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第9章 ちびドラゴン 001 〜 雪音ちゃん、檻に入れられているちびドラゴンを発見する!〜

 翌日、昨日ロウバストのおっちゃんが捕まえたお魚さんがメインの朝食を食べて少しお腹を休ませた後、私達はポムトレントの森を抜けた場所 ( 昨日、メニュー画面の地図にマーキングした所だね ) に魔法で転移した。


「昨日も驚いたが、宿屋からここまで一瞬で着いちまうとはな……」


 ロウバストのおっちゃんがボソッと独り言を(つぶや)いている。


「森を突っ切ったから、森の外周に沿って遠回りするより大分早くアヴァリードの町に行けるんだよね? おっちゃん、ここからアヴァリードまで何日かかりそう?」

「あー、ここからだと今日の昼ぐらいには着くんじゃねえか?」

「あら、今日のお昼にはもう着いてしまうんですかー?」


「えっ!? もう着いちゃうの? ミアちゃんと今日の夜またトランプで遊ぼうねって約束しちゃったのに」

「夕方、町の門が閉まる前に町を出て、“ 渡り鳥の憩いの木 ” に魔法で転移すれば良いんじゃねえか? アヴァリードの町で宿を取って飯食って自室に戻ったら転移するのも有りだとは思うが」

「アヴァリードの町で宿を取るのはお金の無駄なのでー、夕方に町を出て “ 渡り鳥の憩いの木 ” に戻った方が良いと私は思いますー」


「がぅがぅ!」クゥーが神妙な顔をして大きく(うなず)いている。ロッジさん達の料理は美味しいからね。アヴァリードで泊まった宿のお料理が美味しいとは限らないし。


「夕方、門が閉まる前に町を出て、一旦転移魔法で戻ることにするよ。おっちゃんはニアとイチャラブしたいと思うしぃ。にやにや」

「イチャラブがどういう意味か知らんが、雪音のその顔からして、まあなんとなく想像はつく。余計なお世話だと言っておくぞ?」

「ニアさんが燃え上がれるように、また(のぞ)いてって、いったぁーーー!? もう! 叩かなくても良いじゃないですかー! ぷんぷん」


「ニアをお前達みたいな危ない道に引き込もうとするんじゃねえ!」

「えー、ロッジさんとフィーナさんの娘さんなんだから、多分すでに踏み込んじゃってると思うんだけど?」


「あぁあん? ギロッ」

「うっ!? な、なんでもないです」


 変態夫婦の娘さんなんだから絶対ニアも変態さんの要素を受け継いでると思うんだけどなぁ〜? 少なくとも(のぞ)かれて興奮しちゃう変態さんってことは判明してる訳だし?


「じゃー、夕方になったらアヴァリードの町を一旦出るってことで良いですねー?」

「ああ」


 おっちゃんはブスッとした感じで返事をした。むぅー、仕方ない。宿に帰ったら、おっちゃんに喜んでもらえるように、夜寝る前にニアの超敏感(びんかん)肌スキルをMaxにしておいてあげよう!


「宿の件はそれで良いんだけどさぁ、他の人達がアヴァリードの町まで行くのになんで3、4日も掛かるの? 私達2日で着いちゃう訳でしょ?」

「まず、普通はポムトレントやグレイトマンティスがうようよいると分かってる森を避けて森の外側をグルっと回り道するからな! 次に、雪音達の場合は魔物との戦闘があっという間に終わっちまうし、普通だったら解体で時間を食っちまうんだがお前達は解体しないで魔法で収納しちまうし、その収納魔法のおかげで討伐した魔物を運搬することもなくなっちまうからな。無駄な体力を使わないで済むし余計な時間も取られないから到着するのが早くなる訳だ」

「つまり、倒すだけで移動してしまえば、他の人達でも、もっと早く辿(たど)り着けるってことですねー」


「どうだろうな? 魔物を倒すのに時間が掛かるだろうし、戦闘で疲弊した身体を休める時間もあるから、多少は早くなるだろうが、劇的に早くはならないんじゃねえか? それに、わざわざ倒した魔物の解体もしないで捨て置く馬鹿はいない」

