第5章 パジルーンという村での出来事 007 〜守り神ワイトスネイカ⑤〜
「じゃあ契約魔法も結んだし、あなたの傷を癒してあげるよ。ハイヒール!」
白い大蛇ワイトスネイカの大きな体をオレンジ色の優しい光が包み込む。
「これは……。フシューー」
雪音の赤黒い鎌によって切り裂かれ燃やされた白い大蛇の表皮の傷が、みるみると癒されていく。傷が癒されていくだけではない。なんと雪音が切り取った尻尾の先の部分まで再生されたのだ。
「ば、ばかな。切り落とされた尻尾がこんなに早く再生するだと……ありえない。シュルルルー、シュル」
「あなたにさっき私の血を飲ませたからね。きっと、あなたがもともと持っている再生能力に、私の血の再生能力が加わり、さらにハイヒールによって効果が促進されたんじゃないかな? 尻尾が早く治って良かったじゃない?」
「なぜ、主の血にそのような効果が……。シュルルーー」
「私、別に天使じゃないんだよ?」
私は魔法で天使の翼を出現させる。
「この天使の翼は魔法で作った擬似的な翼だし、」
「天使のつばさ〜、天使のつ・ば・さ〜♪」
と、はしゃいでるラピには申し訳ないけど消させてもらうよ?
「私の本当の翼はこっちなの」
そう言って私は天使の翼を消して、自前の蝙蝠の翼を背中に生やす。
「あー、天使の翼がーー」
とがっかりしたようなラピの声が聞こえる。気にしない気にしない。今度ゆっくり見せてあげるから。
「どう? 私の種族が分かったかな?」
「ふむ、主は吸血鬼だったのか? ふむ、それでか……。フシューー」
「うん、神様はそう言ってたよ。体のベースを吸血鬼にしたってね」
「つまり、我は主の眷属になったということか? シュルルーー」
「うーん、さっきの約束さえ守ってくれれば、他にワイトを縛るつもりは全くないから、好きにして良いよ?」
「そうか、主がそう言うのなら我は今まで通り、ここで暮らすとしよう。食べ物は黒山羊の魔物など沢山いるのでな。フシューー」
「雪音様、雪音様ー」
「様はやめて。っで、な〜に、ラピ?」
「雪音ちゃんは吸血鬼なのですよねー? なのに、どうしてお日様が出ていても普通にお外に出ることができるのですか〜? 吸血鬼ってお日様に弱いのではないのですかー?」
「それも神様にお願いしたからだよ。吸血鬼にして欲しいとは頼んでなかったんだけどネー」
「雪音ちゃんって神様に愛されているのですねー。吸血鬼なのに神の使徒様みたいですー」
「まー、魔物と出会っても何とかやっていける体にしてもらえたことには、感謝してるけどね?」
「私も雪音ちゃんの下僕になりたいですー。ワイトスネイカ様だけ下僕にするなんてずるいですー。私も戦う力が欲しいですー」
ラピに戦う力、か……。異世界に転生して初めてできた私の大切なお友達。死んでほしくはないけど、せっかく人間の体なのに……。
「ラピ、私の血を飲んで、私が望めば可能だと思うけど、そうなると人間やめちゃうことになるんだよ? 良いの、それで?」
「はい! 私は雪音様の下僕になりたいのですーーーー!!」
様も下僕もやめて! うん、決めた。ラピにはもう少し頭を冷やして、時間をかけて考えてもらおう。私やクゥーがこれからはもっと注意して行動して、ラピを危険から遠ざけよう。うん、そうしよう。
「ラピ、今はまだダメ。もっとよく考えてから決めて欲しい。とても、とても、大事なことだから。ラピはせっかく人間なんだから、もっと時間をかけて本当にそれで良いのか、よく考えて欲しいかな? 私は安易にあなたを縛りつけたくない」
「私は雪音様に縛りつけて欲しいですーーー!」
「却下します! 様もダメです!」
「えー、そんなーー雪音ちゃーーーん!」
「主達よ。痴話喧嘩は村に帰ってから、やってはくれぬだろうか?シュルルルーーー」




