(プロローグ)奴隷となった少年
海を渡った遠い南の大陸。そこに奴隷として連れて来られた七歳の少年がいた。
少年の名はジャミルという。長い船旅の末、ブアーラと呼ばれる小さな国に降り立った彼は、灼熱の日差しを受けながら呆然と立ち尽くすしかできなかった。
――お前は既に買い手がついているから、そこで待っていろ
そう言いつけられてから、どれくらい経ったのだろうか。
褐色肌の人々の中で、自分だけが真っ白な肌。船着き場のには細かいベージュ色の砂が堆積し、目線を街の方へ向ければ、見たことのない砂の稜線が広がっている。
奴隷の暮らしについては、父親の膝の上で聞いている。重い鎖に繋がれ、ムチで打たれながら過酷な仕事をするような、考えただけでもゾッと身震いしてしまうものだ。
それからほどなく、町の方から一台の幌馬車がやって来るのが見えた。
豆粒大のそれはだんだんとそれが大きく膨らみ始める。“最悪の未来”が現実味を帯び始め、ジャミルは恐怖に打ち震えた。
馬車は目の前で停車し、褐色の肌の御者がじっと見下ろしている。
何かの衝撃があれば、きっと声をあげて泣きわめくだろう。その準備はできていたが――
『まぁっ、なんと可愛いらしいこと!』
ドーム状の幌の中から明るい女性の声がすると、やや遅れて『奥方、そう急かずとも……!』と、しわがれた男の声がした。
馬車全体がゆらゆらと揺れる。そしてそこから少女のように飛び出した女に、ジャミルは言葉を失っていた。――何とそれは、自身と同じ金髪・白い肌をしていたのである。
「あなたは今日からうちの子ですよ~♪」
白いローブに身を包む“奥方”と呼ばれた女性は、ぎゅっとジャミルを抱きしめていた。