第10章 雪音ちゃんと村娘達 150 〜 雪音ちゃん、お店の下見に幽霊物件に行く!④〜
雪音ちゃん達が幽霊物件から出て来るところを物陰から見ていたピッグマン商会の男達が会話をし始める。
「おっ、中から女どもが出て来たぞ!?」
「うひょー、上玉ばかりじゃんかよ!?」
「あのちびっ子の後ろにいる本紫色の髪の清楚そうな姉ちゃん、そそるなあ」
「そうかあ? あっちのいかにも遊んでそうな褐色肌の短髪の方が良くね?」
「いや、その横の金髪の巨乳ちゃんだろう?」
「幽霊どもに何かされた様子もねえし、怖がってる様子もねえ……。マジで、あの数の幽霊どもを浄化したって言うのか?」
「だから言ったじゃないですか! あの家が聖なる黄金の光に包まれているところを見たって! じゃ、報告はしたんで自分は店に戻りますけど構いませんよね?」
「ああ、報告ご苦労だった。戻って良いぞ。おい、聞き込みした話の中に聖女の服を着た女はいなかったんだよなあ?」
「へい」「はい」「いなかったよな?」「ああ」「俺も聞いてないっす」「俺もだ」
「なら、幽霊どもを浄化したのは教会の聖女以外で聖なる魔法を使える野良の聖女ってことか……。教会の聖女に手ぇ出すと怖えぇことになるが野良の聖女なら問題ねえな。くっくっく。ソイツを手中に収めちまえば、幽霊どもが何度復活しようと金を減らさず浄化が可能ってわけだ」
「じゃあ、トレバーの兄貴、あの女達、拉致って来ちまっても?」
「ああ、拉致って来い。もちろん、人目のつかない所でだぞ?」
「よっしゃあ! 俺が行って来るぜ! 待ってろよ、清楚な姉ちゃん! 俺が今行くからよお!」
「褐色肌の短髪ちゃんは俺のもんな!」
「金髪の巨乳ちゃんは俺が頂くぜ!」
「はあ!? 金髪の巨乳ちゃんは俺が先に目をつけてたんだぞ! ふざけんな!」
「おい、お前ら! 聖女を犯っちまうと処女性が失われて聖なる魔法を使えなくなっちまうって話なんだから、犯る前に体のどこかにあるって言う聖紋がないか確認してからにしろよ! 間違って聖女を犯っちまった奴はぶっ殺すからな!」
「わ、分かってるって、トレバーの兄貴!? 裸にひん剥いて体の隅々まで調べてからにすれば良いんだろ!?」
「なあ、調べてる間に我慢できなくなったら、お前どうする?」
「お前こそ、裸にした好みの女の体に聖紋があったらどうするよ?」
「よーし、分かった。そこの2人は俺と一緒にアンラキの家に突入だ。ダニエル、ボリス、ポール、マシュー、お前らが今出てった女どもを拉致って来い!」
「なっ!? そりゃないぜ、兄貴!?」
「ひでえよ、兄貴!? ちょっとした冗談だって! 真面目に仕事するから俺らに行かせてくれよ!?」
ドガッ! ボガッ!
「ぶべらっ!?」
「がはっ!?」
「グダグダ抜かしてんじゃねえ! 今出てったのが4人だから、中にあと2人、女が残ってるはずだ! ラッツとパーカーは俺が玄関で女の1人の気を引いておくから、その間に空いてる窓や勝手口から侵入して、もう1人の女を眠らせておけ! 分かったな!?」
「あいたた……。りょ、了解」
「痛ぅ〜〜〜!? な、何も殴らなくても……」
「パーカー、返事はどうした?」
「りょ、了解しました……」
「よし! おい、お前ら、何グズグズしていやがる!? お前らはとっとと出て行った女どもを追いかけろ!」
「へい!」「はい!」「うっす!」「了解!」
ピッグマン商会の男達が二手に分かれて行動を開始した。
◇◆◇
ゴンゴンゴン! ゴンゴンゴン!
