第10章 雪音ちゃんと村娘達 143 〜 黄金骸骨亡者達との戦いが終わって〜
「ふぅ〜、ようやく終わりました。それにしても、聖属性魔法で己が身を守る亡者がいるとは思いもしませんでした。非常に驚きです」
両腕が蟷螂のような大鎌で、蟹のように先の尖った4本脚を持ち、蠍のような尻尾が生えている骸骨亡者達を聖なる破邪の噴火で一掃した聖女ソフィーが、地面の上に崩れ落ちて散らばった白い骨の残骸を見ながらそう呟くと、
「亡者が聖属性魔法を使うなんて卑怯ですよねー。ソフィーさんが転移魔石の事故でダンジョンに転移して来た場所に今の蠍さん擬き達がいなくて良かったですねー♪」
と言ってラピがソフィーに向かって、にっこり微笑んだ。
「はい、本当に良かったです。聖属性の防御魔法に聖属性の攻撃魔法は効きませんから、もし、私1人で今の亡者達と出くわしていたらと思うと」
ソフィーは最悪な事態を想像してブルブルっとその身を震わせた。そのとき、大きな胸もぷるぷる震えているのをチャラ男は見逃さなかった!
「なあ、ピート。震える聖女ちゃんって最高じゃね?」
「マイケルが言ってるのは揺れる胸を見ての発言だと思うが、まぁ、聖女様の怖がる素振りが素晴らしいのは俺も認めよう」
◇◆◇
「あら? 白い骨の残骸の中に何か光るものが見えましたわ」
「ど、どこの残骸ですか、ラスィヴィアさん!? それ、ドロップ品かもしれませんよ!?」
ゴスロリっぽい服を着た爆乳ツインテール吸血鬼ラスィヴィアの発言に興奮するロリコン!
「そこの白い骨の山からなのですわぁ〜ん」
ラスィヴィアが指差すとロリコンは急いで白い骨の山を手でかき分けてドロップ品がないかどうか探し始めた!
「そこまで必死になって探す姿は見ていて実に滑稽なのですわぁ〜ん」
「なんとでも言ってください! ラスィヴィアさん達には潤沢な資金があるからそんなことが言えるんだと思いますが、俺達にとっては今回の探索で出した赤字分を補填する可能性がある大事な収入源なんです! あっ!? ありました! 指輪がありましたよ、ラスィヴィアさん!」
四つん這いになってドロップ品を探していたロリコンは見つけて拾った指輪を頭上に掲げてラスィヴィアに見せてきた!
「それは良かったですわね? あら、その指輪……、かなりの魔力が込められておりますわね?」
「ほ、本当ですか!? それじゃあ、この指輪は古代の装飾品!?」
「そう言うことですわね。探せば他の白い骨の山からも見つかるのではないかしらぁ〜ん? 私の分も取って来てくださると嬉しいのだけど?」
「っ!? す、すぐに探して来ま……、えっ、俺が取って来るんですか?」
「私のおかげで指輪が見つかったのですから、そのくらいしてくれてもよろしいのではなくて? それとも、この私に地べたを這いずり回って指輪を探せとお前は言うのかしらぁ〜ん?」
「い、いえ、決してそのようなことは!? 分かりました。ラスィヴィアさんの分も俺が探して来ます」
「頼みましたわぁ〜ん♪ 私の分は1つで構わないから骨漁りに精を出すと良いですわぁ〜」
「えっ!? ラスィヴィアさん、1つで良いんですか!? かなりの数の骸骨亡者を溶岩弾で倒していますよね!?」
「構いませんわ。その代わり、お前が見つけて来た指輪の中から私が1番気に入った宝石がついている物を選ばせてくださいまし」
「そんなことで良いのでしたら喜んで差し出しますよ! でも、ドロップ品が指輪だけとは限らないんじゃないですか?」
「その時はその時ですわぁ〜ん。では、頼みましたわよ?」
「なら、指輪が出て来るように祈りながら探してみますよ!」
そう言ってロリコンは白い骨の残骸で出来た小さい山々からドロップ品を四つん這いになって探し始めた!
◇◆◇
「がぅがぅ♪」
雪狼のクゥーが白い骨の残骸を漁り始めた!
