第10章 雪音ちゃんと村娘達 105〜 雪音ちゃん、変態魔剣とお話する!③
「雪音ちゃん、目を閉じてから長いこと時間が経ちますが、一体何をしているのですか?」
「………………」
自分の差し出した宝剣を手に取った雪音ちゃんが目を閉じたから、初めは『やった! これなら雪音ちゃんの顔をじっくり眺めていてもバレることも咎められることもないですね!』って喜んだロリコン剣士であったが、いつまで経っても雪音ちゃんが目を開けないので宝剣の呪いにでも掛かってしまったのかと流石に心配になって声を掛けてみた! けれど、雪音ちゃんから返事が一向に返って来ないので身体を揺さぶろうとしたところ、ラピに肩を掴まれ止められてしまった!
「お触りはダメなのですよー? ( 氷漬けにしちゃいますよー? ) 多分、雪音ちゃんは今、その宝剣について魔法で調べごとをしている最中だと思いますので、しばらくそのままにしてあげてくださいねー?」
「そ、そうなんですか? 宝剣の呪いとかに掛かってしまった訳では」
「あなたがずっと持ち歩き続けていて大丈夫だったのですから、雪音様が呪いに掛かるようなことなんてあり得ませんわぁ〜ん」
「がぅがぅ」ラスィヴィアの言葉にうんうんと頷くクゥー!
「ちっ、ここで呪いがとか言い出したら怪しさ大爆発でお前達に対する疑いが深まって良かったんだけどなあ!」
「おいマッド、止めないか!? さっき機嫌を損ねるような発言は控えてくれって頼んだばかりだろう!?」
◇◆◇
意識体世界で魔剣のディーアとオハナシして、斬った亡者を消滅させることができる黒い炎を発動させる言葉を聞き出し ( とゆーか脅して作らせ )、現実世界にさぁ戻ろうと意識を切り替えたところ、なんだか周りが騒がしかった!
あっ、私が魔剣持ってディーアとずっと話し込んでたから騒ぎになっちゃったのかも!?
私は現実世界のリアルボディの目を開け、目の前で心配そうな顔して私のことを見てるロリコン剣士さんに声を掛けた!
「あっ、ごめんね? 長々とこの魔剣借りちゃってて。ちょっと魔法で色々と調べてたんだけど、ライトさん達でもこの魔剣の黒い炎を出せる方法が分かったよ」
「ほ、本当ですか!? どど、どうすれば、あの黒い炎を使えるようになるんです!?」
「おいおい、魔力が足りなかったから発動しなかったんじゃなかったのかあ?」
「マッド!」
「それも理由の1つだけど、魔力以外に言葉が必要だったのよ。見ててね?」
私はテレパシーの魔法で魔剣の意識体であるディーアに一応声を掛けておく!
『ディーア、黒い炎発動させるけど亡者呼んじゃダメだからね?』
———— わ、分かっておるのじゃ! ————
「こほん。 “全てを無に帰する浄化の黒い炎よ!” 」
私が発動のキーになる言葉を唱えると魔剣ディーアの黒水晶のような剣身から黒い炎がブワッと噴き出した!
さっきもチョロっと言ったけど、この黒い炎を発動させた状態の魔剣で亡者達を斬ると、なんと斬った亡者を消滅させちゃうことができるんだよ! 凄いでしょ? 本当は魔剣の所有者が絶対絶命のピンチだって魔剣ディーアが判断した時にしか使えなかったんだけど、魔剣ディーアとの交渉の末、呪文を唱えると使えるようにしてもらったの! これで、これからロリコン剣士さん達の前に亡者達がいっぱいやって来ても大丈夫だよね!
「詠唱で発動するものだったんですか!?」
「おぉ、すげぇ〜! 何度見ても格好良いじゃん!」
「言葉が発動する条件だって言うなら宿屋ではどうして発動したんだ!?」
「確かにそれは気になるところではあるが、俺達でも使えるようになったってことで良しとしてケンカを売るような言い方は止めるんだ、マッド!」
「黒い炎なら闇属性ではないのかしらぁ〜ん? 闇属性なのにどうして浄化などと言う言葉が詠唱の文言に含まれているのか不思議でなりませんわぁ〜ん」
「がぅがぅ」
「邪を持って邪を制するとか、そういうことなんじゃないですかー?」
「へぇ〜黒の色ってやっぱ闇属性なんだ? なら、ラピの考え方で合ってるのかもね?」
もしくは、地球だと黒水晶って数あるパワーストーンの中でも強力な邪気除けとか魔除けになるって話があって、その黒水晶のような剣身から放たれる、剣身と同じ黒い色の炎だから黒くても破邪の力があるとか?
ま、異世界だから黒水晶とか関係ないか! 考えても答えなんて出ないし!