玄関のライオンヘッド・ドアノッカーの音が幽霊物件内に響き渡った。
「あらあら、早速、悪者さんのご登場ですかねー?」
物理ダメージを一切与えることなく物理攻撃が当たった時と同等の痛みだけを与える闇魔法で生成された包丁や戦斧を装備したアンラキの幻影達を配置し終えたラピはドアノッカーの音を聞いて玄関へと向かった。
「はいはい、どちらさんですかー?」
ガチャ。
用心することもなく玄関の扉を内側に全開で開けるラピ。
「( 無用心な女だな? こっちとしては都合が良いが……) ああ、私、両隣で店を出していますピッグマン商会のトレバーと申します。今回はご挨拶とご忠告をしようと思いまして」
「あー、お隣のお店の人なんですねー。これはどうもご丁寧に。それで、ご忠告と言うのは?」
「それはですね、レディー。失礼、少し紫がかった長く美しい銀髪に、エメラルドの宝石のように綺麗な瞳をお持ちの貴女様のお名前をお伺いしてもよろしいですかな?」
「お世辞をどうもありがとうございますー。私の名前はラピって言います。それでご忠告と言うのは、ひょっとしてこの家に出る幽霊のことですかー?」
「その通りです、ラピ様。この家に出る幽霊は浄化しても浄化しても、すぐにまた別の幽霊が湧いて出て来てしまうのです。もし、教会の聖女様の聖なる魔法でこの建物に巣食う幽霊達を一掃できたとお思いになっていたら大変なことになるかと思いまして参上した次第です」
「それはわざわざご親切にどうもありがとうございますー。そうですかー、浄化してもまた出て来ちゃうんですねー。良いことを聞かせてもらいました。ですが、ご心配には及びません。幽霊が出たらまた対処するだけですのでー」
「教会の聖女様に何度も浄化を依頼すると高くつくのではありませんかな?」
「トレバーさんは先程から勘違いしているみたいですけど、幽霊の浄化は教会の聖女様に頼んでやってもらったわけじゃありませんから、その心配もご無用なのですー。( 今のソフィーさんは教会に属していませんからねー。嘘は言っていないのですよー♪)」
「( よし、教会は絡んでねえみてえだな!) それでは、ラピ様のお仲間の中に聖なる魔法を使える乙女がいらっしゃるのですかな?」
「そうかもしれませんしー、古代の武器を所持することで使えるようになる固有魔法のおかげって可能性もありますよねー?」
「( ちっ、この女、口が軽いかと思ったら重要なことは言わねえのかよ!?) 確かにその通りでございますな。もし、そのような古代の武器をお持ちでしたら是非とも我が商会に売って頂きたいところなのですが」
「うふふ、売るわけないじゃないですかー、トレバーさん? 浄化しても別の幽霊が出て来ちゃうんですよねー? ここでお店を開くなら必需品になりますよねー? あっ、もちろん、聖なる魔法を使えるのが古代の武器のおかげだったらって話ですけどねー?」
◇◆◇
ラピとピッグマン商会のトレバーが会話している一方で、トレバーの手下のラッツが玄関から離れている部屋の窓から侵入を試みようとしていた。
「んじゃま、この半開きになってる窓から入らせてもらうぜ」
そう言ってラッツが半開きになっている上げ下げ窓を全開にしようと片手を窓枠に置き、もう片方の手で窓を押し上げた。
ブオン!
すると、ラッツの目の前を紫色の何かが物凄い勢いで横切った!
「うおっ!? な、なんだよ、今の!?」
ラッツは恐る恐る窓から首を突っ込み、キョロキョロと左右を見渡した。
「な、何もいない、よな? 幽霊は浄化されたって話なんだから俺の見間違」
「ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサ」
「う、上からなんか聞こえ、ひいっ!?」
窓から上半身だけ身を乗り出してラッツが天井を見上げると、天井に張り付いているアンラキの幻影の姿が目に飛び込んで来た! アンラキの幻影がニタァっと笑ったかと思えば、まるで“起き上がり小法師”のようにアンラキの幻影が天井を地面にして起き上がりながら、両手で振りかぶった紫色の闇戦斧を窓から入って来ているラッツの頭に叩きつけようと迫って来る! そのあまりにも異様な光景にラッツは恐怖で身が竦んでしまった!
ブオン! ザクッ!
「うっぎゃああああああああ!?」
ドスン!
頭を戦斧で叩っ斬られたような痛みを味わったラッツは窓枠上で暴れてバランスを崩し、室内に落っこちた。
「ぐぉおおおおお!? いでえぇ、いでぇよぉおおおお!?」
床の上でのたうち回るラッツ!
