第二買 メンバー集結!?
みなさんどうもこんにちは!相田です!
この前曖昧トライアングルの番外編出してからまだ一週間くらいしかたってないのに、さつきストアの第二買だせたのは奇跡ですね(笑)
個人的にさつきストアはこれまでの中でもお気に入り作品なので、これからも投稿していきたいです!
今回は新キャラが二人!登場します!
どんな子たちかは読んでからのお楽しみ…ということで!
では前書きもこの辺にして
さつきストア 第二買 メンバー集結!?
どうぞご覧ください!
ピピピッピピピピッピピピピッピ…ガチャン。
と目覚まし時計を止める。
「ふわぁ~。もう朝か」
現在時刻は朝の八時。さつきストアまでは自転車で三十分足らずで、今日は十時からバイトだから…うん、早くもなく遅くもなくちょうどいい時間だ。
そしてリビングへと向かうと、お母さんが既に朝食を作っていた。
「おはよう、玉姫」
「うん、おはようお母さん」
ここまでは多分、どこの家でも毎日行われている、ありきたりでつまらないとまで言えるかもしれない、そんなやりとり。もちろん私とお母さんの母娘関係は普通なので、あくまで他と同じような挨拶だ。
しかしこっちの父子関係が少々…いや、かなり特殊な深宮家は、ここからが問題なのかもしれない、いや、問題だ。
「お、誰かと思ったら玉姫じゃないか~。おはよ~う。今日は起きるのが早いな~。なんかあるのか?」
はぁ。やっぱりいたのか、お父さん。
しかも相も変わらず朝から意味の分からないことを言っているし。
「あのねえ、ボケ親父、今この家に暮らしているのは三人でしょう?それで今あんたがここにいて、お母さんキッチンにいたらそこで"おはよう"って出てくるのが私以外に誰がいるっていうの?なぁに、この家には亡霊でも住んでいるって言いたいの?」
「はっはっはー。朝から饒舌だねえ、さすが玉姫だ」
今までの私とお父さん…いや、このクソ親父との会話を聞いて、(現実には、読んで、なんだろうが)こう思う人はいないだろうか。
わざわざつっこまずに、無視をすればいいのではないか、と。
私も馬鹿ではない。それを試したことは何度かある。
しかし、無視をすると、突っ込むよりもさらに面倒くさいことが起きる、それだけなのだ。
まあ、百聞は一見にしかず、面倒くさいことこの上ないが、口で説明するよりよっぽど分かりやすい(文章化している時点で実践、というのもおかしいのだろうが)と思うので、やってみよう。
「お、玉姫、今日もバイトなのか?二日連続とは大変だねえ。お、そうだそうだ。せっかくの休みだし、バイトなんかサボってお父さんとどこかへ出かけないか?いいねえ、そうしよう」
…………………………。
「た、玉姫?」
…………………………。
「ま、麻姫!大変だ!玉姫が…玉姫が…。今すぐ救急車を呼ばないと!ええっと…救急車って何番だったっけ…?994番?110番?あれ、なんだっけ…って麻姫!?麻姫!?どこにいるんだ?」
「あなた!もうしっかりしてください!玉姫は病気でも何でもありません!いつも言っているでしょう?まったく朝からこんなに騒いで…ご近所さんにも迷惑だとかそういうことは思わないの?」
「娘の一大事にご近所さんのことを考えるなんて何事だ!?それに、玉姫はどう考えても何かに侵されている!今のを見ていなかったのか?俺が言ったことにピクリとも反応しなかった!」
「玉姫だっていつも好きであなたのどうでもいい話に突っ込んでいるわけじゃないんです!たまにはお休みさせてあげてください!」
「好きでやっているに決まっているだろ!どこまで玉姫のことをわかってないんだ麻姫は!」
「あなたよりはよっぽど理解しています!」
とまあこんな感じに、揉め事が起こる。
こんな事になるくらいなら大人しく突っ込んでいる方が正直ましなのだ。
まあ、突っ込む前に、多少宥めないとね。
