第8章 アヴァリードの町を目指して 005 〜 雪音ちゃんとビリビリスパイダー②〜
サラサラと水の流れる音が聞こえる。
「ねえねえ、近くに川が流れてると思うんだけど、川の方に行っても良い?」
「別に構わないぞ? 魚でも捕まえるのか?」
「がぅがぅ♪ じゅるり」
「ただ川に沿って歩きたいだけだよ?」
「えー、お魚さん沢山捕まえてロッジさんに料理してもらいましょうよー」
「がぅがぅ♪ がぅがぅ♪」
「そうだな。クゥーも食べたそうだし、そうするか?」
「がぅ♪」と鳴いてクゥーはロウのおっちゃんの回りをぴょんぴょん飛び跳ねている。
「じゃあ、魚捕まえに川へ、レッツゴーだね!」
私達は川のせせらぎが聞こえる方に向かって歩いて行くと、何かが争っている音が聞こえてきた。近付いてみると、川の向こうの陸地に無数のグレイトマンティスがいた。さらにその向こうは岩壁となっていて、数匹のグレイトマンティスが飛び出た岩壁に張り付いている。
「うぉっ!? なんだ、ありゃあ!? グレイトマンティスが無数にいやがる!」おっちゃんは大剣を構え戦闘態勢に入った!
「キューン、キューン」クゥーはブルブル震えている。グレイトマンティスのお尻の穴の中に寄生している黒くてぶっといミミズの魔物を思い出しているんだろう。
「グレイトマンティスの群れの中央に、白くて大きいスパイダーさんと小さいスパイダーさんがいますねー。お目目が雪音ちゃんの青い瞳と同じ色で綺麗なのですー♪」
天使の翼を魔法で生やして上空から見下ろしているラピが呑気な声で伝えて来る。
「白いスパイダーに青い目だとぉ!? おい、ラピ! 身体に青い模様みたいなものは見えるか!?」
「あー、はい、確かに青い模様が見えますけど、それがどうかしたんですかー? あっ、白いスパイダーさんのお口から糸が出てグレイトマンティスさんをぐるぐる巻きにしているのですー!」
「おっちゃんの知ってる種類のスパイダーなの?」
そんなことを言いながら、私も白いスパイダーをこの目で見てみたいと思って天使の翼を魔法で生やして空へと舞い上がる。
「その白いスパイダーは、さっき話題にのぼったビリビリスパイダーだ!」
「うぅわっ!? 蜘蛛の口から出た青い電撃が、糸を伝って糸に絡め取られたグレイトマンティスをビリビリさせてるよ!?」
「じゃあ、グレイトマンティスを一掃するってことで良いですかー?」
「そうね。ここで助けてあげたら私の新しいペットになってくれるかもしれないし!」
「がぅぅうう!?」
私は空中から一気にビリビリスパイダーの上空へと飛翔し、岩壁に張り付いている邪魔なグレイトマンティス数匹を杖からモードチェンジした赤黒い大鎌でザクッ、ザクッ、ザクッと斬って倒し、ビリビリスパイダーの親子?の周囲にいるグレイトマンティス達に向かって青の雷を落としてあげた! 青の雷を受けたグレイトマンティス達はビリビリと痺れた後、身体をピキピキピキと凍らされて氷漬けの彫像になった! 即席の盾の完成だね? ちなみに、赤黒い大鎌で切ったグレイトマンティス達は燃えてるよ? お尻からキモいウネウネが出てきたらイヤだからね。
◇◆◇
雪音ちゃんが岩壁に張り付いているグレイトマンティス達を斬って燃やしている頃、ロウバストは外周にいたグレイトマンティスに向かって大剣を振り下ろし、グレイトマンティスを真っ二つにしながら大剣を地面へと叩きつけた! すると、地面から尖った岩が大剣の前方へと連続して噴出し、その直線上にいたグレイトマンティス達の腹へと突き刺さって行く!
「おら、もういっちょぉおお!」
大剣を振りかぶってチャージを終えたロウバストが大剣を振り下ろし地面に叩きつける! 再度、地面から尖った岩が次々と隆起し、グレイトマンティス達を屠って行く!
◇◆◇
ちょうど同じ頃、ラピは地面へと舞い降り、青い宝玉を咥えた龍の杖を胸の前で構え、螺旋状の槍を3本召喚した!
「とりあえず、ビリビリスパイダーさんの親子をよってたかってイジメた報いを受けてくださいねー?」
喋りながらラピは龍の杖を握る手に力を込めた。すると、螺旋状の槍の隙間から緑色の風が吹き出し、槍は荒れ狂う風をその身に纏う! そして、ラピが龍の杖を横薙ぎにすると、触れるもの全てを斬り刻んで穴を穿つ風の槍が解き放たれ、その進行方向にいたグレイトマンティス達の身体を次々と貫いて行った!