「おいおい、白いの。犬がいくら骨好きだからって亡者の骨は止めておいた方が良いんじゃねえか? 腹ぁ壊しちまうぞ?」
マッドが心配そうにクゥーに声を掛けると、クゥーが顔を上げてマッドの方に顔を向けた。その口には大きな宝石のついた指輪が咥えられていた!
「おいおい、マジかよ!? ひょっとして、他の骨の山ん中にもドロップ品があったりすんのか!?」
「がぅがぅ♪」
クゥーはマッドの言葉に頷いたあと、雪音ちゃんの元へと走っていった!
「こうしちゃいられねえ。俺もドロップ品を見つけてやるぜ! 少しでも金目になるもの手に入れて酒場のツケを返さねえとあの店で酒が飲めなくなっちまう!」
マッドは白い骨の残骸で出来た小さい山々からドロップ品を四つん這いになって探し始めた!
◇◆◇
「がぅがぅ♪ がぅがぅ♪」ごしゅじんさまー、ボク、ゆびわ見つけたよー♪
「へぇ〜、そっちは指輪がドロップしたんだ? どれどれ〜? わっ、おっきくて綺麗な宝石だねぇ〜♪」
私はしゃがんでクゥーの口から指輪を受け取って眺めたあと、クゥーの頭を撫で撫でしてあげた♪
「くぅ〜ん♪」と鳴いてクゥーは嬉しそうな顔をし、尻尾をふりふりさせている。
『どうせ妾は役立たずなのじゃ〜』といじけた魔剣ディーアを宥めるのに苦労した今の私にとって、クゥーは最高の癒しだよぉ〜♪ はぁ〜、癒される〜♪
私はクゥーに抱きついて、もふもふしまくった!
「雪音ちゃん、黄金骸骨竜退治お疲れ様なのですよー♪」
「雪音様、お疲れ様でした。お怪我はありませんでしたか? もし、お怪我をされているようでしたら私が治癒魔法で治して差し上げます」
ラピとソフィーが私を労ってくれた。
「ラピもソフィーもお疲れ様。怪我はしてないから大丈夫だよ」
「それは良かったです。それで雪音様? 地面に刺さっているふた振りの魔剣のことについてなのですが……」
「見た目がまったく同じなのですよー♪ 効果も同じだったら、せっかくのドロップ品も無用の長物さ、んぐ!? ふがふが!? ふがふが!?」
私はラピの口を両手で塞ぎ、テレパシーの魔法を使ってラピの頭の中に話し掛けた!
『ちょっとラピ! 今、ディーアを刺激するようなことは言わないでくれる!? なんか自分のこと役立たずだと思っていじけちゃったのをついさっきやっと宥めすかしたばかりなんだから!』
『あらら、それはごめんなさいなのですよー。もう言いませんから手を離してもらっても良いですかー? あっ、唇使って塞いでくれるなら、いつまでも塞いでいてくれて良いのですよー♪』
『こんな人前でキスなんてしないわよ!! か、帰ってからならしてあげるから』
『わーい♪ 約束ですよー? 忘れちゃイヤですからねー?』
『忘れないから、ラピもさっき私が言ったこと忘れないでね? ディーア宥めるのすっごく大変だったんだから』
『分かったのですよー♪』
私はラピのお口を解放してあげ、ふた振りの魔剣のうち、ディーアが宿ってる方の魔剣を恐る恐る手に取ってみた。
———— 妾は無用の長物なんかじゃないのじゃ……。主様は妾の黒水晶のように黒い刀身がとっても綺麗だと言ってくれたのじゃ。黄金造りの柄も素敵だし、そこに埋め込まれた5つの大きなエメラルドの魔石達も魅力的だと言って褒めてくれたのじゃ……。女性の価値は戦闘力じゃないんだから戦闘で役に立てないことがあっても気にすることなんてないって言ってくれたのじゃ…… ————
あっ、若干ネガティブ入ってるけど、さっきのに比べたら大したことなかったと、ホッとひと安心する私。
「そうだよ、ディーアの価値はそこにあるだけで見た人の心に深く印象を残す綺麗なその体なんだから! 美術品として最高の剣だと私は思うよ!」
私はディーアをよいしょした!