けれど、しばらくすると痛みが急に引いたのでラッツは正気に戻った。
「い、今、頭を戦斧で斬られたはずなのに、頭がある!? ち、血も出てねえ!? どど、どういうことだよ!?」
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ。
「な、何の音だ?」
ラッツが音のする方に顔を向けてみると、開いてる扉の向こうの廊下から2本の紫色の闇包丁を交互にザクザクと廊下に突き立てながら前進してやって来る上半身しかないアンラキの幻影の姿が目に飛び込んで来た!
「ひぃいいいいいい!? 幽霊は浄化されたんじゃなかったのかよぉおおお!?」
慌てて立ち上がり、入って来た窓から逃げようとするラッツ!
ヒュン! ヒュン! グサグサッ!
「ぎゃあ!?」
ドサッ! ゴン!
窓から逃げ出そうとしているラッツのお尻に2本の闇包丁が刺さり、ラッツは悲鳴をあげながら頭から地面へと落下し気絶してしまった。
◇◆◇
トレバーの手下のラッツが窓から侵入しようとしていた同時刻、パーカーは玄関から離れている台所の勝手口から侵入を試みようとしていた。
ガチャ。
「おっ、鍵開いてるじゃん、ラッキー♪」
キィ〜〜〜。
「へっへっへ。お邪魔しますよぉ〜っと」
キィ〜〜〜。ガチャン。
「侵入成功。うひょひょひょ、うぉおおおおおお!?」
パーカーは勝手口の内開きの扉を閉めた際、ふと横に人影を感じて飛び退いた!
「はぁー、はぁー、ビ、ビビったぜ!? なんで勝手口の横の壁が1枚丸々鏡になってんだよ!? 鏡に映った自分の姿にビビっちまったじゃねえか!?」
パーカーが人影だと思ったのは鏡に映った自分の姿だった!
「クソッ!? 大声出しちまった!? ど、どこかに隠れねえと!?」
パーカーはキョロキョロ周囲を確認して近くにあったテーブルの下に身を隠し、誰かが確認にやって来ないか息を殺してしばらく待ってみた。
「( だ、誰も来ない……。なんでだ? 俺が裏庭に回り込んでる間にラッツやトレバーの兄貴が制圧しちまったのか?)」
キーコ、キーコ、キーコ、ジャーーーー。
「っ!? ( み、水の出る音だとぉおお!? この部屋には誰もいなかったはずなのに、い、一体誰が手押しポンプを!? 俺の正面にある扉の他にまだ別の扉があったのか!? ま、まあ良いさ。水を出してる間に後ろから襲ってやるぜ!)」
パーカーはテーブルの下から這い出て手押しポンプの音がする方を見て驚愕した!
「ひぃいいい!? ななな、なんで手しかないんだよぉおおおお!? しかも、なんだよ、その白い霧!? 幽霊なのか!? 幽霊なのかぁあああ!? 幽霊は浄化されたんじゃなかったのかぁああああ!?」
パーカーはドテっと尻餅をついた後、2本の足と2本の手を使って食器棚にぶつかるまで後ずさった!
「おーーーーほっほっほっほ♪ (滑稽なのですわぁ〜ん♪)」
「ひぇええええええ!? ヤ、ヤバい、に、逃げねえと!?」
パーカーは急いで立ち上がって逃げようとした! けれど、パーカーの背後へと回り込んでいた霧の中から白い両手がズズズっと出現して、逃げようとするパーカーの両肩をガシっと掴んでしまった!
「( 逃がしませんわぁ〜ん♪ 強盗なのですから血を吸ってしまっても構いませんわよねぇ〜? じゅるり♪)」
「う、嘘だろ!? 後ろは食器棚で人が入るスペースなんか」
カプッ♪ チューチュー♪
霧化していた爆乳ゴスロリツインテール吸血鬼のラスィヴィアが両手だけでなく頭も実体化させてパーカーの首筋に噛みつき、血を吸い始めた!
「ぎゃああああ!? く、喰い殺されるぅうう!? 旨くねえ! 俺は旨くねえから喰わないでくれぇええええ!!」
「ペッ!ペッ! クッソ不味い血で吸えたものではありませんわぁ〜ん!」
ドガッ!
ラスィヴィアは不味い血を吸ってイラッとしたため、パーカーを後ろから蹴っ飛ばした!
「がはっ!? た、助かった!? は、早く逃げねえと!?」
ラスィヴィアに蹴られて地面に両手両膝をついていたパーカーは這う這うの体で勝手口へと逃げていき、扉を開けようとした!
ガチャガチャ! ガチャガチャ!
