第3章 雪狼 003 〜自然界って厳しいね〜
「何の用と言われても、湖の向こうに町が見えたから、そこに行く途中だったんだけど、この子の悲鳴が聞こえたから」
もふもふに抱きついたまま私は質問に答える。もふもふはどうして良いか分からず「くぅ〜ん。くぅ〜ん」と鳴いて途方にくれている。
「それで助けに来たと。お主変わっておるのう〜。まあよい。そう言うことなら魔族がここにいることに、ひとまず目を瞑ろう」
「私が魔族って、どうしてわかるんですか?」
「まあのう〜、吸血鬼っぽい羽が生えておるしのう〜。その身の内に宿る魔力が桁違いじゃ。だと言うに、こやつらは見た目に騙され、攻撃を加えるとは全くなっとらんのじゃ」
そうでした。羽出したままじゃ、人間じゃないってバレるの当たり前だよネー。人の町に行く前にしまっておこう。
羽を背中にしまい、目の前の青白い綺麗なお姉さん(話し言葉はお婆さんっぽいんだけど)に文句を言う。
「あなたは、この子達の飼い主か何かなんですか? だったら、アイツらをキチンと躾けないとダメじゃないですか! この子、いじめられてて体中、傷だらけだったんですよ!?」
それを聞いたクールビューティーは、ばつが悪そうに、
「傍若無人な魔族に、そんなこと言われるとは思わなかったのじゃ」と下を向いて肩をガックリと落とす。
この人?悪い人じゃなさそう。言い過ぎたかなと思いながらも、押しに弱そうなクールビューティーに私は追撃を入れる。
「アイツらを躾けられないようなら、また同じことが起きると思うのです。なので、この子をもらって行こうと思いますが構いませんよね?」
クールビューティーは目をクワッと見開く。
「魔族に雪狼をじゃと! それはダメなのじゃ!!」
「ダメなのじゃって言われても。ってゆーか、雪狼って神獣とかじゃないんですか? なんでいじめられてるんですか! むしろ守られるとか、崇められる存在じゃないんですか?」
その質問に、たじろぐクールビューティー。
「その子の母親が群れのボスで、そういう存在だったのじゃ。じゃが、昔に受けた古傷が元で、先日亡くなってしもうての。子供が2匹いるんじゃが、兄の方がの〜、力が強くて人望ならぬ狼望があるのじゃ。それでじゃ、そこにいる力が弱く、弱気な弟の方は兄に最近、煙たがられておってな。それを感じ取った配下のもの達が、まあ、そこで腹を出して転がってるヤツらなんじゃが、弟を排除しようとした訳なのじゃ……」
私はそれを聞いて憤慨した。
「そこまで分かっていながら、なんで放置してるんですか!?可哀相じゃないですか!!」
「うむ。わらわもそう思うておるから、こうして見回りに来たのじゃ。そこにお主がおっての〜。放置しておる訳ではない。いつも追っ払っておるんじゃが、目を離すとこうなのじゃ。一体どうしたら良いものか……」
このクールビューティー、悪い人じゃあないんだろうけど、追っ払ってるだけじゃ根本的な解決にならないと思うのです。クールビューティーっぽいのに、全くクールじゃないってどーゆーことですか?
「この子自身が強くなって、自分で追っ払うことが出来るとあなたは思うのですか?」
もふもふは私の言ってることが分かるのか、ションボリしてる。
「……無理じゃろうな」と残念ビューティーは諦めてるような声で答える。
「あなたがいなくなってしまったら、この子はどうなります?」
「わらわは不死だから、いなくなるということはないのじゃ」
この人、不死なんだ! 肌も青白いし雪とか氷の精霊様だったりするのかな?
「不死なんですか、すごいですね。でも、あなたがこの子の側にいて、状況が改善されると思いますか?」
「……。これまでの状況から考えて、それも無理じゃろうな」と悲しそうにクールビューティーは言う。
「じゃあ、第三者に預けて、この環境から一旦引き離した方が良いと思いませんか? この子はいじめられないで済みますし、アイツらにとっての邪魔者は消えますし、私はもふもふと一緒にいられて嬉しいし。良いことずくめだと思うのですが?」
「たしかに、お主の言うことにも一理ある。と言うか、それしかないのかもしれぬ。じゃが、お主は魔族じゃ! 魔族に神獣である雪狼を預けることはできぬ!」
「そんなに魔族、魔族言われても困るんですけど……。うーん。あっ! あのですね、私って元々この世界の住人じゃないんですよ。地球って言う別の世界で死んじゃって、この世界の神様に転生させてもらって今ここにいるんですよ〜」
私は言ってて思った。うん、信じてもらえないような気がする。めっちゃ嘘っぽい。
「そんな話、信じられる訳なかろう」
ですよネー。
「よし、神様に会ったとぬかすなら、神様の名前を言ってみるのじゃ」
すみません。神様の名前なんて聞いてないです。これは詰んだのです?
「どうじゃ、言えぬのか? やっぱり魔族じゃな! わらわをたばかって神獣である雪狼を連れ去ろうとしたのであろう。わらわが懲らしめてくれるわーーー!!」




