第10章 雪音ちゃんと村娘達 134 〜 早く魔剣ディーアを元あった場所に戻しに行こう!④〜
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右側の通路から新たに現れたゾンビ牛頭牛足人胴鬼と戦っている雪音ちゃんの姿を見守っていたラピは、何匹かの犬の鳴き声が聞こえたので鳴き声のする方に顔を向けてみた!
すると、ソフィーが聖なる破邪の矢で穴だらけにし、ラスィヴィアが念のためにと言って燃やしたゾンビ牛頭牛足人胴鬼の身体からメラメラと勢いよく立ち昇る炎の壁の向こう側から2匹のゾンビ黒妖犬が飛び出して来た!
「あらあらー、燃え盛る炎の壁を突き破って来ちゃうなんて元気なワンちゃん達ですねー♪ でも、腐ってて、かつ、燃えてるワンちゃんを飼うことはできませんので天にお還りくださいねー? それー♪」
ラピはいくつもの氷の槍を2匹のゾンビ黒妖犬に向かって飛ばした! けれど、その攻撃は俊敏なゾンビ黒妖犬の回避行動によって躱され、ゾンビ黒妖犬の残した炎の残像を貫いただけに終わってしまった!
「むー、当たらなかったのですー! なら、コレならどうですかー!」
ラピは大量の氷の礫を散弾のように2匹のゾンビ黒妖犬に向かって飛ばした!
「「ガフッ!? グルルルルルルゥ!!」」
俊敏なゾンビ黒妖犬達も流石にこの攻撃を避けきることは出来ず被弾してしまう!
「やったのですー♪ 腐ったワンちゃんは燃えていますから氷は多少溶かされちゃってるとは思いますけどー、でも、効いてはいるみたいですよねー♪ 1撃で仕留めてあげられないのは可哀想だとは思いますけど、氷の槍を避けてしまったのはワンちゃん達なので恨まないでくださいねー?」
そう言ってラピは青い宝珠を口に咥えた龍の杖を振って宙に再び大量の氷の礫を作り出し、それを2匹のゾンビ黒妖犬に向かってぶつけていった!
近寄ろうとする度にラピが放つ氷礫の散弾を浴びて徐々に動きが鈍くなっていく2匹のゾンビ黒妖犬!
意を決した2匹のゾンビ黒妖犬が最後の力を振り絞って今まで以上に身体から炎を発し、ラピに向かって特攻して来た!
「むむむ、逃げずに向かって来ちゃうんですかー? ゾンビさんは頭が悪いから逃げるってことを知らないんですかねー? 仕方ないのですー、とどめを刺してあげるのですよー!」
雪音ちゃんの血を体内に取り込んでいるラピの身体は炎に耐性があるため、普通の人間にとってはただ燃えているだけで脅威になるはずのゾンビ黒妖犬達の身体から発せられる炎も、ラピにとって脅威にはならなかった!
ラピは龍の杖を天上界の倉庫に収納し、時間差で飛び掛かって来たゾンビ黒妖犬達を舞を舞うかのようにヒラリ、ヒラリと躱しながら氷の刃でコーティングした手刀をゾンビ黒妖犬達の首へと叩きつけて斬り落とした!
「ふー、動きが鈍ってて助かったのですー。氷の礫を当てて弱らせる前に特攻されていたら危なかったかもしれませんねー」
ラピは額の汗を拭ってひと息ついた!
◇◆◇
同じ頃、マッドとフトモモスキーは冷や汗をかいていた!
「おいおい、腐った牛頭牛足人胴鬼の後ろに腐った黒妖犬が3匹もいやがるぞ!?」
「くっ!? 前回遭遇したのよりも遥かに大きい腐った牛頭牛足人胴鬼だけで厄介だと言うのに、お供までいるとは!?」
「がぅがぅ! がぅがぅ!」おちついてー! きっと、だいじょーぶー!
雪狼のクゥーが2人に向かって励ましの声を掛けた! もちろん、マッドとフトモモスキーには動物の鳴き声にしか聞こえていないのだが……。
「あー、俺らの言葉が通じるか分からねえが腐った黒妖犬どもの相手を頼んでも良いか?」
「がぅ!」まかせてー!