「あ、開かねえ!? 鍵が掛かってねえのに開かねえってどういうことだよ、おい!?」
「ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサ」
横から聞こえる怨嗟の声に「ヒィッ!?」と声を漏らしながら声の発生源に目を向けるパーカー!
怨嗟の声は勝手口の横の壁の鏡に映った血だらけのアンラキの幻影から発せられていた! 鏡は紫色のオーラを怪しく放っている!
「ア、アンラキの幽霊!? ち、違う! おお、俺じゃねえ! 殺ったのは俺じゃねえ! お前も知ってるだろ!?」
パーカーは後ずさって鏡から一歩、また一歩と離れていく! そして、また一歩下がろうとしたところで足を掴まれた! パーカーが恐る恐る足元を見てみると、床から生えた2本の手が自分の右足を逃がさないように絡みついていた!
「嘘だろ、おい!? ちくしょう!? 離せ、離しやが」
ピチャ、ピチャ、ピチャ。
「ピチャ?」
水の滴るような音を聞いて不審に思ったパーカーが顔を上げると、鏡の中から紫色の闇包丁が飛び出していて、その切っ先から血が床に滴り落ちていた! 異様な光景に驚くパーカーに追い討ちをかけるように鏡に映った血だらけのアンラキの幻影が鏡の中からスーッと出て来てしまった!
「く、来るな!? 来るなぁああ!? あっ!?」
動ける左足を一歩下げたら、地面から別の白い両手が生えて来てパーカーの左足に絡みついてしまった!
「嘘だろ!?」
ガシッ! ガシッ!
「っ!? 今度はなん、ふ、ふたりのアンラキが俺の両腕を拘束して!? おい、待て!? 俺をどうするつもりなんだよぉおおお!?」
背後に出現した2人のアンラキの幻影がパーカーの両腕を拘束しながらパーカーを後ろへと引き倒した! そして、四肢を拘束され地面に寝かされたパーカーのお腹の上に鏡の中から出て来た血だらけのアンラキの幻影が跨がり、両手で逆手に持った紫色の闇包丁を振りかざす!
「じょ、冗談だろ、おい!? それ、振り下ろしたりしないよな!?」
パーカーの問い掛けに血だらけのアンラキの幻影はニタァ〜っと笑って応えた後、その両手で逆手に持った紫色の闇包丁をパーカーの顔面へと振り下ろした!
「や、やめ、ぎゃああああああああああああああ!!!」
パーカーは闇包丁を頭に刺された痛みで泡を吹いて気絶してしまった!
「闇属性の魔法は物理ダメージが一切ありませんのに、ただの1撃で気絶してしまうなんて、つまらなさ過ぎなのですわぁ〜ん。外に配置した蝙蝠の視界にはラピ様が対応しているゴミ以外に新たに家に侵入して来ようとしているゴミ共はいないみたいですし、遊び甲斐がないのですわぁ〜ん」
爆乳ゴスロリツインテール吸血鬼のラスィヴィアがヤレヤレといった感じで肩を竦めた時、ガチャっと言う音と共に扉が開き、別の部屋にいたアンラキの幻影が気絶しているラッツをズルズルと引きずりながら台所に入って来た。
「ご苦労ですわぁ〜ん。では、お前達、コレとコレを渡しておきますからゴミ共を縄で縛りあげて猿轡をかましておくのですわぁ〜ん。終わったら、当初の配置にお戻りなさい?」
ラスィヴィアの命令を受けたアンラキの幻影達は無言で即座にラッツとパーカーに猿轡をかまし、手足を縄でふん縛り始めた。
「あとはラピ様が対応しているゴミを追い返せば雪音様達がお戻りになるまでラピ様とふたりっきりの甘〜い時間を楽しめるのですわぁ〜ん♪」
ラスィヴィアは鼻歌を歌いながら台所を出て行った!
