第10章 雪音ちゃんと村娘達 115 〜ダンジョン “骸骨の嘆き” ③〜
背中に牙のようなトゲトゲがいっぱい生えてるゾンビ牙棘背生竜や、空から襲い掛かって来るゾンビガーゴイルや骸骨魚、斬り飛ばした腕の傷口から毒蛇やら巨大百足が飛び出して来るフィーダーゾンビ、胸の内側から肉を引き裂いてガバッと開いた肋骨で噛み付こうとして来るリブバイトゾンビなど、ロリコンの持つ試練の宝剣に引き寄せられてワラワラと集まって来た亡者さん達を片付けた私達はただいま小休憩中〜。
「マッドぉおお! 見てくれよ、あのちびっ子が魔法で作ったこの氷の剣! すんげー斬れ味だったんだぜ!」
私が作ってあげた氷の剣に興奮しているチャラ男がマッドに自慢し始めた!
「見てたから知ってるに決まってんだろうが!! 持ってない俺に見せびらかすんじゃねえ!!」
「病み付きになりそうな抜群の斬れ味だったからな。マイケルがはしゃぐのも無理はない」
「ええ、もう前の剣に戻れなくなりそうです! 雪音ちゃんから俺への愛の贈り物ですからね! このまま、ずっと愛用していきたいと」
「あっ、それ長時間使えないから、次の亡者の団体さんが来る前に早く落ちてる自分の剣拾っておいてね?」
ロリコンのキモい発言にイラッと来た私はロリコンを地獄に突き落としてあげた! 3人に平等に氷の剣作ってあげたのに、どうして自分への愛の贈り物とか思っちゃう訳? 愛を込めた贈り物あげるならラピにあげてるよ!
それによく考えてみたらロリコンって魔剣ディーアを予備武器として持ってたんだから、氷の剣作ってあげなくても良かったんだよね。失敗したなぁ〜。
「マジかよ!? うっわー、ないわー。超がっかりじゃん!?」
「そ、そんな、雪音ちゃんからの愛の贈り物が消えてしまうなんて!?」
「はっ、良い気味だぜ!!!」
「諦めるんだ、ふたりとも。魔法で即席で作った武器が長時間持つはずなかったんだ。考えれば分かることだったな……。実に、実に残念だが」
リーダーさんは私の言った言葉を自分なりに解釈して納得してくれたようだ! 握った拳をプルプル震わせ、上を向いて泣くのを我慢してるみたいだけど……。
ホントはもっと長時間使えるんだけど、私の作った魔法剣頼りの戦い方してたら、この人達のためにならないもんね! 別にロリコンの発言がキモかったからだけじゃないからね?
「ところで金髪の魔法使いさん、そちらのツインテールの女性なのだが、先程、伸ばした爪で亡者どもを攻撃していたように見えたのだが、あー、その人は、もしかして魔族だったりするのだろうか?」
リーダーさんが鋭い突っ込みを入れて来た! これはマズい!
「あ、あれは爪じゃなくて鉤爪だよ、か・ぎ・づ・め! 古代の武器の鉤爪だから伸縮自在で普段は短くなってるけど、戦闘するときはああやって長く伸ばせるんだよ! しかも、炎を纏わせる魔法が使えるの! 凄いでしょ!? 凄いよね!!」
私は青い目を赤く光らせて魅了を発動し、4人の冒険者達にラスィヴィアの伸縮自在に伸ばせる爪を古代の武器の鉤爪だと思い込ませた!
「ああ、そうだった、鉤爪だったな。魔族だなどと言ってしまって申し訳ない」
「鉤爪って格好良いじゃん! 俺も欲しいぜ!」
「全員、古代の武器持ちとか、何なんだよ、このパーティー!?」
「雪音ちゃん達ってS級冒険者だったりするのですか?」
うん、魅了成功!
「えっ? こないだ冒険者登録したばっかりだから、まだF級だけど?」
「嘘だろ!? あの強さでF級!?」
「マッド、今、彼女が冒険者登録をしたばかりだと言っていただろう? 強いだけでは冒険者ランクは上がらないのだから、おかしいことでもない。牙棘背生竜のことだって知らなかったようだしな?」
そうそう、冒険者ランク上げるには強さの他に色んな薬草や魔物の知識とか、各種依頼をコツコツ達成させた実績と積み重ねて来た信頼なんかが必要だって受付嬢のクレーレさんも言ってたもんね!
