第5章 パジルーンという村での出来事 001 〜ついに異世界初の人のいる村に到着〜
「雪音ちゃん、クゥーちゃん、ここが私の住む村、パジルーンですー!」
「へぇ〜ここがラピの住んでる村なんだぁ〜!」
ついに、ついに雪音ちゃんは異世界で初めて人がいる村にやってきたのです!
「くぅ〜、感動なのです!」
「がぅ♪」
「雪音ちゃん口調が違うのですー」
「む、昔の癖だよ。気にしないで欲しいかな? あれ、なんか向こうの方が騒がしくない?」
「あー、それは多分ですねー」
「いたぞ! みんなこっちだーーー!!」と若い男が叫んでいる。
なんか、ぞろぞろと人が集まってきたよ!?
「おーー、ラピ! こんな所にいたのか? 一体どこに行っていたと言うんじゃ? みな、お前のことを探しておったのじゃぞ?」
とラピの両肩に手を置いて、じーさんが言ってる。むー、なんか感じ悪いね? 心配しているようで、でもなんか違う気がする。こう鬼気迫るってゆーか?
「村長様、すみません。ちょっとお父さんとお母さんのお墓に挨拶をしに行っていたのですー」
とラピが答える。
「な!? お前の身に何かあったら、大変ではないか!? なぜあのような危険な所へ」
と言ってる村長?さんの言葉を遮って私は、
「ねーねー、この子、きちんと無事に帰ってきたんだから、それで良くないですか?」と口を挟んだ。
「ふむ、誰じゃ、お前は? 旅の者か? それにしては随分と若い嬢ちゃんじゃのう」
「村長様、私が黒山羊に襲われそうになった時、その子と白いわんちゃんが私を助けてくれたんですよー」
「なんじゃと!? この若い嬢ちゃんがラピを助けてくれたとな? お嬢ちゃん、名前は何と言うのじゃ?」
「私? 私の名前は雪音だけど」
「そうか、そうか。雪音とやら、ラピを助けてくれたこと、村民一同、心から感謝するぞ!」
そう言って村長のじーさんは私の両手を手に取り腕をぶんぶんする。笑顔がなーんか胡散くさいんだけど?
「それでは皆の衆、ラピも無事に帰って来てくれたことじゃ! 予定通り今宵、宴を開くのじゃ! さあ準備に取り掛かるぞー!」
「「「おぉおおーーーーー!!」」」
「雪音とやら、お前さんも是非、宴に参加していってくだされ。ラピを救ってくださったお礼じゃ。思う存分、好きなだけ食べて行ってくだされ!」
「雪音ちゃん、村長様もこう言っていますし、参加しましょうよー。私、雪音ちゃん達と宴で楽しく食事がしたいですー」
「ラピがそう言うなら、まー、この世界の食事に興味あるし、参加してあげても良いよ?」
「がぅ、がぅ?」クゥーが、僕の分は?僕の分はー?って感じで鳴いてる。
「クゥーちゃんの分もちゃんと用意してもらいますから安心してくださいね?」
「がぅ♪」クゥーが元気に鳴いた。この食いしん坊め(笑)。
「っで、ラピ、私達はこれからどうすれば良いの?」
「ひとまず私の家に行きますよー。それで雪音ちゃんには着ている物を交換してもらいますー」
はっ? なんで着替え? この世界の宴は正装しないといけない慣習でもあるの?
「雪音ちゃん、変な顔していますけど、その格好で、みんなの前に出るおつもりですか?」
そう言ってラピは私の右脇腹を指差した。
「あっ!」
なんてこった。白いワンピースに拳大の穴が前と後ろに1つずつ空いてるじゃないですか!? 私は恥ずかしくなって顔が熱くなり、思わずしゃがみ込んでしまう。
「がぅー。」クゥーが何をいまさらって感じの声で鳴く。
「雪音ちゃん顔、真っ赤ですー。とっても可愛いですよー」
「くっ、ラピ! こんな人がいっぱいいる所で言わなくても良いじゃん! 私、今すっごく恥ずかしいんだよ?」
「えっ!? 今まで気づいていなかったのですかー。私は気づいているものだとばかり。あらあら、どうしましょー」
「せめて、ラピの家に着いてから教えて欲しかったよ」
「すみません、雪音ちゃん。あっ、私の家はこちらなので、急いで向かうことにしましょー」
「えぇ、お願い。早くこの人混みから抜けないと恥ずかしくてたまらないよ」
「がぅー」クゥーがやれやれ、みたいな声で鳴く。
そして私達は走ってラピの家に向かった。
「雪音ちゃん、この服なんてどうですかー? 私のお下がりなのですがー」
と言って私に服を渡して、ラピは後ろを向く。
私はワンピースを脱いで、ラピに渡された白い民族衣装っぽい上着を着て白いスカートをはく。私のワンピースが白いから白い服を渡してくれたのかな?