◇◆◇
時は少し遡り、場所はピッグマン商会のトレバーと銀髪翠眼日焼け美少女ラピが会話している玄関へと移る。
「もし、そのような古代の武器をお持ちでしたら是非とも我が商会に売って頂きたいところなのですが」
「うふふ、売るわけないじゃないですかー、トレバーさん? 浄化しても別の幽霊が出て来ちゃうんですよねー? ここでお店を開くなら必需品になりますよねー? あっ、もちろん、聖なる魔法を使えるのが古代の武器のおかげだったらって話ですけどねー?」
「それもそうですな。では、聖なる魔法が使える乙女がいるか古代の武器をお持ちかといった話はさておきまして、この店舗でラピ様はどのような商売を始められるのですかな? 商売内容によってはピッグマン商会で扱う商品を他よりお安く卸して差し上げることも可能ですよ? ああ、もちろんその場合には我が商会の傘下に加わって頂くことが条件になりますがね?」
「商品を用意する商売ではありませんので、ピッグマン商会から商品を購入する必要はまったくありませんねー。あっ、ひょっとして幽霊の件で忠告に来たと言うのは建前で、ピッグマン商会の傘下に入れって脅しをしにいらしたんですかー? それでしたら回れ右してお帰りくださいなのですよー」
ラピはニコニコしながら、お帰りはあちらですー♪ と言わんばかりに片手をトレバーの後ろに差し向けた。
「( ああん!? この女、ピッグマン商会舐めてんのか!? 今すぐ犯してやろうか!? いや待て、落ち着け! ラッツとパーカーが中にいるもう1人の女を捕まえて人質に取りゃあ犯るのはいつでも出来る!) い、いえいえ、脅しなどとそのようなことは一切考えておりません。ラピ様の勘違いにございます」
「脅しじゃなかったんですかー? ピッグマン商会って、人を脅して端金寄越して店舗を奪う極悪商会って噂をつい今しがた思い出したものだから私てっきりこれがそうなのかなーって思っちゃいましたー」
ラピは悪びれもせずトレバーにそう言ってのけた。
「( 極悪商会なのは事実だが、それを思い出して、どうしてこの女はこんなに強気なんだ!? つーか、アイツら女1人捕まえるのにいつまで時間が掛かっていやがる!?) と、ところで、こちらではどのような商売を始めるおつもりなのですかな?」
「お店を始めたら、どうせすぐに分かることだから教えてあげますねー? お貴族様御用達のあのレアなスライムさんを使ったエステサロンを開業するのですよー」
「まさか、あの稀少で遭遇することがほとんどなく、素速いから見つけても捕まえることが困難で、仮に捕まえることができても飼い慣らすまで大変時間が掛かるあのスライムですかな!?」
「はい、そのスライムさんですねー♪ ですから、ピッグマン商会の傘下なんかに入らなくても問題ないのですよー♪」
「( 来た来た来たぁあああ!!! 聖女もしくは古代の武器に、クリーンスライムまで俺の手の中に転がり込んで来やがった! これだけの収穫がありゃあ、あのムカつくスネイルの奴を引きずりおろして俺がボスの片腕にのし上がれるぜ!) それは羨ましい限りですなあ!」
トレバーが薔薇色の未来を思い浮かべ笑い出すのをこらえながらラピに言葉を返したその直後、トの字の廊下を曲がって登場したラスィヴィアがラピに走り寄って後ろからガバッと抱きつき甘えた声で現状報告をし始める。
「ラ・ピ・さ・まぁ〜♡ 鉱山送り用の人間を2人確保できましたわぁ〜ん♡」
「もー、ラスィヴィアさーん? 人前で抱きつくのはレディーとしてはしたないですよー? えっ、たったの2人だけですかー?」
ラピとラスィヴィアの会話を聞いてトレバーの頭は混乱している!
