第10章 雪音ちゃんと村娘達 148 〜 雪音ちゃん、お店の下見に幽霊物件に行く!②〜
聖女ソフィーが聖なる魔法で幽霊を浄化した建物の中へと入っていった雪音ちゃん達は、褐色肌で八重歯がチャーミングなキアラが2階の書斎で見つけた幽霊物件の元々の持ち主アンラキの書いた日記を読み始めた。
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≪11月21日≫
今日もピッグマン商会の奴らが俺に立ち退きを要求して来やがった!
俺があくせく働いてようやく買った家だって言うのにふざけんじゃねえ!
何が両隣の店は既に買収しただ!? 脅して端金渡して立ち退かせただけじゃねえか!? 俺は絶対に立ち退かないぞ!
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「あらあら、両隣のお店さんは今や悪徳商人さんの息の掛かった人達が経営してるってことですかー? お隣さんとは仲良くしていきたかったんですけどねー」
「ラピ様、向こうが手を出して来たら、逆に両隣の店をこちらが乗っ取ってしまえば良いのですわぁ〜ん」
「ラスィヴィア、店なんか乗っ取ってどうするのよ? 人手が足り……なくはないけど、持ち家が増えればその分、税金だって掛かっちゃうんだよ?」
「ご主人様ぁ〜、あたし、お花屋さんとか開いてみたいなぁ〜♪」
メリッサにそんな可愛いらしい夢があったんだ!? エルフだから森が恋しかったりするのかな?
「メリッサちんがお花屋さん開くなら私も一緒にお手伝いするね!」
「あん? キアラは雪音の店で手伝いするんじゃなかったのか?」
「別にキアラがメリッサのお花屋さん手伝いたいなら私は構わないけど、両隣の店が既に私の物みたいな前提で話すのは止めてね?」
「でも、雪音ちゃんのお店が繁盛した時のことを考えて先に2号店や3号店の場所を押さえておくのはありじゃないですかー?」
「ラピ、お店始めてもいないのに2号店や3号店のこと考えるなんて気が早過ぎでしょ? とりあえず続き読むわよ?」
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≪11月25日①≫
あれから毎日のようにピッグマン商会の奴らは俺を脅しにやって来た。無視し続けていたら、今日、道を歩いてる時に後ろから来た蜥蜴車に轢かれそうになった! ピッグマン商会の旗印を掲げた蜥蜴車だった! このままじゃ、いつかピッグマン商会の奴らに殺されちまう!
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「ひっど〜い!」
「ホントですねー」
「プンスカ怒ってるメリッサちん、可愛い♡」
怒るメリッサに、同意するラピ、それから、悶えるキアラを横目に、私はこの町の冒険者で町のことに詳しいと思われるロウバストのおっちゃんに質問してみた。
「商会の旗印掲げてそんなことするなんて、ピッグマン商会の人達って馬鹿なんじゃないの? おっちゃん、ピッグマン商会って知ってる?」
「あー、確かピッグマンってのは元々商人なんかじゃなくて冒険者だったはずだ。だから、やり口が乱暴なんじゃねえか?」
「つまり、ダンジョンなどで儲けたお金を元手に商人へと転向した方と言うことですね? 力でなんでも押し通ると思っているのでしょう。これは懲らしめて魂を浄化してあげないといけませんね、雪音様!」
「殺してしまうなら私が血抜きして差し上げますわぁ〜ん♪」
「えっと、ソフィーもラスィヴィアも殺る気満々なところ悪いんだけど、私達、客商売始めるんだから町の中で殺っちゃうのはナシだからね?」
「お客さんに怖がられてしまったら困りますからねー」
「がぅがぅ」
「キュウキュウ」
私とラピの言葉に雪狼のクゥーとちびっ子赤竜のスカーレットちゃんも、うんうん頷いている。
「お、お待ちください、雪音様!? 別に殺る気に満ち溢れてなど!? もう! ラスィヴィアさんが私の後に変なことを言うから雪音様に勘違いされてしまったではありませんか!?」
「私のせいにしないでくださいまし!? ソフィーが魂を浄化するなんて言い方するからいけないんですわ!」
「もう、ケンカしなーい! じゃ、続き読むよぉ〜?」
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≪11月25日②≫
詰め所の衛兵に訴えたが、アイツらニヤニヤ笑って全く取り合ってくれなかった!! おかしいだろ!? ピッグマン商会の奴らに金でも渡されてるに違いない! クソッ!? そっちがその気ならこっちだって考えがあるぞ!