「俺ら、C級なのに……。なんか情けなくなって来たじゃん……」
「マイケル、元気を出しましょう! 雪音ちゃん達はきっと高貴な貴族のお嬢さん達だから凄い魔法を使える古代の武器を持っていたりするんですよ! 古代文字が読めるのも貴族の嗜みで家庭教師に教わっていたからじゃないですかね?」
ロリコンがそんなことを言ってチャラ男を慰めている!
うん、良いね、その設定! 今度からそれ使わせてもらおっと♪
「そうですよね、雪音ちゃん?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないよ? あなた達にそこまで教えるつもりはないから勝手に想像してくれるかな?」
「乙女には謎があった方が良いですよねー♪ はい、雪音ちゃん、冷たい飲み物どうぞなのですよー♪」
「うん、ありがと♪」
私はラピから手渡された水筒を両手で掴んでゴクゴクと飲んだ! はぁ〜、生き返るよぉ〜♪
喉を潤した私が水筒をラピに返すと、ラピもそれに口付け美味しそうに飲んでいた!
「ラ、ラピ様、私も喉が渇いたのですわぁ〜ん」そわそわ、そわそわ。
ラスィヴィア、なんで頬を赤らめてるの? はっ!? まさか水筒でラピと間接チューしたいの!? 間接チューは許してあげるけど直接チューは許さないからね!?
そんな私の想いをよそに、ラピは何か企んでるような笑みを浮かべながらラスィヴィアに水筒を手渡した! ラスィヴィアは嬉しそうに水筒に口付け水を飲んでいる!
「がぉー」
雪狼のクゥーは私達のそんなやりとりに呆れながら自分で作った氷の器に魔法で水を入れてペロペロと舐めている。
そして、私達の水筒の飲み回しを見て惚けていた冒険者達のうち、復活の早かったマッドが私に声を掛けて来た!
「お、おい、1つの古代の武器であんなにたくさんの魔法が使えるものなのか? 防御魔法に氷魔法、反対属性の炎の魔法も使ってたし、武器だって魔法で作ってたよな?」
「私が持ってる古代の武器が1つだけとは限らないよね?」
「なにそれ、羨まし過ぎるじゃん!? 1つ俺にくんない!?」
パコーン!
「馬鹿かマイケル!? 古代の武器をタダで貰える訳ないだろう!? マイケルが馬鹿なこと言って申し訳ない!!」
「まぁ、つい言っちゃったって感じだから別に気にしてないよ?」
「1つ注意しておきますけどー、私達の古代の武器を奪おうだなんて間違っても考えないでくださいねー? つい魔が差して、とかもダメですからねー?」
「がぅがぅ!」そうだよー、ダメだよー!
「雪音様とラピ様に手を出そうとしたら私が八つ裂きにして差し上げますわぁ〜ん」
吸血鬼のラスィヴィアが爪をシャキーンと長く伸ばしてチャラ男の頬に当てながら自分の唇をペロリと舐め、捕食者が獲物に向けるような眼差しをチャラ男に向けた!
って、ラスィヴィア! 私がソイツらに魅了を掛けてあるからって、そんなに堂々と人前で爪を伸ばさないでよね!?
「ひっ!? し、しないって、そんなこと!? つい、羨ましくて口が滑っただけじゃん!?」
「それなら、よろしいですわぁ〜ん」
そう言ってラスィヴィアは爪を短くし、チャラ男に背を向けてラピの方へと歩いていった。
「た、助かった〜 ( でも、ラスィヴィアさんのあの冷たい視線! こう、ゾクゾクッと来たじゃん! また、あの目で見つめてもらいたいな〜 )」
「マイケル、不用意な発言は控えてくれ! 彼女達の機嫌を損ねてここで護衛を放棄されたら困るだろう!?」
「わ、悪かったって!」
「お金貰ってるんだから試練の宝剣を元あった場所に戻すまでは亡者達からしっかり護衛してあげるわよ?」
私は心配性のリーダーさんを安心させる言葉を掛けてあげた! お調子者の軟派野郎マイケルに、ロリコンのライト、怒りっぽいマイケルの手綱を握るの大変そうだもんね? リーダーさんの苦労が偲ばれるよ! とか思ってたらマッドからキツい突っ込みが入った!
「さっき牙棘背生竜の突進を避けて俺らを危険に晒さなかったか?」
ギクッ!? 固まる私!