マッドは自分の言葉に大きく頷くクゥーの姿を見て驚きながら、
「おぉう!? マジか!? お前、賢いんだな! じゃあ頼んだぞ!」
とクゥーに声を掛けた。
「がぅ!」たのまれたよー!
クゥーは元気良く吠えてマッドに応えた!
「流石、金髪の魔法使い殿の使い魔だな、頼もしい限りだ! マッド! マイケルのせいで聖女殿の詠唱が始まるのが遅くなってしまったが、詠唱が終わるまではなんとか持たせるぞ!」
「おう!」
フトモモスキーとマッドは、ゆっくりと自分達の方に向かって歩いて来るゾンビ牛頭牛足人胴鬼に向かって駆け出した!
その動きに反応したゾンビ牛頭牛足人胴鬼のお供のゾンビ黒妖犬達もフトモモスキーとマッドに向かって走り出す!
そんな3匹のゾンビ黒妖犬目掛けて雪狼のクゥーが3本の氷の槍を飛ばすと、3匹のゾンビ黒妖犬は俊敏な動きでそれらの攻撃を躱し、標的をクゥーに切り替えた!
「がぅ!?」よけられちゃったー!?
クゥーは再び氷の槍を作って何度か飛ばしたが、それもヒョイヒョイっと避けられてしまった! 氷の槍が貫いたのはゾンビ黒妖犬の残した炎の残像のみ!
3匹のゾンビ黒妖犬はクゥーの周りを大きくグルグルと回り出した! そして、徐々にその包囲を狭めていくかのように回転の中心にいるクゥーへと近付いていく!
「がぉー」よけられちゃうし、てきのかず多いよー。うーん、うーん。
「がぉ!」そうだ!
クゥーは氷の剣を作ってその柄をパクッと咥えたのであった!
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その様子を見ていた私はと言うと、それはもう大興奮だった!
「灰色の大狼シ◯ちゃんの降臨だよぉおおおお!!!」
灰色の大狼シ◯ちゃんってゆーのはダークソウ◯に出て来る格好良いボスキャラクターなんだけどね、超カッコ可愛いの! 今のクゥーみたいに口に剣咥えて攻撃して来るんだよ! 倒さないとお話進まないから泣く泣く倒すんだけどね! ( 号泣 )
ちなみに、DLCだと子供の頃のちっちゃくて可愛いシ◯ちゃんと一緒にボスと戦えたりするんだけど、その時だけしか一緒に戦えなくて超悲しかったんだよぉおお……。しくしく。
でね、共闘した後に、過去から戻って来て森を抜けた先にいるボスのシ◯ちゃんの所に行くと通常とは違ったムービーが流れるんだけど、それがまた悲しくなって来るムービーなんだよネー。
って、ああ!? 3匹のファイヤーゾンビ犬が一斉にクゥーに飛び掛かっ!?
うっわ!? クゥーがその場でグルンと1周した横回転斬りで3匹のファイヤーゾンビ犬の身体を輪切りにしちゃったよ!?
「クゥー、すっごぉーーい! かっくいーーーー!!!」
雪音ちゃんは両腕を上下にブンブン振って大はしゃぎだった!
◇◆◇
スカッ! ガスッ! スカッ!
「雪音ちゃん、腐った黒妖犬の纏う炎を恐れることもなくコイツらと戦っている俺の勇姿も見てください! くっ、聞こえていませんね!?」
ロリコンは亡者を1撃で光に帰す黒の炎を発動させた魔剣ディーアを一生懸命振っているのだが、俊敏な動きをするゾンビ黒妖犬達の身体に一太刀も入れることが出来ずにいた!
そんなロリコンの戦う姿を見てラスィヴィアは高笑いをしながら馬鹿にする!