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「詰め所の衛兵って、ひょっとして……」
「きっと奴隷商人のフィルスとグルだったあの3人組じゃないですかー? お金を握らされたら普通に黙認しそうですよねー?」
「だよネー。夜に衛兵のお仕事から拷問部屋に帰って来たら記憶を覗いてピッグマン商会の連中の顔を確認して見るよ」
「ご主人様、ご主人様ぁ〜、早く続きを読んで欲しいな? キアラってば『あとでのお楽しみ♪』とか言って、さっき読ませてくれなかったから続きがすっごく気になって仕方ないんだぁ〜」
「わ、分かったから、メリッサ、そんなに急かさないで? 今、続き読むから」
「雪音っちにねだるメリッサちん、めっちゃ可愛いよね! ソフィーっちもそう思わない?」
「そうですか? 私はメリッサさんにねだられてあたふたしてる雪音様のお姿の方が可愛いと思うのですが……」
キアラとソフィーがそんな会話をコソコソしているのを小耳に挟みながら私は日記の続きを読み上げた。
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≪11月28日≫
へっへっへ。町中駆けずり回って呪われた品って言われてる物を買い漁って来てやったぜ! 中には諸手を挙げて無料で譲ってくれた人もいたけどな! 奴ら、建物は壊さずそのまま利用するようなことを言ってたから、家の屋根裏とか壁の中とか床の下に呪われた品を隠してやるぜ! こんだけ買ったんだ。全部が本物とは思っちゃいねえが、買ったうちの1つか2つぐらいは本物が紛れ込んでるよな? 俺が死んだらせいぜいアイツらを苦しめてやってくれ!
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「あー、どうやらこの建物の元の持ち主は頭がかなり残念な奴だったみてえだな?」
「がぅがぅ」
「キュウキュウ」
「だね。ピッグマン商会の奴らに多分殺されちゃった人だから同情してあげたいんだけど、なんか読んでて脱力して来ちゃったよ……」
「ホントですねー。でも、呪いの魔導具を買い集めて仕返しを考えるぐらいなら冒険者ギルドに護衛依頼でも出せば良かったと思うんですけど、どうしてアンラキさんはそれをしなかったんですかねー?」
「ラピ様、単にその男にそこまでのお金がなかっただけなのではないかしらぁ〜ん?」
「あー、そう言えば、ピッグマンは一応A級冒険者だったな。だからかもしれん」
ロウのおっちゃんが手の平に握り拳をポンと叩いて、そんなことを言って来た。
「ロウバストさん、それってA級冒険者が相手だから冒険者ギルドの冒険者達が尻込みしてるってこと?」
「それもあるが、A級冒険者を相手にするなら、護衛依頼料もそれなりに高くなっちまうだろう?」
メリッサの質問にロウのおっちゃんがそう答えた。
「そっかぁ。依頼料が高くなっちゃうから護衛依頼を出せなかったんだね。アンラキさん、可哀想……」
「A級冒険者が相手なら、しょーがないって! メリッサちん、元気出して!」
しょんぼりしてしまったメリッサをキアラが慰めに入った!
「おっちゃん、一応A級冒険者って言ってたけど、どういうこと?」
「あー、奴がB級からA級に上がってすぐに入ったダンジョンで一山当ててから冒険者ギルドで奴の話を聞かなくなったからな」
「実質B級上位ぐらいの実力しかないってことですわね? たいしたことないのですわぁ〜ん」
「ラスィヴィアさーん? B級冒険者のロウバストさんの前でその発言はいただけないのですよー?」
「べべ、別にその大男をけなすつもりはなかったのですわぁ〜ん!? ですかや、ラピひゃま、私の頬を引っぴゃるにょは、お止めくだひゃいまひ〜!?」
ラピが爆乳ゴスロリツインテール吸血鬼ラスィヴィアのほっぺを両手でつまんで、びよーんびよーんと引っ張り始めた!
「ラピ、俺のことは気にしなくても良いぞ? 雪音達と一緒にいたら冒険者ランクなんて気にしてもしょうがねえからなあ?」
「あはは、おっちゃんの価値観壊しちゃってごめんネー?」
「ラピひゃま、大男もああ言ってることでひゅひ、頬を引っぴゃるのは〜あ〜あ〜!?」
「反省の色がないのでお仕置き続行なのですよー」
「あひゃひゃひゃ! ラスィヴィアっちのあの顔! めっちゃウケるんだけどぉ〜♪」
「もう、キアラったら、笑っちゃダメだって! ブフッ」
ラスィヴィアを指差して笑ってるキアラを窘めている最中にメリッサが吹き出し、笑い始めてしまった! 1回ツボに入ると抜け出せなくなっちゃうよね?
