第10章 雪音ちゃんと村娘達 121 〜 雪音ちゃんと冒険者達、逃げて来た女冒険者に翻弄される!⑥〜
「『なんだと!?』じゃないわよ、このクソ童貞!」
「ぐはっ!? な、なにしや、が……、る…………」チーン。
淫乱斬り裂き魔の身体を張った誘惑攻撃にゴクリと喉を鳴らしたマッドの股間を私は思いっきり蹴り上げてマッドを黙らせ、大鎌片手に飛行魔法を使って淫乱斬り裂き魔目掛けて飛翔した!
「次はあなたの番だよ!」
「使えない童貞ね!? でも時間は稼げたわ!」
私の血で出来たネペンテスラフレシアーナの極太の蔓によって大の字で宙に拘束されている淫乱斬り裂き魔の身体のあちこちから赤いナイフが無数に飛び出し、私に向かって飛んで来た!
「なっ!? こんのぉおおおお!?」
ガンガンガンガンガンガン!!!
私は慌てて後方へと下がりながら大鎌を回転させて即席の盾を作り出し、次々と飛んで来る赤いナイフを全て弾き飛ばした!
「爆散!!」
淫乱斬り裂き魔が叫ぶと私が弾き飛ばした赤いナイフ達がボンッと破裂し、辺りが真っ赤な霧で見えなくなってしまった!
「げほっ、げほっ」
め、目潰し攻撃ぃいいい!? 体捌きとか刀の技量が凄いんだから忍者みたいに姑息な技使わないでよ!? しかも、この赤い霧って血でできた霧みたいだから美味しそうな血の匂いがそこらじゅうから漂って来て頭がクラクラして来るんだけど!?
私は慌てて目を閉じ、嗅覚無効とサーモグラフィーの魔法を使った! それから魔力波を飛ばして周囲の状況をサーチし、それらの情報を目を閉じた時の真っ黒な世界に反映させて視覚化、続けて、その視覚化した世界の左下にはソナー画面を、右下には後方確認用の画面も配置しておく!
これで、淫乱斬り裂き魔が真っ赤な霧の中でどこに移動しようと私に死角はなくなった! あなたの好きになんてさせないんだから! 逆にこの状況を利用してあなたをハメてあげるから覚悟しなさい!
◇◆◇
「紅孤月の舞 踏!」
雪音ちゃんが動揺している時、宙吊りになっていた淫乱斬り裂き魔は技名を叫んで無数の赤い三日月を乱舞させ、自分の身体を拘束している極太の蔓をズタズタに斬り裂いた!
そして、拘束から自由の身になった淫乱斬り裂き魔は即座に空中で連続居合い斬りを放って背後にいた雪音ちゃんの血で出来たネペンテスラフレシアーナの本体を細切れにし、落下しながら妖刀を逆手に持ち変え、もう片方の手も妖刀の柄を握ってその切っ先を地面へと向けた!
ドガッ!
地面に妖刀が深々と突き刺さる!
ズズズズズズ!
すると、淫乱斬り裂き魔によって斬り刻まれて地面に落ち、ネペンテスラフレシアーナの残骸から元の血溜まりへと戻ってしまった雪音ちゃんの血が、地面に突き刺さった妖刀によって一瞬で吸収されてしまった!
「ふふふ、あなたの血はこの刀に吸わせてもらったから、もうオイタはできないわよぉ〜♪」
淫乱斬り裂き魔は妖刀を地面から引き抜いて立ち上がり、私を見てニヤニヤ笑っている!
見てたから知ってるよ! でもね、私の血を妖刀に取り込んじゃうのは悪手だったんじゃないかな? 刀って言っても血を体内 ( 刀内? ) に取り込めるんだったら魔物とかと変わらないよね? なら、吸血鬼の能力で妖刀を私の下僕にしてあげる! 私の血が妖刀を支配下に置くまでの間、時間稼ぎに付き合ってもらうよ!
「私の血を刀に吸収させたなんて嘘よ! 辺りが真っ赤で私に何も見えないと思って嘘ついてるんでしょ!? もう1回宙吊りにしてあげる! さぁ、その嘘吐きを拘束しなさい!」
私は右手の平を淫乱斬り裂き魔に向け、そこにいないと分かってる私の血に命令を下す振りをした!
シーン……。
「ふふふ♪」
「う、嘘!? まさか本当に!?」
うぅ、めっちゃ恥ずかしい……。意図せず声が震えちゃったよ!
「ほらね? 私の言った通りでしょ? 味方はもう、だぁ〜れもいない♪ ふふふ♪ さ〜、今度はこっちの番よ〜ん? あなたは今、視界が真っ赤でな〜んにも見えないはず♪ どこから斬り落としてあげようかしらね〜?」
淫乱斬り裂き魔は私が何も見えないと思って油断してる! ワザと風切り音を出すように妖刀をブンブン振り回しながら、ゆっくりとした足取りで私に近付いて来た!
私を怯えさせようとしてるんだよね? でも、残念! 実は丸見えだから怖くなんてないんだけど、今は怯えたフリをしてあげるよ!
「ア、氷の槍!」
私は大鎌を構えながら淫乱斬り裂き魔に向けて氷の槍を5本、横1列に並べて飛ばした!
けれど、その攻撃は淫乱斬り裂き魔が横に大きく回避したことで簡単に避けられてしまう! そして、淫乱斬り裂き魔はそのまま私の側面に回り込むように高速移動を続け、私を挑発して来た!