「お父さん!私は好きで突っ込んでいるわけではないの!そこだけは誤解しないで!あくまで情けで突っ込んであげてるだけなの!」
毎度のセリフその一
「玉姫...じゃ、じゃあ、もうお父さんのボケとしてのキャラはいらない?え、もう価値ない?まさかのここで没...?」
毎度のセリフその二
いや、正直そこまでは知らない。
これは毎度の感想。
まあ、突っ込んであげる事にしないと、お父さん、家出とか始めちゃうから、突っ込む事にはしようか。
「わかったわかった...。振ってくれたら突っ込むから...。でも、一日一回だからね」
「玉姫...」
「待ってお父さん、今日はもう振ってるから明日ね」
「……わかったよー」
そんなところで、
「玉姫、たまには休んでいいんだからね」
とお母さん。
毎度のセリフその三 まあ、いいか。そこに関しては。
「うん、ありがとうお母さん」
うーん…。
本当はもう少し家にいるつもりだったんだけど、そろそろ出ようかな。
多分このまま家にいたら、お父さんの相手しなくちゃいけなさそうだし。
「じゃあ、バイトの時間もあるし、私ご飯食べたら行くね」
「やっぱりバイトに行っちゃうのか…」
あ、あの話、まだ生きてたんだ。もう終わったものだとてっきり。
「お父さん、私はバイト二日目にして無断欠席をするほど常識の備わっていない人間ではないの。そう、あなたみたいな人とは違ってね」
「やっぱり玉姫はそっちのほうがいいな~。ははは~」
「まったくあなたって人は…」
それから少々。
ご飯を食べ終えた私は、さつきストアへと向かったのであった。
チャリンチャリーン
朝自転車を漕ぐというのも悪くない。
季節は春だし、吹いている風も心地よい。
…と、そんなことを考えていると、前にたくさんの女子達が見えた。いったい何人いるのだろうか…。ここで私が言えることは、少なくとも50人はいるということ…くらいかな?
どこかのアイドルでも来たのか…?
なら、どうでもいいな。そんなもの(というのは失礼かもしれないが)に私は興味がない。
しかしそれにしても不自然な点が一つ。
なぜ全員同じ制服を着ているのだろう…?
こういう、著名人が来た時の野次馬というのは、とにかくそこあたりにいる人が無差別に来るので、服装が統一されているなんてことはまずありえないのだが。
しかも、今思い出したが、あの制服、春高だ。
※春高とは、私深宮が、里高と併願して合格したものの、通学の利便性から合格を蹴った学校である。
まあ、他校のことに下手に首を突っ込むのも向こうからしても嫌だろうし、こっちとしてもそんな面倒くさいことに自ら巻き込まれようなんて気はさらさらない。ということなので、とっととバイトに行こうと自転車を漕ぎだしてからわずかに10秒。私の自転車は急に止まった。
信号が赤だったわけでもない、かと言ってチェーンが外れたわけでも切れたわけでもない。もちろん、というのも変かもしれないが、タイヤがパンクしたわけでもない。
じゃあなぜか?誰かに後ろから引かれたからである。
その事実にさすがに動揺した私は、少々その場に固まってしまった。
どうしよう…と本気で考えていると、
「あの、すいません」
と男の人の声が聞こえてきた。
そこで、何かの覚悟を決めた私は、後ろを振り向く。
そこにいたのは、高校生くらいの男の子。
とても地毛とは言えない茶髪に、ピアスに、ネックレス。
チャラいな。まあ、話くらいは黙って聞くとするか。
「里高の方…ですよね?」
「はい…」
なぜそんなことを知っているんだと一瞬動揺したが、自分は今制服を着ていた。
うっかりすぎる。なんでバイトに行くのに制服着てるんだろう。
「今ちょっと人に追われていまして…よかったらそのパーカー、貸していただけませんか?俺、春高なんですけど、必ず返しに行きますので!」
ここで私は、先ほどの春高の女子たちを思い出す。まさかこんな漫画みたいなことって現実にあるのか、と思いながら。そしてそちらに少々耳を傾ける。