「雪音様の防御魔法で傷1つ負っていないのですから、あんなの危険のうちに入りませんわぁ〜ん。大きな獣にじゃれつかれたと思っておけば良いのですわぁ〜ん」
「ラスィヴィア、ナイスフォロー! そうだよね! 私の魔法のおかげで怪我してないんだから危険はなかったって言えるよね!」
「いや、護衛ってそう言うもんじゃないだろう!? 依頼人の盾になるように行動しろよ!?」
うん、マッドの言う通りだってことぐらい分かってるよ? ただね、ちょっと現実逃避したかったの。
「怒りん坊さんの言うことにも一理あると思いますよー、雪音ちゃん? でも、私、不思議に思うことがあるんですけどー、みなさん、このダンジョンの新しく発見された下層で、亡者を引き寄せちゃう試練の宝剣を入手なさったんですよねー? ダンジョン入ってすぐに出て来たおっきなリザードさんに遅れを取っている力量でよく下層に行けましたねー?」
ラピが私を窘めつつも話を逸らしてくれた! ラピ、ありがとぉ〜♪
私は感謝の気持ちを込めてラピに抱きついた!
「あー、待ってくれ。そのことについてなのだが、腐った牙棘背生竜は本来もっと下の階層にいる魔物なんだ。だからいきなり出て来てマッドも泡食っただけで、心の準備が出来ていれば、あんな無様を晒したりはしなかったと言い訳をさせてくれ」
「そ、そうだぞ! ちいとばかし油断しちまっただけだ!」
「そうだったんですかー? でしたら、初めてこのダンジョンに足を踏み入れた私達が、初めて見る大きなリザードさんの突進にビックリして避けちゃったことも大目に見てくださいねー♪」
ラピはそう言って短気のマッドやリーダーさんに向かってニッコリと微笑んだ!
「ちっ、わぁ〜ったよ! でも、護衛するって言って金取ってんだから、やるべきことはキチンとやれよな!」
「そこはもちろん大丈夫ですよねー、雪音ちゃん?」
抱きついてる私に優しく微笑むラピ!
「うん、もちろんだよ! 亡者から怪我させられないようにキチンと防御魔法は掛けてあげるから、そこは安心してもらっても良いよ!」
「亡者どもを率先して倒してくれたりは」
「お前達は女性に露払いをさせて後ろからただ付いてくる腰抜け冒険者に成り下がりたいのかしらぁ〜ん? それならそれで私達は構いませんけれど」
ちょっとラスィヴィア!? せっかくマッドが納得してくれたんだから、これ以上煽らないで欲しいんだけど!?
「いえ、俺はキチンと戦いますよ! 試練の宝剣を手放すのですから、その前に黒い炎を使って亡者どもを楽に斬り伏せ、この剣の威力を存分に味わっておきたいと」
「ああああっ!? そうだぜ、ライト! てめえ、どうしてさっき黒い炎使って腐った牙棘背生竜を攻撃しなかったんだ!?」
「あ、あはは、いきなりの出来事でしたので、すっかりと頭から抜け落ちてしまって」
「使うべき時に使えねえなら、その魔剣、俺に寄越せ!!」
頭をかいて苦笑いしているロリコンに怒鳴るマッド!
「俺に変わってこれを使って助けて欲しいと泣いて頼んだ時に変わってくれませんでしたからイヤです! 拒否させていただきます!」
「あ、あん時は骸 骨空魚がひっきりなしに襲って来てたんだから仕方ねえだろう!? 交代する余裕なんてなかっただろうが!?」
「はいはい、ケンカしなーい! マッドの剣によく斬れるようになる魔法付与してあげるから!」
これでマッドの機嫌も良くなるよね!
「か、金をまた取るんじゃねえだろうな?」
「取らないわよ!? そんなことゆーならお金取るわよ!?」
人がせっかく善意で魔法を掛けてあげようと思ったのに酷くない!?
「うっ!? い、言わないから魔法付与してくれ」
「素直でよろしい♪ はい、これでさっき亡者の団体さんと戦ってた時間ぐらいは斬れ味が良くなってるはずだよ!」
「雪音ちゃん、俺の剣にも魔法付与をお願いします!」
「お、俺の剣にもお願いしゃーす!」
「俺のにも頼めるだろうか? さっきの斬れ味が忘れられなくてな」
「他の人達にはさっき氷の剣使わせてあげたでしょ? マッドだけ使ってないのは可哀想だから今回はマッドだけね!」
「そんな!? マッドだけなんてズルいです!」
「ライトは魔剣ディーアの黒い炎を発動させれば問題ないでしょ! あなた達も羨ましそうに私を見ないの! ほら、先に進むわよ!」
そう言って私は洞窟の奥へと足を進めた!