「それもそうですねー。みなさん、大変な思いをして旅をしているんですねー」

「行商人の人達ってどうしてるの? 冒険者の人達を雇って護衛してもらうの?」


「そうだ。大抵の行商人は護衛を雇って荷竜車などで移動している」

「にりゅうしゃ? 荷馬車みたいなものかな?」


「馬は希少な生き物で貴族ぐらいしか飼えない生き物だ。だから、行商人が馬で荷車を引くようなことはないぞ?」

「雪音ちゃん、荷竜車って言うのはリザードが運ぶ荷車のことなんですよー」

「へ〜、そうなんだぁ。それってメズやオズみたいな大きさのリザードが運ぶの?」


「いや、あそこまででかくねえぞ? 体長はせいぜい3m前後だな。金持ちの行商人はロックリザードなんかに荷車を引かせていたりするが、飼い慣らすのは大変らしい」

「なんでわざわざ飼い慣らすのが大変なのを使うの?」

「ロックって言うぐらいですから皮膚が岩か何かで出来ていてー、魔物から攻撃を受けてもやられにくいんじゃないですかねー?」


「ラピの言っていることが理由の1つだな。行商人が通るような街道でロックリザードの皮膚を貫ける魔物はそうはいないし、ロックリザードは口から岩を飛ばしたり、岩のような前足で敵を攻撃することもできる。それと、荷車がなければ岩のような尻尾で攻撃することもできるからな。しっかりと飼い慣らせば(おそ)って来る魔物から行商人を守ってくれる。そういった理由から金持ちの行商人なんかはロックリザードに荷車を引かせたがる訳だ」

「今度、その荷竜車ってゆーのを見てみたいなぁ〜」

「森を突っ切ってなきゃあ、道中で出会えたと思うがな?」


「ぶぅー」

「雪音ちゃん、アヴァリードの町へ行けば、きっと、たくさん見られますって!」

「がぅがぅ」

「あぁ、あそこはでかい町だからな。あちこちで見られるんじゃねえか?」


「じゃあ、魔物はサクッと倒してドンドン進むよー!」

「がぅ!」

「やれやれ」

「雪音ちゃん、切り替えが早いのですー。くすくす♪」


 私は荷竜車が見たくて早足で歩いた! それはもう後ろの2人から苦情が来るくらいに! クゥーは私の前を楽しそうに走ってるんだけどね?


 私達一行は遭遇した魔物を風の魔法でサクサクと倒して道を進むと崖に出くわした! 眼下を見渡してみると、兵士達が列をなして歩いているのが見えた。兵士達が列の中央にある車輪の付いた(おり)を警護するように運んでるんだけど、その中身が問題だった!


「えっ!? 何あれっ!! ドラゴンの子供が(おり)に入れられて運ばれてるんだけど!? あの子、キューキューすっごく悲しそうな声で鳴いてる!!」

「がぅがぅ!」

「可哀相なのですー!」


 私は飛行魔法を使って急いで助けに行こうとするも、おっちゃんに腕を引っ張られて止められる。


「雪音、止めておけ! あの旗の紋章、アイツら、アヴァリード領の兵士達だ!! お尋ね者になっちまうぞ!?」

「おっちゃん、あの子が何か悪いことしたと思う?」


「いや、思わねーな。ありゃあ、どうせ物珍しいからって捕まえられたんだろうよ」

「なら、助け出してあげないとね? 山賊と同じようなことするヤツらに慈悲はいらないでしょ?」

「あははー。雪音ちゃんは可愛いものが好きですからねー」

「がぅ!」


 おっちゃんは頭を抱えてる。ラピは雪音ちゃんらしいですねーと笑ってるが、ちょっと冷や汗が垂れていた。クゥーも参戦するつもりみたいなんだけど、クゥー、ごめんねー。今回、クゥーはお留守番だから。


「お前はこの地方の領主に喧嘩を売るつもりなのか!?」

「おっちゃん、喧嘩を売るんじゃないよ?」


「ぁあん!? じゃあ、何しに行くってんだ!?」

「こんなことやらかす領主なんて山賊の親玉と似たようなものなんだから(つぶ)しに行くのよ!!」


「かっああーー、お前って奴はーーーー!!」


 おっちゃんは手を顔に当てて天に顔を向けた。


「おっちゃんには悪いけど、ここの領主(つぶ)すのは決定事項だから。あっ、いちおー領主に、あの子を無理やり連れて来させたのか確認はするよ? 無駄な確認だとは思うけどね?」

