第10章 雪音ちゃんと村娘達 091〜 マロンの奮闘記!①〜
「ぷぅぷぅ♪」
1匹の茶色い野良ヘアーが美味しそうに草を食んでいます。
名前はマロン。以前、黒山羊によって大怪我を負わされていたところを雪音ちゃんに助けてもらった垂れ耳ヘアーです。
その時、雪音ちゃんはマロンに自分の血を飲ませて眷属にし、回復魔法と盾の魔法を使えるようにしてあげました。
「この力があれば、この魔物がいっぱいいる世界でも生き残り易くなると思うの。だから頑張って生きるんだよ? 子孫をいっぱい残して、もふもふ天国をこの世界に作ってね?」
マロンは雪音ちゃんに言われた通り、頑張って生き、子孫をいっぱい残すことを誓いました。
「キーキー!! キーキー!!」
「キュッ!?」
マロンは番の雌ヘアーからの危険を知らせる鳴き声を聞いて急いで番の元へと走って行きます!
「ぷぅ!」
「キュッキュッ! キュッキュッ!」
番の後ろからはストレイウルフが迫っていました!
「ぶぅ!!」
マロンは自分の番に飛び掛かろうとしていたストレイウルフの眼前に雪音ちゃんから授けてもらった魔法の盾を展開させます!
ゴンッ!!
「キャインキャイン!?」
いきなり目の前に現れた壁に頭から突っ込むことになりストレイウルフは頭部にダメージを受けて地面で頭を押さえてもがきます!
そう、盾と言っても、マロンが出す魔法の盾はただの四角い壁なのです。動物さんなので凝ったものは作れません。けれど、敵を一瞬怯ませ、その間に近くの地面に掘ってあるヘアー穴に2匹して逃げ込むには十分でした。
このようにして自分達を狙う動物や魔物から身を守り逃げていた垂れ耳ヘアーのマロンですが、ある日、仲間のヘアーを逃がすため、「ぶぅぶぅ!! ぶぅぶぅ!!」とワザと大きな声を出して自ら囮になって逃げていた時のことです。
なんと逃げているうちに4匹のストレイウルフ達によってマロンは周囲を取り囲まれてしまったのです!
「ぷぅー……」
垂れ耳ヘアーのマロンは必死になって考えました!
そして、思いつきました! 敵が4匹いるなら魔法の盾も4つ出せば良いと言うことに!
そんな時、マロンの周囲をぐるぐる歩き回っていたストレイウルフ達が一斉に前後左右から走り寄って来ます!
マロンは急いで「ぷぅ!」と鳴いて自分の前後左右に魔法の盾を展開します! 魔力は空間を超えて雪音ちゃんからいくらでも引き出すことが可能なので同時に4つの魔法の盾を展開させることも問題ありません!
ドガッ! ドスッ! ゴンッ! グサッ!
「「「キャインキャイン!?」」」
「ガフッ!?」
3匹のストレイウルフは壁に頭をぶつけた痛みで苦しみ、マロンに向かって大ジャンプして飛び掛かろうとした運の悪い1匹のストレイウルフは箱状になった魔法の盾の尖った頂点に喉から突っ込む形となって喉に致命傷を負うことになってしまいました!
「ぷぅ〜? ぷぅ♪」
垂れ耳ヘアーのマロンは今の出来事を見て思いました! 今まで逃げ回ることしかできなかった自分にも攻撃手段ができたぷぅと!
怯んでいるストレイウルフ達から無事に逃げ安全な所へと移動できたマロンは、さっきの経験を元に魔法の盾の展開の仕方を工夫してみることにしました。
さっきみたいにとんがってる部分があればホーンドラットみたいに、自分も攻撃できるぷぅ! 魔法の盾でそのとんがってる部分を作れば自分の身を守りながら敵を攻撃して追っ払うことができるぷぅ! そう思ったからです。
垂れ耳ヘアーのマロンはまずストレイウルフに囲まれた時のように前後左右に魔法の盾を出現させました。箱状の盾の完成です!
でも、マロンはもっととんがった部分を作ろうと思い、地面に近い部分の壁を小さくしてみました! 上底が長く下底が短い台形の壁が4つ出来上がりですね! そうすると上の四隅の角は確かに鋭くなりましたが、地面の部分の四隅に穴が空いてしまいました。これではいけません。
「ぷぅー……」
なので、マロンは四方の壁の下の部分だけを自分の側に寄せてみることにしました。
「ぷぅぷぅ♪」
やりました、大成功です! 地面側の壁の四隅にできた穴が綺麗に消えました! マロン、大満足です!