「おーほっほっほっほ。雪音様はお気に入りの雪狼の戦いに夢中なのですわぁ〜ん。そもそも、先ほどから攻撃がまったく当たっていないお前の戦いなど、見る価値が微塵もないのですわぁ〜ん」
———— まったくなのじゃ! もっと相手の動きをよく見て、あぁあああ!? どうして今のを外すのじゃああああ!? 主様からいただいた魔力が無駄に消費されてしまうではないか!? 妾の黒い炎は亡者どもを1撃で消し去る故、消耗が激しいのじゃ! ほら、飛び掛かって来るから、そこを斬り伏せ、にゅおおおお!? どうして、今のを斬り伏せず避けてしまうのじゃあああ!? ————
ロリコンの手の中で魔剣ディーアは盛大に文句を言いまくっていた! もちろん、その声は使い手に届いていない!
「ラスィヴィアさん、そんなこと言っちゃダメなのですよー? ラスィヴィアさんの攻撃だって、かすりはしているものの致命傷を与えられていないじゃないですかー?」
魔剣ディーアがブーたれてる途中で、中央の道での戦いが終わったラピが応援に駆け付けた!
「うっ、そ、それは!? ( ラ、ラピ様にみっともない所を見られてしまったのですわぁ〜ん!? きぃいいい、吸血鬼の翼さえ出せれば、こんな雑魚に後れなど取りませんのにぃいいい!!)」
ラスィヴィアはゾンビ黒妖犬が飛ばして来た火の玉を炎を纏わせた自前の長い爪 ( 注 : ロリコン達には古代の武器の伸縮自在の鉤爪だと思い込ませている! ) で振り払って消し去りながら歯噛みして悔しがった!
1、2、3、4、5とゾンビ黒妖犬を指差して数を数えながらラピは思った。
「( 燃える腐ったワンちゃん達の数が多いから氷の礫じゃ埒が明かなそうですねー。仕方ありませんので猛吹雪 ( 氷の礫版 ) を使っちゃいましょー♪) 今から氷の大魔法を使って弱らせますから、そしたら、あとはラスィヴィアさん達にお任せしますねー?」
「ギッタンギッタンの八つ裂きにして差し上げますわぁ〜ん!!」
「だ、大魔法ですか!? わ、分かりました! ( 味方ごと攻撃されたりしませんよね!? ラピさんの俺を見る目が時々怖いのですが、だ、大丈夫ですよね!?)」
ラピの宣言に顔色を若干悪くするロリコンであった! 自業自得である。
「では行きますよー? それー♪」
ラピが青い宝珠を口に咥えた龍の杖を横に振ると、ラピ、ラスィヴィア、ロリコンの3人の身体から猛吹雪 ( 氷の礫版 ) がまるでシューティングゲームの螺旋弾幕のように周囲に放たれた!
「「ガフッ!?」」
「「ゴフッ!?」」
「ギャフッ!?」
いきなり大量の氷の礫で出来た竜巻が高速で同心円状に広がって来たため、いくら俊敏なゾンビ黒妖犬とは言え、なす術もなく次々と身体に被弾しダメージを負っていった!
「これでもう速く動けなくなったと思いますので燃える腐ったワンちゃん達にトドメをお願いしますなのですよー♪」
「分っかりましたわぁ〜ん♪ ラピ様の前で私に恥をかかせた腐った駄犬どもにお仕置きなのですわ!」
そう言って、ラスィヴィアは動きの鈍ったゾンビ黒妖犬の元へと走って行く!
弱った身体では逃げられないと思ったゾンビ黒妖犬はいくつもの火の玉を宙に作り出して、それをラスィヴィアへと飛ばして来た!
「無駄、無駄、無駄なのですわぁ〜ん! この程度の炎の熱さでは私を燃え上がらせることなど出来ないのですわぁ〜!!」
ドラゴンのプラーミャの炎のブレスで悦んでしまうラスィヴィアにとってゾンビ黒妖犬の放つ火の玉の熱さは生暖かい風程度のものでしかなかった!
もちろん、生暖かい風は気持ち悪いので、ラスィヴィアは次々と飛んで来る火の玉を右腕を振って左腕を振って、また右腕を振って炎を纏わせた自前の長い爪の攻撃でかき消しながらゾンビ黒妖犬の元へと駆け寄った!
「おいたの時間は終わりなのですわ、この駄犬がぁああ!!」
「ギャイン!?」
姿勢を低くしたラスィヴィアが自慢の長い爪で地面を抉りながらゾンビ黒妖犬の身体を下からかち上げた!