「陽くーん!!!どこー???」
「もう…久しぶりに私服見れたかなって思ったのに」
うーん…。こういうのって触れていいのかだめなのか。
いまいちボーダーラインが分からないな…。
まあ、返してもらう前提がある以上、(前提というかむしろ返してもらわないとだいぶ困る…わけではないが貸したものは返してもらいたい)名前を聞くのはだめではないか…。先ほど呼ばれた名前、陽くんとの照合がしたいとかそんな興味本位では決してない。
「あの、一応お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
貸す立場なのでため口でも構わないかと思ったが、年上だといろいろ面倒なので、敬語といこう。
「あ、楽望 陽です。楽望は楽しいに希望の望です。えっと…一応そちらもお伺いしてよろしいでしょうか?」
まさかの陽くんだった。
先ほどの春高の女子達ー!お探しの陽くんはこちらですよー。
なんて馬鹿で能天気なことをちょっと考えてみる。
しかし、楽望とは随分と変わった名字だな。それに、漢字がこの人の見た目に合いすぎていて逆に怖い。
なんてのは失礼か…。
「深宮玉姫です。あと、パーカーだけじゃ心もとないと思うので、これ未使用のマスク、よかったら使ってください。あ…」
「……?」
パーカーは洗濯とかしなくて大丈夫ですよ、と言いかけてやめた。
理由は二つ。まあ、方向性は全く違うのだが。
一つ目は、〇〇しなくていい、という言葉は、〇〇してくれ、と遠回しに言っているようだったから。私としてはそういうつもりは全くないのだが、相手としては気を遣ってしまうだろう。
そして二つ目。先ほどの一つ目より、少々重くて、考えすぎだと思う人がいるかもしれないが、世の中絶対はないし。考えておいても損はないと思う。
そんなわけで二つ目。それは、私が彼の使用済みの物の臭いを嗅ぎたいとか、そういう変な誤解をされたくないから。学校だけとはいえあれほどモテている彼のことだ。他校にもファンがいても全く不思議ではない。
私の偏見が含まれていたら非常に申し訳ないのだが、男女問わず、好きな人の臭いというのは嗅いでいて悪いものではない…と思う。そしてそれはその人が使用済みのものでもおそらく大丈夫なのだ。(何が大丈夫なのかは私もよくわからないが)つまり何が言いたいのかというと、私の好きな人が楽望さんだとして(今日が初対面なのでありえないはずだが、モテる人というのは、おそらく初対面の一目惚れなんかもありえるだろう)彼の臭いを嗅ぎたいから洗濯しなくていいなんて言ったとなると、相手…楽望さんとしても不快だろうし、私としてもそんな虚構を事実としてほしくない。
しかし随分と長い独り言だった…。おかげで楽望さんが呆気にとられている。
「どうかしましたか?」
「いいえ、何でもないです。あ、すいません。パーカーとか渡していませんでしたね。じゃあ…これ…どうぞ」
「ありがとうございます!じゃあ、僕急ぐので…本当にありがとうございます!」
その不意に見せた笑顔に、不覚にもドキッとしてしまった…
なんてことはなかった。まあ、時間つぶしくらいにはなったからよかったけれど。
じゃあそろそろバイトに行くか。
そうして私はまた、自転車を漕ぎだす。
それから十分。
さつきストアに到着するも、現在時刻は九時三十分。
…さすがに早すぎたか。
まあ、とりあえず着替えるとするか。
………。
着替えも終わってしまった。しかし時刻は九時四十分。
まだ早いな…。
どうしようかと迷っていると、前方に、麓見先輩、いや、おじさん風学生先輩が見えた。
(よし、ここは一つ、ボケてみようか。)
朝のお父さんの件で少々ボケがしたくなっていてね、ちょうどいい。
「お、深宮。おはよう」
「はい、おはようございます。学生風おじさん先輩」
「………。」
早速引っかかったか?
