第10章 雪音ちゃんと村娘達 155 〜 雪音ちゃん、お店の下見に幽霊物件に行く!⑨〜
◇◆◇
「ぐはっ!? く、くそ、こんなはずじゃあ」
私は、ザルガーニによって吹っ飛ばされて地面に倒れ伏し、その背中をザルガーニのライオン足に踏み付けられて苦痛と悔恨に顔を歪めているピッグマンにプラーミャの背中の上から声を掛ける。
「A級冒険者って言うから、もっと強いのかと思ったけど大したことないんだね?」
「こちとら、眠ってるお前らが俺らの放った火で家が燃えてることに気付いて慌てて家の外に出て来たところを確保する予定だったから、キマイラなんかと戦うような準備なんざして来てねえんだよ!」
両腕をザルガーニに喰いちぎられてるのに結構元気だよね? 死なれたら困るから私は止血魔法を使いながら言葉を続けた。
「まっ、準備してても私達には勝てなかったと思うけどね?」
「はいなのですー♪ 影ナイフ使いさんも大したことありませんでしたからねー♪」
「がぅがぅ♪」てしたもやっつけてきたよー♪
「キュッキュウ♪ やっつけて来たのー♪」
ラピとクゥーとスカーレットちゃんがやって来た!
「あっ、スカーレットちゃん、ソレ、そこにポイっと置いてくれますかー?」
「キュウ♪ えいやー♪」
ラピのお願いを聞いて人型モードのスカーレットちゃんが片手で掴んでいたシルクハット&片眼鏡男スネイルをピッグマンの顔の前の地面に放り投げた!
ドサッ!
「ス、スネイル!?」
自分の右腕を務める男スネイルが目の前でボロくずのように横たわっている姿を見て驚くピッグマン!
「こっちも終わったぜ! どっこいせーっと!」
ドサッ!
アンラキが復讐相手のトレバーを無事に倒し、トレバーの両足を持って地面の上をズルズルと引きずりながら運んで来て、最後にシルクハット&片眼鏡男スネイルの体の上に積み上げた!
「トレバー!? お前まで!?」
ピッグマンはスネイルに続いて今度は自分の左腕を務める男トレバーまでもが気絶し白目を剥いている姿を見て驚愕した!
「コイツがピッグマンか? 見るのは実は初めてだったりするんだが、いやぁ〜、そのボコボコにされた面が見れて良かったぜ!」
アンラキは身動きの出来ないピッグマンの頬をペチペチと叩きながら笑っている!
「キュルルー!」ガブガブガブガブ!
「ぎゃあああああああ!?」
アンラキの横で飛んでいたアルマジロドラゴンのアルがザルガーニによって背中を踏みつけられ地面に押し付けられているピッグマンの頭を噛み噛みし始めた!
「アンラキさん、復讐はしっかり出来た?」
「ああ! 雪音の嬢ちゃんの魔力で作ってもらったこの体でピッグマン商会の野郎どもを痛めつけてやったぜ! つっても、俺を殺した張本人のコイツへの仕返しはやりたりないけどな?」
「そしたら、その男を岩絵具の採石奴隷達のまとめ役にして採石奴隷達に与えた採石のノルマが達成出来なかったら、その男を鞭打ちの刑にするとかして痛めつければ良いんじゃないですかー?」
「ラピの姐さん、発想が怖えよ……」
「アンラキさんはコイツらどうしたい? 殺された恨みを晴らすのに殺し返しちゃう? 自分の手で殺るのもオッケーだし、自分の手を汚すのが嫌なら、この極悪級のダンジョンに放置して魔物に殺させちゃうのもありだろうし、あっさり殺すのが嫌だったら私の岩絵具の材料集めのための採石作業を私が死ぬまでやらせようかと思うんだけど?」
「だ、誰か、このドラゴンを俺から引き離、ぐぁああああああああ!?」
「ここのダンジョンに放置してコイツらが殺られるところを見てるってえのも悪くないな?」
「アンラキさん、幽霊ですからねー♪ 魔物に襲われることなく見物できそうですよねー♪」
「だろ? ただ、それだとすぐに死んで楽になっちまうからなぁ〜? そう考えると死ぬまで採石作業をさせるってえのが、コイツらへの1番の嫌がらせになるのか?」
「多分ね? じゃ、それで良いかな?」
「ああ、それで構わないぜ!」
「こ、この俺様に採石作業をやれだとー!? ふ、ふざけんじゃ、んぎゃあああああ!?」
「キュルルルルウ!!!」
採石奴隷にさせられると聞いて文句を言おうとしたピッグマンはアルマジロドラゴンのアルに再び頭を噛み噛みされて絶叫している!
「じゃ、刑も決まったことだし、コイツら凍らせてしまっちゃうね♪ ラスィヴィア〜! 青の雷落とすから血を吸うのはまた今度にしてくれる〜?」
「そんな!? 私まだ全員の味見が終わっておりませんのに!? 雪音様、あとちょっと! あとほんのちょっとで良いですから味見の時間を」
「ラスィヴィアさ〜ん? 雪音ちゃんはそろそろおねむの時間ですから我儘言っちゃダメなのですよー?」
「うぅ、分かったのですわぁ〜ん」シクシク。
「ラスィヴィアごめんね〜? 明日また吸わせてあげるから今日は我慢してね? えぃ♪」
私は右手を頭上にかざして青の雷をピッグマンの手下達に落とし、ピッグマンを除く全員を氷漬けにしてあげた!
「うおっ!? すっげー!」
「キュルルッ!? キュルキュル!」
「なっ!? スネイルとトレバーが一瞬で氷漬けに!?」
私の雷氷魔法にびっくりしてるアンラキさんとアルとピッグマン!
「ザルガーニ、もうピッグマン押さえつけなくても良いから離れてくれる?」
「うむ、我輩了解したのである」
私の言葉を受けてザルガーニがピッグマンの背中から足をどけると、両腕のないピッグマンは「ぐぁああああ」と苦痛の声を上げながら横にゴロンと転がって仰向けになり、腹筋の力で上体を起こしてまだ健在な2本足を使って即座に立ち上がるや否や逃走を開始した!