「( どうして、ここにもう1人の女が来てんだよ!? ラッツとパーカーは一体何をやって……、いや、ちょっと待て!? 今、あの女、『鉱山送り用の人間を2人確保できた』とか抜かしていなかったか!?)」
「それでは、トレバーさん。ご挨拶とご忠告とお土産をどうもありがとうございましたー♪ お店を開くのに、これから色々と準備をしないといけませんので、これで失礼させていただきますねー?」
キィーーーー、ガチャ。カチャン。
トレバーが目の前の状況と聞こえた情報を脳内で処理できずにいる間に玄関の扉はラピによって閉められて鍵を掛けられてしまった。
「( クソッ!? まさかアイツら、たった1人の女相手にしくじりやがったのか!? なんて使えない奴らだ!? しかも、あの女、お土産とかふざけたこと抜かしやがって〜〜〜!! 最初っから俺らピッグマン商会のことをおちょくっていやがったに違いねえ!!! この俺様を虚仮にしたことを今夜必ず後悔させてやる!!)」
そう決意したトレバーがふと2階を見上げると、2階の窓から自分を見下ろしているラピの存在に気がつき、トレバーは殺気を込めてラピにガンを飛ばした。ラピはそれを涼しい顔で受け止め、にこにこしながらトレバーに手を振っている。
「( 舐めくさりやがって。その澄ました面あ、グチャグチャにしてやるから覚悟しておきやがれ!!)」
トレバーは踵を返して拠点へと帰っていった。
◇◆◇
一方、雪音ちゃん達はどうしていたかと言うと、アヴァリードの町の正門で門番をしていた衛兵を捕まえ、魔法を使って記憶内を検索、アルマジロドラゴン・死霊使いのアルの飼い主であるアンラキが殺された場所の情報をゲットし、町を出てその場所へ向かおうとしていた。
「ご主人様ぁ、アンラキさんの殺されちゃった場所まで結構距離あるの?」
金髪 (左右ともに長めの触覚ヘアー×サイド編み込みハーフアップ) 翠眼巨乳エルフのメリッサが私に質問して来た。
「ラグジュアリアントの森って場所で、ここから歩いて1時間らしいよ?」
「げっ!? 雪音っち、ここから1時間も歩くの!?」
私の言葉にミルクココア色の短髪 (耳かけショートボブ) で褐色肌で八重歯がチャーミングなキアラが嫌そうな顔して驚いている。
「キアラさん、歩くのがお嫌でしたら館にお帰りになった方がよろしいのではないでしょうか? 往復を考えると2時間以上掛かってしまいますし」
私を崇拝?敬愛?してる紫髪 (ロング) 碧眼の巨乳聖女ソフィーがキアラの態度に若干眉を顰めながら、帰ることを提案している。
まぁ、無理に付き合わせても悪いよね?と思った私は、
「キアラどうする? ソフィーの言う通り先に1人で帰る? 帰るなら転移魔法で送ってあげるけど?」
と聞いてみた。
「えー? キアラ帰っちゃうのぉ?」
「( うっ!? メ、メリッサちんにそんな目で見られたら帰りたくても帰れないよ〜!) う〜うん、帰らないよ! た、たまには運動しないとダメだよね! あは、あはははは」がっくし。
「ありがと、キアラぁ〜♪ 歩き過ぎて足がパンパンになっちゃったら、帰ってから、あたしが足揉んであげるね♪」
「本当、メリッサちん!? そーゆーことなら私、1時間でも2時間でも頑張って歩けそうだよ!」
キアラ、現金だなぁ〜。
「それにしても、雪音様? ピッグマン商会の方々は頭があまりよろしくないのですかね?」
聖女のソフィーが後ろをチラっと振り返りながらそんなことを私に言って来るのは、私達がアンラキさんの家を出てからずっと、私達の100mほど後ろを付かず離れずピッグマン商会の物と思われる蜥蜴車がついて来ているからだ。
「分かりやすくて良いんじゃない? あれが陽動で実は私達に気づかれないように左右に別働隊とかがいたら話は別なんだけど」
「その言い方だと別働隊はいないんだよね、ご主人様ぁ?」
「まぁね? だから、ラグジュアリアントの森に行くまではピクニック気分で気楽に行きましょ?」
「はぁ〜い♪」
「ねぇねぇ、雪音っち? ザルガーニがこっちに向かって走って来たよ?」
キアラが指を差してる方向に目を向けると、ザルガーニが猛スピードでこっちに向かって来ていた!
( ザルガーニって言うのは青いお目目をしたキジトラ柄の猫ちゃんだよ! 猫ちゃんって言っても実はそれは仮の姿で、本当の姿はライオンと黒山羊の双頭でライオンのような胴体と大蛇の姿をした尻尾が生えているキマイラなんだけどね? 今は悪さしたお仕置きってことで私の魔法で猫ちゃんの姿になってるんだよ! 説明終わり!)
私は目の前にやって来たザルガーニに声を掛けてみた。
「ザルガーニどうしたの? そんなに急いで走って来て?」
「雪音様の気配を感じて橋を見やれば、雪音様の後方で雪音様から一定の距離を保ってノロノロと走っている蜥蜴車がおったから、我輩忠告しに来たのであ〜る」
「猫ちゃん、忠猫ちゃんだねぇ〜♪ 偉い偉〜い♪」なでなで。
「こ、こら、エルフ娘!? 我輩をなでるでない!? あっ、やめ!? にゃ〜ん♪」
「メ、メリッサさん? 私にもなでさせてくれませんか?」うずうず。うずうず。
「もちろんだよ! はい、ソフィー!」
メリッサはザルガーニを抱き上げ、ソフィーに渡してあげた。ソフィーは嬉しそうにザルガーニを抱いてなでなでし始める。
「そ、外でなでるのはやめるのである!? わ、我輩の威厳が、あっ、そこ、気持ち良い、ゴロゴロにゃ〜ん♪」
「はぁ〜、幸せです〜♡」
ソフィーは可愛い系の生き物大好きだよね!
