六章 集結
六章 集結
「では、降りましょう。もう、この場所に留まる意味もありませんから」
ベッドまで近づき、咲和は手を差し出す。
「あら、捕虜と同じような物なのに、随分とお優しいのね」
「貴女をぞんざいに扱えば、貴女の妹に怒られてしまいますからね」
床に伏しているイシュを横目で見ながら咲和は言う。シュガルはそれに口を押えて小さく笑うことで答えた。
「ありがとう。でも大丈夫よ。私は歩けるから、イシュをお願いできるかしら?」
「わかりました」
短く答えて、イシュを抱きあげた。
「シュガルさん」
螺旋階段を下りながら振り返る。
「なんでしょう?」
「食堂ってどこにあるんでしょうか? あ、別に食堂でなくてもいいのですが、どこか人数が集まれる部屋があればいいのですが」
「あら、行かれてないんですね? 全ての部屋を蹂躙し尽したのかと思っておりましたわ」
「そう、ですね――――――――――――あ、そういうことですか」
自分の行いの穴を見付けてしまって頭を抱えた。
(これは面倒なことになりましたね…………ん?)
と、そんな時、螺旋階段を上がってくる足音が聞こえてきた。
「サナさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!」
叫びながら上がってきたのは、紛れもなくギルタブリルだった。
「ギルタブリルさん、無事だったんですね」
駆け上がってきたギルタブリルの服は所々破れ、少女である咲和から見ても煽情的な格好だった。そんなギルタブリルに顔を染めて背けた。
「良かった無事で………って、誰?」
と、イシュを抱えている、そんな咲和の様子にも気を止めず抱きしめて、首を傾げたギルタブリル。その視線は咲和の後ろを歩いていたシュガルに向いていた。そんな視線を向けられたシュガルはニコリと笑む。
「イシュさんと、その姉のシュガルさんですよ」
「そうか…………そうか? つまり?」
抱擁を解いて腕を組んで首を傾げる。理解が追い付いていないようだ。
「帝国は堕ちました」
「おお! 流石は我らが王だ! これは早々に皆を集めなければな!」
一人はしゃぎだすギルタブリルの後ろにさらなる足音が近づいてきた。今度こそ、咲和の知らない足音だ。
「ん? まだ生き残りがいたのか――――あたしに任せろ」
言って、ギルタブリルは落ち着いた足取りで、階段を下りていく。
「止まれ! 貴様らが逆賊だな!」
全身を銀色の甲冑で覆った足音の主は、腰に下げた剣を構え咲和たちの前に立ちふさがった。皇帝直属の近衛騎士団の団長だ。幼くも見える中性的な顔立ちとは裏腹に、帝国において上位数名に入る実力者である。
騎士団長は剣を構えたまま一歩を踏み出す。
「 “普通”だな」
短く吐き捨てるように言って、ギルタブリルは尾を薙いだ。
伸縮する尾は壁を削りながら騎士団長へと向けられた。
「甘いですね………。私も人のことを言える立場ではありませんが」
咲和はぼそりと溢す。
その言葉通り、騎士団長はギルタブリルの尾をその剣で受け止めたのだ。
「騎士団長」
咲和の後ろにいたシュガルが前に出て言う。シュガルを見た途端、騎士団長の顔に驚愕が張り付いた。それは、聞き伝わる伝説を目の当たりにしているかのような、若しくは、憧れていた女性に出会ったかのようだった。
「あ、貴女様は…………シュガル・アッガシェル様、でありますか……………?」
「そうです。私は、シュガル・アッガシェル。イシュ・アッガシェルの姉ですよ。騎士団長、ネガル・クタ・ギルガメシュ」
「私の名を………」
声を震わせているネガルだったが、ギルタブリルの尾を受け止めている腕が緩まることはなかった。
「ネガル・クタ・ギルガメシュ。この国は堕ちました。もう、イシュの物ではありません」
