とぶつかった。


  ──アンパンマンの仮面をした男だ。スーツにアンパンマン、こいつ、間違いない……。


「あ──アンパンマンだ! すげー! 本物だー! 生きてたんだな!」

「いやちげえだろ。すみません、こいつ今おかしくなってて」


  後藤が何か言っているが聞こえない。


  アンパンマンだ、マジで居るんだな! 空想上の生き物だと思ってたわ。

 

 アンパンマンは軽く手を上げてこちらに挨拶した。許してくれるらしい。


「ぶつかってごめんなアンパンマン! じゃーな!」

「おい、お前マジで言動がやべえな──」


  レジの方から、浦凪、後藤、会計ーという声が聞こえて来る。呼ばれている。


  僕はアンパンマンに背を向けて歩いていき、店員に財布を丸ごと差し出すと敬礼した。そうすると僕は近くにあった椅子に座らされ、お前はここを動くなと言われた。悲しかった。


  そしてフラフラのまま店を出た。


「おい、マジで大丈夫か? 流石に飲ませすぎた?」

「いやこいつが自分からどんどん飲んでっただけだろ。俺ら悪くねえ」

「……おえ。うぅ、彼女……、欲しい……。なんでだ……」


  僕は後藤に肩を借りながらフラフラしている。


  夏の始まりっぽい、少しむわっとする熱気が心地いい。


「おい、タクシー呼ぶか?」

「いいよ、一人で帰れる……。駅まで行けば、すぐマイホームに着く──ような気がする」

「大丈夫じゃ無さそうだな……」

「いや本人がいいっつってんだし。俺もそろそろ帰らねえとマジで親にキレられる」

「もう手遅れだ、のんびり帰ろうぜ。今日はここで解散だな。じゃ」


  十時を回っていた。僕ら四人は別々に別れ、それぞれが帰路に着く。僕は駅方面。駅で都心の方に少し行けばすぐ僕の家……。


  四人から一人になると、すぐに静寂が襲いかかる。アルコールが脳を侵し、僕は少なくとも自分の自覚している限りしっかりと歩いていた。夜の町は騒がしい。普段は警官の人も今じゃそこらの飲み屋でパーチーナイトだ。ざまあねえぜ。


  駅に着き、いったんトイレに入る。


  用を済ませ、手を洗う時鏡を見る。


  ──鏡の向こうには、十六歳程度の女の子が写っていた。


  髪は首に届くか届かないかのあたり、ヘアピンで髪を幾らか留めていた。さらさらとした髪質だ。今は茶色に染めている。


  顔はずいぶん整っている。真っ白と呼べるほど肌は白く、綺麗な肌だ……が、今はアルコールで赤い。何より特徴的なのは瞳だろう。真っ黒で大きい瞳は、今はだらしなくふにゃっとしているが、素面でキチッとすればかなりのものだと分かる。


  総合評価、AランクJK。つまり僕だ。


  声の調子も詐欺じみている。どう聞いたって男には思えない。ちょっと活発な女の子の声にしか聞こえない。自分で喋っててもそうだ。違和感やべえ──が、むしろ通り越して違和感ないまである。


  ──だが、どこまでいっても僕は男だ。今のところ性転換手術は考えていない。


  僕はプラットフォームに入り、ベンチに座り込んで空を見上げた。


  そしていつも僕が乗っている色の電車に乗り込み、ガラガラな車内に座って目を閉じた。すぐ到着するし、それまでちょっと落ち着こう……。


  電車が動き出す……。


  ……。


  …………。


  ………………。


  ──────────。


  ──────────────り────。


  ──────────────り、ぃ、ぃぃ────ん────。





 もし面白い、と感じていただけたら下の欄より評価等よろしくお願いします!

 作者のモチベになります。たぶん。

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