「あれが元キマイラとかホント信じられないよネー。あっ!?」
頭の後ろで両手を組んで呆れていたキアラが何か思いついたのか私にキラキラした目を向けてこう言って来た。
「雪音っち、雪音っち〜、私も魔法で猫に変えてくれない? そしたら、メリッサちんに抱っこして可愛がってもらえ、じゃなくて運んでもらえると思うんだ!」
「残念だけど、それは却下かな?」
「えぇええええ!? なんで、どうしてダメなの、雪音っち〜!?」
「キアラぁ、後ろでピッグマン商会の奴らが、あたし達のことずっと見てるんだから、ダメなのもしょうがないんじゃないかなぁ?」
「そうゆーこと。森に行ってアイツらが仕掛けて来て捕縛完了した後だったらキアラを猫の姿に変えてあげても良いけどね?」
「雪音っち、どうせ捕縛しちゃうなら今変えてくれても良くない?」
「キアラさん? ピッグマン商会以外の方々も通りには歩いているのですから、もう少し考えてから発言を」
「わ、分かったから、ソフィーっち、そんな怖い顔しないでよ!? 私が悪かったから!?」
「いいえ! 雪音様に対するキアラさんの態度は少し目に余る所があると思っていたのです! 時間もありますし、良い機会ですから私がいかに雪音様が尊い存在であるか語って差し上げます!」
「語るのは我輩を下ろしてからにして欲しいのである……」
聖女ソフィーに抱かれている猫ちゃんザルガーニは魔族なので、感情の高ぶったソフィーの体から漏れ出ている聖なるオーラによって地味にダメージを受けていたのであった……。
「ソフィー、ソフィー」
「はい、なんでしょう、雪音様?」
「前にも言ったけど、ザルガーニは魔族だから聖なるオーラを浴びるとダメージ受けちゃうんだけど……」
「っ!? も、申し訳ありません、ザルガーニちゃん! お、お詫びと言ってはなんですが、今日の夜の私の分のアイスクリームを差し上げることでお赦し頂けないでしょうか?」
「ふむ、我輩は寛大であるから、今日と明日の2日分くれるなら赦してやっても良いのである」
ザルガーニ、寛大とか言っておきながら、ちゃっかり2個要求してるし……。
「もちろん差し上げます! それでお赦し頂けるなら!」
「約束であるぞ? では、我輩を地面に下ろすのである」
「だ、抱っこし続けていてはダメでしょうか?」
「そこの褐色娘に説教するのではなかったのか? また聖なるオーラに焼かれたくはないから、我輩、下ろして欲しいのであるが……」
「そ、それは、それはー……。…………。キアラさんも先程のやり取りできっと分かってくださったと思いますので説教の必要はもうないかと。ですよね、キアラさん?」
聖女ソフィーが威圧を込めた笑みをキアラに送った!
「う、うん、モチロンダヨ!」
「なんかザルガーニに負けた気がして、ちょっと悔しいんだけど……」
「あ、あはは。き、きっとご主人様が魔法で猫になったら最強になるんじゃないかな?」
『雪音様、我輩の正門付近でのお役目は……』
ソフィーに抱っこされてる猫ちゃんザルガーニが私にテレパシーを飛ばして来た!
『ま、まぁ、来るかも分かんないフォルティス国の使者を待つお仕事よりソフィーの心の安定化の方が重要かな? キアラが歩き疲れる前にキアラの精神の方が疲れちゃっても困るからね。だから、今日のザルガーニのお仕事はソフィーを笑顔にし続けることに変更ってことでお願いね!』
『我輩、追加報酬を希望するのである!』
『じゃあ、3日後と4日後の夕食のデザートのアイスクリームを1個増量してあげるから、それで良いでしょ?』
『もう一声欲しいところではあるが、それで良しとするのである』
『あー、そうそう。後ろから蜥蜴車に乗って私達を追っかけて来てるのは敵だけど、殺しちゃダメだからね? 捕まえて鉱山に送って絵の具のための鉱石を採掘させる予定だから』
『敵だと分かっておるなら、とっとと倒してしまえば良いではないか?』
『人間の社会はめんどくさいんだよ。町から外れた所にある森で捕まえるから、鬱陶しくても今は手を出さないでね?』
『分かったのである』
こうして猫ちゃんザルガーニをソフィーに与えて平穏を得た私達は、のどかな風景を楽しみながらラグジュアリアントの森に向かったのであった。
.
