第8章 アヴァリードの町を目指して 007 〜 ミアちゃんとブランコ 〜
< とある日のガッセルドの村での出来事です >
「ティム君、ティム君、ミア、面白い遊びを考えたのぉ!」
「こ、今度はどんな遊びを思いついたの?」
ティム君はミアちゃんがとんでもないお遊びを思いついたのではないかと戦々恐々です。
「んとねー、おっきいスパイダーさんに糸を出してもらって、あそこの高い枝の所に糸を巻きつけてもらうのぉ!」
「ミアちゃんはそれで何をするつもりなの?」
ティム君は張り付いた笑顔でミアちゃんに聞いてみました。
「見てのお楽しみなのぉ♪」
そのセリフを聞いたティム君は危険な遊びじゃないことを神様に祈りました。ミアちゃんはおっきいビリビリスパイダーさんにお願いして、糸を高い枝に巻きつけてもらいます。そして、腰の高さくらいの所に糸で結び目を作りました。
「ミアちゃん、その結び目は何のためにあるの?」
「んぅ? 足を乗っける所だよぉ?」
そう言ってミアちゃんは、うんしょ、うんしょと言いながら蜘蛛の糸に登っていき、糸の結び目の所に足を置いて登るのを止めました。
「ティム君、ティム君、私の足を掴んで後ろに引っ張って欲しいのぉ!」
「じゃ、じゃあ、掴むよ?」
ティム君は、おっかなびっくりミアちゃんの足を掴んで、ミアちゃんを後ろへと運んでいきます。
「もう手を離しても良いよぉ」
「う、うん」
ティム君が手を離すとミアちゃんの身体が元いた場所へ振り子のように戻っていきます。
「わぁ〜い! 風が気持ち良いのぉ〜♪ あ〜あぁ〜〜♪」
ティム君は思いました。今回は大丈夫そうかなと! けれど、雪音ちゃんの下僕達はハラハラ、ドキドキです! ビリビリスパイダーさん親子は、いつでも蜘蛛の糸を吐き出す準備が出来ています!
ミアちゃんは速度が足りないのが気に入らないらしく身体をいろいろと動かします!
「あぁ、あぁあ! ミ、ミアちゃん、そんなに身体を動かしたら糸の動きが斜めになっちゃうよ!」
「ほぇ?」
ティム君の予想通り、さっきまで前後の動きだった振り子の軌道がおかしくなり、糸は木に巻き付くような形になってベチョッと木に張り付いてしまいました! 木の途中でぶら下がった状態のミアちゃんにメズが近付き、ミアちゃんがメズの背中にジャンプして飛び乗ります。
「ティム君、失敗しちゃったのぉ」とミアちゃんは悲しそうな声を出します。
「ミアちゃん、多分なんだけど、枝から糸を2本垂らして、糸と糸の間に踏み板を用意すると良いんじゃないかな? そうすれば、さっきみたいに木にぶつからなくて済むと思うよ?」
「ティム君、本当!?」
「家に行って薪を取って来るから、ミアちゃんはここで遊んで待っててよ」
「ミアもついてくのぉ♪ ティム君、手ぇ出して?」
「こ、こう?」
ミアちゃんがティム君の手を握って、「えへへ〜♪ 早く行こう?」とティム君に声を掛けます。
「う、うん (//∇//)」
2人は仲良く手を繋いでティム君の家に行き、踏み板として丁度良い大きさの薪をゲットして木の下に戻りました。
「リザードさん、リザードさん、この薪を魔法で縦に真っ二つにして欲しいのぉ!」
「クギャ!」っと鳴いてメズが縦に置かれた薪を風の魔法で縦に真っ二つにしました。
それから、ティム君が切断面を下にして地面に置き、メズにお願いをします。
「リザードさん、この薪の端のココとココに丸い穴を開けてもらうことはできますか?」
「クギャー、クギャ!」
メズが魔法で小さい風のドリルを生み出し、ティム君の指示通りの場所に丸い穴を開けていきます。
「リザードさん、ありがとうございます! それではスパイダーさん、あそこの枝にこれぐらいの間隔で糸を2本垂らしてもらえませんか?」