「でも、依頼を出せないならここから荷物を持って逃げ出してしまえば良かったのに、アンラキさんはどうして逃げなかったんですかねー?」
「ラピひゃま〜、もうお赦ひくだはいまひ〜。私の頬がお餅のように伸びて戻らなくなってひまうのでふわぁ〜」
涙目のラスィヴィアのほっぺをびよーんびよーんしながらラピが首を傾げて疑問を口にすると、
「冒険者ギルドが当てにならないのであれば、神聖帝国から聖女が派遣されているこの町の教会に助けを求めれば少なくとも身の安全は確保できたと思うのですが、それをしていなかったことも気に掛かります。教会を頼れない理由でもあったのでしょうか?」
と、ソフィーも不思議そうに疑問を口にした。
「そればっかりは本人に聞いてみないと分かんないじゃないかなぁ? もう死んじゃってるけど……」
「あっ! きっと幽霊のお友達が側にいるから教会に逃げられなかったんだよ、ご主人様ぁ!」
「メリッサちん、教会に逃げる時に幽霊のお友達を連れてく必要ってなくない? 自分に取り憑いた幽霊とお友達になってるなら話は別だけどさ〜?」
巨乳エルフのメリッサの突拍子のない発想に、褐色肌で八重歯がチャーミングなキアラが両手を頭の後ろに組みながら呆れている。
「うーん、面白い発想だとは思うけど、幽霊が出るようになったのは建物の持ち主のアンラキって人が死んじゃってからみたいだから多分違うんじゃないかなぁ?」
「幽霊のお友達がいたなら呪いの魔導具集めなんてしなくても、その幽霊さんにピッグマン商会の人達を襲わせれば良いですもんねー?」
「や、やっとラピ様から解放されましたわぁ〜ん。うぅ〜、頬が痛いのですわぁ〜」キッ!
「おい、ラスィヴィア、なんで俺を睨むんだ?」
「それもそっかー。ご主人様とラピ様の言う通りかも」
「でもさ〜、結局、集めた呪いの魔導具の中に幽霊を沢山呼び寄せちゃうヤバい物ってなかったんでしょ?」
キアラが両手を頭の後ろで組みながら聖女のソフィーに質問をした。
「はい、キアラさん。1階や2階を調べた限りでは、ロウバストさんが地下からお持ちになったその壺より邪悪な気配を感じる物はありませんでした。まぁ、特に害をなさない低級幽霊を呼び寄せる物は先程私が使った聖なる破邪の噴火の浄化の光によって効果を失ったと思いますが」
「ヤバい物はなかったけど、呪われた品々はあったんだね……。ちょっと待って? じゃあ、浄化の光を浴びてなお微弱ながらも邪悪な気配を発してるその蠱毒の壺ってヤバい代物なんじゃ!?」
慌てる私を安心させるように、ソフィーが私に微笑みかけながら説明をし始める。
「大丈夫です、雪音様。蠱毒の壺は、中に生きた虫が入っていますよね? 聖なる破邪の噴火は生きているものに物理的ダメージを与えることができませんから壺の中の虫を殺すことはできません。壺の中に放り込まれた数え切れない虫達の中で共喰いの末に1匹生き残った虫の人間に対する怨念が邪悪な気配を発してるだけですので」
「あー、そういうことね。生きてれば過酷な生存競争を強いた人間に恨みを抱いてもしょうがないよねって、それってソフィー、結局、その虫が幽霊を呼び寄せてるってことじゃないの!?」
「壺の中の生きている虫が邪悪な波動を出しているのは事実ですが、微弱ですので幽霊を呼び寄せるほどのものではありません。また、その虫に喰われた他の虫達の幽霊が呼び寄せた虫の幽霊達は、先程私が喰われた虫の幽霊ともども聖なる破邪の噴火で滅しましたので、この壺があることで虫の幽霊が呼び寄せられることはもうないでしょう」
「む、虫の幽霊ぉ!? ソフィーっち、それホント!? や、やだ、側にいたりしないよね!?」
ソフィーの話を聞いてる途中でキアラがすぐ側にある壁や床、果ては天井に目を向け、虫の幽霊がいないか確認し始めた。