「はい、とっても綺麗なお体なのですよー♪ 光沢のある透き通った黒い刀身が素敵ですよねー♪ ソフィーさんもそう思いませんかー?」
ラピも私に続いてディーアをよいしょしてくれた!
「えっ、えっ!? は、はい! 私も素敵な刀身だと思います! 骸骨竜と激しく戦ったあとなのに黒水晶のような刀身には欠けている所が見受けられませんし、頑丈な美術品って安心できますよね! 私、教会の美術品をお掃除中に何度も誤って壊してしまったことがありまして、はっ!? い、今のは聞かなかったことにしていただけないでしょうか!?」
いきなりラピに話題を振られて戸惑いながらもディーアのよいしょをしてくれた心配りのできるソフィーだったんだけど、ソフィーの恥ずかしエピソードまでうっかり披露してしまったようだった……。
「ソフィーって結構おっちょこちょいさんなんだね?」
「がぅがぅ」
そう言えば、ソフィーが妖刀に体乗っ取られちゃったのって、妖刀の赤い刀身の綺麗さに見惚れてうっかり妖刀を手に取っちゃったからだったっけ? 奴隷商人の館に帰ったらソフィーに壊されないように美術品に強化魔法を掛けておくことにしようっと!
「はぅ!? は、恥ずかしいです……」
ソフィーは顔を赤らめて両手で顔を隠してしまった!
「ソフィーさん可愛いですねー♪ でもですねー、雪音ちゃん? 可愛いからってソフィーさんに手を出しちゃダメなのですよー?」
「出さないわよ!?」
「がぉー」クゥーはまた始まったーって思っている。
ソフィーの血はラピに劣らずすっごく美味しかったけど、今のソフィーには妖刀に乗っ取られていた時の記憶なんて私が消しちゃって残ってないからソフィーに「血ぃ飲ませて?」なんて頼めないし!
「それを聞いて安心したのですよー♪ それで話を戻すんですけどー、見た目同じの魔剣さんの効果は同じなんですかー? ってゆーか、どっちがドロップ品の方なのでしょう?」
「あー、実は今褒めてた方がドロップした魔剣なのよ」
「こっちがドロップした方だったんですねー。あれ? でも、ドロップした方の魔剣さんを雪音ちゃんはディーアって呼んでましたよね? それってどういう」
「あぁ、それはね、ディーアが私と一緒にいるために魔物を引き寄せない魔剣にお引越しするのじゃとか言ってお引越しした結果なの」
「あー、そうだったんですねー。えっ、じゃあ、さっきの戦いってひょっとしてディーアさんのせいだったんですかー!?」
「がぅ!?」
ラピとクゥーがさっきの戦いが発生した真相を聞いてびっくりしている!
「やれやれなのですわぁ〜ん。私達、最後の最後までその魔剣に振り回されていたとか腹立たしいこと、この上ないのですわぁ〜。雪音様、帰る前にどこかの底なし沼か火山の火口に放り投げてから帰ることに致しませんこと?」
後ろから現れたラスィヴィアが物騒なことを言ってきた!
———— どうして、そんな酷いことを言うのじゃ!? 妾のおかげで今、向こうにいる人間の男どもはホクホク顔じゃと言うのに!? 主様!? 主様は妾を底なし沼や火山の火口に放り投げるようなことは考えておらんよな!? ————
オイタしたお仕置きで中に入れたら時間が止まっちゃう魔法の袋に入れようと思ってたけど、今それ言うとディーアが余計にうるさくなるから言うのは止めておいた!
あれ? 意識ある魔剣って魔法の袋に収納できるのかな? あっ、でも前に女性を攫って酷いことしてた山賊のボス殺してその魂を定着させた頭蓋骨は魔法の袋に普通に収納できたから魔剣も収納できるよね?
———— 主様どうして何も言ってくれないのじゃ〜!? ま、まさか主様も!? ぐすんっ ————
しまったぁ〜!? 別のこと考えてたらディーアがまた泣き主さんモードに突入しちゃいそうだ!?
