表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍化】ヒロインのかませ役キャラに転生したようなので、魔王と手を組みます  作者: オレンジ方解石


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/14

12 真相

 気づくと白い天井を見あげていた。


花純かすみ…………? 起きたの!? 花純!!」


「お母さん…………」


 泣き腫らした母の顔。

 戻ってきたのだ。

 肉体はどうなっているのだろう。お母さんが『花純』と呼ぶからには、『冬野花純』の姿に戻っているのか。


「先生! 看護師さん! 花純が…………!」


「お母さん…………」


 私はかろうじて、母の手をつかまえた。


弘史ひろふみは、関係ない…………私が、勝手に落ちたの…………お願い…………弘史を呼んで…………話を聞いて…………」


 そこでふたたび、意識がとぎれた。






 次に目が覚めた時、私はかなり頭がすっきりしていた。体の痛みはかるく、水を飲ませてもらって、医師の質問にもすらすら答えることができた。

 弘史と会ったのは、その三日後だったが、面会はすんなりとはいかなかった。

 できるだけ私の願いを叶えてくれようとする母に対し、父は例の噂を信じきって弘史を諸悪の根源とみなし、断固として私に近づけさせようとしなかった。弘史はむろん、弘史の両親も何度か見舞いに来ていたそうだが、すべて断っていたらしい。

 弘史に会うにはまず、この父の見当違いの思い込みを叩き割るところから、はじめなければならなかった。

 私は強く「弘史とは付き合っていない」「失恋していない」「まして弘史のために死ぬはずがない」「そもそも自殺じゃない、事故だ」と主張する。


「だったら、なんで屋上から落ちたんだ」


「それは…………」


 返答に迷った。

 こちらに戻ってきた際、記憶も完全に戻ったのだが、思い出してみればしょうもない経緯だった。


「…………私が倒れていた近くに、袋がなかった? 駅前のデパートの袋で、リボンがかかった箱が入った…………」


「これのこと? 倒れていた時に花純がにぎりしめていたって、救急隊員の方が渡してくれたんだけど…………」


 母がベッド脇のテーブルに置かれていた茶色の紙袋から、汚れたデパートの袋をとり出してくれる。ずっとそばにあったのに、紙袋に入っていたので気づかなかった。

 振ってみると、ガチャガチャという音が聞こえる。


「割れちゃったか…………だよねぇー…………」


「中を見たけど……ペアのマグカップよね? いいブランドの。その…………弘史君達へのお祝いだったの?」


「まさか」


 私は否定した。これは、まぎれもない事実。


「これは、お父さんとお母さんの結婚記念日のプレゼント。縁が銀色のデザインだったでしょ? 結婚二十五年目は婚式だから」


 両親はそろって虚を突かれた表情になった。


「駅前のデパートでこれを買って…………袋を手に持ってたんだけど、帰る途中、歩道橋で友達に会って本を貸りて。荷物になるから本をリュックにしまおうとして、ちょっとだから大丈夫だと思って…………袋を歩道橋の手すりに置いたの。そしたら、袋が手すりから落ちそうになって…………」


「ひょっとして…………袋を拾おうとして落ちたの!?」


 あまりに間抜けすぎる真実で、恥ずかしさに返事ができない。

 だが両親なら、この沈黙の意味するところを理解してくれるだろう。


「だからって、危ないだろう。なんで拾おうとしたんだ!」


 拍子抜けした父はかえって怒りがわいたらしく、やや強い口調で責めてくる。

 私は唇をとがらせて、ぼそぼそと反論した。


「だって、マグカップだから落ちたら割れると思ったし、バイト代はたいたから、これが割れたら買い直しは無理だし、他の物を買うにしても、あのデパートのセールは落ちた日が最終日だったから、次の日だと定価になるし、二割引きは大きいし…………」