「マジかー? 俺っちもまた格好良い氷の剣使いたかったじゃん……」
「残念ではあるが仕方あるまい。それによくよく考えてみれば、その氷の剣に慣れてしまうと腕が鈍ってしまう気がするしな」
「おいピート、俺がこれから使おうってえのにそういうこと言うんじゃねえよ!」
「雪音ちゃんから1人だけ特別に魔法付与してもらえるとかおかしくないですか!?」
「お前、あの金髪の嬢ちゃんの話、聞いてたのかよ!? お前らと違って俺がまだこの氷の剣を使ったことがないから魔法付与してくれただけだろうが!?」
「雪音ちゃん、全員に魔法掛けてあげた方が良かったんじゃないですかー?」
「ラピ様、雪音様はきっとああすることで魔法付与に価値を作り出してお金儲けをなさろうとしているに違いないと私思いますわぁ〜ん」
「あー、そういうことだったんですねー♪ それで雪音ちゃん、1回いくらで魔法付与する予定なんですかー?」
「いや、しないからね、そんなこと!?」
このダンジョンにいる間ずーっと、そんなことしてあげてたら、この一時的なパーティーを解散した後、魔法付与の効果がなくなっちゃったあの冒険者達って、すぐに魔物に殺られちゃいそうだもん!
「えー、どうしてしないんですかー? せっかくですから魔法付与でお金儲けしましょーよー」
「しないったら、しないの! あっ、次の団体さんがやって来たみたいだよ! 全員戦闘態勢!」
「がぅ!」
「分かりましたわぁ〜ん」
◇◆◇
雪音ちゃん達が亡者の団体を倒しながらドンドン奥へと進み、坂を下って下の階層を進みながら断続的に襲って来る亡者達を倒して、また坂を下って下の階層を進んで行くことを何度か繰り返していると前方から地響きが聞こえて来た!
ドッドッドッドッドッドッ!!!
ドッドッドッドッドッドッ!!!
ドッドッドッドッドッドッ!!!
タッタッタッタッタッタッ!!
「た、助けてくださぁ〜い!!」
マッド達が女の声がする方に顔を向けてみると、籠手と脛当を装備している以外は胸部と腰にしか服を身に付けていない女盗賊みたいな格好をした女冒険者がマッド達に向かって走って来ていた!
「おいおい、女の冒険者が腐った牙棘背生竜数匹に追っかけられてこっちに逃げて来んぞ!?」
「ライト、その魔剣、俺っちにちょっと貸すじゃん!? 魔剣の黒い炎でリザード野郎どもを瞬殺してバインバイン胸を揺らしながら逃げて来るあの娘に格好良いところ見せてお近付きになりたいんだよぉおおお!」
チャラ男がロリコンの腰に差している剣身が黒水晶のような素材で出来た魔剣を奪い取ろうとしている!
「マイケル、雪音ちゃんが亡者を消滅させる黒い炎は絶対絶命の時に使うように言っていたじゃないですか!?」
「あのおっぱいちゃんは今、絶対絶命だから問題ないって! ほら、良いから貸すじゃん!! お前だけの魔剣じゃないんだからよぉ!!!」
「あぁっ!?」
チャラ男はロリコンから黒い魔剣を奪い取ることに成功した! そして、両手で黄金造りの柄を握りしめながら柄に埋め込まれている大きなエメラルドの魔石に軽く魔力を流し込み、黒い炎を発動させるキーになる文言を唱えた!
「あ〜、たしか、“全てを無に帰する浄化の黒い炎よ!” だったじゃん?」
すると、黒い炎が魔剣の黒い剣身からブワッと噴き出した!
「よっしゃー! 今、助けに行くじゃんよぉ! 待っててね、おっぱいちゃん!」
チャラ男は黒い炎を纏った魔剣を片手に女冒険者の右後方にいる腐った牙棘背生竜目掛けて走り出した!
「あの馬鹿、1人で3匹も相手に出来る訳ないだろう!? マッド、ライト、俺らは左の腐った牙棘背生竜を殺るぞ!?」
「真ん中の奴はどうすんだ!?」
「そこは雪音ちゃん達が魔法でなんとかしてくれますよ!」
◇◆◇