「ごめんごめん! ちょっと別のこと考えてただけだから! ディーアを底なし沼や火山の火口に捨てようだなんて、これっぽっちも思ってないから! ディーアの綺麗さを館にいるみんなにも見せてあげようと思ってるから安心して! ディーア、お風呂好き? ディーアをお風呂に飾ればきっとみんながうっとりしながらディーアのこと褒めてくれるよ! ディーアの体、宝石みたいにすっごく綺麗だから!」
「雪音ちゃん、お風呂に魔剣さんを飾るんですかー? それはどうかと私思うんですけどー?」
「がぅがぅ」
「雪音様、亡者どもの腐臭が染み付いた魔剣をお風呂に飾るのはどうかと思いますわぁ〜ん」
なぜか、みんなからダメ出しくらった。雪音ちゃん、ちょっと悲しい……。
———— この新しい体がダンジョンに出現したのはついさっきのことだから亡者どもの腐臭なんて染み付いていないのじゃ!? ————
「そんなこと言ったら長いこと、このダンジョンにいる私達の方が臭いんじゃないかな?」
魔法で鼻が臭く感じないようにしてるけど、このまま帰ったら多分、館にいるみんなに怒られちゃうからダンジョン出たら消臭魔法作って服とか体についた腐臭を取り除かないとね!
———— そうじゃ、そうじゃ! 主様の言う通り、お主達の方が臭いのじゃ! ————
「ねぇ、ディーア? ちゃんと一緒に連れて帰ってあげるから少し大人しくしててくれるかな? 私ね、すっごく、すっごーーーーく疲れてるの。誰のせいか分かるかな?」
———— そ、それは、もしかして、もしかすると妾が骸骨竜を呼び寄せたからじゃったりするのかえ!?
————
「それ以外にあると思う?」
私はディーアに笑顔で凄んだ!
———— わ、妾を一緒に連れて行ってくれるなら大人しくしてるのじゃ! ————
こうしてディーアは大人しくなってくれたけど、私はとっても疲れた。骸骨竜と戦ってる時よりも疲れたかもしんない。早くお家に帰りたいよぉ〜。しくしく。
「え、えっと雪音様? 今の話からすると、骸骨竜を倒してドロップした魔剣には亡者を引き寄せてしまう効果はないと言うことで合っておりますでしょうか?」
過去の恥ずかしエピソードをうっかり披露してしまって恥ずかしがってたソフィーがいつの間にか復活して私に質問してきた。
「そーゆーこと♪ あとはディーアが元々宿ってた、亡者達を引き寄せちゃうこっちの方の魔剣を元あった場所の地面に突き刺して、横にある黄金石碑に彫り込んである古代文字の注意書きを翻訳したものを黄金石碑の裏側にでも彫り込んでおけば、魔剣をダンジョンから持ち出して近隣の村が亡者達に襲われる事態を防げるようになるんじゃないかな?」
「これでやっとダンジョンから帰れるのですよー♪」
「がぅがぅ♪」
「ラピ様、館に戻りましたら私がお風呂で亡者どもの腐肉や返り血などで汚れてしまったラピ様のお体を綺麗に洗って差し上げますわぁ〜ん♪」
帰れることを喜ぶラピ達と打って変わって、ソフィーはなんか浮かない顔をして私に話し掛けて来た。
「雪音様、現代文字で注意書きを書いておいても、それを無視して亡者を引き寄せてしまう魔剣をダンジョンから持ち出して良からぬことに使おうとする輩が出て来てしまうのではないでしょうか?」
うっ、ソフィー鋭いね!? 魔剣を外に出せない魔法を作ってダンジョン出る前にダンジョンの入り口に展開させておこうと思ったんだけど、ソフィーにそんなこと言えないし、うーん、なんて言い訳しよう?
「そ、そうだね。そんなことされたら困っちゃうよね? ソフィー、なんかいい考えあるかな?」
「はい! 私にお任せください!」
ソフィーがボインボインのお胸に右手をバンと当てて頼って頼ってオーラを醸し出している!
