第5章 パジルーンという村での出来事 002 〜宴〜
「雪音ちゃん、分かりましたかー? 同性の前であっても、あのような振る舞いはしてはいけないのですよー」
「はーい、先生分かりました〜」
やれやれ、ラピのお行儀講座も終わったよ。クゥーは転がって眠ってる。この裏切りものー。
「それでは宴の場所へと参りましょうかー?」
「ラピは舞のために着替えなくて良いの?」
「着替えは宴の会場の控え室に置いてあるのでー、向こうに着いてから着替えますよー。ですので、ほら、早く行きましょう! 遅くなってしまいますー」
そう言ってラピは私の手を掴んで外へ行こうとした。えー、お行儀講座始めて遅くなったのってラピのせいじゃんとか思いながらも、きっかけを作ってしまったのが自分だったので大人しくラピに連れてかれることにした。
「クゥー行くよ〜」と声をかけると「がぉ♪」と鳴いてクゥーがついてきた。しっぽをふりふり振っている。ご飯が楽しみで仕方がないみたいだ。
宴の会場に着くとキャンプファイヤーみたいに広場の中央が炎で燃えていた。人もいっぱいで、とても賑やかだった。
おぉ〜異世界人がいっぱいいるよ〜。みんな変わった服を着てるね〜おもしろ〜い♪
「クゥー、人がいっぱいだね? クゥーもこんなに人がいる所に来るのは初めてだったりするのかな?」
「くぅーん、くぅーん」とクゥーは私の後ろに隠れるようにしてついてきている。
うん、人が多過ぎて、どうも落ち着かないみたいだね。まー、私もクゥーのこと言えないんだけどね。人がこんなにいる所はちょっと落ち着かない。病院のベッドでいつも1人だったからね。
「雪音ちゃん、クゥーちゃん、こっちですー。この向こうに私の席があるので、雪音ちゃん達は私の席の横に座ってくださいねー」
「へ〜、席まで決まってるんだ。ラピはVIP待遇なんだね〜」
「ゔぃっぷ?」
「あー、特別待遇ってことね。ラピ専用の特別席なんでしょ?」
「まーそうですね、特別と言えば特別扱いですねー今夜だけはー」
「今夜だけ?」
「はいー、私が宴で舞を踊るのは今日だけですからー」
へー、踊り子は交代制なのかな〜と思いながら席へ移動した。席に座るとすぐ私達の前に大量に美味しそうな食事が配膳されていった。
「どうぞ、たくさんお召し上がりになってくださいな。本日の宴のメインの舞を披露するラピを 魔物から救って下さったとお聞きしております。お食事が足りなくなりましたら、側に控えている者にお伝えくださいませ。すぐに代わりのものをご用意いたしますゆえ」
「あっ、はい、これはご丁寧にどうもありがとうございます?」
うん、私もなんかVIP待遇だった。
「雪音ちゃん、雪音ちゃん、このお肉とーっても美味しいのですよー。ほら、食べてみて下さい、あ〜ん」
「えっ、あ、あ〜ん」
めっちゃ恥ずかしいんですけど!
「あっ、でも美味しい!」
「でしょうー?」
ラピはにこにこしてる、とっても楽しそう。これ、なんのお肉だろう? でも、名前聞いても分かんないから聞かなくてもいっか。
「クゥー、このお肉とっても美味しいよ。ほら、食べてごらん」
と言って私の所に配膳された分をあげようとしたら、さっき配膳してくれた人がクゥー用の料理を持ってきてくれた。まさに至れり尽くせりである。
「クゥー良かったね。クゥー用のお料理がやって来たよ〜」とクゥーに声を掛けると「がぅ♪ がぅ♪」と嬉しそうな返事が返ってきた。そして、クゥーはガツガツ、ムシャムシャと料理を食べ始めた。
「クゥーちゃんは食いしん坊さんですねー。そんなに慌てて食べなくても料理は誰にも取られませんしー、なくなったら次の新しい料理がやってきますからー」とクゥーの食いっぷりを見て、ラピは「あはははは」とお腹を抱えて笑ってる。
そうして、私とクゥーとラピは楽しく料理を食べた。しばらくしてラピが、
「それでは、私はこれから舞を踊るための準備をしてきますのでー、ここで料理を楽しんでくださいませー。雪音ちゃん、クゥーちゃん。私、舞を一生懸命踊りますので見逃さないでくださいね」
最後の一言を言った時のラピの表情は何か強い決意を秘めている、そんな気迫を感じさせるものだった。本番の前で気合が入ってるのかな?