◇◆◇
その頃、クゥーは何をしていたか? 氷を足場にして空へと駆け上がり、倒されたグレイトマンティスのお尻の穴から寄生虫が出て来ないように、ロウバストやラピが倒したグレイトマンティスのお尻付近に巨大な氷塊を次々と落とし、グレイトマンティスのお尻潰しに励んでいたのだ!
◇◆◇
「えっと、グレイトマンティスはみんなに任せておいて大丈夫そうかな?」
私は下にいるビリビリスパイダーさんに目を向けてみた。おっきいビリビリスパイダーさんのお尻はグレイトマンティスの鎌で傷付けられたのか青い血 ( 体液? ) を流していた。脚も何本か千切れているみたいだ。うぅ、痛々しいよぉ。私はおっきいビリビリスパイダーさんの正面に舞い降り、話し掛けた。
「もう大丈夫だよ。これから魔法で癒してあげるからね?」
「……」
おっきいビリビリスパイダーさんは微動だにしないで、私のことを横並びに並んだ4つの綺麗な青い目でジッと見つめて来る。おっきいビリビリスパイダーさんの身体の下から小さいビリビリスパイダーさんがひょっこり顔を出した。手乗りサイズで可愛いかも! あっ、そんなこと思ってないで早く癒してあげないとね?
私は天使の翼をはばたかせて、おっきいビリビリスパイダーさんのお尻の方へ移動し、怪我しているお尻に両手を向け治癒の魔法を掛けた! おっきいビリビリスパイダーさんのお尻がオレンジ色の光に包まれる!
「戦闘が終わらないと完全回復にならないのが気にいらないけど、仕方ないよね……。地面に千切れた脚が何本か落ちてるけど、どれがどこにくっ付いてたかなんて分かんないよ……。うーん。とりあえず、脚の傷口の所に私の血を流しておけば早く再生するよね?」
私は手首を風の魔法で切って、脚が早く再生されますようにって願いながら、手首から流れ出る血をおっきいビリビリスパイダーさんの脚の傷口に流し込んでいった。
蜘蛛って確か脱皮する時に脚が再生されるんだったよね? 1回目の脱皮で短い脚が生えて、2回目の脱皮で完全に元に戻るとかじゃなかったかな? あれって子供の時だけだっけ? 異世界の蜘蛛で魔物だから大人でも大丈夫だよね? ダメだったら私の魔法で再生させてあげようっと!
脚の傷口に血を流し込んでいると、小さいビリビリスパイダーさんが何してるの? 何してるの?って感じで頭を傾けながら私のしていることを観察してた。1つ流し終わって、また別の脚のない所へ移動しようとすると私のあとをついて来るのが、ちょっと可愛いかった。そうして3箇所の脚に一定量の血を流し込んだ辺りでラピが声を掛けて来た。
「雪音ちゃーん、グレイトマンティスの退治が終わったのですー♪」
「いやー、参ったぜ。戦ってたら後ろからもグレイトマンティスが続々とやって来てな。ちーとばかし焦ったぜ」
「2人とも、お疲れ様。クゥーはどうしたの?」
「クゥーちゃんはグレイトマンティスのお尻目掛けて、ひたすらに大きい氷の塊を落っことしていましたよー?」
「悪いな。クゥーにトラウマを植え付けちまったみてぇで」
「まー、グレイトマンティスが死ぬと寄生虫がお尻からウニョウニョっと出て来て、こっちのお尻の穴を狙ってるなんて言われたら、仕方ないんじゃないかな?」
「そう言ってくれると助かる。にしても、コイツがビリビリスパイダーか。さっき見たヴェノムスパイダーよりでかいな」
「白くて綺麗ですよねー♪ それに、4つのお目目も綺麗なのですよー♪ まるで宝石みたいなのですー♪」
「目は頭の後ろにも2つ付いてるみたいだよ? あっ、そんなことより戦闘が終わったのなら、完全回復してあげないと! えぃ♪」
私は完全回復するように強く願って、あわよくば脚もきちんと完全に再生されることで私に感謝して私のペットになってくれないかなぁ〜って願いながら回復の魔法を掛けてあげた! オレンジ色の光が、おっきいビリビリスパイダーさんの身体を包み込む! しばらくすると、ニョキッ、ニョキッ、ニョキッと欠損していた脚がきちんと生えて来た! やったね♪
「うん、グレイトマンティスに切り取られちゃった脚も無事に再生されたみたいで良かったね?」
「ギギ」っと鳴いて、おっきいビリビリスパイダーさんが前傾姿勢を取って頭を差し出して来た。
「えっと、頭を撫でてあげれば良いのかな?」
「そんなことは知らん。雪音がしたいようにすれば良いんじゃないか?」
「雪音ちゃん、この子も下僕にしちゃいましょー!」
私はおっきいビリビリスパイダーさんの頭を撫で撫でしてあげた。すると、いつの間に移動してたのか小さいビリビリスパイダーさんが、おっきいビリビリスパイダーさんの頭の上にいて、私の手の上にジャンプして乗っかって来た!