「誰が逃すかよ!? 穿て闇の極光! ダークレイ!」
アンラキさんが逃げていくピッグマンの後頭部と背中目掛けて両手から紫色の光線を放った!
「ぎゃあ!?」
アンラキさんから闇魔法の攻撃を受けたピッグマンは悲鳴をあげながら地面に前のめりになって倒れた!
「キュルルルルウ!!!」
そこへ追い討ちを掛けるようにアルマジロドラゴンのアルが丸まってトゲトゲボールとなって回転しながらピッグマンの背中目掛けて落ちていく!
クルクルクルクル〜! ドスン、グサグサグサ!!!
「ぎゃあああああああああ!?」
アルのトゲトゲボール回転落下攻撃を喰らって背中を削られまくったピッグマンは絶叫をあげて気絶した!
「アル! よくやった! 流石、俺の相棒だぜ!」
「キュルルルゥ〜♪」
アンラキさんがグッジョブと親指を立てて褒めたのでアルは嬉しそうに鳴いている!
「仮に私達から逃げられても、強〜い魔物さんが大量にいるこのダンジョンから脱出することなんて出来ないのに、お馬鹿さんですよねー♪」
「だよね? えぃっと♪」
ラピに相づちを入れつつ私は気絶したピッグマンに青の雷を落として氷漬けにした!
「じゃ、後は氷漬けにしたピッグマン商会の奴らを天上界の倉庫にしまって帰って寝よっか?」
「はいなのですー♪」
「がぅがぅ♪」
「キュ♪ お風呂入って寝るのー♪」
「そうだね、スカーレットちゃん♪ 汚れちゃったから寝る前にお風呂入らないとね♪」
「雪音ちゃんは私が洗ってあげるのですよー♪」
「で、では私はラピ様の体を洗って差し上げますわぁ〜ん♪」
「それは良いんですけど、また興奮し過ぎて鼻血を出さないでくださいねー、ラスィヴィアさん?」
「ぜ、善処致しますわぁ〜ん」
「スカーレットちゃんは私が洗ってあげるからね♪」
「キュウ♪ じゃー、スカーエットはクゥーちゃんを洗ってあげるのー♪」
「がぅがぅ♪」ありがとー♪
「スカーレット? ママも洗ってくれると嬉しいな?」
いつの間にかドラゴンから人化して近付いて来てたプラーミャが娘のスカーレットちゃんに自分も洗ってとお願いし始めた!
「ママの体おっきくて洗うの大変だからやー!」
「がーん!?」
スカーレットちゃんに拒否されてしまったプラーミャはショックで泣いている!
「アルは久々に俺が洗ってやるからな!」
「キュルル〜♪」
「おい、人間! 我輩の体も洗うのである! この時間だと、いつも我輩の体を洗ってくれている猫大好き娘は寝ている時間であるからな!」
ザルガーニが自分も洗えとアンラキさんに命令した!
「マ、マジで? あんたの大きさだと、そもそも俺の家には入れないと思うんだが……」
「キュルキュル」アンラキさんの言葉に頷くアル。
「あっ、その心配は要らないよ。今、猫の姿に戻すから!」
憐れ、ザルガーニは雪音ちゃんによって双頭のキマイラの姿から再び青いお目目のキジトラ柄の猫ちゃんの姿へと変えられてしまった!
「に、人間よ、この姿であれば問題ないであろう?」
「あんた、泣いてるのか?」
「我輩が好きでこんな軟弱な猫の姿になってると貴様は思うのであるか?」シクシク。
「あ、ああ、すまねえ。キマイラの姿は雄々しくてカッコ良いもんな?」
「キュルキュル」
「おぉ〜! 分かってくれるか! そうであろう、そうであろう! キマイラである時の我輩の姿は自分でも惚れ惚れするほどの雄姿であるからな! 気に入ったぞ、人間! お前を我輩の家来にしてやろう!」
猫ちゃんザルガーニはアンラキさんの足を肉球でペチペチと叩いて喜んでいる!
「えっ、いや、家来はちょっと……」
「キュルキュル」
「ちょっとザルガーニ? アンラキさんを勝手にあなたの家来にしないでくれる?」
「雪音様の下僕を自分の家来にしようとするなんて、ザルガーニはどうしようもないほど馬鹿で阿呆で脳筋で愚かな猫なのですわぁ〜ん」
「ラスィヴィアさーん? 猫ちゃんと仲良くしましょうねって私との約束忘れちゃったんですかー? 私の体、洗わせてあげませんよー?」
「はっ!? 下僕!? 俺、雪音の嬢ちゃんの下僕になってんのかよ!?」
「キュルルー!?」
「ち、違うからアンラキさんもアルも落ち着いて!? ちょっとラスィヴィア!? 変なこと言わないでよね!?」
「そんな!? さっき洗わせてくれると仰ったのにラピ様それはあんまりなのですわぁ〜ん!? もうザルガーニのことを馬鹿で阿呆で脳筋の愚かな猫とか言いませんから、お許しくださいまし〜!?」
「おい、ラスィヴィア!? 貴様、また我輩のことを馬鹿にしているではないか!?」
「はいはい、猫ちゃんもラスィヴィアさんも落ち着いてくださいねー? とりあえずラスィヴィアさんは猫ちゃんにごめんなさいしましょうねー? ごめんなさいしたら私の体を隅々まで洗うことを許可してあげるのですよー♪」
「ラ、ラピ様のお体を隅々まで!? ゴクリ。あー、でも、そのためにはこのクソ馬鹿脳筋猫にごめんなさいをしなければいけないなんて、どうしてラピ様はそのような無理難題を仰るのかしらぁ〜ん!?」
「おい!? 誰がクソ馬鹿脳筋猫だ!? ラスィヴィア、貴様反省などまったくしておらんではないか!?」
そんなこんなでギャーギャー騒いだ後、私達は氷漬けになったピッグマン商会の奴らを天上界の倉庫にしまってから私の奴隷商人の館に転移し、先に女性陣で大浴場に行って体の洗いっこをしてからみんなで仲良くお風呂に入った。その後にアンラキさん達がお風呂に入り、アンラキさん達のお風呂が終わったら、みんなでアンラキさんのおうちへと転移した。
っで、留守番していたロウバストのおっちゃん達にピッグマン商会の残党がやって来たか聞いてみたところ、誰も現れなかったとのことだった。私がダンジョンに強制転移させた、アンラキさんのおうちを取り囲んでた奴らがピッグマン商会の全残存戦力だったのかな? じゃ、みんなお疲れ〜ってことで私達はベッドに入って寝ることにした! もちろん、寝る前にアンラキさんのおうちに防御魔法を掛けてからだよ?