「え、うん♪ 舞、楽しみにしてるから頑張ってね?」
「はい!」と笑顔でラピは言って控え室へと向かっていった。
「クゥー、これからラピが舞を踊るんだって! 楽しみだね〜♪」
「がぅ♪」うん、楽しみ〜って感じでクゥーが鳴く。しっぽがゆらゆら揺れている。
しばらくして、太鼓のようなものをドンドン叩くリズムと共に、ラピが炎の側に現れた。
うん、確かにあれは恥ずかしい衣裳だ。地球人からしてみれば単に上下に別れた紫色の水着に、半透明なキラキラしてひらひらした布がくっついてる感じ? それで腰には薄紫色の半透明なパレオが巻かれている。周りを見渡しても、あんなに露出の多い服を着ている村人はいない。普段あーいうの着てる人が周りにいなかったら恥ずかしいよねー、たしかに。私も海とかでなら着れるけど、こんな場所で着るのは恥ずかしくて無理だね、うん。ラピはすごい!
でも、まー似合ってるんじゃないかな? あの格好。ラピ本人は否定するかもしれないけど、なんか妖艶な感じがするよ、うん、特に胸のあたりとか……。はー、他の所に注目してみよう。おデコには金色の額飾りがキラキラ光っててきれいだね〜。あとで見せてもらえないかな? 髪は上の方で結わえたポニーテールか〜。うん、あーゆー髪型も良いね〜。今度やってみよっかな? 手や足には金色のリングがついてて、そこからも半透明なキラキラした布がついている。
ってゆーか、なんで、あのひらひらとかパレオとか半透明なの? ここの守り神様って肌が透けて見えるのが好きなんですか? 神様って変な人しかいないんですか?
そんなこと考えてたら、太鼓を叩く音だけでなく、笛の音もピューピョロとリズムに合わせて流れて来た。ラピがリズムに合わせて舞を踊り出す。
「ほら、クゥー、ラピの踊りが始まったよ!」
「がぅ♪」としっぽふりふりで答えるクゥー。
うん、あんな格好して舞を踊ってるのを見ると、ラピとは思えないくらい妖艶な美人さんに見えちゃうね。舞を踊ってるラピの姿はとってもきれいだ。
「クゥー、ラピとってもきれいだね♪舞を踊ってる姿も妖艶で見とれちゃうよね〜♪」
「がぅ♪」なんかクゥーがうずうずしてる。しっぽをぶんぶん振っている。ラピと一緒に踊りたいのかもしれない。
「クゥー、あれは神聖な儀式っぽいから邪魔しに行っちゃダメだからね?」と優しく注意すると
「くぅーん」とちょっと悲しそうに鳴いた。
「ラピが一生懸命踊ってるんだから私達はここで応援していてあげようね? ほら、ラピが側転してるよ? あっ、そのまま側宙だ〜。なんかすごいね〜。今度はフィギュアスケートみたいに、くるくる回ってるよ〜。汗流しながら踊ってるから妖艶度アップだね〜。別人みたいだよ〜」
「がぅがぅ♪」
「どうじゃ、お客人、ラピの踊りは素晴しかろう? ラピの晴れ舞台じゃ」
そう言って村長さんが手ずから飲み物を運んで来てくれた。
「これは、この宴の時のみ振るわれる飲み物じゃ。ほれっ。」
「あっ、はい、村長さん、どうもありがとうございます。」
「なんのなんの。ほれ、これはお主のじゃ」
そう言って村長さんはクゥーの分の飲み物を平たい器に入れて地面に置いてくれた。最初の印象が悪かったけど、悪い人じゃないのかな〜? 私は受け取った飲み物をごくごく飲む。クゥーはぺろぺろ飲み物を舐めている。
「うん。美味しいですね、これ。宴だけじゃなくて普段も飲めば良いのに」
「なかなか貴重な飲み物でな。気軽に振る舞えないんじゃよ」
「はー、そうだったんですか。じゃあ、めったに飲めないんですね。残念です」
そう言って残りもごくごく飲む私。クゥーもぺろぺろ舐めている。
「あー、申し訳ないことにな。お主が口にできるものはそれで最後なんじゃ」
えっ? この人、何を言って……。ドサッ。クゥーが横になって倒れた。
「えっ!? クゥーどうしたの!? いったい、な、に……」
なんで…眠気が急に……。
「すまんのう。この村のためなのじゃ。お前達には、儂らのために守り神様に捧げる供物となって頂く」
雪音は意識を失ってしまった。