 親は二人そろって大きく息を吐き出し、天を仰いだ。


「とにかく、そういう理由だから。弘史のことは全然、まったく、完璧に、関係ないから! というか、あいつのために死んでやる命は持ってないから!!」


 私は言いきり、ようやく弘史に会う許可がおりた。


「お父さん、ちゃんと弘史に謝ってよね。知ってるんだからね、弘史を殴ったこと」


「お前が言ったのか」


「いいえ。看護師さんかしら…………?」


 ひそひそと話す声が聞こえる。

 なにはともあれ、そうやって私は、一ヶ月ぶりに幼なじみに会うことが叶ったのだった。






「花純…………良かった…………本当に良かった…………」


「ホントよ。とんだデマ情報をばら撒かれるところだった。…………てか、もう撒かれているのか…………」


 ベッドの脇の椅子に座った弘史は、泣き出さんばかり…………というより、泣いていた。


「花純が歩道橋から落ちて、意識不明だって聞いて…………それが、俺に捨てられての自殺らしい、って聞いて…………俺、マジで目の前が真っ暗になった」


「全然、違う。偶然」


 私は両親にした説明を弘史にもくりかえした。

 聞き終えた弘史は目と口を丸くして、言葉の出ない様子だった。『救われたような』表情とは、こういう顔だろう。さっきまで真っ青な顔で虚ろにただよっていたのが、明るい陽光の中でスキップしているかのような変貌ぶりだった。みるみる血色が戻る。


「俺…………てっきり自殺かと…………友達ダチもみんな、そう言ってたし…………」


「だから、違うって。…………あーもー、みんなに説明して回んないと駄目なやつなのか、コレ」


 この先の労力を思うと、ため息がもれた。

 噂の件だけではない。入院中の、大学の単位もとり戻さなければならないのだ。

 私はうんざりしたが、弘史と目が合うと、どちらからともなく笑い出した。

 それからしばらくの間、私は弘史と他愛ない話をした。

 弘史の婚約を知って以来、こんなにこの幼なじみと話したのは、はじめてだった。

 胸が痛まないと言ったら嘘になる。だが、その痛みはぐっとかるく、やわらいでいた。


「けど、ホント。みんな言ってたんだ。花純は俺にふられたから、自殺未遂したんだって。みんな、そう言うもんだから、俺も『そうかも』って思えてきて…………」


「なんで私が、アンタのために死んでやらなきゃならないのよ。ていうか、みんなも、どうしてそういう発想になるかな。ずっと『付き合ってない』って言ってきたのに」


「それはまあ、そうだけど。周りからはそう見えたんだろ。ずっと一緒だったし…………」


「それだけで『付き合ってる』認定されてもなぁ。私、いま好きな人がいるし」


「え、マジ!?」


「マジ」


 思いきり、いい笑顔を見せてやった。

 ここは信じてもらわなければ困る。


「誰? 俺の知ってるやつ?」


「知らない人。偶然、会った」


「どんなやつ?」


「こう、黒髪の…………」


 適当に答えようとして、脳裏に鮮やかに一つの面影がよみがえる。


「花純?」


 頬に勝手に熱が集まり、それを知られたくなくて、弘史から顔をそらした。


「…………若干ビジュアル系? 髪が長くて、色が白い」


「ビジュアル系!? 花純が!?」


 弘史は心底、驚いたようだ。そんなに意外だろうか。

 でもまあ、世の中ってそんなものだ。

 昔は漫画などの『ヒーロー、ヒロインに振られたキャラ同士がくっつく』展開を『在庫処分セール』のように感じて好きになれなかったけれど、実際に経験してみると『好き』というか『ほっとけない』気持ちなんだな、と理解できる。


「ビジュアル系というか…………『ダークロード』」


「ヘ? バンド名かなんかか?」


「魔王ダークロード。『セイントローズ』のラスボス。知ってるでしょ?」


「ああ、あの少女漫画か。花純が昔、ハマってたやつ。あれ? けど、あれはヒロインの恋人のほうが好きだって言ってなかったか? それか、途中で出てきた当て馬」


「シリウスはローズマリーとセット扱いだったから、単体で好きって感じじゃなかったし、それならアルタイルのほうが、まだ好きにちか

かった。ダークロードは…………最近、読み返したら、あの不器用っぷりが可愛く見えたの」


「…………女って好きだよな、不器用なイケメン。…………イケメンだっけ?」


「ほとんどベールをかぶっていたから。二、三コマしか、素顔は出てないと思う」


「で? そのラスボスに似てるのか? いま好きなやつが」


「…………うん」


 また頬が熱くなってきたので、そっぽを向いた。

 すると、なぜか弘史のほうがそわそわしだした。


「まあ…………そういうこともあるよな…………」


「なに、急に」


「いや…………なんか、急に『女』になった、って思って…………知ってるやつが急にマジ恋顔するの、見てられない」


「なにそれ。失礼な」


 弘史のほうが視線を落として、いたたまれなさそうにしている。

 大きくため息をついたその横顔が、なんだかあの時のシリウスの『お前、俺のことが好きだったんじゃないのか』という表情に似て見えて、ちょっと胸がすっきりした。

明日で終わりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