翌日、私は氷漬けにして天上界の倉庫に回収したピッグマン商会の連中を取り出して解凍して魅了で洗脳し、過去にピッグマン商会の連中にお店を強引な手段で奪われて追い出されちゃった人達や、アンラキさんのように殺されちゃった人がいたなら、その身内の人達を探し出して来るように命令した。それでそういった人達が見つかったら私はお店を返してあげ、お店をやり直すための資金援助をピッグマン商会の貯め込んだお金の中から出してあげた。中には『また脅されたりするのはもうこりごりだから、せっかくだけど』と言ってお店の返却を拒む人達もいたので、そう言った人達にはそれ相応の額と迷惑料を渡してあげた。もちろん、ピッグマン商会の貯め込んだお金の中からね!
っで、返却を拒まれたお店があるなら、アンラキさんのおうちはアンラキさんに返してあげて私達がそのお店を使えば良いんじゃない?って話になって、私達は返却を拒まれたお店でスライムのピーちゃんが活躍するエステサロンの開店の準備を頑張った!
◇◆◇
そして、数週間後……。
「いらっしゃいませ〜♪ スライムエステサロンへようこそだよぉ〜♪ キアラ、3番のお部屋へご案内お願いね♪」
「(んぅ〜、今日のメリッサちんのメイド服姿も最高だなぁ♡)」
「ちょっとキアラ、聞いてるのぉ?」
巨乳エルフのメリッサが腰に両手の甲を当て、頬を膨らませる!
「えっ!? う、うん! 聞いてる聞いてるよ! それじゃあ、お客様、ご案内しますから私のあとについて来てください!」
「ええ。あっ、そうそう、今日は顔の美白だけでなくて例のマッサージの方もお願いしたいのだけど、大丈夫かしら?」
「うぇえ!? そ、それは担当の者に聞いてみないと」あわあわ。
「キアラさん、お客様の前でそんな風に慌てないでください。ご安心ください、お客様。本日はたまたま次のご予約の方が高熱を出してしまわれたとのことでベッドに余裕が出来ましたからマッサージの方も可能でございます」
接客に慌てる褐色肌娘キアラに同僚のシャーロットが助け舟を出した!
「まあ、それは良かったわ! あら、シャーロットさん、胸が先日お会いした時よりも大きくなって……。やっぱり、それは、その、前にお伺いしたスライムマッサージの効果なのかしら?」
「は、はい(//∇//) 絶壁だった私が当店のスライムマッサージによって、ここまで大きくなりました(//∇//)」
「じ、実は客を騙すためにメイド服の胸の部分に詰め物を入れたりしている、なんてことはないのよね?」
お客様が顔をずいとシャーロットに近付け真剣な表情で聞いてくる!
「ご、ご自分で触って確かめてみますか?」
シャーロットが顔を赤くして恥ずかしがりながらお客様に聞いてみると、
「では、失礼して……」
お客様はシャーロットの背後に回ってメイド服の胸元に手を滑り込ませ、シャーロットの胸の膨らみが詰め物かそうでないか確認し始めた!
揉み揉み、揉み揉み。
「はぅ。ど、どうですか? 詰め物でないと、わ、分かっていただけましたでしょうか?」
「ほ、本物ですわ!? 前はほぼ真っ平らでしたのに!?」
揉み揉み、揉み揉み。
「あ、あの、本物だと分かって頂けたなら揉むのはそろそろやめて欲しいです……」
「あ、あら、ごめんあそばせ? おほほほほほ。スライムの豊胸マッサージは数週間に1回とかでは効果は期待できませんわよね?」
「そうですね、数週間に1回では厳しいかと。毎日来て頂ければ効果をお約束することが出来ますが……」
「目の前に実例がいるのですから疑いようはありませんものね……。でも、毎日だとお高くなってしまうのでしょう?」
「はい、通常ですとそれなりに。ですが、ここでお客様に朗報がございます。当スライムエステサロンは開店してまだ実績が少ないので現在宣伝のためのモニターを募集しておりまして、もし、お客様がモニターになって、そちらの壁に貼ってある私や他の店員達のビフォーアフター写真のようにお客様のビフォーアフター写真を貼っても良いと許可を頂けるのでしたら格安でスライムの豊胸マッサージを受けることが出来るのですが、どうなさいますか? お値段はこんな感じになるのですが?」
「まあ!? こんなに格安で受けることが出来ますの!? で、でも、写真とか言うこの緻密な絵を画家に書かせるために私の時間を割かなければいけないのでしょう? それにここまで緻密な絵ですと私が私だとバレてしまって恥ずかしいですし……」
「その心配は無用でございます、お客様。写真は当店の店長が所有する古代の遺物の魔法で一瞬で作成出来ますから、お客様にお時間は取らせませんし、店員である私達は素顔のままですが、お客様にはこういった仮面舞踏会でつけるようなアイマスクをお渡ししますので」
「うわぁ〜! シャーロットすっごぉ〜い! 仕事出来るお姉さんって感じだよね! 背ぇちっちゃいのに!」
シャーロットがお客様に説明している様子を見て巨乳エルフのメリッサがはしゃいでる!