「ギギ!」と鳴いておっきいビリビリスパイダーさんが枝に糸を飛ばしました! それから、ティム君が枝から垂れ下がった地面近くの糸を手に取り、踏み板の右側の穴に糸を通して踏み板の上の糸へと結び付けます。そして、ティム君は踏み板の左側の穴にも同じ処理をし、再度、スパイダーさんにお願いをします。
「スパイダーさん、この2箇所の結び目に粘着性の高い糸を巻き付けて結び目がほどけないようにしてもらえませんか?」
「ギギ!」
おっきいビリビリスパイダーさんがティム君の指示通りに糸を吐いたことで、踏み板が外れないように強化されました。
「ティム君、完成したのぉ?」
「た、多分、これで大丈夫だと思うよ? ミアちゃん、この板に座って見て?」
「座れば良いのぉ? はぁ〜い、座ったよぉ!」
「じゃあ、ミアちゃん、後ろに引っ張るよ?」
「うん!」
ティム君が踏み板の下に手を入れて踏み板を掴み、後ろへと引っ張っていきます。
「これぐらいなら大丈夫かな? ミアちゃん、手を離すからね?」
「良いよぉ〜。うわぁ〜! これ、面白ぉ〜い♪ きゃはははは♪」
「よ、良かった〜。ミアちゃんは板に座ってるし、手は糸をしっかり握ってるから大丈夫だよね?」
「クギャ〜?」
「グギャ〜?」
「ギギ?」
「キキ?」
雪音ちゃんの下僕達はみんなして首を傾げています。幼女様は油断なりませんから、ここから、とんでもないことをやらかすかもしれません。雪音ちゃんの下僕達に安心の二文字はないのです。
そんな時、ミアちゃんがスクッと立ち上がりました!
それを見たティム君は天を仰ぎ、雪音ちゃんの下僕達に緊張が走ります!
「もっと風を受けたいのぉ〜♪」
ミアちゃんは足を曲げたり伸ばしたり、身体を前に出したり後ろに出したりして、ブランコの振り子運動に勢いをつけ始めました!
「気持ち良いのぉ〜♪」
「ミ、ミアちゃん、あんまり勢いつけ過ぎると危ないよぉおお!」
「クギャー! クギャー!」
「グギャ! グギャ!」
「ギギー! ギギー!」
「キキ! キキ!」
ティム君の心臓はバクバクです! ご主人様からミアちゃんに怪我をさせるなと言われている雪音ちゃんの下僕達は大慌てです! ちっちゃいビリビリスパイダーさんは急いで木に登って行きます! メズとオズはオロオロしています! けれど、みんなの心配をよそにミアちゃんの乗ったブラは加速を続けます! そして、ついにはなんと鉄棒の大車輪のように回転し始めてしまいました!
「すごい、すごぉーーい♪」
「あわわわわわ!? ミ、ミアちゃーーーーん!」
「ギギッ!!」
おっきいビリビリスパイダーさんが口から糸を飛ばします! 糸がブランコの椅子の部分に着弾し、大回転が止まりました! っが、
「ほえっ?」
ブランコは止まりましたが、ブランコに乗っていたミアちゃんはまたもや空中へと投げ出されてしまいます!
「キキ!」
ちっちゃいビリビリスパイダーさんが木の枝の上から糸をミアちゃんに向かって飛ばします! 糸は無事にミアちゃんに着弾し、ミアちゃんの身体を絡め取ります! けれど、身体の小さいビリビリスパイダーさんではミアちゃんの重さを支えることはできません! ちっちゃいビリビリスパイダーさんは急いで枝をグルグル回転して糸を枝に巻き付け地面に飛び降りました! もちろん糸を吐き出しながらです。そして、下にいたおっきいビリビリスパイダーさんが口から糸を飛ばして、落ちてくるちっちゃいビリビリスパイダーさんの出している糸に着弾させました! そして、どうなったかと言いますと……。
ミアちゃんは木の枝の下、ブランコよりずっと下で、ぶらーんぶらーんと揺れていました!
「よ、良かったぁ〜」ティム君は地面にへたり込みました。
「クギャ〜」
「グギャ〜」
メズとオズは思いました。新参者のスパイダーのせいで気苦労が絶えない。どうしてくれようかと!
