第5章 パジルーンという村での出来事 005 〜守り神ワイトスネイカ③〜
白い大蛇が命乞いを始めたから、私は切り裂くのをやめ、大蛇の体を燃やす炎を消してあげた。少し聞きたいこともあったし。そして、白い大蛇の頭の前に移動し、天使の翼をはばたかせ空中にとどまる。そんな時、
「雪音ちゃん、かっこいいのですーーーー!! きゃーーーー♪」
と言うラピの黄色い声援が飛んできた。私、ラピに嫌われてない!? やった! 魔族バレしちゃったぽいけど、ラピ的に問題はないらしい! 私は振り返ってラピに手を振ってみる。
「キャーーー♪ 雪音様ぁーーーーーー!」
私は再度、白い大蛇の頭と向き合う。そして思った。雪音様って何!? 様って! どうやらラピのイケナイ扉を開いてしまったらしい。まー、嫌われてないだけマシかと思いながら、白い大蛇に話しかける。
「っで、切り裂くのやめてあげたけど、なんか言いたいことあるのかな?」
私は大鎌を構えて待機中。
「我が貴様を丸のみして消化しようとしたことは悪かった。下の生け贄の娘を我の尻尾で吹っ飛ばしたのも我が悪かった。フシュルルーー。どうか命だけは許して頂きたい。フシューー」
そう言って白い大蛇は頭を垂れ、そして、とぐろを巻いて鎮座した。
「私としては私に攻撃を加えてきた魔物に容赦したくないんだけど」
「雪音様ー、お待ちくださーーい!」
私は静かに地上へ舞い降り、振り返ってラピを見る。
「ねえ、ラピ。この白い大蛇って、あなたの村の守り神様ってことであってるのかな?」
「はい、そのお方は私の村の守り神ワイトスネイカ様ですー。私の村では、ワイトスネイカ様が、村に近づく黒山羊などの魔物を倒して下さるのですー。ただ」
「その引き換えに村人を生け贄として差し出すってこと?」
「その通りですー」
「村人はそれで納得しているの?」
「はい。雪音様もご覧になったでしょう、あの廃村を。大勢の村人が魔物に殺されました。お父さんやお母さん、私のお友達やその家族、大勢の者が命を落としました。年に村人数人の犠牲で、他の多くの村人が救えるなら。そう考えた者の集まりがパジルーンの村の住人なのですー」
「そう。あなたも自分の命を投げ出しても構わないって思ってたのね?」
「はい。黒山羊は私にとって憎くて憎くてたまらない存在ですから。仇を討てるなら、この身を差し出しても構いません」
私は天を仰いで目を閉じた。なんて悲しい村なんだろう。もし、生け贄になった村人以外の人間が私だけだとするなら、ラピの村人達は村の尊い命の犠牲のもとに村を存続させてきたことになる。悲壮な決意を胸に秘めて。ラピを見る限り、彼女は無理やり生け贄にされたような感じがしない。この村の人達は自己犠牲によって他の人間を助けることを良しとしている。
「ねえ、ラピ。私が今ここでコイツ倒しちゃったら、この村はどうなりそう?」
「雪音様がご覧になったあの廃村と同じ結末を迎えると思いますー」
「いちおー聞いておくんだけど、あなたの知る限り生け贄にされてきたのは村人だけなのかな?」
「はい、私の知る限りでは。だから、祭壇の上に安置された雪音様のお姿を見たときは胸が潰れるような思いをしましたー」
「そうだな。そこな娘は我と貴様の間に立ちふさがり、貴様の命を見逃してくれと懇願しておったわ。フシュルーー。貴様は村の人間ではない。村の人間の私こそが供物だとな。矮小な存在で力もないのに、心意気は まっこと大したものであった。シュルシュルルルーー」
「ワイトスネイカ様、もったいないお言葉ありがとうございますー」
「はー、コイツ殺したいけど殺せないじゃん」
そう言って私は白い大蛇と向きあい、
「えっと、ワイトスネイカだっけ? この世界って弱肉強食だよね? 私を丸のみしたあなたをボッコボコにするだけで殺さないであげたよね?」
「そうだな。フシューー」
「あなた、今日から私の下僕ね!」