「斜め十字に斬り裂く爪!!!」
そして、宙に浮かされたゾンビ黒妖犬はそのままラスィヴィアの下から斜めに掬い上げるような、左右の両腕を斜めに交差させた爪の攻撃で身体を四つに斬り裂かれ、さらに来た道を戻るようにして斜めに振り下ろされた左右の爪の攻撃によって細切れにされてしまった!
仲間の無惨に散った姿を見たゾンビ黒妖犬はたじろいだ。そして、ラスィヴィアが自分の方に振り向こうとするのを見て次は自分の番だと思ったゾンビ黒妖犬は慌てて踵を返し、逃げ出した!
「そこの駄犬? 逃げることは許しませんわよ?」
ラスィヴィアは逃げ行くゾンビ黒妖犬を猛然と追い掛けた!
そして、ゾンビ黒妖犬に追いついたラスィヴィアはそのお尻に長い爪を引っ掛けたあと、そのままゾンビ黒妖犬のお尻から胴体、頭へと縦に斬り裂いていった!
「やっと片付いたのですわぁ〜ん。翼さえ出せれば、こんな雑魚に速さで後れを取ることなんてありませんでしたのに……。でも、これってラピ様との共同作業ですわよね? ラピ様が弱らせて私が討ち取る! あぁ〜、でもラピ様には私自身を痛め付けて弱らせて欲しいですわぁ〜ん♡」
ラスィヴィアは身体をくねらせ妄想の世界に入ってしまった!
◇◆◇
一方、ロリコンはどうなったかと言うと……。
「くっ、先ほどより動きが鈍くなっているはずなのに、ギリギリで避けられてしまいます!? 」
———— なんてヘッポコ剣士なのじゃ!? 今のを当てないでどうするのじゃ!? えぇい、このままでは埒が明かぬから妾が手を貸してやるのじゃ! あとで主様に怒られようと無駄に妾の魔力を消費されるよりかはマシなのじゃ! ————
「この、当たれ、当たれぇええええ!」
ブォン! ブワァッ! ボボボボボボボボボボ!!!
ロリコンが試練の宝剣を振ると、その剣が発している黒い炎から黒い炎の鳥が飛び出した!
「ギャウッ!?」
そして、ロリコンの剣を避けたゾンビ黒妖犬の身体へと命中し、ゾンビ黒妖犬は無数の光の粒子となって消えていった!
「なっ!? 剣を振ったら黒い炎の鳥が飛び出しました!? こ、これは一体!? まさか、この魔剣は亡者を滅する黒い炎を剣身に纏わせる以外にこのようなことも出来たのですか!?」
ロリコンは試練の宝剣をマジマジと見つめている!
———— こ、こぉの愚か者めがぁああ!? 妾に見惚れてどうするのじゃ!? もう良い! 妾が残りも片付けてくれるのじゃ!! ————
魔剣ディーアの剣身から黒い炎がブワァッと膨れ上がったかと思えば、上空へと黒い炎の鳥が放たれた!
「うわぁああ!? か、勝手に黒い炎の鳥が剣から飛び出し!?」
そして、舞い上がった黒い炎の鳥はすぐさま上空で方向転換してロリコンを後ろから襲おうとしていたゾンビ黒妖犬の身体へと急降下し、体当たりをぶちかました!
ドゴォーン! キラキラキラ……。
その身に触れた亡者を滅することができる黒い炎の鳥の体当たりを受けたゾンビ黒妖犬は無数の光の粒子となって消えていった……。
———— うむ! やはりあのとき主様にお願いして追尾型遠距離魔法を作ってもらっておいて正解だったのじゃ! 魔力を無駄にすることなく、敵の意表も突ける! 妾は天才なのじゃ♪ かっかっか♪ ————
魔剣ディーアはご満悦だった!
「か、活躍する場面を試練の宝剣に取られてしまいました……。無念……」
雪音ちゃんにカッコ良い所を見せることが出来ず、ガクッと地面に崩れ落ちるロリコンであった……。