どんな魔法の盾ができたか、これでは分かりませんよね? 四角錐台を上下逆さまにしたような状態です。えっ、これも分かり辛いですか? では、ピラミッドの上半分を水平にぶった切って、下半分の立体を上下逆さまにしたような状態と言えばイメージが湧きますか?
「ぷぅー……」
おや? さっきまで上機嫌だったのに、マロンは何か気に入らないようですね? 何が気に入らないのでしょう?
「ぷぅ、ぷぅ」
ぴょんぴょん。
垂れ耳ヘアーのマロンが45度向きを変えました。
「ぷぅ♪」
あぁ、そういうことですか? 出来上がった攻撃型魔法の盾の鋭く尖った部分が自分の正面側になかったのが気に入らなかったのですね!
「クルッポー、クルッポー」
ヒューーーン、ベチャッ!
「ぷぅっ!? っ!? ブゥブゥ!! ブゥブゥ!!」
あー、空から鳥の糞が落ちて来て、マロンの頭の上に落ちてしまいましたね。マロンが怒る気持ち、よく分かります。あれは実に腹立たしいですよね? 焼き鳥にして食べ、いえいえ、なんでもありません、なんでもありませんよー?
おっと、目を離してる間にマロンは川に移動して頭に付いた鳥の糞を洗い流しているようですね。
「ぷぅ♪」
ふふふ、綺麗に洗い流せてスッキリしたみたいですね?
「キー!! キーキー!!」
「ガルルゥ、ガウガウ! ガウガウ!」
「ぷぅっ!?」
近くにいる仲間のヘアーに危険が迫っているようです! マロンは慌てて仲間の元へと突進して行きます! もちろん新しく作り上げた攻撃型魔法の盾を展開させた状態で!
「っ!! プゥプゥ! プゥプゥ!」
ストレイウルフに狙われているヘアーが、自分の方に走って来るマロンを目にし助けを求めます!
「ガルッ?」
ストレイウルフが後ろに振り返ろうとしますが、もう遅いです。垂れ耳ヘアーのマロンが攻撃型魔法の盾の鋭く尖った部分をストレイウルフのお尻目掛けてぶっ刺しました!
「ギャフッ!? キャインキャイン、キャインキャイン!?」
お尻を刺されたストレイウルフは地面でのたうち苦しんでいます!
「ぷぅ!」
「プゥプゥ♪ プゥプゥ♪」
マロンと助けられたねずみ色のヘアーは急いでその場を逃げて難を逃れることができました。良かったですね♪
「プゥプゥ♪ プゥプゥ♪」
あらあら、マロンに危険なところを助けられて惚れちゃったみたいですね? スリスリとマロンに顔を擦りつけています♪ 可愛いですね♪
「ぷ、ぷぅ〜♪」
うふふ、マロン、でれでれしちゃっていますね〜? でも、良いのですか? 向こうでマロンの番の白いヘアーが怒っていますよ?
「ぶっぶっ! ぶっぶっ!」
「ぷぅっ!? ぷぅぷぅ! ぷぅぷぅ!」
「プゥプゥ! プゥプゥ! プゥ〜♪」
「ぶぅ〜〜!? ぶぅっ!!」
ぴょん、ぴょん。
あ〜、白いヘアーが怒って去ろうとしちゃってますね。
「ぷぅ〜〜!? ぷぅぷぅ! ぷぅぷぅ!」
あっ、『待ってぷぅ〜』ってマロンが慌てて追いかけて行きましたね! そして、そのマロンをねずみ色のヘアーが追いかけて行きました! 一体どうなるのか楽しみですね♪
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《 解説コーナー・再掲載 》
うさぎを『1羽』、『2羽』と数えるのは、昔、生類憐みの令が出たのが発端みたいな説があるみたいです。この法令のせいで、4本足の動物のお肉を食べるのがダメになったけど2本足の鳥は食べてもオッケーだったので、うさぎの長い耳や後ろ足の2本足で立つ姿を鳥に見立てて、うさぎは鳥の仲間だから食べても良いみたいなこじつけから、うさぎを『1羽』、『2羽』と数えるようになったとか。
ちなみに、うさぎと鳥類をまとめて数えるときは『羽』で、それ以外は『匹』でも良いみたいですが、この作品のヘアーは地球のうさぎとは似て非なる動物という設定と、上記の説では食べられちゃうのが前提の『羽』の数え方は好きではないという理由から、本作品では『羽』の数え方は採用せず、『匹』の数え方になっております(*゜▽゜)ノ