その言葉を聞くと、ネガルの腕の力は一瞬だけ弱まった。それを見た咲和は、ギルタブリルに尾を収めるように目配せした。ギルタブリルはそれに応え、尾を自身の腰に巻き戻す。
「帝国が………堕ちた?」
「そうです。もう、この国は「フィクティ・ムンドゥス」が王、キングゥ様の物です」
「キングゥ…………貴様が……貴様がイシュ様を、我が主であるイシュ様とその姉上であるシュガル様を誑かしたのかぁぁぁぁぁぁあああああ!」
抜けてしまった力を再度入れなおして、ネガルは階段を蹴った。その様子に、確かにこの人は強い人だ、と咲和は思った。しかし、どこまでも人間だ、とも思った。
(この人は本当にお二人のことを愛している………だから、私はこうするしかない)
「――――――どこまでも卑劣か!」
ネガルの切っ先が咲和に届くことはなかった。なぜなら、その切っ先は、イシュの喉元に向けられている。咲和は自分とネガルの間に抱いていたイシュを挟んだのだ。
「私にあなたの思いを知ることはできません。あなたがどのような思いをお二人に抱いていたかなど興味もありません。ただ、あなたがお二人を思っているのならば、その剣を収めてください。さもなくば、私はあなたとこの人を殺さなければならなくなります」
「ッ―――――――」
剣はネガルの腰に収められた。
「ありがとうございます」
******
シュガルの案内で、咲和たちは城内の食堂までやって来た。そこは、部屋を分断するような長机と十五脚の椅子が用意された、長細い部屋だ。
咲和は最奥の席に腰掛けた。ギルタブリルは入り口から最も近い左側へ。咲和の脇には、シュガルと、イシュを抱いたネガルが立っている。
「私は橋渡しの獣となり、大いなる海と彼の地を繋ぐ。混ざり、溶け合い、裂け目を晒す。私の言葉は境界を越えた―――――――勝鬨は我らが母の為に」
宙に魔術陣を描き、詠唱を終えた。魔術陣はスクリーンのように彼の地を映した。
「あー、あー、こほん。ナンナイ・クルウ帝国国民の皆さん、御機嫌麗しゅう。私は「フィクティ・ムンドゥス」が王、キングゥです」
その声は、戦場を除く帝国全土に響き渡った。先の魔術は遠方へ声を届かせるものだ。
帝都の騒めきは鳴りを潜め、響き渡る咲和の声に誰もが耳を傾けた。
「帝国は我らが手に堕ちました。よって、これからは私が皇帝です。皆さんの生殺与奪権は私にあります。何か私の気に入らないことをした者は、一辺の慈悲もなく殺して見せましょう」
その言葉に帝国全土に衝撃が走った。それは前皇帝が亡くなった際の速報を超える衝撃だった。誰もが皇帝のことを支持し、誰もが帝国に負けなどないと信じて疑わなかったからだ。王国への侵攻も、今でこそ滞っているが、すぐに巻き返すだろうと信じていた。
だからこそ、この突然の帝国陥落は予想されなかった。いや、できるはずもなかったのだ。誰が、「フィクティ・ムンドゥス」の獣たちが帝国に攻め入ることを予想できようか。帝国には獣たちの怨敵である勇者はいないのだから、勇者のいる王国こそが、「フィクティ・ムンドゥス」の十一の獣に狙われるはずだと。そう思ってもおかしくなどない。
「帝国陥落を記念して帝都に一匹の獣を放ちます――――――――此度、この戦場において私は不敗。敗北などありはしない。敗北などあり得ない。敗北など許されない。ならば、ここに誓いを立てよう―――――――獣に敗走などありはしない」
新たなる魔術陣を描き、詠唱を終えた。それは城に入る時に使用した魔術だ。
白い獣は机の上に現れる。
【何用か】
「帝都を蹂躙してください」
【御心のままに】
白い獣は短く答えて姿を消した。
「皆さんの新たなる家族です。盛大に可愛がってあげてくださいね。ただ、少しだけ、咬むかもしれませんが」