「そんな攻撃当たらないわよ〜? 声で私の位置を特定しているのでしょう? なら」
淫乱斬り裂き魔は私の周囲を大きくグルグルと走り回りながら話し掛けて来る!
「「「「「これならどうかしら〜?」」」」」
なんと四方八方から淫乱斬り裂き魔の声が聞こえて来た! どうやら周囲に漂っている赤い霧が声の発生源になってるみたいだね! とりあえず動揺したフリをしてあげるよ!
「ど、どこにいるの!? 姿を見せなさいよ!? ズルいじゃない!?」
私は右、左、後ろとキョロキョロ回りを見渡し、最後に淫乱斬り裂き魔に背を向けてあげた!
「「「「「怖い? 怖いわよね〜♪ あぁ〜ん、ゾクゾクしてお股がもうグショグショ♪ これからあなたの腕を斬り落として、あ・げ・る♪」」」」」
淫乱斬り裂き魔の変態的発言と愉快そうな声が辺りに木霊する!
これ、普通だったら大パニックものだよね? 私には通用しないけど!
淫乱斬り裂き魔が、真っ赤な霧のせいでどこから淫乱斬り裂き魔が襲って来るのか分からなくて怯えている ( フリをしている ) 私の後ろ姿を見て舌舐めずりをし、ニタァ〜っと笑うとこちらに向かって走り出した!
と思ったら、私の前方と左右の計3方向から淫乱斬り裂き魔の人影らしきものが浮かび上がり同時に私を襲って来た!
ホント、イヤらしい性格してるよね!?
でも、今もひたすら飛ばし続けている魔力波のサーチ情報からコイツらは血の幻影って分かってるし、淫乱斬り裂き魔の陰険な罠だって分かってるけど、私は構わず後ろに跳んでその見た目だけの幻影攻撃を避けてあげた!
そして、待ってましたと言わんばかりに妖刀を上段に構えて私がバックステップで自分の間合いに飛び込んで来るのを待ち受けていた淫乱斬り裂き魔が、目を大きく見開いて狂気に満ちた笑顔を浮かべながら両手で持った妖刀を私の右肩目掛けて振り下ろして来た!
スカッ!
けれど、淫乱斬り裂き魔の振り下ろした妖刀は私の霧化した右肩を斬り落とすことなくそのまま素通りする!
「っ!?」
ふふん♪ 霧化って言ったら本来、吸血鬼の十八番でしょ? 黒いちょうちょさん達にできて私にできないはずないじゃない♪ まっ、ぶっつけ本番だったけどね? 失敗した時のために痛覚無効の魔法を掛けておいたけど必要なかったよ!
私はすぐさま左足を1歩左斜め前に大きく横向きに踏み出し大鎌を振り上げながら上半身を捻って後ろを向いた! そして、背後にあった淫乱斬り裂き魔の両腕目掛けて大鎌を振り下ろし、肘から先を斬り飛ばしてあげた!
ブシャーー!!!
噴き出す鮮血! 別に美味しそうとか、もったいないとか思ってないからね? 嘘です、もったいないからあとでちゃんと魔法で回収しようと思ってます、てへ♪
「う、腕が!? 私の腕がぁああああ!? あぁあああああああ!!!」
地面に蹲り絶叫する淫乱斬り裂き魔! 両腕を斬られた激痛のせいで魔力制御ができなくなったのか、周囲に漂っていた血の濃霧が消え去った!
「痛い痛い痛い!!! どうして、どうしてぇえええ!? 私が一体何をしたと言うんですかあぁあああ!? あぁ、血がこんなにたくさん!?」
私は閉じていた目を開けて肉眼で淫乱斬り裂き魔を見下ろし、声を掛けた。
「今まで何人の人を斬り裂いて来たかは知らないけど、斬られると痛いんだよ、淫乱斬り裂き魔さん? 少しは斬られる辛さが分かったかな?」
私は腕を斬り飛ばされた恨みを晴らすことが出来てスッキリした! 満足満足♪ と思っていたら淫乱斬り裂き魔がとんでもないことを言い出した!
「誰が淫乱ですか!? 誰が斬り裂き魔ですか!? あなたこそ、斬り裂き魔ではありませんか!?」
苦痛に顔を歪ませながらも私を凄い目で睨みつけて来る淫乱斬り裂き魔! ってゆーか、両腕斬り落とされてるのによく元気に喋れるね!? 苦痛耐性あり過ぎでしょ!? それにしてもこの後に及んでそんな態度取れるなんて信じらんない!!
「はぁ〜!? あなた往生際悪くない!?」
「あぁ、創造神ティア様! どうか無垢で憐れな私に女神様の癒しの祝福をお与えください!!」
淫乱斬り裂き魔が天を仰ぎ、肘から先を斬り飛ばされた両腕で万歳をした!
死の間際で気でも狂っちゃった!? いや、出血は魔法で止めてあげるつもりだったから死んじゃうことはないんだけどさ!?
ピカーン!
両腕の肘から先を斬り落とされた淫乱斬り裂き魔の両腕の切断面が眩い白い光に包まれた! それから、そこに存在しない両腕を復元して行くかのように切断面から手の方に向かって白い光が伸びて行き、最後には光り輝く両手が出来上がる光景を私はポカーンとしながら眺めていた!
そして、白い光が消えるとそこには私が斬り落としたはずの両腕が何事もなかったかのように存在していたのであった!