「うん、丈はちょうどいいかな? 胸の部分がちょっと緩いけど……」
この子は私と同じ身長の時から、私より胸が大きかったのか……。悔しくなんかないもん。そのうちもっと大きくなるもん。ラピが振り向いて、こちらを見る。
「雪音ちゃん、どうしたのですかー? 他の服にしますー? でも、いま着ている服も似合ってて可愛いですよー。あと、ここにある服なんかで良ければ、好きなだけ自由にもらってくださいねー。助けてくれたお礼ですー」
「えっ良いの? それはとっても嬉しいな〜♪ まともな服があんまりなかったから……」
白いワンピースは拳大の穴が前後に1つずつ。もう着れない。なんかアップリケでもくっつければ良いのかな? あと残ってるのは黒いローブだしネー。ここで服がもらえるのはとっても助かるよ。みんな胸元が緩くなっちゃうんだろうけど。なんか不可視の魔法とか作って見えないようにしとけばいっかな? だってお金ないんだよ、雪音ちゃん。未だに一文無しさんだよ。
「ねえ、ラピ。この村って冒険者ギルドみたいなのはあるの? 倒した魔物の体の一部、まあ角とか何だけど、それをお金と交換できるような所ってないかな?」
「残念ながら、この村に冒険者ギルドはないのですー。それほど大きい村ではありませんので。この村は基本的に自給自足や物々交換で賄っておりますから、倒した魔物の体の一部とお金を交換するなら大きな町にある冒険者ギルドで交換なさったほうが良いですよー。その方が村で物々交換するよりもお得ですー」
「そっか〜、それは残念。(この世界の)お金、欲しかったんだけど、ないならしょーがないよね。ところで、冒険者ギルドがないなら、魔物が来たときとか、どうしてるの? 村の周りって特に柵とか壁とかなかったような気がするんだけど?」
「あー、それはですねー、この村にはなんと! 守り神様がいるのですよー。ワイトスネイカ様って言うのですが、村の守り神様がベーゼゴウトとか他の魔物を追っ払ってくれるのですー」
「へー、そんな神様がいるんだね〜。私の知ってる神様って、人間と魔物が命を懸けてギリギリの戦いをするのを見るのが好きな神様しかいなかったから、そんな立派な神様がいるなんて びっくりだよ」
「ぷっ、何ですか、それ? 雪音ちゃん、それって神様って言うより、魔王とか邪神なのではありませんかー?」
「だよネー。私もそんな気がしてきたよ。ハァー」
ってゆーか、いるんだ、魔王とか邪神がっ! あの神様、邪神じゃないよネ?
「それでですねー、雪音ちゃん。今日の夜の宴は、食べ物と舞を捧げて村の守り神様に感謝するためのものなのですー。それで舞を踊るのが私なのですねー。えっへん!」
「あー、だから村長をはじめとして村の人達がラピを探してたってことになるんだ。舞を踊るのってラピだけなの?」
「はい、宴で舞を踊るのは私だけになりますー。実は緊張しまくりなのですよー。それで、ちょっとお墓に行ってお父さんとお母さんに勇気を貰いに行っていたという訳なのですー」
「そうだったんだ……。でも、さすがに1人で行くのは危険だと思うから、次にお墓行くときは私を誘ってね?私がこの村に滞在してるときなら護衛してあげるから!」
「がぅ!」
「ほら、クゥーも護衛してくれるって!」
「雪音ちゃん、クゥーちゃん、ありがとうございますー」
「あー、ところで、ラピ。この村って女の人は、そのー、下着ってつけないの? ここにある布地ってみんな上に着るものだよね?」
「下着?」
「こーゆーのなんだけど」と言って私はスカートをたくし上げてパンツを見せようとする。ラピは私がスカートの裾を持ち上げようとした時、「えっ、雪音ちゃん、何をっ!?」みたいな感じで、すっごく慌ててた。ラピは両手で顔を覆って見ないようなポーズをとってたけど、指の隙間からラピのお目々がバッチリ見えてるよ?
「ラピ、なんか勘違いしてるみたいだけど、スカートの下にも布地の着るもの、私、ちゃんとはいてるよね?」
って言ったらラピの顔が赤くなった。
「もー! もー! 雪音ちゃん、意地悪ですーー! 私、今すっごくドキドキしちゃったのですよーーー!」
「えーー、そんなこと言われても私はただこうゆー布っ切れはないのかな〜と思って聞いただけなんだけど」
とパンツを見ながら言ってみる。
「そういう布は普通は、はきません! 私が後で舞を舞うときには、そういった布をはかないと恥ずかしくて死んじゃう衣裳なので、舞う者は舞うときだけはきますけど、普通ははかないのですーーー!!」
と私の純情を返せーーー! みたいな感じでラピが怒っていた。
「今、スカート持ち上げてる私の方が恥ずかしいのに……」
そう言って私は持ってたスカートの裾から手を離した。
「もー、雪音ちゃんはもっとレディーとしてハレンチな振る舞いはですねー」
と、しばらくラピのお行儀講座が続いてしまった。私はただ新しい下着が欲しかっただけなのに……。くすん。泣いちゃうぞー。
「がぉー」とクゥーが、あくびしてる。援護がないぞ、相棒よ。雪音ちゃんは悲しかった。
にしても、この世界では、普通ははかないのかーー。してる時に魔物に襲われたら、はくのに時間がかかって逃げられなくなるから、とかそんな理由なのかな〜? この村だけなのか、他の村や町でもそうなのか、とっても気になっちゃうね。どっかで売ってないのかな〜? 売ってるよね?