「あはは。キアラ、虫嫌いだもんね? キアラ、キアラぁ、今ソフィーが魔法でやっつけたって言ってたよ? そんなに焦らなくても大丈夫だよ。ほら、どこにも虫の幽霊なんていないから落ち着こう?」
巨乳エルフのメリッサが、虫がいないかキョロキョロ周りを確認してるキアラを後ろから抱きしめて宥め始めた。
そんなやりとりを横目に私は気になったことをソフィーに聞いてみた。
「ねぇ、ソフィー。蠱毒の壺が人間の幽霊を呼び寄せないんだったら、燃やさないで中の虫を逃がしてあげても」
「それはダメです、雪音様! 毒虫同士の共喰いの果てに生き残った虫の体はいくつもの毒が混ざり合って猛毒になってしまうのです!」
最後まで言い終える前にソフィーにダメ出しされちゃったよ。
「猛毒の虫さんを逃がしてあげて、それで近くに住む誰かが刺されたり咬まれたりしては大変ですものねー。まー、お隣のピッグマン商会の人達が毒に侵される分には構わないんですけどー、あっ、いっそのことお隣さんのお店に捨てに行っちゃいましょうかー?」
「ラピ、そのやり方だと正当防衛じゃなくて、ただの犯罪になっちゃうから実行しないでね?」
「やだなー、雪音ちゃん。ただの冗談ですよー?」
「…………。(半分本気だったと思うんだけどなぁ?) とりあえず、壺の中の虫さんは可哀想だとは思うけど、あとで焼却処分することにするよ」
「はい、ラピ様がうっかりお隣のお店に投げ捨てないように早めに焼却した方が良いと思います」
「だな。ラピのことだから『手が滑っちゃいましたー♪』とか言って平気でやりかねないからな」
「もう! ソフィーさんもロウバストさんも人のことをなんだと思っているんですかー!? 私が思いついたのはただ投げ捨てるだけじゃなくて、毒虫さんに刺されるか咬まれるかして毒に侵されて苦しむピッグマン商会の人達に取引を持ちかけると良いんじゃないかなーって思っただけなんですよー!?」
「ラピ様、それはもっと悪質じゃないですか!?」
「ああ、まったくだぜ」
「がぅがぅ」
「キュウキュウ」
「ラピ、取引って『解毒してあげるから知ってることを洗いざらい吐けー!』みたいな?」
「はい! ピッグマン商会の人達はソフィーさんの聖なる魔法で解毒してもらえて、私達は知りたい情報を手に入れることが出来るとゆー、お互いWin-Winの方法なのですー♪」
「いや、それ、向こうは元の状態に戻るだけで利益ねえだろ……」
「ラピ様、私にそんな悪どいことをやらせようと思っていたのですか!?」
「はぁー。とりあえずラピの案は却下ね。向こうから喧嘩吹っ掛けて来たら好きにして良いけど、こっちから喧嘩吹っ掛けるのはなしにしてくれる?」
「雪音ちゃんがそう言うのでしたら仕方ありませんねー。向こうが手を出して来るのを手ぐすね引いて待つことにするのですよー」
ラピがいつになく殺る気だ……。欲求不満でも溜まってるのかな?
「ご主人様ぁ、結局その壺も人間の幽霊を呼び寄せる呪いの魔導具じゃないなら、ここの幽霊騒動って誰が起こしてるのかなぁ? 建物の持ち主のアンラキさんて親類縁者がいないって話だったんだよね?」
エルフのメリッサが唇に人差し指を当てて首を傾げてる。
「資料によるとね? とりあえず、日記にはまだ続きがあるみたいだから続きを読めば何か分かるかもね」
そう言って私は次のページを開いてみた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
≪12月7日≫
外に出るたびにピッグマン商会の旗印を掲げてる蜥蜴車に狙われるから俺は食料を買い込んで籠城することにした。毎日玄関の扉や窓をドンドン叩いて大声で叫びながら奴らは嫌がらせして来やがる。近くに住んでる奴らはピッグマン商会を恐れて誰も助けてくれやしねえ。泣きついてようやく来てくれた衛兵が証言を聞きに回っても知らぬ存ぜぬで通しやがった! クソッ! 俺はただアルと一緒に静かに商売して暮らしたかっただけなのに!