あ、そうそう、今こうして会話している間にも、私は約束通り魔剣ディーアに大量の魔力をこれでもかっていうぐらい凄い勢いで流し込んであげている! なので、
———— はぁはぁ♡ くぅうう♡ わ、妾の身体に大量に熱い魔力がドクドクと注ぎ込まれて、ダ、ダメなのじゃ〜♡ 主様〜、主様〜、妾が〜、妾が悪かったのじゃ〜、ぁあ〜ん♡ ふぅ〜、ふぅ〜♡ そ、そんなにいっぱい1度に身体に注ぎ込まれると、あ、頭がおかしくなってしまうのじゃ〜♡ ————
といった感じで魔剣ディーアの頭の中は今、真っ白になりつつあるらしい。とりあえず、そのまま気持ち良さに飲まれて気絶して大人しくなってて欲しいなぁと思った私はさらに魔力を流し込む量を増やしてあげた! すると、
———— あぁあああ〜〜♡ ぬ、主様は鬼畜なのじゃあ〜!? んぅうううううう♡ ————
ひときわ甲高い声を上げたかと思ったら魔剣ディーアの嬌声が止まった! うん、静かになったね! よし、これでミッション・コンプリートだよ♪
魔剣ディーアの意識が気持ち良さで飛んでしまったため、魔剣から噴き出していた黒い炎は消えてしまった!
「おい、黒い炎が消えちまったぞ!?」
「黒い炎を発動すると魔剣に込めた魔力が激しく消耗しちゃうから私が意図的に消したんだよ。黒い炎を使いたい時は柄に埋め込まれてるエメラルドの魔石に魔力を流し込みながら “全てを無に帰する浄化の黒い炎よ!” って言ってね? あっ、魔力を流すのは発動するきっかけを与えるだけだから黒い炎が発動したら魔力を流し込まなくても良いからね? 1度発動しちゃえばあとは私がエメラルドの魔石に込めておいた魔力が使われるみたいだから」
いちいちうるさい短気のマッドやロリコン剣士さんを見ながらそれっぽい説明をし、私は魔剣ディーアをロリコン剣士さんに返した!
「魔力を流し込みながら “全てを無に帰する浄化の黒い炎よ!” と叫べば良いんですね! 分かりました!」
私の言うことに笑顔で良い返事を返してくれるロリコン剣士さん! それに対して、さっきっから機嫌の悪いマッドが私にまた突っ掛かって来た!
「黒い炎を発動させる方法は分かったけどよお、その発動させる呪文は魔法でどう調べたら分かるって言うんだ? 俺が渡したダンジョンの石碑に刻まれていた古代文字を書き写した紙に書いてあったの読んで知ってたことを今まで黙っていただけなんじゃねえのか?」
「マッドさんと言いましたかー? 残念ですが、雪音ちゃんはあなたに紙を渡される前に宝剣から黒い炎を発動させていましたのでー、それは的外れな発言なのですよー?」
「あ〜、確かに銀髪の巨乳ちゃんが言う通りじゃね? 黒い炎が出たのってライトが宝剣渡してすぐの出来事だったじゃん?」
「その通りだな。マッド、いい加減、この人達に突っ掛かるのは止めないか?」
「うさん臭いんだから仕方ねえだろうが? じゃあなにか? まさか魔法で宝剣と直接会話して聞きましたとでも言うのかよ?」
「あはは、それで正解なんだけどね?」私は頬をポリポリとかきながら苦笑いする。
「あら、意識を持った魔剣でしたのね。非常に珍しいことなのですわぁ〜ん」
「あー、それで先ほど雪音ちゃんに声を掛けても反応がなかったんですねー♪」
「がぅがぅ」うんうんと頷くクゥー!
「なっ!? その宝剣が意識を持った魔剣だって言うのか!? 」
「意識ある魔剣なんて言ったら古代の武器の中でもさらにレア物じゃん!?」
「しょ、証拠はあるんですか!?」
「にわかには信じられない話だが……」
意識持ちの魔剣だと聞かされて驚く冒険者達!
「証拠って言われてもなぁ? 黒い炎を出した状態の魔剣で亡者を斬れば、亡者は消滅するって魔剣が言ってたよ? 絶対絶命の危機に陥った時の切り札なんだって! ヤバいと思った時に黒い炎を発動させると良いんじゃないかな? って言っても、これも見せたメモに書いてあったんだろって言われたらそれまでなんだけどネー?」
「その魔剣さんに意識があろうとなかろうとあなた方の取るべき行動は1つだと思いますよー?」
「がぅがぅ」
「ラピ様の言う通りですわぁ〜ん。その魔剣が亡者どもを引き寄せるのでしたらダンジョンの元あった場所に戻しに行くしかないのですわぁ〜ん」
「そんなこと言っておいて俺達が魔剣をダンジョンに戻した後にこっそり自分達の物にしようって企んでるんじゃないのか!? 違うか!?」
まっ、そう思われてもしょーがないよネー。早く亡者来ないかな〜?
