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7.決着と報酬

「ギャアアァァァァァァァァァァァーーッ」


 神殿にメデューサの叫びが響き渡った。

 眉間に矢が突き刺さり、青白い石床の上に背中から倒れた。

 メデューサは不死身である。傷が癒え、再び起き上がってこぬよう、エリザは腰の短刀を首切りに喉元に押し付けた。


「な、何故だ、何故、儂の場所を正確に……」


 まだ息のあるメデューサは、絶え絶えにエリザに訊ねる。


「むぅ、私だって、見えていれば当てられますぅっ!」

「見えて……いた?」信じられないような声に、エリザはムッとした。「見えてましたぁ!」


 すると、その後ろからライムが、「マダム、目を閉じてみろ」、と言う。

 エリザは目を閉じた。続けてライムは、「今度は開けてみろ」、と言った。

 エリザは目を開けた。


「…………」


 神殿の広間の中に、つかの間の沈黙が降りた。


「糸目キャラは心眼使いなのであーる」


 ライムの言葉に、メデューサは納得がゆかない様子で首を切られていった――。


 あまり鋭い短刀ではなかったが、ジャミルの〈力〉のおかげかメデューサの首は楽に切り落とすことができた。……とはいえ、刃を入れたのは右半分だけだ。左側から流れ出る血は、〈死の血〉と呼ばれているため、ライムが剣で切断した。

 エリザの手はメデューサの血でドロドロになっている。乾くのが遅いのか、べったりと手にまとわりつく。対するメデューサも不死身であるが故、首だけとなってもなお生きている。

 ライムはそんな蛇の髪の毛を掴み上げ、宙に掲げながらゆらゆら揺らした。


「さて、お前さんの負けだ――どうするべきか分かってるな」

「くッ、殺すがいい……!」

「もう死んでんじゃん……。いや厳密には生きてっけどさ」

「ふん……冗談よ。あの子はそこに扉に向こうにおるわ」


 メデューサはため息交じりに言った。戦意喪失しているのか、そこからは敵意も殺意も感じらない、穏やかな口調であった。続けて「石化はこれから解いて――」言いかけたところで、エリザがそれを遮った。


「もうちょっとだけ待ってもらえますか……?」


 エリザはそう言うと、奥に繋がっているであろう扉に向かった。


 それは両開きの重厚な石扉だった。

 見た目通り、身体全体を使わねば開きそうにないほど重い。

 エリザは右側の取っ手を強く掴むと、足をぐっと踏ん張った。後ろに倒れ込むようにして引っ張ってゆく。ゴッゴゴッ……と重い音を鳴らし、やがて一人が通れるぐらいまで開いた。

 汗が浮かんだが、拭っている暇はない。

 取っ手から手を離した瞬間、ひとりでに閉まってゆく仕掛け扉であるようだ――エリザは息を吐く間もなく、慌てて扉の向こうへと飛び込んだ。


 そこは美術館のようであった。絵も飾られているが、殆どが若い男性の彫像ばかり。それは奥にゆくにつれて若く、石も新しいものになってゆく。

 そして、ある一定の年齢に差し掛かると、エリザはハッと息を呑んだ。


「もしかして、石から作られているのではなく……」


 最初に見た彫像は風化していて、パーツも欠け落ちていた。

 しかし真ん中の方から、今にも動き出しそうなほど活き活きとしてリアルなものになってゆく。だが触れてみるとそれは冷たい。もう死んでいる、と分かった。


「ジャミル――ッ!」


 エリザは走った。ライムは『大丈夫だ』と言っていたが、信じられなくなっている。

 石に触れた瞬間、恐怖のようなものが伝わってきた。感情だけが残るのだろう。思えばダリアの石像からも、大事なものを失う絶望が感じられた。こんな冷たい悲しみと叫びだけがうずまく通路に、我が子がひとりぼっちでいると思うと、居ても立ってもいられなくなった。一刻も早く助け出したかった。

 一つ一つ顔を確かめてゆく余裕もない。

 この場所は、メデューサと戦った玄室を通路で囲うような構造をしているようだ。なので、展示数もかなり多い。――が幸いなことに、それはすぐに見つかった。


「ジャミル……いた……」


 しかし、手を伸ばすのを躊躇してしまっていた。

 もし触れて、冷たくなっていたら――もし触れて、絶望が伝わってきたら――。それがもし、私に対しての恨み言であったなら――。

 エリザは確かめるのが怖くなった。

 石像となった我が子……その顔は微笑んでいるけれど、本心はまるで違う笑みだ。

 ブアーラに来た時に見せていた、親に会いたいけれど、目の前の人たちを気遣った時の――。


「あ……」


 エリザはジャミルの頬に、一筋の線が残っていることに気づいた。

 薄く真っ直ぐの線だ。反射的に手が伸び、親指でそれを拭おうとすると、


「……ッ!」


 エリザは目を見開いた。そして今まで堪えていたものがこみ上げ、ふるふると唇を震わせ、鼻を揺らした。


 ――お母さん、ごめんなさい


 ジャミルに触れた時、その想いが伝わってきたのだ。

 エリザはたまらず石像のままのジャミルを抱きしめた。


「ごめんね……ごめんねジャミルッ……! 遅くなって……っ……わがままばかりで……あなたを、叱っ、て……!」


 涙が石の肌に染みこむ。その石は冷たくなかった。


「すぐに、助けてあげるから……」


 そう言って立ち上がろうとした時、エリザは「あっ」と声をあげた。

 何かを思い出したように、金貨袋から一枚の金貨を取り出す。


「よく頑張りましたね」


 と言って、ジャミルの金貨袋に金貨を一枚、入れてあげた――。

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