俺はもうダメだ!
誰か俺の仇を取ってくれ!
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「最後の2行、書き殴ったように書いてありますけど、これを書いてる時、アンラキさんに何かあったんですかねー?」
と、私の横で日記を一緒に見ていたラピが疑問を口にした。
「きっと書いてる途中で誰かが家に押し入って来たことに気づいたアンラキさんの最期のメッセージなんだよ! ご主人様、仇を取ってあげようよ! このままじゃアンラキさんがすっごく可哀想だよ!」
巨乳エルフのメリッサがすっごく興奮してる!
「メ、メリッサ、ちょっと落ち着こうね!? ここを借りて私達がお店開いて営業してれば、向こうから手を出して来ると思うから」
「ちょっかい出して来た奴らを1人1人捕まえて館の拷問部屋にぶち込むんだね! 任せてご主人様! あたし、拷問得意だから!」
メリッサが親指を立ててウィンクして来た。
あー、うん、蹴り上げて玉割って口割らせるの、メリッサ得意だもんね……。
「私はこのアルって人が幽霊騒動の犯人だと思うんだよね〜」
虫パニックから立ち直ったキアラが両手を頭の後ろで組みながらそんなことを言って来た。
「でも、一緒に暮らしていたならアンラキさんが連れ去られて行く時にアルさんも一緒に連れて行かれて殺されちゃってるんじゃないですかねー?」
「ラピっち、一緒に暮らしてるんじゃなくてアルはきっと通い妻だったんだって! 事件当日はここに来てなくて、後日、夫を殺されたことを知ったアルが、この家を乗っ取ろうとする商会の人間達に実家からなんかしらの方法で幽霊をけしかけて」
「キアラぁ、アルさんがアンラキさんの奥さんだったら、この家を普通に相続してるんじゃないかなぁ?」
「いや、そもそもアルってのは人間じゃなくてアンラキの飼ってた動物の名前なんじゃねえか? もし人間なら日記の最後ん所は『俺』じゃなくて『俺達』とか『俺とアル』って書くと俺は思うんだが?」
「大男の考えに私も賛成なのですわぁ〜ん。アルって言うのが人間でアンラキの妻や恋人であるなら日記にもっとアルのことを気遣うような記述があっても良いと思うのですわぁ〜ん」
なんか推理大会が始まっちゃった……。じゃ、私が魔法を使ってみんなの疑問を解決してあげるね! レッツ、サイコメトリー♪
私は今開いているページの上に手を置いて、日記に残されてる残留思念を魔法で読み取ってみた!
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
ドガッ! ドガッ! ガシャーン!
「な、なんだ今の音は!? ピッグマン商会の奴ら、業を煮やして窓をぶち破って入って来やがったのか!? クソッ!?」
俺は正義感溢れる誰かがこの日記を読んで俺の仇を取ってくれることを願ってメッセージを書き殴り、机の二重底になってる引き出しの中に日記を突っ込んだ。それから、俺の横で心配そうに俺のことを見つめて来るアルに声を掛ける。
「アル、俺はもうダメだ! 書斎の扉には鍵が掛かってるが、きっと奴らはそれをぶち破って中に入って来ちまう! 俺のことはいいからアルは逃げるんだ! そこの壁の向こうのトイレから逃げれば奴らとかち合わず地下に逃げられるはずだ! 地下に行ったら壁の中に逃げるんだぞ!」
「キュルルルルル……」
「そんな悲しそうな声で鳴かないでくれ。奴らの狙いはお前じゃなくて、この俺だ。アルの存在がバレてたら、もっと早く強引な手段を取ってたはずだからな」
「キュルルルルル……」
ドカドカドカ! ガチャガチャ! ガチャガチャ!
「ちいっ!? 鍵が掛かっていやがる!? おい、アンラキ! ここの鍵を開けろ! 大人しく出て来たら痛い目に遭わせないと約束してやる!」
「そうだぞ、アンラキ! 今出て来れば俺らは優しいから眠り薬を飲ませてから魔物の餌にしてやるぞ! 生きたまま魔物に喰われるのは嫌だろう?」
「「ぎゃははははは!!!」」
「クソッ!? んなこと言われてノコノコ出て行く馬鹿がいるか!? うぉおおおおおお!!!」
バターン! バターン!
俺は扉付近の本棚を倒して入り口を塞いだ! アルはもう逃げたよなと思って後ろに振り返るとアルがまだそこにいた!