「(なぁー!? メリッサちんがシャーロットちんにキラキラした目を向けてるよ!?) わ、私だって頑張れば、あれぐらいすぐ出来るようになるし!」
「キアラはとりあえずカンペ用意しておいた方が良いんじゃないかなぁ〜?」
メリッサは人差し指を唇に当てながら首を傾げている!
「がーん!? 私、メリッサちんに物覚えが悪いダメな子扱いされてるじゃん!?」
カランカラン♪
「あっ、ほら、キアラ! お客様が来たよ! 次は失敗しないように頑張ってね♪」にこっ♪
「うん、私頑張るよ! いらっしゃいませ、お客様!」にこっ♪
◇◆◇
ガチャ。
「ありがとうございました!」
「それじゃあ、また2週間後お願いね?」
「はい、かしこまりました! またのお越しお待ちしておりまーす! ピーちゃん、お疲れ様〜。7号と交代して休憩しててね♪」
「ぴぃ♪」
雪音ちゃんは手に持ってる自分の血で作った大きな飴玉をスライムのピーちゃんに渡して休憩を言い渡すと、スライムのピーちゃんは嬉しそうに赤い飴玉を体内に取り込んでから廊下をぴょんぴょんと跳ねて休憩室に向かった。
◇◆◇
雪音ちゃんが1番の部屋の扉を開けて廊下に出て来る少し前、2番の部屋ではラピが会計を終えたお客様と会話をしていた。
「鼻の毛穴の黒ずみがこんなに綺麗に取れるなんて思わなかったわ! スライムエステってすごいのね!」
「ありがとうございますー♪ 次回のご予約はどうなさいますかー? 今日と同じ内容でしたら1ヶ月後ぐらいがおススメなんですけどー?」
「今日はお試しのつもりで来たから鼻だけにしてもらったけど、こんなに汚れが落ちるなんて思ってもみなかったのよねー。次は顔全体を綺麗にしてもらいたいんだけど、1番早い予約だと、いつ予約が出来るのかしら?」
「早くて3日後の午後からになりますねー」
「3日後なの!? 結構人気なのね?」
「はい、おかげさまで予約が順調に増えていますから、この調子で行くと、そのうち1週間待ち、2週間待ちといった可能性も」
「そんなに待たないといけないの!? じゃあ3日後の今日と同じ時間でお願い出来る!?」
「かしこまりましたー♪ それでは3日後の今日と同じ時間でお待ちしておりますねー♪」
「あっ、やっぱり待って!? もう1つ後ろの時間は空いているかしら!?」
「あー、残念ですけど1つ後ろは埋まっちゃっていますねー。さらに後ろの時間なら空いているんですけどー?」
「なら、2つ後ろのそれで良いわ!」
「かしこまりましたー♪ 2つ後ろですねー♪ それでは3日後の夕方5時からお待ちしていますねー♪」
「ええ、よろしくね!」
ガチャ。
「ありがとうございましたー♪」
ラピが部屋の扉を開けてお客様を見送った後、雪音ちゃんが声を掛けて来た。
「ラピの方も終わったんだね? あっ、ピーちゃん2号、お疲れ様〜♪ はい、飴玉どうぞ♪」
「ぴぃ♪」
「はい、今ちょうど終わったのですよー♪ 次の予約の時間までちょっと時間がありますから紅茶でも入れましょうかー?」
「うん、お願い♪」
コポコポコポ。
「雪音ちゃん、はいなのですー♪ 熱いですから気をつけて飲んでくださいねー?」
「うん、ありがと♪ ごくごく。いやぁ〜、こんなに人気になるなんて思わなかったよね!」
「私は予想通りでしたけど、雪音ちゃんが嬉しそうで何よりなのですよー♪」
「うぅ〜、ラピ様ぁ〜。私はラピ様と会話出来る時間が少なくなってしまって悲しくて悲しくて仕方ありませんわぁ〜ん!」
雪音ちゃんの魔法で透明化してラピにずっと後ろから抱きついていたラスィヴィアがまたもや泣きながら文句を言い始めた!