「どうかなさいました?」
「いや、すっとぼけんなよ、お前」
「はてさてなんのことでしょうか?」
「学生風おじさんってのはな、緑みの青風に言うと、結論、俺がおじさんになっちゃうんだよ!」
突っ込んでる突っ込んでる。
「それのどこに間違いが?」
「間違いしかないのだが、お前が俺を学生だと認めたくないことはよくわかった」
「認めるも何も、おじさん本体じゃないですか」
「本体ってなんだよ…。それに、同じ高校の話はどこいったんだよ」
あ…まあいいか。
「私は記憶にないですね。多分おじさん先輩の空耳…もしくは幻聴…つまり気のせいです」
「もう最後の方の等式は訳分からなかったぞ。しかし薄情だなお前、分かっちゃいたけど」
「…薄情?言葉の使い方を間違えていますよ」
「ん?何か間違えていたか?いやまあ、お前頭良さそうだし、お前の言うことの方が正しいのか?」
こういう見た目だけで頭が良さそうだとか、悪そうだとか、正直やめてほしい。
「頭はそんなに良くないです。人を見た目で判断しないでください。ちなみに、言葉の間違いというのは、私には薄い情すらないから、薄情ではなく、無情です」
……………。
「切ねえ話だなって…言葉の使い方は合ってるのかよ」
「私に使う言葉として間違っているという意味です」
「お前を頭が良さそうと思った部分、否定というか撤回させていただく」
「ちなみにですが…この前の宿題テストは七位でした」
「なんでここでそんなとんでもない爆弾を落とすんだよ、撤回した俺が恥ずかしい…ってか頭余裕でいいじゃねえかよ」
「いやいや、こんなの当然のことです」
「待て待て。俺一三二位だったんだが…どうなる?」
難しい質問だ…。
「ええっと…カースト外…でもなくて…圏外…はまったく意味が分からないし…人外…でも何か物足りないな……あ!わかった。言葉で形容してはいけないもの」
「頼むから、せめて言葉で表せる程度の評価にしとくれ」
「あ、でも私は先ほど、少し先輩の事を見直しました」
「…ほう。嫌な予感しかしないが、聞いてみよう。なんでなんだ?」
「まさか緑みの青を知っているなんて…私感激しました!」
「お前完全に小馬鹿にしているだろ。というか、お前もそれくらい知ってんだろ、頭いいってか…天才だし」
「まあ、知ってますけど。というかそれより、私は先輩に一つ文句が言いたいです」
「何か気に障ることをしたか?」
「はい、しました」
「全く見当がつかないんで教えてくれるか?」
「ええ、教えてあげましょう。私は天才じゃないです。あくまでテストの点が取れるだけです。まあ、学校のテストの点が取れるのにも、二つ、種類はありますけどね」
「…ほう、そりゃ悪かった。で、テストの点が取れる人の種類とは一体どんな感じなんだ?」
「では説明いたしましょう。一つ目は、暗記、徹夜、一夜漬けが得意な人です。こういう人は、定期考査には以上に強いので、もう一つのテストの点が取れる人の大きな敵ですね。そして二つ目は、純粋に頭がいい人です。こういう人たちは、定期考査だけではなく、外部模試なんかも強いのでそういう意味ではこの後者の人たちは天才、といっても良いかもしれません」
「さて、きれいに説明してもらったうえで満を持して突っ込むが、お前は前者…なんだよな?」
「いえ、後者です」
「これまでの時間を返せ」
「いやいや、時間は帰ってきません。ということで、時間もちょうどいいので、仕事しましょう、仕事」
「お前が言うか?それ」
「はいはい、早く行きましょう!」
「ちょっお前押すなっての」
「おはようございまーす…って…え!?あんた今朝の!?」
「あ、玉姫ちゃんじゃーん」
そこにいたのは、今朝ちょうどパーカーを貸したばかりの楽望さん…楽望がいた。
というか…玉姫ちゃん…だと?