パチン、と、指を鳴らす。すると、スクリーンのような魔術陣は消えた。
「おい、貴様! 今のはどういうことだ! 帝都を蹂躙する? ふざけたことを抜かすな!」
イシュを抱いたままのネガルが咲和に詰め寄る。
「ふざけてなんていませんよ? この国は既に私の物です。この国に塵蟲など必要ないじゃありませんか。どうしました? そんな怖がらなくてもいいですよ? あなたには利用価値がありますからね。殺しません」
「―――――――――――――――ッ、外道が……」
吐き捨てるように言って、ネガルは元の位置に戻った。
「さて、降伏宣言も終わりました。皆の帰りを待つとしましょう」
その脇に怨敵を侍らせながらも、咲和はリラックスでもするように、ふぅ、と息を吐く。それは誰が見ても隙のある行動だ。しかし、誰も動くことはない。
シュガルには咲和を殺すメリットがなく、イシュは昏睡。ネガルはイシュを抱きかかえているために行動できない。仮に動ける状況だとしてもネガルは動かなかっただろう。それまでに、ネガルのイシュとシュガル、如いては帝国への忠誠は厚い。皇帝とその姉の意向に沿わないことをするわけにはいかないのだ。
しかし、ネガルは咲和を睨み続けた。二人の皇族が命令さえすれば、今ここで咲和の首を刎ねると言わんばかりに。
******
「ココにおられましたか」
食堂のドアが開かれたのは、降伏宣言から十分ほど経ってからだった。
「はい、お疲れ様です。ムシュマッヘさん」
入ってきたムシュマッヘは、座っていたギルタブリルに一瞥をくれる。そして咲和の隣まで行って傅いた。そのまま手を取り、手の甲に口づけをする。
「もったいなきお言葉。十一の獣がムシュマッヘ、ココに推参いたしました。残りの者も、すぐにお呼びいたします」
「いえ、私が行きます。皆疲れてると思いますから。ムシュマッヘさんはココで待っていてください。入り口でいいですか」
立ち上がって咲和は言った。
「御意。皆、入り口にて待機中でございます」
「ありがとうございます。そうだ、後ろの三人には手出し無用ですからね?」
ムシュマッヘが扉を開ける少し前に目を覚ましたイシュとネガルは肩を強張らせ、シュガルは微笑む。
「かしこまりました」
「では行ってきます」
******
「皆さんお疲れ様です――――――――――――――で、これはどういう状況ですか?」
城の入り口までやって来た咲和は、待機していた十一の獣に労いの言葉をかけつつ、目の前の状況説明を求めた。
入り口を出てすぐのところに、十一の獣は揃っていた。が、それぞれの隣には見知らぬ人物が立っている。
「これは、えーっと………」
次女であるウシュムガルが真っ先に反応するも言葉を詰まらせた。その様子を見て、三女ウガルルムが小さく溜息を吐いてから口を開く。
「これはラハムの提案に乗った結果です」
その言葉に咲和はラハムを見るが目を逸らされた。
「ラハムちゃん、提案って言うのは?」
目を逸らされても構わずラハムに問いかけた。すると、ラハムはすんなりと白状する。
「ただ殺すだけじゃつまらないからさ、自分が好みだと思った人間を一人攫ってきて、集まった時に誰の攫ってきた人間が一番人気かを競おう、って言うやつだよ。人気を競うなんて、今となっては正直どうでもいいけどね」
咲和は全員の横に立つ人物を見る。
(まさか全員が女性を連れてくるなんて………男性嫌いと言うのは本当なのでしょうか)
攫われてきた人間はその全員が女性だった。中には咲和と変わらない背格好の少女すら混ざっている。