「もう、ラスィヴィアぁ? 会話出来ない分、透明化してラピに抱きついてても怒られない許可をラピから貰ったんだから、それで良いじゃん? あんまり何度もグズグズ言ってると透明化して抱きつくの禁止にされちゃうよ?」
「そうですよー、ラスィヴィアさん? これ以上、我儘を言うようなら、お店を出禁にしちゃいますからねー?」
「そんなのイヤですわぁああああああ!?」
「じゃー、泣くのもグズグズ言うのも我慢してくださいねー? 我慢出来たら、その日のご褒美にお尻をグリグリしてあげるのですよー♪」
「本当ですの!? ラピ様からお尻をグリグリえぐりこむように踏んづけてもらえるのでしたら、私なんとか耐えてみせますわぁ〜ん!」
「もうラスィヴィア!? ここお店の中なんだから大きな声で変態的発言するのやめてよね!?」
◇◆◇
アヴァリードの町の市場でのロウバストとニア達の会話。
「あっ! ロウバスト様、ロウバスト様ぁ! あそこに大きな蟹が売っています! すっごく大きいですね!」
「お、おい、ニア? 恥ずかしいから俺の腕を両腕でギュッと抱きしめながら歩くのはやめないか?」
「イヤです♪ こんな人混みの多い所ではぐれたら迷子になってしまいます♪」
「ミアは時々雪音お姉ちゃん達と一緒に来たことあるけどぉ〜、ニアお姉ちゃんがアヴァリードの町に来るのって初めてだもんねぇ〜」
「だからって、ここまで密着しないでも良いだろう? クゥーだって念のためについて来てるんだぞ?」
「がぅがぅ♪」ボクがいるから、まいごのしんぱいはしなくてだいじょうぶー♪
「キュー! スカーエットもいるよー! どうしてロウバストはスカーエットを頼ってくえないのー!」
「スカーレットが最近構ってくれなくてママは寂しいわ」およよ。
「じゃあ、ミアが代わりに構ってあげるのぉ! スカーレットちゃんのお母さん! ミア、あれ食べたいのぉ〜!」
「まあ、ミアちゃんは優しいわね! あれが欲しいのね! いいわ! 買って来てあげる!」
「こらミア!? プラーミャさんに食べ物ねだっちゃダメでしょ!?」
「キュウ!? ミアちゃんだけズルーい!? ママ、私にも買ってー!」
「スカーレットが私を頼ってくれたわ!? ミアちゃん、ぐっじょぶよ! もちろん、スカーレットにも買って来てあげるわ! スカーレットは何が欲しいの!? さあ、ママになんでも言ってちょうだい!」
「おいおい、色っぽくてケツがデカくて太ももムッチリのあの女も、あのガタイの良いオッサンの連れなのかよ!? オッサンの腕に巨乳押し付けて抱きついてるあの姉ちゃんが若妻じゃなかったのか!?」
「あの抱きついてるのは長女なんじゃね? ほら、周りにちっこい娘っ子も2人いるし?」
「マジかよ!? 色っぽい奥さんだけじゃなくて、あんな若くて美人で巨乳の娘がいて、さらにちっちゃくて可愛い娘が2人もいるのかよ!? なんて羨ましいんだ!?」
「ロウバスト様ぁ? 今の会話聞こえました? 私、ロウバスト様の娘さんに見えるみたいですよ? くすくす♪」
「この面子で歩いていりゃあ、そう思われても仕方ねえだろう?」
「あっ、ロウバスト様の頭に1本だけ白髪が!? 私が抜いてあげますから屈んでくださいな♪」
「いや、別に白髪があったって抜かなくても良いだろう?」
「か・が・ん・で・くださいな♪」
「ちっ、仕方ねえなぁ? これで良いの、んーっ!? んー!?」
ニアが屈んだロウバストの後頭部をすかさず掴んで自分に引き寄せ、ロウバストに熱烈なキスをした!
「あー!? ニアお姉ちゃんがロウバストのおじちゃんにチューしてるのぉ〜!? 私がティム君にチューしようとしたら『人前でチューしてはいけません!』とか言って怒るのにぃ〜!」
「っぷはぁ〜♪ これでもう娘さんには見られなくなりましたよね♪」
「おま、おまえなぁ〜!?」
「うわマジかよ!? あの若い巨乳ちゃん、オッサンにキスしやがったぞ!? 長女じゃなかったのかよ!?」
「しかも、絶対今のディープな奴だ!?」
「ゆ、ゆるせねえ!! あんな歳取ったオッサンのどこが良いんだ!?」
◇◆◇
「フシャ〜〜〜!? どうして我輩の尻尾がライオンの尻尾なのであるか〜!? アンラキ! そこは大蛇なのであ〜る!」
猫ちゃん姿のザルガーニが錬金術でキマイラのフィギュアを作成しているアンラキに尻尾を立て全身の毛を逆立てながら怒っている!
「いや、そんなこと言われてもザルガーニの旦那のキマイラの姿なんて、俺、正面からしか見たことないんだからしょうがねえだろう? じゃあ、こんな感じで良いか?」
「ちっがーう! そうではないのであ〜る! 牙はもっと長く」
「こ、こうか?」
「ちがーう!? それは長過ぎでカッコ悪いではないか!? どうして分からんのであるか!?」
「そんなに文句言うなら元の姿に戻って俺に見せてくれよ!? 実物見りゃあ俺だってちゃんとしたもの作ってやるよ!?」
「うぐっ!? 我輩だって戻れるものなら元の姿に戻りたいわ! だが、それが出来んのであるから仕方ないであろう!?」
「キュルル〜」
アルマジロドラゴンのアルは飼い主のアンラキと猫ちゃんザルガーニの何度となく繰り返されるキマイラのフィギュアの造形に関するやり取りに呆れていた。
「アル、ごめんな〜? 一緒に森へ遊びに行く約束をしてたのによ〜? これを渡したらすぐ行けるはずだったんだが、ザルガーニの旦那が後日じゃイヤだとか抜かしやがるから」
「我輩のせいにするでない! 貴様が尻尾を大蛇にしていなかったのがいけないのではないか!?」
「だからそれはさっきも言っただろう!? 文句言うなら今すぐ元の姿に戻れってんだ!!」
「貴様こそ、何を聞いていたのだ!? 我輩は元の姿に戻ることが出来んのだ!!」
「キュー」
アルマジロドラゴンのアルはため息をついた後、早くご主人様と森に遊びに行きたいな〜と空中をぷかぷか浮かびながら思ったのであった。
◇◆◇
ゴンゴン! ゴンゴン!
雪音ちゃんの奴隷商人の館の地下にある室内庭園&運動場の地面の下から雪音ちゃんが掛けた魔法障壁を壊そうとミミズの魔物が攻撃を仕掛けて来た音が室内庭園&運動場の番人である虎の獣人ベラの耳に聞こえて来た!
「ニャ! 今日も来たのニャ! 今日こそ、お前達に負けないのニャ!」
そう言って虎の獣人ベラは雪音ちゃんの下僕であるニードルラットとその妹分である2匹のソードラットに向かって人差し指をビシーっと叩き付けた!
「「「チュッチュ〜♪」」」
3匹のネズミの魔物達は虎の獣人ベラの宣言を鼻で笑って『今日も負けないよ〜♪』と勝ち誇っている!
「ムカッ!?」
虎の獣人ベラの額に怒りマークが浮かび上がった時、地面の下からミミズの魔物が魔法障壁を突き破って侵入して来た!
「まずは1匹目なのニャ!!!」
虎の獣人ベラが地面から飛び出したミミズの魔物を両手の爪で八つ裂きにした!