「ソフィーさん、何か良い考えでもあるのですかー?」
「がぅがぅ」
「はい、私の聖なる」
「聖なる結界を入り口に展開させて、その聖属性の魔剣を通れないようにするのではないかしらぁ〜ん?」
「なっ!? 私が言おうとしていたことをどうしてラスィヴィアさんが言ってしまうのですか!? 私が言って雪音様に『ソフィーは頼りになるね! じゃあ、お願いね、ソフィー♪』と言っていただきたかったのに〜!!」
あっ、ソフィーがラスィヴィアをポカポカ叩き始めちゃった!?
「わ、私はただラピ様にご説明しようと思っただけですわぁ〜!? あっ、どうして拳に聖属性の魔力をかすかに纏わせておりますのぉおおお!? や、止めてくださいましぃ〜!?」
私はテレパシーの魔法を使ってラピに話し掛けた。
『ねぇ、ラピ? ソフィーって、ラスィヴィアが魔族だって絶対気づいてるよね?』
『ですねー。でも、討伐するつもりはないようですから、このままでも大丈夫じゃないですかー?』
『いや、とめようよ……。それにラスィヴィアがソフィーの聖属性の攻撃に快感感じるようになっちゃって、ソフィーにラスィヴィア取られちゃうかもしれないよ?』
『そしたら、ラスィヴィアさんはソフィーさんに押しつ、じゃなくてお任せして、雪音ちゃんといっぱいラブラブできるようになりますねー♪』
そう言ってラピが後ろから私に抱きついて来た。
『ラスィヴィアが気の毒に思えて来たから、ちょっと止めて来るね?』
私はラピを振りほどいてラスィヴィアを助けに向かった!
『あっ、雪音ちゃん……。( むぅー、ダンジョンに入ってからの雪音ちゃんは私の扱いが雑になっているような気がするのですよー。館に戻ったらいっぱい構ってくれないと血を飲ませてあげないのですよー? あっ、良いこと思いつきました! 館に戻ったら数日間、雪音ちゃんに私の血を飲ませてあげないことにするのですー♪ そうすれば、雪音ちゃんは私の血が欲しくて欲しくてたまらなくなって私に血をねだって来て、それと引き換えに私のお願いを色々と聞いてくれるようになるかもしれないのですよー♪ うふふー♪ どんなお願いを聞いてもらいましょうかねー♪)』
ラピは妄想の世界に旅立って「ラピ〜、ラピ〜、お願いだからイジワルしないでラピの血、飲ませてよぉ〜」と自分の血を求めてねだって来る雪音ちゃんに、「そんなに私の血が飲みたいんですかー? それじゃー、この透け透けの服を着て私に可愛くおねだりしてみてくださいなー♪ それで私が鼻血を噴き出すくらい可愛くおねだりできたら考えてあげても良いのですよー♪」と言って、恥ずかしがる雪音ちゃんの姿や、物欲しそうな目で自分のことを見つめて来る雪音ちゃんの姿や、まぁ、色々な雪音ちゃんの姿を妄想して雪音ちゃんに構ってもらえない自分を慰め始めてしまうのであった。
◇◆◇
「ソフィー、ソフィー、ほら、ラスィヴィアもごめんなさいしてるから、そこら辺で許してあげて? ソフィーは魔剣が外に出られないようにダンジョンの入り口に結界を張れるんだよね?」
「はい! その魔剣は聖属性なのですよね? 聖属性の防御結界を展開させておけば、聖属性の武器などは通過できなくなりますから!」
「なら、亡者を引き寄せる魔剣をダンジョンの外に持ち出して悪用するようなことはできなくなるね! 近隣の村の住人の安否はソフィーの魔法にかかってるから入り口に着いたらお願いね、ソフィー! 頼りにしてるから!」
そう言って私はソフィーに向かってニコッと笑ってみた!
「はい! はい! お任せください雪音様! 今までで1番の防御結界を展開させることをお約束致します!」
ソフィーはすっごい笑顔になって両手で私の手を掴んでそんなことを言って来た!
頼られてすっごく嬉しそう。な、なんか照れるなぁ? って、普通これって逆のような気がするんだけど、ソフィー嬉しそうだし、ま、いっか?