ウシュムガルの後ろには長身黒髪のドレス姿の女性。ウガルルムの隣には蒼黒の髪の女性騎士。ウリディンムとウム・ダブルチュの間には蒼銀の髪の奴隷の少女。ラハムの足元には灰色の髪の町娘が傅いている。クサリクの隣に咲和よりも小さな少女。バシュムは金髪の女性と手を繋いでいる。
「はぁあ、これ、絶対にムシュマッヘさん知りませんよね?」
「当然だよ。あいつに知られたら確実に拒否られるからね」
十一の獣が戦場に着いてすぐ、ムシュマッヘ以外の全員にクサリクから通信が入った。方法は先ほどの降伏宣言の時に咲和が使用した魔術だ。その範囲を絞ってクサリクが使用した。ウシュムガルの耳に入ればムシュマッヘにバレる可能性もあったが、そこはラハムが何やら条件を付けくわえたことで、バレることはなかった。
「ここに集まった時によくバレませんでしたね」
「チ、チ、チ。甘いね、サナ。そんなときの為の魔術じゃないか。クサリクの魔術は「十一の獣」のなかで随一の性能だよ。ムシュマッヘですら見破れないさ」
「ありがとうございます。ラハム姉様」
頬を紅く染めてクサリクは礼を言う。そんな表情のクサリクを見てラハムはほんの少しだけ表情を歪めた。
「はぁあ………バレて怒られても私は知りませんからね」
「まぁ、最悪殺っちゃえばいいしね」
悪魔的な笑みを浮かべながらラハムは言う。それに咲和は何度目かわからない溜息を吐き、人間たちはびくりと肩を震わせた。
******
「ウシュムガル、説明しろ。これはどういうことだ」
当然の結果である。
食堂へ入るや否や、ムシュマッヘに人間たちの存在がバレた。そして、椅子を倒して立ち上がると、ウシュムガルに詰め寄ったのだ。
「あ、え、その…………お姉さま近いよぉ……」
ムシュマッヘに詰め寄られたウシュムガルは顔を耳まで真っ赤にして視線を逸らす。まともに視線を上げれば、目の前にはムシュマッヘの顔だ。その奥には双丘が見えることだろう。
「ハッキリ言うんだ!」
そんなウシュムガルの様子を無視して、ムシュマッヘはさらに詰め寄った。
「これは僕が提案したんだ。だからウシュムガルは何一つ悪くないよ」
助け船を出したのはラハムだった。そして、先ほど咲和にした説明を一通りムシュマッヘにもする。
「サナ様が了承しているのならワタシから言うことは何もない。しかし、好み、か………」
説明を聞いたムシュマッヘはウシュムガルの後ろに控えている、長身黒髪ドレス姿の女性とウシュムガルを交互に見やった。そして小さく笑む。
「はーい、皆さん、適当に座ってください。自己紹介は後でやりましょう。名前は憶えておきたいですからね」
パンパン、と手を打って咲和が言う。すると、全員が頷いて席に着いた。城での席順と同じだった。
揃った十一の獣を見て、咲和の脇に控える三人はこの場での行動はそのまま死に直結することを悟った。
かくして、ナンナイ・クルウ帝国の皇帝城に十一の獣は集まった。
「さて、とりあえず戦果報告からいきましょうか。では、まず私から行きます。皆の耳にも届いていると思いますが、帝国を堕としました。この国はもう私達のものです。後ろに控えているのは、皇帝イシュ・アッガシェルとその姉、シュガル・アッガシェル。そして近衛騎士団長、ネガル・クタ・ギルガメシュです。城内に残っていた者はその殆どを殺したと思いますが、もしかしたらまだ残っているのがあるかもしません。と、こんな感じですかね。では、皆さんもお願いします」
「かしこまりました。では、我々から」
と、ムシュマッヘが声を上げ、立ち上がる。それに倣ってウシュムガルも立ち上がった。
こうして、戦果報告は始まり、
「――――まぁあ、僕たちの所はそんな感じだね」
と、チームγまで終了した。
「ありがとうございます。では、今日はこれでお開きとします。私は一度城に戻って姉さんたちとクルールちゃんに報告をしてきます。皆さんは、城の好きな部屋を使って先に休んでいてくださいね」