ボコボコ! ボコボコ!
新たに2匹のミミズの魔物が地面から飛び出した!
「チュッチュー!」
ニードルラットが背中の針を沢山飛ばして2匹のミミズの魔物に攻撃を加えた!
「「ピギャー!? ピギャー!?」」
「「チュッチュー!」」
痛みにのたうち回る2匹のミミズの魔物に向かってニードルラットの妹分の2匹のソードラット達が接近し、頬の左右から3本ずつ後方に向かって生えた6本の剣のような斬れ味を持った長く少し厚みのある幅広の毛でミミズの魔物の体をコマ切れにした!
「「「チュッチュ〜♪」」」
「ま、まだ勝負は始まったばかりなのニャ!? 今日こそは負けないのニャー!」
3対1の時点で虎の獣人ベラの勝ち目は薄いはずなのにベラが勝ちにこだわるのには理由があった! 3匹のネズミの魔物達はいつも虎の獣人ベラに1匹差で勝つようにしていたため、ベラは頑張れば次は勝てると思っていたのである!
そして30分後……。
「うにゃー!? ミミズの魔物が出て来なくなっちゃったニャー!? あう、あう、今日もまた負けちゃったのニャー」ガクッ。
「「「チュッチュ〜♪」」」
3匹のネズミの魔物達は虎の獣人ベラの周りで勝利のダンスを踊り始めた!
「今日こそはお前達に勝ってユキネに褒めてもらおうと思ったのに、どうしていつも1匹差で負けるのニャ……」しょんぼり。
「ベラちゃん、ラットちゃん達、今日もミミズの魔物掃除お疲れ様〜♪」
「ベラちゃん、はい、アイスだよぉ〜♪ これ食べて元気出して?」
「にゃ! アイスなのにゃ〜♪ パクパクうまうま、パクパクうまうま、ニャー!? 頭がキーンって来たニャー!?」
「くすくす♪ ベラちゃん、そんながっついて一度にアイスを大量に食べるからだよ?」
「ほんとベラちゃんて学習しないよねー? そこが可愛いんだけど♪」
「ラットさん達に負けてしょんぼりしてる所も可愛いし、そこにアイス差し入れてあげるとすぐ目をキラキラさせて笑顔になる所とか最高だよね〜♪」
「はい、ラットちゃん達、ご苦労様♪ 今日のおやつだよ♪ 今日も良いもの見せてくれてありがとうね♪ 報酬のチーズだよ〜♪」
「「「チュッチュ〜♪♪♪」」」
ネズミの魔物達がベラに次は自分達に勝てるんじゃないかと期待を持たせるような勝ち方をしていたのは雪音ちゃんが奴隷商人の館で保護しているお姉さん達の差し金によるものだったのであった!
◇◆◇
ザシュザシュ! ザシュザシュ!
「レ、レベッカさん!? ただの毒消し草の採取と言っていたではありませんか!? どど、どうしてこんなに魔物がたくさんいるのですかー!?」
雪音ちゃんに護衛を頼まれ、喋る魔剣ディーアを片手に聖女ソフィーは黒髪巨乳少女のレベッカとそのペットである玉虫色のグレイトボンバディアビートルのキノンと一緒にアヴァリードの町から歩いて1時間30分ほど離れたライクヴァル渓谷に生えている毒消しのケスケス草の採取に来ていたのであるが、今日はなぜかやたらと魔物が出没して大変な目に遭っていた!
「ふぇ〜ん。そ、そんなこと私に言われましても、私にだって分からないですぅ〜〜〜!? キ、キノン! 右から来てるの倒して〜!」
「ギッギー!」
ブボッ!
黒髪巨乳少女レベッカのペットであるグレイトボンバディアビートルのキノンは体内で2種類の物質を混ぜて超高温の水蒸気を作り出し、それをおならとして体外に噴射して右から迫って来ていたグレイトラーナに浴びせた!
「ゲロゲロォオオオン!?」
超高温の水蒸気を顔面に浴びたグレイトラーナは断末魔の声を上げて地面にひっくり返った!
ザシュザシュ!
———— ソフィー、何をそんなにビクビクしておるのじゃ? たかがラーナなのじゃぞ? 脂が乗っていて美味しそうではないか? それにお主の体は今妾が操っておるのだから安心して妾の剣捌きを見物していれば良いのじゃ♪ ————
ソフィーが手にしている魔剣ディーアがそんなことを頭の中に話し掛けて来るのを聞いてソフィーは絶叫しながら文句を言った!
「安心して見物なんてしていられませんよ!? どうしてグレイトラーナの消化液を避けないのですか!?」
———— あやつらが飛ばして来る消化液は体内で消化するのに邪魔な衣服を溶かすだけで害はないのじゃ! なのに、どうしてわざわざ避けなければいけないのじゃ? ————
ザシュザシュ!
「ディーアが今言ったじゃないですか!? 衣服が溶けるのが問題なのですよ!? ディーアが飛んで来る消化液を避けてくれないから私の服があちこち溶かされて大変なことになっているではありませんか!?」
———— むっ? 妾は自分の体が人に見られても平気じゃぞ? と言うか見られたいのじゃ! 妾の体が綺麗だと褒めてもらいたいからのう! ————
「それはあなたが剣だからですよね!?」
———— 大浴場では人型のすっぽんぽんになってお風呂場を飾る黒水晶像になっておるぞ? ————
ザシュザシュ!
「お風呂場で裸になるのと野外で裸になるのは全然別の話です! 裸族のあなたと人間の私を一緒にしないでください! このようなハレンチな格好をしているところを人様に見られでもしたらどうしてくれるのですか!?」
「ソフィーさん、ソフィーさん!? キノンのおならがガス欠になっちゃったのですぅううう!? こ、こっちに助けに来てくださ〜い! ふぇ〜ん」
「ギッギー」しょんぼり。
ザシュザシュ!