「えっと、あなたも撫で撫でして欲しいの?」
って聞くと、おっきいビリビリスパイダーさんがしたように前傾姿勢になって頭を差し出して来た。だから、私は人差し指で優しく撫でてあげた。
「キキ♪」って嬉しそうな鳴き声が小さいビリビリスパイダーさんから聞こえて来た。地球の蜘蛛は鳴かないけど、こっちの蜘蛛は鳴くんだねって思った。
「っで、どうすんだ、雪音。コイツら、このままこの森にいると、またグレイトマンティスどもに襲われるんじゃないか?」
「追加で現れたのも合わせると30匹ぐらいいましたからねー」
「えっ!? そんなにいたの? 最初15匹ぐらいしかいなかったよね?」
「1箇所にこんなに集中するのは、ちょっと異常な感じだな。グレイトマンティスにとってビリビリスパイダーは好物なのかもしれん」
「うーん。あなた達、この森を離れちゃうことになっても大丈夫?」
「ギギ」頭を縦に振って頷くおっきいビリビリスパイダーさん。それを真似するかのように、ちっちゃいビリビリスパイダーさんも頭を縦に振る。実に可愛いらしい。
「じゃあ、私の下僕がいて安全な場所に連れて行ってあげるよ♪」
と言ったら、おっきいビリビリスパイダーさんが両前脚を万歳させてユラユラ動かしている。これは嬉しいのかな? って思ってたら、ちっちゃいビリビリスパイダーさんも真似しだした♪
「なんか可愛いですねー♪」
「だよね〜♪」
「お前ら能天気過ぎやしねぇか? 今にも襲いかかって来そうで怖いんだが?」おっちゃんは後ずさっている!
「おっちゃんビビり過ぎだよ? 命を助けてくれた人に襲いかかって来るはずないじゃん?」
「そうですよー。この子達、こんなに可愛いじゃないですかー? 怖がるなんて可哀相なのですー」
「俺にはお前らの感性が分からん」
「がぅがぅ」といつの間にか戻って来ていたクゥーがおっちゃんの言葉に大きく頷いている。
「お帰りクゥー。グレイトマンティス退治お疲れ様♪」
私はしゃがみ込んでクゥーをもふもふしてあげると、クゥーは「くぅ〜ん♪」と嬉しそうに鳴いて私になされるがまま、もふられるのだった。十分にもふってあげた後、私はラピ達に声を掛ける。
「ちょっと、この子達を連れてガッセルドの村に行ってくるから、ラピとクゥーは倒したグレイトマンティス達を天上界の倉庫にしまっておいてくれるかな? おっちゃんは周りの警戒をお願いね?」
「はいなのですー♪」
「がぅ♪」
「ああ、任せておけ」
「じゃあ、ビリビリスパイダーさんって、あれっ? ちっちゃい子がいないんだけど?」
「ギギ」っと鳴いて、おっきいビリビリスパイダーさんがある方向に前脚を向ける。
「あの子、ポムの木に登って何してるの? ポムが好きなの?」
「雪音、スパイダーはポムを食べるんじゃなくてポムに寄ってくる虫なんかを食べるんだ。あと、スパイダーって奴は自分と違う種類のスパイダーを食べたりもする」
「同じスパイダーさん同士でも種類が違うと敵になっちゃうんですねー。びっくりなのですー」
「その点は人間だって変わらないと思うぞ? 肌の色や住んでいる国が違うだけで戦争したりするだろう?」
「それもそうですねー」
「えっと、じゃあポムの木もとりあえず何本か一緒に運んでっちゃえば良いってことだよね?」
「普通なら出来ねえことをさも当たり前のように言いやがって……。ハァー。好きにしてくれ」
「それじゃあ、ちょっと行って来るよぉ! 転移!」
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※ 地球の蜘蛛はお尻からしか糸を出しませんが、異世界の蜘蛛はお尻からだけでなく口からも糸を出すことが可能です。あと、地球の蜘蛛は鳴きませんが、異世界の蜘蛛は鳴きます。