「黙れ、クズ。というか楽望、私のことを下の名前で呼ぶな、気持ち悪い。あと、もう必要ないならパーカー返せ」
おそらく誰にだって、苦手なタイプ、嫌いなタイプはいると思うのだが、私の場合のそれは、チャラチャラした、軽薄な男だ。
朝は本当に困っていそうだったから助けたが、助けなければよかった。
「クズなんて言われたの久しぶりだな~。酷いよ、玉姫ちゃん」
「だから、下の名前で呼ぶな、楽望」
「深宮、一応言っておくけどな、その人二つ上だぞ、年」
「アーソーデシタカーソレハドウモシツレイイタシマシター」
「というか、どういう知り合いなんですか?楽望さんと深宮って」
「朝俺が春高の女子に見つかっちゃってねー。そこを助けてもらったというわけなんだよ」
「なるほど…」
「というか、上着。用済んだなら返してください」
「あ、そうだねっ。今朝は本当にありがと!」
やっと帰ってきた…。
「あの、君たち?おしゃべりもいいけど、もうとっくに開店してるんだから、仕事もしてね」
「あ、御月さん、すいません!すぐ仕事します」
仕事をする…とはいっても昨日の今日だからな…。
あ、商品棚入れしている人がいる。そっちを手伝おうかな。
しかし初めて見る顔だなー。とても澄んでいて切れ長の目。すっとした鼻。小さい口。どこかのモデルさんみたいな人でした。名前は…知芽?なんて読むんだろう…。
「あの…商品の棚入れ、私も手伝いますよ」
「……………。」
あれ?私なにか間違ってること言っちゃったのかな?
あれ?なんかタッチパネルみたいなのに入力始めちゃった…。あれ?私…無視されてる…?
そう思っていると、入力を終えたその画面を、知芽さん…は私に見せてきた。
よく見ると、文章が書いてある。
内容は…
「初めまして深宮さん。挨拶が遅れてすいません。私、知芽 椋といいます。高校二年です。どうぞ椋とお呼び下さい。これからよろしくお願いします」
えーっと…会話がかみ合っていないのに突っ込むべきなのか、挨拶がなぜタッチパネルなことに突っ込むべきなのか…そもそも突っ込んでいいものなのか…難しすぎる。
そう私が悩んでいると
「あ、深宮さん、知芽さん、そういえば紹介していなかったね。こっちは昨日から入った深宮 玉姫さん」
「深宮 玉姫です。よろしくお願いします」
「知芽さんの方は…パネルで紹介したみたいだね。彼女はちょっと事情があって、基本的に人とパネルで会話するから、覚えておいてね~。あと、知芽さんの仕事は、商品の棚入れもまあやるんだけど、基本的には在庫確認、売れ行きの動向の調査から仕入れをチェックする…そういう表にはあんまりでない仕事だから、それも覚えておいてね~」
まあ、喋れないんじゃ接客はきついか…というかタッチパネルの件、突っ込まなくてよかった~。
「じゃあそんな感じで、仕事…しようか。そういえば、姉さん見てない?朝ちょっともめてから、会ってないんだけど」
「見てないですね…」
「そうか~。あ、ごめんね。時間取らせて」
「いえ、大丈夫です」
さて…仕事をするとは簡単に言うが、正直私はまだレジ打ちもできない身なのである。
というわけで、聞いてみますか。
「麓見先輩、レジ打ち教えてください」
「……………………。」
麓見先輩までおかしくなってしまったのだろうか。
「あ、深宮か。素直すぎて一瞬誰かと思った」
「なんて失礼な」
「その失礼をいつも人にしているのはお前なんだけどな」
「まあ確かに。でも冗談抜いて、教えてください。まだ全然仕事覚えてないんです」
「ああ、そうなのか。えーっと…うん、今なら御月さんと楽望さんでどうにかなるか。じゃあ、こっちこい。練習用のレジあるから」
楽望さん…?ってそうか、この人私と同い年か。
危ない危ない。また忘れるところだった。
椋さんは…ノーカウント?まあ、裏方だから…仕方ない…か。
「えーっと、商品は主にこのスキャナーでやっとくれ」
「わかりました、こんな感じで大丈夫ですか?」
「ああ、そんな感じだ。で、たまに割引シールあるから、その時はこのボタン押してから%入力な」
「%入力ですね、わかりました」
「全部商品スキャンしたら、会計ボタン押して、客にもらった金額を入力する。そういうわけだ、質問はあるか?」
「えーっと、これ、お釣り入っているのはどうやって出したらいいんですか?」
「あぁ、それは客にもらった金額入力して、完了押したら勝手に出てくるから」
「なるほど…よくできていますね」
「まあ、こんなもんかな」
「ありがとうございました」
「なあ、深宮ってやっぱ楽望さんみたいなのは苦手なのか?」
「苦手というか…嫌いです。正直。ああいう軽薄な人は」
「ぶっちゃけ店長とどっちがマシなんだ?」
店長…か…そういや何してるんだろ?
