幕間 〜神様は見ていた〜
神様は雪音の戦闘の一部始終を見ていました。
「うっわ、あの子いきなりこけたよ。魔族の肉体だから身体能力は高いはずなんだけどね〜。病院暮らしで体を動かしていなかったから、うまく使いこなせないのかね〜?」
雪音が木の魔物の足元から天高く炎を燃え上がらせた時には、
「おっ! でっかい火柱が上がったね。なかなか見応えがあるじゃあないか。ただ、相手はエルダートレントだから、あれぐらいじゃあ倒せないけどね〜」
雪音が魔物の木の鞭を盾で防ぐのを見て、
「いや〜ギリギリの戦いって、やっぱ良いよね〜。見ててハラハラ、ドキドキするし。泣き虫の雪音ちゃんが頭使って一生懸命なところが、また良いね〜」
雪音が枝の攻撃を回避するため空へと逃げた時には、
「あー、空飛んで逃げちゃったよ。雪音ちゃんは吸血鬼をベースにした魔族なんだから、ちょっとやそっとじゃまず死なないのに」
そんな神様に、彼女の手足となって働く、ちびっ子の天使が声をかける。
「ティア様、地球にはあんな凶暴な魔物いないんですから、逃げたって仕方ないのでは?ってゆーか、お仕事して下さいませ!」
「待って! 今、空に逃げて油断した雪音ちゃんが焦ってオタオタしてて可愛いところなのさ!」
ちびっ子天使はため息をつきながら神様に言う。
「後できちんとお仕事して下さいよ〜。リル、手伝わないですからねー」
リルは、雪音が華麗に枝の攻撃を回避しながら風の魔法で反撃している映像を見て神様に尋ねる。
「それにしても、あの子、よくエルダートレントの攻撃を避けられますね? あの子って確か人間希望じゃありませんでしたっけ? しかも、羽まで生えてますし」
「魔族の体を作ってあげたから、視力も良いし、動体視力もバッチリさ! どれぐらいバッチリかと言うと、ほら、かなり前に失敗しちゃったアレらの動きも問題なく捉えられるぐらいだよ! だから、今みたいに空からエルダートレントの手元の動きを見て、迫り来る攻撃を回避できるのさ!」
リルは唖然とした。
「ティア様! 人間希望の子をなんで魔族にしちゃったんですか!?」
「えっ? だって、あの子の魂って膨大な魔力を生成し続けるから、人間の体だと都合が悪いのさ。だから、膨大な魔力にも耐えられる魔族の体を作っただけさ、ホントだよ?」
そう言った神様の目は泳いでいる。
「それって建て前ですよね? 本当はアレらと戦うこと前提で作って送り出したんですよね? 可哀相じゃないですか!」
ちびっ子天使はプンプン怒っている。
「可愛いリル、そんなに怒らないでくれたまえ。魔族にしたのは雪音の希望を叶えるためなのさ。あの子に、どんな魔物と出会っても死なないようにしてあげるって言っちゃったからね。アレらとも戦えるようにしたのは、ツイデダヨ、ツイデ。うん、遭遇したら倒して貰おうとか思ってないさ!」
「あの子に倒して貰おうと思ってるんですね? でも、余裕で倒せる力はお与えになっていないのでしょう? ティア様は、命を懸けたギリギリの戦いがお好きですもんねー」
リルはジト目で神様を見つめる。ジー。
「そ、そんなこと無いさ。死なないように、腕や足が取れちゃっても、くっつけとけば治るし、仮に消し炭にされても、しばらくすれば再生するように作ってあげたよ!」
「それって、もう不死じゃないですか! アレらを処理するための準備バッチリじゃないですか! 死んじゃっても復活して倒せるまで頑張れるようにって! リルにはバレバレですよ? ......。ちなみに不老だったりするんですか?」
「ん? 成長はするよ。前世で幼くして死んでしまった子が、転生してからもずっと子供のままだと可哀相だからね。ただ、非常に、非常に緩やかな成長だけど。(あと、ある程度成長したら途中から不老になるけどネー。) 」
リルは思った。人間希望のあの少女が人間からかけ離れた体に魔改造されていることに気づいたとき、彼女は何を思うのでしょう? 不死であることを喜ぶのでしょうか? 緩慢な成長のせいで一向に大きくならない身長や胸を悲しく思ったりしないでしょうか? 私みたいに......。昔のことを思い出してムカムカしてきました。拳を握ってプルプルふるわせる。今度ティア様が泣き言を言っても助けてあげないことで、ささやかな仕返しとして差し上げましょう。そんなことを考えているリルに神様は続けて言う。
「それに雪音ちゃんには、想像を現実化する魔法を作ってあげたよ。使い方次第では余裕で倒せることもあるんじゃないかな? ハッハッハー」
「それはまた凄そうな魔法ですね。よくそんな魔法をお与えになりましたね。ティア様にしては、お珍しい。なにか制限とかお付けになられたのですか?」
「とりあえず、蘇生魔法は今のところ使えないようになっている。あと、私が楽しめない魔法、例えば、戦闘中の時間を操作する系の魔法とかは却下だね。罠を仕掛け、そこへ誘導し、罠にはまって身動きの取れない魔物を攻撃するとかならまだしも、スローやストップの魔法で魔物の動きを止めてボコってるシーンとか、見てても面白くもなんともないからね。やっぱ魔物との戦いは命を懸けた駆け引きがないと面白くないよね」
「えーっと、それらの魔法がなくても十分すぎるほど便利な魔法に思えるのですが? まあアレらと遭遇したときのことを想定なさってのことなら、それぐらいあってしかるべきなのかもしれませんね。それでも、リルには余裕で倒せるとは思えませんが......」
「リルは手厳しいね〜。アレらに出会わなければ、まあまず酷い目には会わないのだから良いじゃあないか? 自分から向かって行くか、人間達や魔族達が戦争を起こすような真似をしなければ、アレらは滅多にダンジョンから出てこないんだし。あっーーーーーーー!!」
「ティア様、そんな大声を出して、はしたないですよ。仮にも神様なのですから、もっとこう威厳をですねー」
「雪音ちゃんの戦闘がいつの間にか終わってるのさ。巻き戻して見直さないと!」
「はいはい。後でお仕事終わったら見ましょうねー。ティア様、今お仕事しないとリル今日はお手伝いしませんからねー」
リルはそう言って自慢の怪力で神様を仕事場へと引きずって行く。
「いーーやーーーだーーーーーーーー!!」