「い、今行きます! ディーア聞こえましたね!? 早くレベッカさん達の所に向かってください!」
———— 言われずとも向かっておるのじゃ! ————
そして、数十分後……。
「はぁ、はぁ、お、終わりました」
「ふぇ〜ん。服が消化液で穴だらけになっちゃったのですぅ〜。よ、余計な出費が……」
「ギッギー」しょんぼり。
———— 次からは主様に魔力で作ってもらった服を着て、ここに来ると良いのではないかのう? ————
「そうですね、ディーアにしては良い考えだと思います。次からはそうすることに致しましょう。レベッカさん、着替えはお持ちですか?」
「持ってないですぅ」
「では、サイズが合うか分かりませんが魔法の袋に入っている雪音様の服をお貸ししますね?」
「ソフィーさん、ありがとうございますぅ〜! あっ、でもその前に消化液でベトベトの体を洗わないと。ソフィーさんもそこの川で一緒に体を綺麗に洗い流しませんか?」
「えぇー!? こ、ここで裸になるのですか!? 他の冒険者の方々に見られたら」
「大丈夫ですよ、ソフィーさん! さっき四方八方から魔物が襲って来たじゃないですかぁ〜? きっと近くに他の冒険者達はいませんって!」
「ギッギー」レベッカの言葉にうんうんと頷くキノン。
「そ、そうでしょうか? 分かりました。私も体がベトベトして気持ちが悪かったので本当は水浴びがしたかったのです」
———— グダグダ言わずに早く穴だらけの服を脱いで川に入ったらどうじゃ? 時間が経てば経つほど人がやって来る可能性が高くなると妾は思うのじゃが…… ————
「噂をすれば影がさすと言うことわざをディーアは知らないのですか? 余計なことを言わず少し黙っていてください」
———— ソフィーが冷たいのじゃ!? ————
シュルシュルシュル。
「わぁ〜、ソフィーさんの胸、おっきいのに形が綺麗ですねぇ〜♪」
「(レベッカさんの胸が先ほどよりかなり大きく!?) レ、レベッカさんも大きくて綺麗だと思いますよ? (レベッカさん、着やせするタイプでしたか……。まさか着やせしてあの大きさだったとは……。先ほど渡した雪音様用の服ではキツくてダメですね。私の替えの服を渡すことに致しましょう!)」
ソフィーはレベッカの胸を見て雪音様をちょこっと不憫に思ってしまったのであった……。
◇◆◇
ある夜の、ガッセルドの村の正門から少し離れた所での雪音ちゃん達の会話。
「メズぅ〜、オズぅ〜、電撃蜘蛛さん達ぃ〜、夜食のアイス持って来てあげたよ〜♪」
「クギャ♪」
「グギャ♪」
「キキ♪」
「ギギ♪」
私がみんなを呼ぶと横になっていた襟巻き蜥蜴のメズとオズ、木の上にいた電撃蜘蛛さん親子が私達の側にやって来た!
「今日はバナナ味とイチゴ味のアイスを持って来てあげたよ〜♪」
「がぅがぅ♪」もってきてあげたよー♪
「お前達、雪音様に感謝するが良いですわぁ〜♪ さあ、食べたかったら3回回った後にお腹を出してワンと鳴くが良いですわぁ〜ん♪」
「ラスィヴィアさーん? 芸を仕込みに来た訳じゃないんですから、そんなこと言っちゃダメですよー?」
「そうだよラスィヴィア? そんなイジワルなことばっかり言ってるとメズとオズに嫌われちゃうよ?」
「がぅがぅ」
「そそ、そんなことありませんわぁ〜ん!? お前達、冗談だって分かっておりますわよね!?」
「クギャー」
「グギャー」
「微妙な反応ですねー?」
「ほ、ほら、私の食べる分も差し上げますから、機嫌を直してくださいまし? ね?」
私がラスィヴィア用にって言って渡してあげた2種類のアイスをラスィヴィアはメズとオズのご機嫌を取るため、メズとオズに差し出してしまった!
「クギャ♪」
「グギャ♪」
それを見た襟巻き蜥蜴のメズとオズは嬉しそうな声で鳴いたあと、アイスを食べ始めた!
「うぅ〜、私のアイスが……」ラスィヴィアは涙目になりながら自分のアイスがメズとオズに食べられていくのを眺めてた!
「キキ♪」
「ギギ♪」
「もうラスィヴィアさんは仕方ないですねー。私の分を半分あげるのですよー♪」
白銀の体躯に青いお目目がキュートな電撃蜘蛛さん親子にアイスを渡し終えたラピがイチゴ味のアイスをスプーンですくってひとくち食べたあと、ふたくちめをラスィヴィアに差し出した!
「はい、どうぞなのですよー♪」
「っ!? ラ、ラピ様、よろしいんですの!? (ラピ様との間接キス! ラピ様との間接キス! ラピ様との間接キス!)」
「いらないなら自分で食べちゃいま」
「食べます、食べますわぁ〜ん!? はむ! んぅ〜♪ (ラピ様の味がするのですわぁ〜ん♪)」
「それだとラピの食べる分が減っちゃうからラピには私の分を食べさせてあげるね♪ はい、あーんして?」
「あーん♪ ぱく♪ んぅ〜、雪音ちゃんの味がするのですー♪」
「ちょっとラピ!? 私まだひとくちも食べてないんだから変な言い方しないでくれる!?」
「雪音ちゃん、どうしてひとくち食べてから差し出してくれなかったんですかー!? そこはお約束的に自分で食べてからにしてくれないとダメじゃないですかー!?」
「えっ、それだとラピの味が薄ま、うーうん、なんでもない、なんでもないからね!?」
「あー、そういうことでしたら別に構わないのですよー♪ 思う存分スプーンをペロペロ舐めちゃってくださいねー♪」
「私、変態じゃないんだから、そんなことしないわよ! もうラピなんか知らない!」
私はラピに背を向けて黙々とアイスを食べ始めた!