まあ、どうせどっかでさぼってるんだろうな。
「ああ、余裕で楽望さんが嫌いです」
「おい待て待て」
「はい…何でしょう?」
「俺が聞いたのは、どっちがマシかってことなんだけど」
「ああ、どっちがこの世から消えてほしいか、でしたっけ?」
「なんでお前はそう俺が濁した努力を帳消しにした挙句、雇い主をそんな恐ろしい天秤に何食わぬ顔でかけられるんだよ」
「うっかりうっかり…」
「もうお前のそれは悪意通り越して殺意だろ、日常的に人に殺意を抱いてるだろ」
うーん。お父さんも面倒くさいけど…殺意…までじゃないんだよなー。
店長もそうだし…楽望に関しては…コメントを控えよう。
「そうでもないですよ、意外に」
「そうなのか。まあ、とりあえず今んとこ楽望さんへの評価は酷いんだな?」
「酷いというか、評価なしで」
「そうか…。じゃあ、今からちょっと面白いもの見せてやるよ。楽望さんの好感度少しは上がると思うぞ?」
好感度?楽望さんの?天地がひっくり返ってもあり得ないと思うのだけれど。
「あの人、意外に一途だから」
そう言って先輩は、ニヤリと笑った。
「楽望さーん。深宮にレジの経験させたいんでそこのレジいいですか?」
「おっけー、麓見くん。でも、一人でさせるつもり?」
「いや、一応俺がつきます。なんで、楽望さんは休憩入っていいですよ」
「あ、休憩入るなら楽望くん、知芽さんも休憩入るよう言ってくれる?開店から働きっぱなしだから」
「…俺がですか?」
「うん、僕たち今忙しいから」
「俺と喋ってる時点で絶対暇じゃないですか!」
「まあまあ、よろしく頼むよ。知芽さんぶっ倒れちゃうから」
「…わかりましたよ」
そう言って、渋々知芽…椋さんを呼びに行った楽望さんでした。
「深宮さん深宮さん」
御月さん…?なんでこんなひそひそ声で話しかけてくるんだろう?
「よく見てたほうがいいよ、面白いもの見れるから」
先輩と同じこと言ってる…。
まあ、見てみよう。
「えーっと、あの…知芽さん…」
あれ?確か椋さんは高校二年生で、楽望さんは三年生。あの性格上、同級生以下の年の女子は全員名前呼びだと思ってたけど、意外にそうでもない…感じ?
