第5章 パジルーンという村での出来事 006 〜守り神ワイトスネイカ④〜
「ぬうぅーーー、致し方あるまい。シュルルーーー」
「ゆ、雪音様、私も、私も雪音様の下僕にして欲しいですーー!」
「ラピの下僕は却下!ラピ、あなた何言い出すのよ、全くもー。それでワイトスネイカは、って名前長いからワイトって呼ぶことにするね!」
「ぐぬぬ。承知した。それで我が主よ。我に何を望む? シュルシュルルーー」
「あの村に近づく魔物を今まで通り倒すこと。ってゆーか、あなた、黒山羊をどうやって倒してるの? 尻尾ではたいてるの?」
「体を巻きつけアイツらの身動きを取れなくし、牙を突き立て毒を注入する。そうするとアイツらは眠ってしまうから、あとは丸のみだ。フシューーー」
「ねえ、ラピ? 私、村長に飲み物飲まされて眠っちゃったんだけど、あの飲み物って、もしかして……」
「はい、雪音様のご想像通り、ワイトスネイカ様から頂いたものでございます」
oh〜、そうだったんだーーー。あれ、美味しいからまた飲みたいな〜と思ったんだけど、コイツからできてるのか……。うーん。
「我が主よ……」
「雪音様?」
「っん? あー、ごめんごめん。あと、ワイトは村の人間を食べちゃダメ! 生け贄禁止!」
「むー、命を許して頂いたので我慢しよう。シュルルーーーー」
「あと、約束を反故にされたくないから念のため契約魔法を結ぶよ。ワイト、口を開けなさい!」
そう言って私は、自分の手首を軽く切ってワイトの口に突っ込み、私の血をワイトの口の中に流していく。そして、
「大神雪音の名の下、ワイトに命じる。汝、パジルーン村の村人を害することなかれ! パジルーン村を行き来する悪意のない人間を害することなかれ! もし契約に背くことがあれば、汝の体は地獄の業火で最大級の苦しみを味わうことになるであろう!」
そう私が言うと、私とワイトの周りを赤い光りがグルグルと飛び回り、最後に私達をその光で包み込んだ。
「きれいな光なのですー♪」
「これで契約しゅうりょーっと!」
「我が主、先ほどの契約のことで質問があるのだが、丸のみしてしまっても良い人間がいるのか? フシューー、シュルルル」
「盗賊とか山賊の類なら別に丸のみしたって構わないよ? 真面目な人間を害さないならね。約束守ってくれるでしょう? 守らないと」
私は洞窟内の開けた所に左手を向ける。地面から洞窟の天井まで届くか届かないぐらいの勢いで5本の火柱が燃え上がるのをイメージして、
「燃えろ!」と唱える。
すると地面から5本の火柱が燃え上がる!
「なっ!?」
「わー、すっごい火柱なのですーーー! わー、わー、雪音様は大魔法使いなのですーーー! きゃーーーー♪」
「っと、まー こんな感じの火柱がワイトを襲うから、約束忘れないでね? あと、私が旅の途中で倒した山賊とかをここに魔法で転送してあげるから、転送されてきた悪い奴等は丸のみしちゃって良いから村をきちんと守るんだよ?」
「あいつかまつった。主の心遣い痛み入る。っん? 主は転移魔法が使えるのか? フシュー」
「転移? 転送じゃなくて転移なのか。うん、転移魔法使えるよ、多分ね。私には想像を現実化する魔法があるから、転移魔法ってのがこの世界にあるなら普通に作れるはずだよ? なくても創り出せるけど、既に存在してる魔法なら絶対に私にも使える自信があるよ」
「想像を現実化する魔法……。そのような魔法は聞いたことがないぞ。シュルルルー」
「私が頼んで神様に作ってもらった魔法だからネー。知らなくてもしょーがないんじゃないかな〜? ただ、あの神様は血湧き肉躍る戦いが好きだから、転移魔法は戦闘では使えない気がするけどネー」
「つまり、我が主は神の眷属であると? フシュルー」
「うーん、あの人が本当に神様なのかは自信ないし、私があの人の眷属かどうかは分からないけど、想像を現実化する魔法を作ってもらったのは確かだよ? ただ、神様の家来になったつもりは全くないけどね」
「とんでもない者を我は主にしてしまったのかもしれんな。シュルルルー」
「逆らったら消し炭にするから気をつけてね?」
「分かっている。主と我の力の差は明らかだ。逆らうつもりは先程とうに消え失せたわ。フシューー」
「ラピ、これであなたの村は……って、ラピ、何してるのかな?」
「羽だよ、羽ーー♪ 雪音ちゃんは、雪音様で、やっぱり天使様だったのですねー♪」
ラピは私の背中へと移動して私の天使の翼をいじくって遊んでいた! 天使様って自分で言ってるのに、その天使様の羽で遊ぶんだー、畏れ多いとか思わないのかな? この子、ある意味で大物なのかもしれない。
私は天使の翼を消して、ラピの方を見た。「あー、羽がーー」と残念そうな声を出すラピ。
「ラピ!」
「は、はい! 雪音様ー! なんでございましょう?」
「ラピ、お願いだから、様付けはやめてくれる? あと、敬語もやめて欲しいな?」
「はい! 雪音様ー!」
ダメだ。この子なんとかしな……うーん、もう手遅れかもしれない。
「ラピ、この村のことなんだけどね」
「はい、雪音様ー!」
スルーだ。スルーしよう。
「とりあえず、今後、白い大蛇ワイトは生け贄を求めずにラピの村を魔物から守ってくれるよ。私達の話を少しは聞いてたよね?」
「はい、雪音様〜♪」ラピはとても にこにこしている。
「私がコイツを殺さなかったから、あなたの村の生け贄になった人達の悲壮な想いは、これからも決して無駄にはならないし、過去に犠牲になった人達のおかげで村は存続していくけど、これで良いんだよね?」
「はい、雪音様〜♪ 死んでいった村の娘達もこれで浮かばれると思いますー」
「そう、それなら良いんだけど」
「我が主よ。シュルルルーー」
「何、ワイト?」
「命乞いをして助けてもらっておいて聞くのもなんなのだが、どうして我を殺さなかったのだ?」
「1つは今、私がラピに向かって言ったことよ。今までの生け贄になった人達の想いと犠牲を無駄にしたくなかったの。それにあなたを殺してしまったら、この子の村は魔物に襲われ大勢殺されてしまうでしょ?」
「2つ目は? フシューー」
「比重はこっちの方が遥かに上ね。ワイトがラピの村を守ってきてくれたから、ラピがこれまで生き残ることができた。これに尽きるわ。私、会ったことも見たこともない人間に義理立てとかしたくないからね。ラピと出会わずこの村に来てワイトと出会ってたら、きっとあなたを殺してたでしょうね」
「雪音様〜♪」
とラピの目がハートになってる。百合展開とかないから! そんな目で私を見ないで!
「ふむ。我が黒山羊達を約定通り殺して来たことが我を救ったのか……。シューー」
「そうね。あなたが口約束だけで黒山羊達を放置してたら話は変わってたでしょうね? 約束は大事よ?」
「その通りだな。我は約定を守る。シュルルルーー。村はこれからも守るので安心しろ」
「ええ、お願いね。破ったら、これだからね♪」
私はウィンクして、指をパチンッと鳴らす。洞窟の開けた所に5本の火柱が燃え上がった。
「主よ……。我は絶対に逆らわないゆえ、そのように我をからかうのはやめて頂きたい……。フシュー、シュルルル」
白い大蛇は疲れたように、ガックリと頭を垂れさせたのだった……