「俺は流石(さすが)に正面きってアイツらと事を構えることはできねえぞ?」


「別に頼んでないし、私の関係者だってバレないように魔法で変装してくから、おっちゃんに迷惑はかけないよ。なんだったら、ここでパーティー解散しよ? それで、おっちゃんはニアのいる村に帰って幸せに暮らしてね? 私もう行くよ。あの子が泣いてるもん! ラピとクゥーはここで待っててね?」


「雪音ちゃん、気をつけてくださいねー」

「クゥーン」クゥーはお留守番を命じられ、がっかりしてる。

「そうじゃねえ、そうじゃねえんだよ、あーーくそっ!!」


 私は飛行魔法で、はるか上空へと飛翔した。そして、背中から自前の蝙蝠(こうもり)の羽を、お尻にはリザードの尻尾を生やし、手に持ってた杖をいつもの赤黒く怪しく光る大鎌にモードチェンジして、魔法で銀仮面を作って顔に装着した! 仮面の空いた目の部分からは私の赤い瞳から赤い光が怪しく()れ出している。あとは黒山羊(ベーゼゴウト)の巻き(づの)を頭の左右にセットしてっと。


 うん、準備は整ったね! この格好なら、私が町に行っても変装を解除しちゃえば私がやったってバレないはず! あとは魔族らしく、あの小さいドラゴンを奪ってあげようか?


「赤の(いかづち)よぉーーーー!!」


 私は上空から赤い雷をちびドラゴンを閉じ込めてる(おり)の周りにたくさん落としてあげた! 地面があちこちで(えぐ)砂埃(すなぼこり)が舞い上がる! いきなりの攻撃に驚いた(おり)の周りの兵士達が尻餅(しりもち)をついたり、固まったりしている!


 私は(おり)に向かって急降下し、大鎌で(おり)の上部を横薙いで、実物の大鎌と大鎌から飛んだ赤い魔力の斬撃で(おり)の上部をぶった斬った! そして、すかさず、ぶった斬った(おり)の上部を兵士達の方に向けて蹴っ飛ばしてあげた! 落ちてくる(おり)の上部を慌てて避ける兵士達!


 ちびドラゴンを運んでいた兵士の隊長らしき人物が怒号をあげる。


「貴様ぁあああーー! 何奴だぁあ! そのドラゴンが領主様への献上品と知っての狼藉(ろうぜき)かぁああ!?」


 私は(おり)の上部で蝙蝠(こうもり)の羽をパタパタ動かしながら、


「そうだけど? (さら)われた子は返してもらうわよ? 文句ないよね?」

「あるに決まっておるだろうが!!」


 そう言って隊長が私に向かって青い魔力を(まと)った槍を投擲(とうてき)した! なかなか(すご)い勢いで飛んで来たけど、私が左手を突き出して展開したほぼ透明な盾によって、槍はあっさりと(はじ)かれる!


「くっ、貴様ぁあ! その羽といい禍々(まがまが)しい大鎌といい、その(つの)に、その赤い瞳ぃい!! 貴様、魔族であろう!! 戦争を始める気か!? 人間と魔族が戦争を始めたら、ダンジョンからあの災厄の化け物が出てきてしまうではないか!! 一体何を考えている!?」

「そんなこと私の知ったことではないわ。それに、私はただ(さら)われた子を取り返しに来ただけだし? これは人命、じゃなくて、ドラゴン命救助なの。だから戦争行為じゃないわ。なら、問題なんてある訳ないじゃない?」


「ふ、ふざけるな! 大ありに決まっておる! 何をしておるお前達、その魔族を総攻撃するのだあ!!」


 尻餅(しりもち)をついていた兵士達もすでに立ち上がって攻撃態勢を取っている。その他の兵士達も攻撃態勢を取っている。


「ふざけてるのはあなた達だと思うんだけれど? 私が領主を(さら)ったら、あなた達、取り返そうとするわよね? それと同じことだと思うんだけど?」

「領主様とドラゴンなんかの畜生(ちくしょう)と一緒にするでないわぁあ! お前達、何をボサッとしている総攻撃だ、総攻撃ぃいいーーーー!!」


 兵士達の持っている槍が青く光りだし、兵士達が一斉にその槍を投げてくる! だけど、そんな攻撃、さっきの隊長の『ドラゴンなんかの畜生(ちくしょう)』発言にブチッと切れちゃった私には通用しないんだよ? 私は無意識に身体中から赤いオーラを噴出させながら、飛んできた無数の槍に向かって威力強めの赤の(いかづち)を落としまくった!