魔剣ディーア 「妾の出番がまったくないとは、どういうことなのじゃ!? 1文字も登場してないとか酷いのじゃ〜〜〜!!」
ラスィヴィア「裏方の道具係が出て来ないのは当たり前なのですわぁ〜ん」
魔剣ディーア「うぅ〜、妾が闇魔法で闇包丁とか闇戦斧を用意したり、あちこちの部屋にある鏡とかシャンデリアとか絵画の額縁なんかに闇属性を属性付与してホラーちっくになるように演出したのに……」ぐすんぐすん。
ラピ「ディーアさんは魔法は使えても誰かに持たれていないとその体をご自身で動かせませんからねー。単独でも動けるように雪音ちゃんに頼んで飛行魔法を使えるようにしてもらったらどうですかー?」
魔剣ディーア「っ!? それは良い考えなのじゃ!」
ラスィヴィア「そこの魔剣は剣身が黒いからって理由だけで雪音様に沢山の闇魔法を使えるようにしてもらっているのに、さらに新しい魔法をねだるんですの? 図々しいこと、この上ないのですわぁ〜ん」
魔剣ディーア「なっ!? 闇魔法は別に妾が望んで使えるようにしてもらった訳ではないのに、その言い草は心外なのじゃ!?」
ラピ「そうですよー、ラスィヴィアさん? 闇魔法が使えると一般人は引いちゃうか魔女は出てけーって石投げて来ちゃったりしますから、闇魔法が使えるのは魔剣のおかげなんですーって体裁を取るために雪音ちゃんが魔剣のディーアさんに闇魔法を使えるようにしてあげたのですから、そんな言い方しちゃダメなのですー」
魔剣ディーア「やーい、怒られてるのじゃ〜♪ 良い気味なのじゃ〜♪」
ラスィヴィア「ムカッ! ラピ様、その魔剣を私に貸してくださいまし! 肥溜めに投げ捨ててやるのですわぁ〜ん!」
魔剣ディーア「な、なんじゃと!? 妾をうんこに突っ込むと申すのか!? あ、悪魔じゃ! 悪魔がここにいるのじゃあ!?」
ラピ「ラスィヴィアさーん? うんこまみれになった魔剣を私に雪音ちゃんに返させるつもりなんですかー?」ギロリ。
ラスィヴィア「っ!? そ、そんなつもりでは!?」あたふた、おろおろ。
ラピ「新しい魔法が使えるようになりたいなら素直に雪音ちゃんにおねだりすれば良いじゃないですかー? どうしてディーアさんに八つ当たりしてるんですかー?」
ラスィヴィア「とっくのとうにおねだりして、すでに却下されているからですわ! 『ラスィヴィアが闇魔法覚えると闇魔法使って自分の体痛めつけて気持ち良くなっちゃうでしょ? 闇魔法依存症になっても困るから』とか言って雪音様は私が闇魔法を使えるようにしてくれなかったのですわ!」
魔剣ディーア「や、闇魔法依存症……」ドン引き。
ラピ「あー、それで闇魔法が使えるようになったディーアさんが羨ましくて八つ当たりしてたんですねー。でも、雪音ちゃんの言う通りだと思いますから仕方ないんじゃないですかー?」
ラスィヴィア「そんな!? ラピ様が最近お尻グリグリ踏んづけて下さらないからいけないんですわ!」
魔剣ディーア「へ、変態じゃあ!? 変態がいるのじゃあ!?」
ラピ「昨日もグリグリしてあげたじゃないですかー?」
ラスィヴィア「昔みたいにもっと力を込めて痛めつけるように踏んで欲しいのですわぁ〜ん!」
魔剣ディーア「はっ!? いつの間にか、妾から変態吸血鬼に話題がシフトしているのじゃ!? もう! お主達はどっか行くのじゃ〜〜〜!! このあとがきは妾がトークするための、えっ? もう終わりじゃと!? い、いやじゃあああ、もっと妾にしゃべらせ」
プツン。ツー、ツー、ツー。
おしまい♪




