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また桜かよ!!と思った方はごめんなさい。
連載に挑戦。よく分からないけど、お付き合い頂ければと思います。
まだまだ未熟で勉強中の身ですから、暇つぶし程度にあたたかい目で読んで下されば幸いです!
梅がこぼれる。
どこまでも澄んだ空の中で。
「鈴秋さぁん、そこ結んでぇ」
「はーい」
肌寒い風が通り抜けた。
「会長、ここで宜しいでしょうか。」
「あ、いいと思うよー」
まだ太陽は少しの暖かさしか出してくれない。
3月、それも初旬。立春はとっくに終わったとは言っても、まだ冬の面影は薄らと、存在を主張している。
「じゃあ、朝の仕事は終了ねー。……ふぅ。卒業式の看板って結構重いんだね。疲れちゃったよー」
「仕方ないでしょう、この学校の生徒会は会長しか男性がいらっしゃらないのですから。ちなみに卒業式では無く卒業証書授与式です。」
「大変でしたねぇ、かいちょぉ。まぁ、たまにはそういう面倒臭いコトもやんないとぉ。」
「あはは、皆手厳しいね。でも会長も、たまには役に立ちますね」
何も遮らない青い背景に、彼の困ったような苦笑と溜息が響いた。そして、やがてそれは楽しそうな笑いに変わる。
彼ら……いや、彼女らは、他愛のない話をしながら、また校舎に帰っていった。
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「ねぇ、結奈は結局どうするの?」
「ん、何を?」
寒い校門前から教室に帰り、鞄をロッカーに入れ、軋む椅子に腰を掛けたら、唐突に尋ねられた。
どうするの、では漠然としすぎていてわからない。
困った結奈は智絵に聞き返したのだが、「もうわかってるでしょ、そんなの」と言われ、更に戸惑っている。
今日は、中学三年生の先輩たちの卒業式。
まだ一つ学年が下の私たちには、特にイベントはない筈。
強いていえば、生徒会の仕事くらいで。
それも大したものでは無い。卒業式の立て札を設置して、マイクの受け渡しやBGMのタイミング管理、音量調整、花道の準備や在校生の誘導くらいの、雑用だ。
送辞は副会長が読むし、私が特に目立つことは避けた。
果てさて、何かあっただろうか?
「もー、とぼけないでよぅ。あんたの告白よ、コ、ク、ハ、ク」
「……あぁ、そんなのもあったっけ。」
「随分雑ね。ずっと片思いしてる先輩がいるんでしょ?」
誰だかは知らないけど、と付け加えてから口を閉ざし、こちらを見つめてくる私の親友。
思い出した。
私は、確かに恋に落ちた。過去形か現在進行形かは自分でも分からないけれど。
親友にも、言えないほどの真剣な恋。
……まぁそれも、今日で終わる。
先輩は_______高山広樹先輩は、今日で巣立つのだもの。
同じ吹奏楽部で、一緒の楽器を演奏していた先輩。優しくって、冗談も面白くて、演奏も素敵で、何よりかっこよかった。
笑顔は、幼くて可愛くて……
ううん。
告白したところで、年下の彼女なんて高校デビューを果たす先輩には重りでしかないでしょう。
まず、快い返事は頂けないと思う。
「……しないよ、そんなの。一過性のものだし、恋愛感情なんて。」
「その割には、今返事を返すのが遅かったですけど?」
「悩んでたわけじゃないよ、自分の中で結果なんてもうとっくに出してたし」
「意地張っちゃって。馬鹿ねぇ。」
「意地なんて……!素直に言っただけよ」
私がムキになって言い返すと、彼女は溜息をつき、茶がかった黒のショートヘアをくるくると指に巻いた。
ふわりと爽やかな桜が香る。
「後悔しないでよね、結奈。今日を逃したら次は無いんだよ。」
「分かってる……私、仕事あるから行く。じゃあね」
生徒会の集合は本当はあと10分後だ。けど、この場から消えたかった。
ガタンと、音を立てて振り向かずに大股で廊下に出た。
智絵には、きっと逃げたって思われただろうな。
_______本当は、私だって先輩と……
ううん、ダメだ。先輩はこれから新しい道に進むんだから。迷惑だよ、どっちにしろ。
下らない考えを振り払うように、私は式の会場に向かって廊下を駆けていったのだった。
中学の卒業ってどんな気持ちなんでしょうね。
次話は未定ですが、近日中には公開します、お待ち下さい。