「うぅ……、雪音様」
「大丈夫、ラスィヴィア?」
私はラスィヴィアのソフィーにポカポカ叩かれてた箇所にハイヒールの魔法を掛けてあげた。
「はふぅ。助かりましたわぁ〜ん。まったくあの聖女と来たら大人気ないのですわぁ〜」
「やー、あれはラスィヴィアが悪いと思うよ? それに、ちょっと気持ち良くなっちゃったんじゃないの? ラスィヴィアのことだから」
「そそ、そんなことはありませんわぁ〜ん!?」
あっ、やっぱり気持ち良くなっちゃってたんだね?
私がジト目でラスィヴィアを見続けると、
「からかい易そうでしたから、からかって怒らせたら攻撃して来る時に聖属性魔法を使って来てくれるかもだなんて、これっぽっちも思っていなかったのですわぁ〜ん!?」
とラスィヴィアが犯行を自供し始めた!
ちょっと、さっきの発言はわざとだったの!? どうして、そんなリスキーなことしちゃうのよ!?
私はテレパシーの魔法を使ってラスィヴィアに話し掛けた!
『おふざけが過ぎるとソフィーに討伐されちゃうからね!? ラスィヴィアが魔族だってソフィー絶対気づいてるでしょう?』
『みたいですわね? でも、それはそれで命が危険に晒されるような感じがしてゾクゾクして来ちゃうのですわぁ〜ん♪』
命を危険に晒してまでスリルを求めないでよ……。私は頭が痛くなってきた。
「おう、金髪の嬢ちゃん達! 見てくれよ、この戦利品をよお!!」
頭を押さえてる私の後ろから、マッドのとっても嬉しそうな声が聞こえてきた! 振り返って見てみればマッドの右手の人差し指から小指までの4本の指におっきな宝石のついた指輪が嵌められていた!
「聖女ちゃん、聖女ちゃん! 聖女ちゃんはどの指輪が良い感じ? 好きな指輪を俺っちの持ってきた指輪から選ぶと良いじゃん!」
チャラ男が腰に下げた袋から宝石のついた指輪を取り出して地面の上に置いた盾の上に並べ始めた!
「ちょ、どうして宝石付きの指輪をまとめて袋に入れて運んで来ちゃうのよ!? 傷でもついたらどうするの!?」
親、姉妹は別として、他の人が指に嵌めた指輪とか貰うのはイヤだからマッドの運び方も論外だけど、チャラ男の運び方もあり得ないんだけど!?
「金髪の魔法使い殿、ダンジョンの魔物が落としたドロップ品は多少こすれたくらいでは傷などつかないから、そんなに怒らないでやって欲しい」
怒る私にチャラ男の横にいたフトモモスキーがチャラ男を擁護する発言をして来た!
「そ、そうなの?」
訝しむ私にラスィヴィアが後ろから声を掛けてくる。
「その男の言うことは間違っておりませんわ、雪音様。よほど強い衝撃でも与えない限り、宝石にも指輪にも傷がつくことはありませんわぁ〜ん。それに、その指輪全てが古代の装飾品ですもの。滅多なことでは傷つくことはないと思いますわぁ〜」
「そ、そうなんだ? 大きな声を出しちゃってごめんなさい」
私は自分の知識不足を反省してチャラ男に素直に謝った!
「良いって、良いって! ぜ、全然気にしてないし! この指輪が無事手に入ったのも雪音ちゃんが闇属性の魔法を俺っち達の剣に属性付与してくれたからじゃん?」
「その通りです! マイケル、よく分かっているじゃないですか! ここで雪音ちゃんに強く出ようとしたら叩っ斬っているところでした! ところで戦利品の分配はどのように致しましょう? あっ、ラスィヴィアさん。俺が見つけてきた指輪はこちらの物なのですが、ラスィヴィアさんはどの指輪が良いですか?」
「でしたら、私はこのアメジストの宝石がついた指輪を頂戴いたしますわぁ〜ん」
「ぁん? ツインテールの姉ちゃんは1個で良いのかよ?」
マッドが怪訝な顔をしてラスィヴィアに質問をした!