「何やってんだアル!? 早く逃げるんだ! 解剖されて薬の材料になんかなりたくないだろ!?」
「キュルルルルル……」
俺は涙目になってるアルを抱きしめてトイレが裏側にある壁へと近づき、アルと最後の会話をした。
「いいか、アル。お前はここから逃げるんだ。壁抜けが出来るお前なら1人でここから逃げられるだろ? ここでお別れだ。お前と一緒に暮らせて楽しかったぜ」
「キュルルルルル!!」
アルがアンラキにひしと抱きついた!
「一緒にいるだぁ!? 俺はお前に生きてて欲しいんだよ! ちっ、仕方ねえ。契約者であるアンラキが命ずる! 今すぐこの壁をすり抜けて奴らに見つからないように地下へ逃げろ! 地下へ逃げたら壁の向こうの土の中で契約が切れるまで隠れてるんだ!」
「キュルルーーー!?」
「じゃあな、アル。今までありがとよ」
「キュルルーー!!!」
アルの意思に反して体が動き出し、アルは壁をすり抜けて書斎から消えて行った。
ドガッ! パキン! ドガッ! パキン! ズズーン!
「んだよ!? 本棚倒して扉が開かねえようにしたってえのに扉の蝶番壊すのは反則だろうが!?」
「アンラキぃ〜、手間ぁ掛けさせやがって分かってんだろうな、てめえ?」
「そうだぞぉ〜アンラキぃ〜? 鍵を開けなかったからお前は生きたまんま魔物の餌にしてやんよ。良い声で鳴いてくれよ? けひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
廊下側に斜めに倒れた扉の隙間から2人の人相の悪い武装した男達が書斎の中へと入って来た!
「はっ! 誰が大人しく殺されてやるかよ!」
俺はランプを2個、ピッグマン商会の奴らの足元にある本棚に投げつけた!
ガチャン! ガチャン! ボォオオオオオオ!!!
割れたランプの中にあった火が本棚の本に次々と燃え移り、激しく燃え始めた!
「てめえ!? 気でも狂ったのか!?」
「普通、書斎ってのは燃えないように消火魔法が施してあるはずだろ!? なんでこんなに火の回りが早いんだ!?」
「はっ! お前らがいつかこんな風に押し入って来ると思ったから準備しておいたんだよ! 死にたくなかったら、サッサとこの部屋から出て行くんだな!」
へっ、一泡吹かせてやったぜ!
「クックックックッ!」
「な、何がおかしい!?」
「ドヤ顔してるところ悪いんだが、おりゃあ、こんななりだが実は魔法使いなんだよ。だから」
パチンと自称魔法使いの男が指を鳴らした!
すると、空中に巨大な水球が出現したかと思えばそれが落下し、地面で激しく燃えている火の海をあっという間に消し去ってしまった!
「む、無詠唱でそんな魔法を見るからに馬鹿そうなお前が使えるはずないだろう!?」
「クックック。まっ、ボスから渡されたアイテム使っただけなんだけどな? だが、『見るからに馬鹿そうな』ってえのは酷くねえか? おりゃあ、傷付いたぜぇ〜?」
そう言ってピッグマン商会の男が1歩前に踏み出して来たからアンラキは後ろに下がろうとして誰かに肩を掴まれた!
「へっへっへ。逃げられねえよ?」
グサッ!
「ぐあっ!? い、いつの間に俺の後ろへ!?」
ドサッ!
アンラキは横腹を麻痺毒を塗ったナイフで刺され、地面に両膝をついて倒れこんでしまった!
「お前がアニキの水球に魅入ってる間にだよ!」
ドカッ!
アンラキはナイフの柄で頭を殴られ気絶してしまった……。
「ったく、余計なアイテム使っちまったじゃねえか。あとでボスにどやされそうだぜ」
「でも、アニキ、これでようやくこの家を俺らの物に出来ますね! ボスもアニキの失態を許してくれますって!」
「俺の失態は部下であるお前の失態だ。だから、お前が俺の代わりにボスに怒られて新しいアイテムをもらって来い」
「そりゃないですよ、アニキ!?」
「うるせえ! お前はとっととアンラキの奴を背負いやがれ! 俺は先に行ってるぞ!」
「ちょ、アニキ、1人で先に行かないでくださいよ!?」
そして、アンラキはピッグマン商会の人間によって書斎から運び出されてしまったのであった……。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜




