第10章 雪音ちゃんと村娘達 128 〜 淫乱斬り裂き魔は淫乱斬り裂き魔じゃなくて聖女様!?⑤〜
「ところで雪音ちゃん、あっちはほったらかしにしておいても良いんですかー?」
「あっち? あっ!? もう! あなた達、倒れてる女性の側から離れなさい! ほら、下がって下がって!」
私はチャラ男達と地面で気絶している、正確に言えば私の魔法で意識を凍結されている聖女さんの間に割り込んで、デリカシーのない男どもをシッシと追い払った!
「んだよ、清楚な聖女さんの寝顔をちょっと見てただけじゃねえか?」
「聖女ちゃんの身体を揺さぶって起こそうとしなかったことを褒めて欲しいじゃん?」
「マイケル、嘘はいけませんよ? 俺が止めなかったら、絶対そちらの聖女の肩を掴んで揺さぶっていましたよね?」
「あー、女神様に誓って俺達は聖女殿の身体に触れたりはしていないからな、金髪の魔法使い殿? だから、そんなに怖い顔をしないで欲しいのだが」
「リーダーさんは視線が聖女さんのロングスカートのスリットから見える太ももに向いてた気がするんだけど?」
私がそう指摘するとむっつりスケベは明らかに狼狽えた!
「い、いや、そ、そんなことはななな、ないぞ!?」
「ピートの奴、キョドり過ぎじゃね?」
「だな。別にスカートめくって中見た訳じゃねえんだから、もっと堂々としてりゃあ良いのにな?」
「マッド、そう言う問題ではないと思いますよ?」
「とりあえず、あんた達、イヤらしい目で気絶してる聖女さんを見てたこと、あとで本人にバラされたくなかったら、このダンジョン内でしっかり活躍して彼女のこと守ってあげるんだからね? わかった?」
私はゴキブリを見るような目でむっつり達を見ながら脅迫しておいた!
「俺は幼女にしか興味ありませんから、そこの聖女をイヤらしい目で見ていた訳ではありませんが、雪音ちゃんの命令ですので聖女を危険に晒すことのないよう精一杯努力致します!」
ライトはロリコンさんだから、あなたの言うことは信じてあげるね?
「そんなの当然っしょ! もちろんバッチリ守るに決まってるじゃん! あっ、ちょい待って!? マッドやピートと違って俺っちもライトと一緒で聖女ちゃんをイヤらしい目で見てないかんな!?」
チャラ男の言うことは信用できないけど、聖女さんを守る発言の所だけは信じてあげるよ!
「んだよ? 俺だって別にイヤらしい目で見てなんかいねえぞ? 聖女さんの寝顔を見てただけで」
「マッド? 乙女の寝顔を覗き見るのは罪になるんだよ? 知らなかったの?」
「知るかよ!? 大体、んな法律ねえだろうが!? 助けてやったんだから寝顔見るぐれえ良いじゃねえか!?」
「まぁ、寝てる女性の太ももをチラチラ見てたあなた達のリーダーに比べたら、ずっとマシだけどね?」
「金髪の魔法使い殿ぉおおおお!?」
「なぁに? フトモモスキーさん?」
私のトゲのある言葉でフトモモスキーがもう煮るなり焼くなりしてくれと言った感じでガクッと項垂れながら、
「頼む、俺が悪かったから、もうそのことには触れないでくれ……」
と言って来た。
「良いわよ? でも、その代わりチャラ男達が聖女さんに変なちょっかい掛けないように気を配ってくれるかな?」
「ああ、任せてくれ……」
うん、視線のことでこれだけ言っておけば、みんな聖女さんに気軽にボディタッチしようとか思わなくなるよね? ラピとラスィヴィアは自分であしらうことができるけど聖女さんもそうとは限らないもんね? 予防線は張った! じゃあ、そろそろ聖女さんを起こしてあげよう!
私は聖女さんに掛けた意識凍結を解除した!
「ん……、冷たい……」
聖女さんが目をパチパチと瞬かせ、両手を地面についてのそりと上体を起こしたところに、
「あっ、気が付いたみたいだね? いきなり転移して来たと思ったらゾンビ牙棘背生竜達が突進して来るの見て気絶しちゃったんだよ? 覚えてる?」
と、私は少し前屈みになって前に垂れた前髪をかきあげながら聖女さんに優しく声を掛けた!
「その腐った牙棘背生竜達は気絶しちゃった聖女ちゃんの盾になるように俺達が戦って華麗にバッチリ倒しておいたから安心するじゃん! お礼に頬にキッスとかしてもらえるとスッゲー嬉しいんだけど」
私が予防線張った意味ないじゃない!? チャラ男、あとで私刑ね? ってゆーか、淫乱斬り裂き魔のお礼のチューに騙されてお腹をグサッと刺されちゃったのに懲りないよネー? あっ、私が記憶消しちゃったから忘れちゃってるのか……。
「マイケル、おま、聖女さんにそんなことお願いすんじゃねえよ!?」
「はっ!? そ、そうでした!! 助けていただいたお礼の言葉を申し上げることもせず大変失礼いたしました! 私の名は、私の名は……。思い、出せません……。どうして……」
聖女さんは青ざめた顔をしている!
ごめんね? 名前とか思い出せないと不安だよね? でも、貴女の今後のことを考えて必要な処置だったから許してね?
「それって、えっ、もしかして聖女ちゃん記憶喪失なん!?」
「なんと!? もしや転移して来る前に聖女殿の所属する町や村で記憶を失ってしまうほどの何か凄惨な出来事でもあったのでは!?」
ちょっとフトモモスキー!? どうしてさらに聖女さんの不安を煽るようなこと言っちゃうのよ!?
「おいおい、ピート、そんな言い方しちまったら聖女さんが可哀想じゃねえか? 確かにそういったこともあるかもしれねえがよお?」
「そうですよ。転移魔石に欠陥があって、予定していた場所とは違う場所に転移して来た可能性だってあるはずです。そして、それに附随して記憶障害が発生しているのではないですかね?」
マッドもロリコンも、ナイスフォロー!! 特にライトは今とても良いこと言ってくれたね! まさに私が言って欲しかったアンサーだよ!
私の中でライトの株が大幅に上がった!
「め、面目ない……」
フトモモスキーは仲間からダメ出しされて肩をガックリと落としている!
「そうそう! きっとライトの言う通り転移魔石が壊れてたんだって。だから、聖女ちゃん、そんな青ざめた顔しなくても良いんじゃね? それより、聖女ちゃん、このあと、どうすんの? もちろん俺達と一緒に来るよね? ここダンジョンだし、俺達と一緒の方が安心できるっしょ!」
「こらマイケル! そう聖女殿にグイグイと迫るんじゃない!」
あっ、チャラ男の明るい軽いノリとそれを窘めるフトモモスキーのコント?みたいなやり取りがクスッと聖女さんを笑わせた!
「ホント、この男どもと来たら発情期の邪悪な巨猿のようにうるさくてかないませんわぁ〜ん」
「まったくですねー。気絶から目を覚ましたばかりの女性を前にやかまし過ぎですよねー? 女性を不安がらせる発言もマイナスポイントなのですよー」
「がぅがぅ」
私の左右にラスィヴィアとラピがやって来て聖女さんと男達の間に人壁ができた! ラスィヴィアは発言とは裏腹に、その表情はニコニコしている! きっとラピの血を吸って機嫌が良いに違いない!
雪狼のクゥーが聖女さんの側にちょこんと座って尻尾をフリフリさせると、クゥーの姿を捉えた聖女さんの目が大きく見開き、口が半開きになった! そして、すぐさま聖女さんはデレデレッとした表情をさせてクゥーの頭を撫で撫でし始めた!
うん、可愛い&モフモフは大正義だよね!
「ラスィヴィアちゃんもラピちゃんも酷くね!?」
「私が正面にいるとは言え、その後ろに知らない男達が4人も立っていたら、それだけで圧迫感を感じると思うんだけど?」
私は後ろを向いてチャラ男に苦言を呈してあげた!
「た、確かに」
「なんだよ、別に取って食おうとしてる訳じゃねえんだから良いじゃねえか?」
「俺は雪音ちゃんの後ろで主に雪音ちゃんの白く美しいうなじや可愛いお尻を堪能していましたので、他の3人と一緒にしないでくださいね?」
なっ!? せっかくライトのこと見直してあげたのにロリコンはやっぱりロリコンだったよ!?
「ライトさん、私の雪音ちゃんを変な目で見ていたと自白したということで氷漬けにしても良いですかー? 良いですよねー?」
「はっ!? 濡れ衣を晴らそうとしたら、うっかり自爆してしまいました!?」
「ダメだよ、ラピ? そんなことしたら聖女さんが怖がっちゃうから」
「雪音ちゃん、ラピさんを止めてくれてありが」
ロリコンが私にお礼を言おうとして来たけど、それに構わず私は言葉を続けた!
「氷漬けにするなら聖女さんの目が届かない所でお願いね?」
「それもそうですねー? ロリコンさん、命拾いしましたねー?」
「はい、すみませんでした……」
私とラピから白い目で見られてロリコンは大人しくなった!
やれやれだよ……。さて、聖女さんはどうしてるかなと思って後ろを向くと、聖女さんは頬が緩んだ幸せそうな顔でクゥーを撫で撫でするのに夢中だった!
クゥーの毛は触り心地良いからいつまでも触っていたいよね! わかるよ、その気持ち!と思ってたら、ハッと我に返った聖女さんがクゥーを撫で撫でするのを止めて立ち上がった!
「わ、私なら大丈夫です! この度は私を助けていただき本当にどうもありがとうございました! お礼を……」
聖女さんが腰袋に手を伸ばすけど私がすっぽんぽんの聖女さんに魔法で作ってあげたのは聖女服だけなので、当然そこに腰袋があるはずなかった……。
『雪音ちゃん、失敗しちゃいましたねー』ってラピがテレパシーの魔法で話し掛けて来たので、
『うん、お金の入った袋も用意しておくべきだったよ……』と言葉を返すと今度はラスィヴィアが、
『全て転移魔石の事故のせいにしてしまえば問題ないのですわぁ〜ん』とテレパシーで告げて来た。
『慰め、ありがと』ってラスィヴィアに伝え、聖女さんの動向を見守る私。
「と思ったのですが、どうやら私は今、手持ちのお金を持っていないようですね……。皆様方、何か患っている慢性の持病などはございますでしょうか? それを女神様の祝福でもって癒して差し上げることでお礼とさせていただきたいのですが……」
なるほど、聖女さんだから、そーゆーお礼の仕方もありだよね! 私に斬り落とされた両腕をあっさり治しちゃうくらい凄いんだから、どんな難病でも治せそうだよね!
とか思ってたら聖女さんが私をジーッと見つめて来るから、
「私は自分の魔法で治せるから」と手をヒラヒラさせて断った。
「私は雪音ちゃんに癒してもらえますから必要ないのですよー」
「私も必要ないのですわぁ〜ん」
ラピもラスィヴィアも特に持病を患っていないので断りを入れた。
しまった!? 聖女さんが困った顔してるよ!? マッド達がなんか病気持ってることに期待しよう!
「ライトは幼女趣味を治してもらえば良いんじゃね?」
「おお、それは良い考えだな!」
「私が幼女を好きなのは病気ではありませんよ!? でしたら、おふたりは水虫を治してもらえば良いじゃないですか!?」
「かっかっか、ちげえねえ! ライトの言う通りだぜ! そっちは治療可能だもんな!」
とりあえずセーフ! 聖女さんが少しホッとした顔してるよ! 何もお礼が返せないと心苦しいもんね!
「おぉおおおいぃいいいい!? そんなこと、こんな可愛い子ちゃん達の前でバラすなよぉおおおお!?」
「マイケル、諦めろ。既に秘密は暴かれてしまったんだ。潔く一緒に治してもらおうではないか?」
「うふふ、そんなこと恥ずかしがらなくても良いではありませんか? 今、治して差し上げますね」
チャラ男もフトモモスキーも安心して良いよ? 水虫持ってたからってイヤがったりしないし、聖女さんの活躍の場を作ってくれたことに感謝してるぐらいだよ!
「聖女ちゃん、マジ、聖女だ……」
「あぁ、女神様が微笑んでいるかのような慈愛に溢れた微笑みだ……」
チャラ男とフトモモスキーの目から涙がこぼれ、ふたりは感動していた!