「雪音様が骸骨竜のドロップした魔剣をご所望ですから、私は指輪1つで構いませんわぁ〜ん」
ラスィヴィアが私のこと考えて遠慮してくれてるよ!? アクセサリーとか大好きそうなのに!? むむむ、これは今度、私の血で作るってラスィヴィアに約束してあげた鉤爪を気合い入れて作ってあげないとね!
「ああ、そう言うことかよ。あんなバケモン、俺らの力量で倒せるわけねえんだし、聖女さんの支援魔法と金髪の嬢ちゃんの魔法で倒してドロップしたもんなんだから俺らがそこにケチつけんのはおかしいだろ? 気にしないで、あと1、2個持ってっても良いんじゃねえか?」
マッドが1番文句言って来ると思ってたのに今の発言は意外だったよ……。それに、ロリコンもフトモモスキーもチャラ男も、私が魔剣を貰ってくことに異存ないみたいだし、やっと帰れるってなったのにドロップ品で揉めてギスギスすることもなくて大助かりかな?
「他の指輪は特に惹かれませんでしたから私はこれだけで構いませんわぁ〜ん」
「マジかよ!? あの蠍みてえな骸骨どもに隕石みてえな燃える石っころ滅茶苦茶落としまくってぶっ殺してたのにか!?」
「良いじゃん、良いんじゃん、ラスィヴィアちゃんがそれで良いならさ! 惹かれない指輪を無理に押し付けなくても良いんじゃね? ところで、聖女ちゃんはどれにするか決まった?」
「あぁ〜、こちらの色の宝石も綺麗ですけど、こちらの色も捨てがたいです!」
「聖女ちゃん、その2つで迷ってるなら、その2つにしちゃえば良いじゃん?」
「分かりました! 色はこの2色にしたいと思います!」
「色はってどゆこと?」
「実は指輪の意匠がどれも素敵で決められなくて先に色の方を決めようかと思っていたのです!」
「マジっすか?」
「はい!」
ソフィーは優柔不断さんだったんだね? あのソフィー大好きなチャラ男がソフィーを見て呆れた顔してるよ……。
「雪音ちゃんは選ばないんですか?」
とロリコンが聞いて来た。
「私は良いよ。魔剣貰っちゃったからね。ラピは選ばないの?」
「雪音ちゃんが選んでくれるなら、どれでも良いのですよー♪ とゆーか、選んでくださいなのですー♪」
「じゃあ、私の瞳と同じ色のブルーサファイアのこれかな? これ、貰って行っちゃっても大丈夫?」
「はい、もちろんです! できれば雪音ちゃんにも貰って行って欲しいのですが……」
「今回の探索で大赤字って言ってたんだから気にしなくても良いよ。私に払った護衛料だって安くなかったんだし」
「分かりました! 雪音ちゃんの優しい心遣いに感謝します! 雪音ちゃんは本当に天使のような方ですね!」
「あはは、ありがと♪」
「雪音ちゃん、雪音ちゃん、私の薬指に嵌めてくださいなー♪」
ラピが頬を赤らめて私に左手を差し出してきた!
婚約指輪じゃないんだから……。でも、ラピは私のもので誰にもあげるつもりはないから別に薬指に嵌めてあげてもいっかな? それで、ラピが喜ぶなら。
「うん、良いよ! はい、これでラピは私のものだからね♪ 他の人に心移りしちゃダメだよ?」
なーんて、ちょっと巫山戯てラピの薬指に指輪を嵌めてみた!
「っ!? はい、私は一生、雪音ちゃんのものなのです〜〜♡ 雪音ちゃん大好きなのですよ〜〜〜♡」
そしたら、感極まったラピが私に抱きついてきて頬ずりしてきたり、チュッチュしてきたりと色々と大変だった! 主に私の心が恥ずか死ぬ感じで!
っで、指輪とのにらめっこが終わったソフィーが聖なる魔法を使ってラピの暴走を鎮めてくれるまで私はラピになされるがままだったのです。しくしく。だって、ラピが暴走しちゃったのは私のせいだったから、私が魔法使って強制的に落ち着かせちゃうのはちょっと後ろめたかったんだよね。ちなみに、男どもにはスリープの魔法掛けて眠ってもらったよ! あんなの見せられないからね!