椋さんのタッチパネルの画面までは…さすがに見えないか。
「御月さんが、休憩入っていいって言ってるから…その…」
顔真っ赤…ああ、そういうことか。
「じゃあ、これで」
ゆでだこみたいな顔をして、楽望さんは休憩室に入っていった。
「面白いでしょ?あの女の子と結構派手に遊んでそうな楽望くんが、たった一人の女の子にあんなに顔真っ赤にしてるの」
確かに。陽くーんって言っていた女子たちもびっくりの姿ではあると思う。
「どう、少しは好感度上がった?」
「確かに…ほんの少し、上がりました。人には意外な一面が必ずあるとは、こういうことだったんですね…」
そんな感じにのんきに話していたせいで、私たちは、お客様の存在に全く気付いていなかった。
「あ、あの…お会計…いいですか?」
多分この場にいた三人全員、顔は青ざめていた…と思う。
「た、大変失礼いたしましたああああああ!」
そんなこんなで今日も一日お仕事終了。
制服も着替えて、もう帰ろうかという頃、私は一つ大事なことに気づいた。
「シフト…まだもらってない…」
というか昨日の今日でシフト組まれてたらそれはそれでびっくりだけど。
まあ、御月さんなら作ってそう…。
一応聞いてみるか。
「御月さーん、いますかー?」
「……………。」
あれ?まさか帰ったわけないし、絶対お店にいるはずなんだけどな…。
「御月さん?って…は!?」
そこに見えた光景は、仰向けになった御月さんの上にのしかかる、店長の図だった。
「店長…今まで何していたんですか?」
「いや…朝にいにと…」
「お兄さんじゃないですから」
「ちょっと喧嘩しちゃって…屋根裏こもってたんだけど時間が気になったから降りようとしたら偶然にいに…」
「だからお兄さんじゃないです」
「それでぶつかっちゃって…」
「この有様…というわけですか」
「そうなの」
立派にタイムカードは切ってあったくせに、まさか屋根裏に籠ってたとは…。
本当なんでこの人店長なんだろう。自営業だから仕方ないけど。
「それで玉姫ちゃん、にいにに用があったんだよね?」
もう突っ込むのも面倒くさい。
「はい、そうですけど」
「私でも解決できるかもだし、一応聞いてもいい?」
「シフト…できてたらほしくて…」
絶対知らないっていうと思うけど。
「ああ、にいにが持ってるけど…今この有様だし…」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「すいません…」
うーん、どうしよう。まあ、できてなくても当たり前っちゃ当たり前だし…。
「じゃあ、麓見先輩に確認してもらって、分かり次第学校で教えてもらいます。あと、それはそれとして、御月さんを休憩室に運びましょう」
「そうね!」
そうして御月さんを運んだ後、私は帰ることにした。
「ただいまー」
「お、玉姫、今日はバイトどうだったか?」
この人これ以外聞くことないのか。
「意外な一面って本当にあるって思ったよー」
「そうか、意外な一面…お父さん実はな、昔は突っ込みだったんだよ」
「あなた、嘘はやめてください」
「本当だよ、寝言は寝てから言いなよお父さん」
「お父さんショックで泣いちゃーう」
「「勝手に泣いとけ」」
「酷いよー。嫁と娘がひどいよー。お父さんもう…悲しい」
酔ってないはずなのに面倒くさいって、もはや才能の域だな。
そう思った娘であった。
「玉姫ーこのパーカー、洗っていいの?」
「うん、手洗いした後洗濯機で三回洗って、最後に手洗いしてねー」
「そんなに洗ったらしわ取れなくなるー」
「じゃあいっそ燃やしていいよ、焼却炉あるよねたしか」
「待て待て、そんなものないない」
「まあとりあえず、雑菌一個もない程度によろしく」
「うん、わかったー」
といって、責任を父に押し付けた母であった。
さつきストア 第二買 メンバー集結!?
ご覧いただき、ありがとうございました!
今回登場した新キャラは、椋ちゃんと陽君!
椋ちゃんは、先に名前を考えて、名前に性格を重ねていった…そんな子ですね。
知芽 椋という漢字の並びがすごくお気に入りで、玉姫ちゃんくらい好きです(笑)
陽君のほうには一応愛されやすいチャラ男にしようと思って、一途な男の子にしました(笑)
さて今後椋ちゃんとどうなっていくのやら…
では長くなりそうなのであとがきもこの辺に、
ではまた次回作もしくは次話で!
お会いするのを楽しみにしております!