「あーん、雪音ちゃん怒っちゃイヤなのですー! いつものちょっとした冗談じゃないですかー? 怒らないでくださいよー?」
そう言ってラピが後ろから私に抱きついて来た!
「ぶぅー。じゃあ、キスしてくれたら許してあげる」
「ふふふ♪ そんなことで許してくれるならいっぱいしてあげるのですよー♪」
そう言ってラピが私の顔を横に向け、自分の顔を私に近付けて来た。私は目を閉じてラピのキスを待ち構えているとラピが私の唇に自分の唇をチュッと軽く当てて来た! と思ったらラピはあっさりと私から唇を離してしまった!
「えっ、今ので終わり?」
「はい、ちゃんとキスしましたよー♪ あれあれあれー? 雪音ちゃん、ものすごーく不満そうですねー?」
「だ、だって軽く唇が触れ合っただけじゃん!」
「雪音ちゃんは濃厚なキスをご希望だったんですねー♪ それならそうと最初に言ってくれれば良かったじゃないですかー♪」
ラピがニヤニヤしながら言って来る!
「もうラピのイジワルー! 今日一緒に寝てあげないんだから!」
「それで困るのは雪音ちゃんではありませんかー? くすくすくす♪」
「うー!!! じゃあ今日からラスィヴィアのお胸を枕にして寝るから良いもん!」
「何を言ってるんですか雪音ちゃん!? そんなのはダメです! 許さないのですー!」
「許してくれなくても良いもーん! ラスィヴィア聞いてたでしょ? 今日からラスィヴィアのおっきいお胸を枕にするからよろしくね!」
「ええっ!? そ、それはちょっと」
「ラスィヴィアさん、そんなことしたら一生お尻グリグリ踏んづけてあげませんからねー!?」
「ラピ様、それはあんまりでございますわぁ〜ん!? とんだとばっちりなのですわぁ〜ん!? 仲直りのチューでもして私に八つ当たりを飛ばして来るのはお尻だけにして欲しいのですわぁ〜ん!?」
「仲直りのチュー!? それは名案ですラスィヴィアさん!」
「そ、そんなのされたってさっきの考えを改めるつもりは、んぅ〜〜〜!?」
「っぷは〜♪ どうでしたかー、雪音ちゃん? 私の血入りの濃厚なキスは気に入ってくれましたかー?」
「も、もうしょうがないわね! 今回だけだからね、許してあげるのは!」
「はい、お許しくださってありがとうございます、雪音ちゃん♪」
「やれやれなのですわぁ〜ん」
「がぅがぅ」
◇◆◇
ギーコ♪ ギーコ♪
ラピに後ろからブランコを押してもらって虹色のオーロラが輝く夜空を見上げながら私は抱っこしてるクゥーに声を掛けた。
「ねぇ、クゥー?」
「がぅ?」
「スライムのピーちゃんのエステサロンも滑り出し順調だし、忙しくなって来る前に今度お休みの日にクゥーの故郷に里帰りしてみよっか?」
「くぅーん……。がぅ♪」さとがえりするー♪
「気持ちが前と変わってくれて良かった♪ 強くなったクゥーを氷の大精霊やお兄ちゃん雪狼や他の狼さん達に見せつけてあげようね!」
「がぅ!」
「クゥーが色んな魔法を使えるようになった所を見せてあげれば氷の大精霊も安心するだろうし、お兄ちゃん雪狼や他の狼さん達をびっくりさせることが出来るんじゃないかな? クゥーをいじめてた狼達は強くなったクゥーを見て仕返しを恐れてビクビクしちゃうんじゃない?」
「がぅがぅ」
「えっ? 『弱いものいじめになっちゃうから仕返しなんかしない』って? クゥーは相変わらず優しいね〜。やられたら100倍返しにしちゃえば良いのに♪」
「がぉー」
「『ご主人様、百倍は鬼ー!』ってちょっとクゥー、それひどくない!?」
「がぅがぅ」
「ご主人様と一緒に暮らせる機会を作ってくれたから百倍は可哀想? せめて3倍返し? じゃ、3倍返しで良いから、ちゃんと仕返ししようね?」
「がぉー」えー?
「闇魔法使えば怪我させることなく痛い目に遭わせることが出来るでしょ? 悪いことしたら、ちゃんと罰を与えないとね♪」
「が、がぅ!」は、はーい!
「雪音ちゃん、クゥーちゃんに仕返しを強制するのはどうかと思いますよー?」
「えー?」
「その雪狼を1人先に行かせて、向こうが攻撃をして来たら遠慮なくキツいのをお見舞いしてあげれば良いのですわぁ〜ん」
「がぅ♪」そのほうがいー♪
「ラスィヴィアさん、良いことを言ったご褒美に頭を撫でてあげるのですよー♪」
「まー、クゥーがそれで良いなら良いんだけどね?」
そう言って私がクゥーの頭を撫で撫でしてあげるとクゥーは嬉しそうに「くぅ〜ん♪」と鳴いて頭を私の体に擦りつけて来た。
「あっ、雪音ちゃん! あそこで流れ星がいっぱい降り注いでいるのですー♪」
私はラピが指差した方向に目を向け、夜空に降り注ぐ流星群を見ながら思った。
天国のパパとママ、私のこと見ていますか? 私はこうして異世界で元気に暮らしてるよ? お友達もいっぱい出来たし、こないだはお店も初めたんだよ? すごいでしょ? パパとママはもうどこか別の世界で生まれ変わってるかもしれないけど、もし、天国から私のことを見守ってくれているなら私は幸せだから心配しないでね? 恋人も出来たし! お、女の子だけどね?
「雪音ちゃん、流れ星に何かお願いごとはしましたかー?」
「お店が繁盛しますように、みんなが幸せでありますようにってお願いしておいたよ♪」
「ラピ様〜、私にも聞いてくださいまし〜!」
「がぉー」
じゃ、またね♪
雪音ちゃんの異世界転生 〜 Fin 〜