「自分達の物にしようと思っていたら魔剣に意識があるだなんて魔剣の価値が上がるようなこと、わざわざ雪音ちゃんがあなた方に教えたりしないと思いますけどねー?」
「そ、それはそうだが!?」
「た、確かに!」
「で、でもよ、魔剣に意識があるなんて知っちまったら俺達が苦労して手に入れたその魔剣、余計に手放したくなくなっちまうじゃんかよ!?」
「ですね。せっかく造りが豪華なだけでなく意識ある魔剣だと判明したのですから、手放すのが惜しくなってしまいました……」
「命あっての物種だと思うんですけどねー? 今日、雪音ちゃんのげぼ、じゃなくてー、( 犯罪 ) 奴隷達に窮地を助けてもらったんですよねー? そういった幸運は何度も訪れないと思うんですけどー?」
ラピ、言い直した言葉が奴隷なのはどうかと思うんだけど……。
「亡者どもに襲われたのが偶然だと思うのでしたら、ここで私達と別れてアヴァリードの町へ向かえば良いのですわぁ〜ん。そしたら私達は雪音様の言葉を信じなかったお前達が亡者どもに襲われて全滅した後に魔剣を拾ってダンジョンに戻しに行けば良いだけのことですし」
「ラスィヴィア、私達はこの人達を助けるために一緒にいるんだから、そーゆーこと言わないの」
「あぁあああ、その魔剣に意識があるなんて事実、聞きたくなかった〜〜!!」
チャラ男が両手で頭を抱えて絶叫を始めた!
「俺もそう思う。俺達に魔剣を手放して欲しい金髪の魔法使いさんはどうして俺達が魔剣を手放したくなくなるようなことを言ってしまったんだ?」
4人の冒険者達のリーダーっぽい、確かピートって呼ばれてた冒険者が恨めしそうな目を私に向けながら、そう言ってきた!
「それは話のなが」
「さっきから雪音様にやたらと突っ掛かって来るそこの男が気に食わなかったから、雪音様はお前達の悔しがるところを見て溜飲を下げようとしたのではないかしらぁ〜ん?」
ラスィヴィアが私の言葉を遮るように私の前にスッと踊り出てリーダーに言葉を返した!
「あ〜、それは……。納得したくないが納得のできる答えだな……。はぁー」
「ですね。はぁー」
「なんだと!? なんて嫌がらせをして来るガキなんだ!?」
「マッドのせいかよ!? 俺っちがさっき楽しい会話しようぜって言った時にマッドが乗ってくれていれば、がっかりしないで済んだんじゃん!? マッド、マジ勘弁してくれよぉ〜」
ちょっとラスィヴィア、火に油注ぐようなこと言わないでくれる!? そんなつもりまったくなかったし! 話の流れでそうなっただけなんだから、私が性格の悪い奴みたいな言い方しないでよ!?
「がぅがぅ!」まもの来たー!
ナイスタイミング!
「亡者達のご登場みたいだね? 全員戦闘準備!」
「がぅがぅ!」わかったー!
「こ、今度は、わ、私も頑張りますよー?」ガクガク、ブルブル。
「ラピ、震えてるけど大丈夫なの?」
「だだ、大丈夫なのですよー?」ガクガク、ブルブル。
「ラピ様は私がお守り致しますわぁ〜ん。( 震えながら強がりを言うラピ様、可愛いのですわぁ〜ん♪ )」
「はぁ!? どこに亡者どもがいるって言うんだよ!?」
「マッド、あそこからだ!」
「向こうからも来たぞ!?」
「こっちからもです!!」
冒険者達は亡者達が1時、10時、3時の方向からやって来たことに動揺している!
「前回はゾンビ系だけだったけど、今回は骸骨系のも混じってるね?」
「がぅがぅ♪」骨すきー♪
「クゥーちゃーん? ロトン系の魔物の骨を持ち帰って来るのは止めてくださいねー?」
「クゥー、人骨もダメだからね?」
「がぉー」わかったー。
「おいおい、そんな犬っころにも戦わせるのかよ!?」
「あなた達より強くて賢いですから問題ありませんわぁ〜ん。自分達の心配をなさったらいかがかしらぁ〜ん?」
「なんだと!? 俺達がその犬っころよりも弱いって言うのか!?」
「マッド、すぐそこまで来てる! 余所見なんかしてる場合じゃないぞ!」
「ちっ!?」