 ズガガンッ! ズガンッ! ズガガンッ! ズガガンッ! ズガンッ! ズガガンッ! ズガンッ! ズガガンッ! ズガガンッ! ズガンッ!


 飛んで来た槍は私の放った赤の(いかづち)によって粉々に砕かれ、その破片が赤く燃えて空中で(ちり)となって消えていく。赤の(いかづち)の余波が地面にも落ちていき、その近くにいた複数の兵士達に当たった! 兵士達は燃えて地面でのたうち回りながら悲鳴をあげている! 周りで茫然(ぼうぜん)としていた兵士達が我を取り戻し、燃えている兵士達を必死になってゴロゴロ転がして火を消そうとする。それから、数人のローブを着ている魔法使いっぽいのが慌てて水の魔法を使って兵士達を燃やしている火を消化した。


 ってゆーか、魔法使いいたんだ? なのに、なんで攻撃してこなかったの? 怖気付(おじけづ)いちゃってたのかな? それとも、さっき兵士達が投げた槍にエンチャント掛けたのが、この魔法使い達だったのかな?


「燃えちゃった兵士達はちょーっと可哀相かなって思ったりもするけど、まっ、しょーがないよネ? 人(さら)い、じゃなくてー、ドラゴン(さら)いするよーな領主の所に勤めてるのが悪かったと思ってね。さあ、他の立ってる人達はどうするの? まだやるなら、相手してあげるよ? それとも、てっとり早くここの領主の館を破壊してきてあげよっか? ふふふ♪ 私は別にどっちでも良いんだけどぉ?」

「くっ、お前ら、撤退するぞ! 我らがいない時に領主様を狙われたら(たま)らん。撤退だーーーー!!」


 そう兵士達に言った隊長は私をキッと(にら)みつけて、


「今は退()く。しかし、次に会った時はただではおかん!」


 と言い残し、兵士達を引き連れ、去って行った。


「領主の館までひとっ飛びして、壊してきても良いんだよ? まっ、この子(ちびドラゴン)助けることができたから今は見逃してあげるよ」


 でも、他にもなんか捕まえてたらギルティだから、その時は覚悟しておいてね? あはっ♪ 害虫は滅殺しないとね?


 それにしても、戦争を始める気かー!とか言ってた癖に総攻撃仕掛けて来るとか頭おかしいんじゃないかな? 魔族1人くらいなら殺したあとに事実を隠蔽(いんぺい)してなかったことにしちゃえば良いとでも思ってたのかな? まぁ、魔族って言っても私はどこかの魔族の国に属してる訳じゃないから、仮に私が殺されちゃっても戦争なんて起きないと思うんだけどね?


 とりあえず、戦闘しゅうりょーと思って、ちびドラゴンを見る。あれっ、いない!? と思ったら、私の頭の上をキューキュー言いながら、ぐるぐる飛び回ってた。


「良かったね、(おり)から出られて♪ あなたは、どうして人間に捕まっちゃったの?」

「キュ〜? キュー♪ キュー♪」


 ちびドラゴンが首を(かし)げたと思ったら、嬉しそうに私の頭上の周りを飛び、最後に私の頭の上に止まった。


「どうして、そこに止まるの?」


 私は大鎌を天上界の倉庫に収納して頭の上に両手をやり、ちびドラゴンを捕まえて抱きかかえる。それから地上に降りて、巻き角と仮面、蝙蝠(こうもり)の羽やリザードの尻尾をしまい、兵士達の向かった先を眺めた。


 緩やかな下り坂の向こうに町が見える。町の奥の小高い所に大きな屋敷が見えた。あれがきっと領主の館なんだろう。そして、その向こうには青い海が広がっていた。顔に当たる風には(かす)かに磯の香りが混じっている。


 見晴らしが良くてお料理が美味しそうな町だと思うんだけど、領主はろくでもない奴っぽいし、山賊に捕まった人間を買い取るような奴隷商人フィルスがいる町でもあるから、あそこに住む前には、まず害虫駆除が必要っぽいよね?


 さて、どうしよっかな〜と考えてるところに「がぅがぅ♪」と鳴くクゥーの声が聞こえ、声のする方を振り返ってみれば、クゥーがこちらに向かって走って来ていた。その後方にはラピとロウのおっちゃんが走って来る姿も見えた。

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