そう言って部屋を出ていこうとする。
「あ、忘れてました。私の三人には手出し無用でお願いしますね」
それを聞いた十一の獣は各々短く答え、「私の」と言われた三人は死を覚悟したかのように体を強張らせた。
******
「ただいまー」
城へ帰ってきた咲和を出迎えたのは、他でもなくラフムとラハムだった。
「「お帰りなさい。思ったより早かったのね」」
「はい、姉さんたちに一刻も早く会いたかったですから!」
出迎えた二人を咲和は正面から抱きしめる。二人もそれに応えるように背中へ腕を回した。
二人を連れ立って、咲和はクルールの部屋へと来ていた。
「ただいま。変わったことはなかった?」
「お帰りー」
クルールは上半身だけを水から出して答えた。
クルールの部屋は他の十一の獣の部屋とはその様子が大きく異なっている。部屋の半分を占める池の水深は数十メートルを軽く超え、水中で活動できないものは入ることすら躊躇うほどだ。池のほかにも、床には固いコンクリートではなく、柔らかい土が敷かれている。室内であるのに、屋外にいるような雰囲気の部屋だ。
「勇者が動き出すよ」
と、世間話でもするかのような口調で、クルールは咲和たちにとっての最重要案件を口にする。
「………………え? 勇者? いつ?」
咲和は酷く取り乱す。それもそのはずだ。先ほど帝国を堕としたばかりなのだ。その余韻にすら浸っているこの状況で、大いなる母の仇敵である勇者が動き出したとなれば、取り乱さないほうが無理がある。
「「クルール、詳しく説明なさい。サナが混乱しているわ」」
咲和がわたわたと困惑している隣で二人がクルールを諫める。
「りょーかいです。『王神の占星』による未来予測の結果なんですけどね。王国の方にも帝国の陥落が情報として入ってて、それがわたしたちの仕業だってバレてて、だから勇者が動かなきゃってことになってて、つまり、えーっと、勇者がくるよって」
「バレてた? 何でです? 確かに降伏宣言は帝国民の耳に入るようにやりました。でも、それを王国側が知ることはできないはずです。だって戦場に声を送ってませんから」
クルールの詳しい説明で困惑を抜け出した咲和は冷静を装って言う。
戦場まで声を送れば、王国側にも伝わることは明白だ。それを阻止する為に咲和は戦場へは声を送らなかった。
「教皇が視てたからね」
「見て、た?」
「うん。教皇は「ウェールス・ムンドゥス」の全域を視ているんだよ。まぁあ、正確には視てるのは教皇自身じゃないけどね」
「じゃあ、誰が?」
「「アンシャルとキシャル」」
ラフムとラハムが答えを引き継いだ。その声には憎悪ともいえる嫌悪が含まれている。それは咲和が召喚されたすぐにバルコニーで聞いた声に似ていた。
「それって………」
「「そう、私達の唯一の子よ」」
やはりそこには嫌悪が含まれていた。
自らの子を呼ぶには余りにも悲しすぎるその声色に、咲和は胸を締め付けられる。そして、一つの可能性が脳裏をよぎった。
アンシャルとキシャルは、ラフムとラハムの唯一の子にして、人間の祖、人類史の始まりである。彼らもまた、ラフムとラハムや十一の獣と同様に神話の体現者だ。
(アンシャルとキシャルが教皇でないなら、教皇はきっと………。でもそれじゃあ、道理が合わない。だって、二人は―――――いや、合わないことないんだ。そう言うことだってある。だって、私の――――)
咲和の思考は、扉の開け放たれる音で遮られた。
「サナ様!」
肩で息をするバシュムが部屋に走り込んできた。
「え? バシュムさん? どうしたんですか?」
「勇者が――――マルドゥクが動き出しました」
「ほらねー」
クルールの無邪気な声だけが部屋に響いた。