「ギギ!」
「キキ!」
と鳴いてビリビリスパイダーさん親子は口から糸をポムの木と背の高い木に飛ばしていき、即席のハシゴを作りました。ミアちゃんが両手で糸で出来たハシゴを掴むと、メズが「クギャ!」と鳴いて風の魔法を使ってミアちゃんを吊るしている糸を切断します。ミアちゃんは糸で出来たハシゴをうんしょ、うんしょと言いながら降りて来ました。
「ギギー」
「キー」
2匹のビリビリスパイダーさんは地面にドテッと身体を落としました。きっと神経をすり減らして疲れてしまったのでしょう。
「ミアちゃん、大丈夫? 怪我しなかった?」
「クギャクギャ」
「グギャグギャ」
「えっ? 怪我なんかしてないよぉ?」
「ミアちゃん、もう危ないことしちゃダメだからね? すっごく心配したんだよ?」
「あぅ、ごめんなさいなのぉ。でもでも、すっごく面白かったよぉ?」
「ミーアーちゃーーん?」
「はぅっ!? うぅ、ティム君、怒ってるぅ?」
ミアちゃんが目をうるうるさせて泣いちゃいそうです。ティム君はミアちゃんのコレには勝てません。怒ってた気持ちが一気に萎えて脱力してしまいます。
「はぁ〜。怒ってないから泣かないでね?」
泣きたいのはこっちなんだよ? と思いながらも、そんなこと言えないティム君でした。
「えへへ〜、ティム君、大好きぃ〜♪」
と言ってミアちゃんがティム君に抱きつくので、ティム君はお顔が真っ赤になってしまいます。
「それでね、ミア、ティム君にもう1回さっきの作って欲しいの」
「えっ!?」
驚いたのはティム君だけではありません。雪音ちゃんの下僕一同もびっくりしています。
「作ってくれないのぉ?」
ミアちゃんは目をうるうるさせています!
「さ、さっきみたいに勢いつけないって僕と約束してくれる?」
「うん! 約束するのぉ♪」
と、ミアちゃんがとびきりの笑顔で言ってくるので、ティム君は泣く泣くおっきいビリビリスパイダーさんとメズにお願いをして、再度ブランコを作ることになるのでした。1つ作り終わるとミアちゃんに『ティム君のも隣に作ってね?』と言われたので、ティム君は自分用のブランコも作りました。
ぶーら、ぶーら。
「はぁ〜。普通に乗ってる分には顔に当たる風が気持ち良いのに」
「ティム君、楽しいねぇ〜♪ きゃはは♪」
ぶーら、ぶーら。
「うん、楽しいよ♪ でも、それ以上、勢いを強くしないでね?」
「だ、大丈夫だよ? えへへ♪」
ぶーら、ぶーら。
後日、ミアちゃんはブランコを揺らして遊んでいる最中にブランコからジャンプしてどこまで遠くに行けるか? という危険な遊びを思いつき、実行に移していたら、ニアにその現場を目撃され長時間お説教を受ける羽目になるのでした。
そして、ニアとティム君、雪音ちゃんの下僕達から相談を受けた雪音ちゃんはブランコに色々な魔法を掛けることにしました。ブランコの椅子に座ったらシートベルトが自動で装着される魔法、ブランコに立って乗ったらブランコが動かないようにする魔法、速度が出過ぎないようにする魔法、角度は地上から45°までしか上がらないようにする魔法、木の枝が折れないようにする魔法などを掛け、安全対策をバッチリ施したのです。
ミアちゃんは、しばらくは安全対策が施されたブランコで遊ぶのですが、速度があまり出ないのが不満なのかブランコで遊ぶことはすぐに飽きてしまい、蜘蛛の糸を使った別の遊びを考え始めるのでした。
そして、放置されたブランコは他の小さな子供達の格好の遊び場となり、ミアちゃんは小さな子供達から遊びの女王様として尊敬される存在になっていくのです。
はてさて、ミアちゃんの次に発明する蜘蛛の糸を使った遊びは一体どんなものになるのでしょうか?
to be continued......?
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※ ちなみに、小さな子供達が遊んでいる時に魔物がやって来たら困るので、雪音ちゃんはビリビリスパイダーさん親子に、小さな子供達がブランコで遊んでいる時は、小さな子供達のお守りをすることを雪音ちゃんの血と引き換えにお願いをしています。
※ 地球の蜘蛛はお尻からしか糸を出しませんが、異世界の蜘蛛はお尻からだけでなく口からも糸を出すことが可能です。あと、地球の蜘蛛は鳴きませんが、異世界の蜘蛛は鳴きます。
※ 次回は雪音ちゃん視点に戻ります。




