1.告白
♢♦︎
「僕と....付き合って下さい」
「生理的に無理」
現状を整理しよう。
When................4月1日
Where.............図書室で
Who.................僕が
What................告白を
Why.................奏音が好きだから
How.............頭を下げて
大事なことは2回言う。
When................4月1日
おっと失礼。続けて.....
♢♦︎
「生理的に無理!」
「え〜!!!ウソだろぉ!」
「うん。ウソ」
「え!!それじゃぁ....」
「どうせあんたもウソなんでしょ!」
「は?何言ってんだよ!本気だって!」
「ウソばっかり....」
「本当だって!」
「邪魔!どいて!もう一度言うわ…生理的に無理!」
毒舌ちびっ子ツインテール女は言葉のナイフを僕のお腹に『ッブシュリ!』と突き刺さすと、僕の横を通り過ぎ、図書室の扉を勢いよく『バタンッ!』と閉めて去っていった。
『生理的に無理』
こんなにも殺傷能力の高い言葉がこの国に存在するとは。
犯行現場に残されたのは瀕死寸前の男子高校生と何千冊もの本。
それから…僕が床に血で書き記したダイイングメッセージ。
『マジ卍!!!!』
♢
被害者は遠藤愛流音。
高校2年生。これといって特徴はない。
♦︎
容疑者は山本奏音。
高校2年生。黒髪ツインテール姿の美少女。身長はクラスで2番目に小さく、足はクラスで1番速い。悪戯好きで天真爛漫。明るい性格で誰からも好かれる顔を持つ反面、被害者に対してはツンデレの一面もあった。
♦︎♢
現場検証と関係者の説明は以上になるが質問のある方は?
いないね....。よし先に進もう....。
✳︎✳︎✳︎
「っだー!!フラれたーーー!」
「お前はいつも嘘ついてばっかだからダメなんだよ」
高校の屋上で発狂する僕に『ほらよっ』っと俊が缶コーヒーを投げてきた。
俊は『カコンッ!』と自分の缶コーヒーを開けると、手すりにもたれかかる僕の横にチョコンと並び、16時の空を遠くまで真っ直ぐに見つめていた。
ドラマとかでよく見る『失敗したサラリーマンを励ましに来る同僚』みたいなシーン。
カットだ!!こんなもん!!
はぁ....昨日の告白が記憶に新しい。
まだ耳に『生理的に無理』がこびり付いている。
「んで、カノンは何て?」
「生理的に無理.....だって....」
「.....」
俊....なぜ黙るんだい?
僕を励ましに来たんだよね?
ちょっと待ってそのコーヒーをさっき飲み終わってたよね?振ってたよね?
なぜ今入ってないコーヒーを飲み始めたの?ねぇ?
ねぇ....なぜ僕の目を見ようとしないの?
4秒ぐらいの沈黙が流れたあと、俊は地面を歩くダンゴムシを見つめながら気まずそうに言った。
「ま...まぁ....昨日エイプリルフールだったから、カノンがフッたのも『実は嘘でしたー!』みたいな...。あっははっ....はは....は....」
「え....昨日エイプリルフール?」
「ぉ....ぉぅ....4月1日....」
......。何それ?
僕は家でテレビを見ない。
流行という言葉を耳にする機会が絶望的に少ない僕とって、『エイプリルフール』という単語は初めて耳に入ってきた単語だった。
フラれたことに変わりないが、ウィ◯で調べてみる。
エイプリルフール.....。
....。
っふっざけんなよ!!!
何が『嘘をついても良い日』だよ!
そんな大事なことカレンダーにも載せとけ!
なに?じゃあ4月1日はみんな嘘をついて話してたの?
遊園地に遊びに行ってても、『映画館行ってました』って変換して喋ってたの?
何より『嘘をついても良い』ってとこが1番腹立つ!
『嘘を付く日』ならまだ分かる!
『嘘をついても良い』....はっきりしろ!紛らわしいわ!!
そんなんじゃ、僕の告白だって....
え?
これって....じゃあ....つまり....その....
どうなの?
✳︎✳︎✳︎
同時刻。
「っだー!!アルトをフッちゃったよー!」
「告白も嘘だったんでしょ。別にいいじゃん」
ツインテールは自宅のベッドで足をバタバタさせ、枕に顔をうずめながら同じクラスの真宵と電話をしていた。
家でケーキを作っていた真宵は携帯をハンズフリー状態にして、仕上げの生クリームを絞っていた。
「ねぇ...あの告白って嘘だったのかなぁ....」
「そうに決まってるよ!絶対!だってさー。あいつの中学時代のあだ名知ってるー?」
「あ〜、もう..!それ前からにも聞いたからぁ〜」
カノンは枕で両耳を塞ぎ、顔をうずめ込んだ。
「《オオカミ少年》だよ!ほんと!嘘ばっかりだったんだから。それに陰キャだったし!スカイフィッシュ事件とかもあったりしね」
そう僕は確かに中学時代陰キャだった....
俗に言う『高校デビュー』ってやつ。
真宵と僕は同中だったが、ほとんど話したことがない。
ちなみにスカイフィッシュ事件とは、僕が中学2年の時に放送室を占拠し『スカイフィッシュを見た』と全国生徒にアナウンスした事件である。その後犯人はすぐに捕まったが、社会の窓が全開だったらしい。さらにカッターシャツはズボンにINしている状態で発見され、左腕には『フェニックス』と書かれた文字が見つかったほか、背中には丸まったセロハンテープがくっつけられていた。以上
「ね〜カノン〜。ほんとあんなヤツのどこがいいの〜?」
「真宵には絶対分かんないよ〜」
『ピンポーン』と真宵の家のチャイムが鳴った。
「あ!誰か来たみたい!カノン、また電話するね」
「うん。分かった。ばいばーい」
枕から顔を上げると、勉強机横の小窓から夕焼けの光が差し込んできた。
「はぁ〜....《エイプリルフール》なんて誰が決めたんだろ?」
長めの独り言を言うと、また枕に顔をうずめた。
ここから僕達2人の物語が始まる....