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魔王さんは穀潰し  作者: 無一文
19/20

魔王

「まあ、ちと本気を出してやろう」


 魔王がそういうと、巨大な魔力の奔流が体から溢れ始める。

 黒い魔力の帯が幾重にも魔王を取り囲んでいき、やがて球状になる。

 その黒い球体は渦巻き広がり始め、やがて霧散する。


「それが本体ってわけね……」


 そこに現れたのは、髑髏のような頭に真っ黒な蛇の身体と四本の腕を持った巨大な化け物。

 金色に輝く双眸がナージャを睨みつける。

 魔王が一本の腕を振ると、無数の氷の槍がナージャ目掛けて飛来する。


「無詠唱で魔法まで!」


 飛来する氷の槍を切り払い、後ろに飛び退くナージャ。

 しかし、そこに目掛けて別の腕から炎の塊が投げつけられる。

 それを切り払った先に見えたのは、風の刃を放つ腕。

 慌てて横に飛んで回避したナージャに、突如衝撃が走り吹き飛ばされ転がる。


「連発できる上に尻尾まで使ってくるか……」


 起き上がりつつ確認する。

 先ほどまで居た場所は、魔王の尻尾に薙ぎ払われ、そこにあった木々すらも倒れていた。

 しかし、連続で攻撃はしてくるものの、同時に攻撃はしてこない。


「一つ一つ潰していくしかなさそうね」


 ナージャは剣を構えて駆け出す。

 それに合わせて、再び氷の槍が飛んでくるが、足を止めずに直撃する物だけを切り払っていく。

 続けて飛んできた炎の弾を切り裂き、一気に距離を詰めるべく飛び上がる。

 魔法では間に合わないと悟ったのか、ナージャ目掛けて拳を放つ魔王。


「よいしょっと!」


 向けられた拳を蹴り飛ばして、一気に魔王の眼前まで飛び込むと腕の一本を切り飛ばす。

 そのまま転がるように着地すると、今度は一気に間合いを離れて距離を取る。


「まずは一本……え?」


 切り飛ばしたはずの腕は闇に溶け、新たな腕が魔王から生えてくる。


「こんの卑怯者!」


 再び放たれた魔法を避けながら、ナージャは叫んでいた。



---



 どれ位の時間が経ったのかもわからない。

 ただ、ナージャは魔王の止めどない攻撃により、体はボロボロ、息も上がり満身創痍となっていた。

 逆に、魔王は何本腕が飛ばされようと、すぐに新たな腕が再生してしまい、最初と全く同じ姿となっている。

 とはいえ、再生速度が徐々に遅くなってきていた。


「もうそんなに時間はないか……」


 魔王の言葉が真実ならば、魔物たちが町へと押し寄せてくる。

 何より、これ以上は自分の体力が持ちそうにない。


「一気に勝負をかけるしかなさそうね」


 一度、深呼吸をすると、魔王に向かって駆け出していくナージャ。

 降りかかる魔法を、避けもせずにまっすぐ向かっていく。

 それをさせまいと、魔王の尻尾がナージャの横から襲い掛かる。


 ドゴッ と言う打撃音と共に魔王の尻尾が止まる。

 ナージャは、剣の柄頭を打ち付け、その場に踏みとどまっていた。


 予想外の展開だったためか、魔王の動きが一瞬止まる。

 その隙をついて、一気に魔王の眼前に飛びあがると、ナージャはガッシリと魔王の頭を掴んで、魔法を解き放った。


「ライティング!」


 眩い光が二人を包み込んでいった。



---



 魔王は白い光に包まれながら、自分が消えて行くのを感じていた。

 これで全てが終わるだろう。

 ナージャが、魔王と言う存在を望まぬのであれば、その力によって世界は変えられ、新たな魔王は生まれなくなるはずである。

 もっとも、それに気付いた精霊が、魔王に代わる何かを生み出す可能性も否定できないが、ナージャならばそれすらも止めてくれるだろう。

 心残りがあるとすれば、魔王として力を振舞った以上、これから行く先はウィルたちとは違うだろう。

 町の皆にも迷惑を掛けてしまった。

 シルヴィアたち魔族にも自分の我儘に―


 と、考えていたら突然の衝撃に弾き飛ばされて、地面を転がって行く。

 そして、後頭部を思いっきり木に打ち付けてようやく止まった。


「な!?」


 人の姿に戻っている。

 散々転がって目が回っている。というか、後頭部が痛い。

 何が起こったのかサッパリわからずに、タンコブを擦りながら目の前を見ると、自分の本体であったはずの身体に穴が開いており、闇に溶けようとしている。

 そして、こちらをジト目で睨みながら歩いてくるナージャの姿があった。


「ほら、貴女の我儘に付き合って上げたわよ」

「お、お主何をしたのだ!?」

「魔法で貴女だけを吹っ飛ばしただけよ」

「あ、相変わらず無茶苦茶だの……」


 魔王は嘆息する。


「余を殺さねば……」

「殺す必要なんてないわよ」

「だが、それではまた新たな魔王がまた生まれて……」

「そんなルールなんて知らないわ。大体、貴女三百年も引きこもりだったじゃない。別に貴女を殺さなくても魔王なんてものに縛られずにすむ方法が、きっと世界の何処かにあるわ」


 困惑する魔王を他所に、ナージャは言葉を続ける。


「大体、貴女を殺したら町中の人に恨まれそうだし……それに」


 ナージャは軽く溜息を吐いた


「友人を殺してまで平和になったって、意味がないじゃない」

「だが……」

「だがもしかしもないわよ? 言ったでしょ? 最後の我儘に付き合って上げるって」

「余を……助けてくれるのか……?」

「なんせほら、私ってば勇者だし?」


 そう言って笑うナージャ。

 釣られて、魔王も笑ってしまった。

 その時、ある事に気付いてナージャが告げる。


「ほら、貴女が前に言ってた事、『魔王だから泣けない』なんて嘘っぱちじゃない」


 言われて、魔王は気が付いた。

 自分の瞳から流れている、暖かい涙に。


「だから、きっと貴女を救う方法だってあるはずよヴァレント」


 そう言って、手を差し伸べるナージャ。

 涙を拭いながら、その手を取るヴァレント。


「そうだの……そうかもしれんの」


 ナージャは、ヴァレントに肩を貸して歩きはじめる。


「さて、あとは魔物を倒さなきゃね。貴女も手伝いなさいよ」

「分かっておる……」

「前から思ってたんだけど、貴女の名前って凄い呼び辛いわ」

「放っておけ」


 こうして、軽口などを叩きながら二人は町へ向かって行った。



---



 町を歩いているヴァレントは、ある事に気付いた。

 町が静か過ぎる。

 魔物の一匹もいなければ、火の手の一つも上がっていない。


「何も起こっていない……?」

「町の人達は、領主さまの城に避難してるわ」

「余が何をするか知っておったのか!?」

「そりゃまあ、貴女には優秀な秘書がついてたからね」


 そうして町の入口に着いた二人が見たもの。


「これが、貴女が三百年間何もしてこなかった成果よ」


 それを見ながら、ナージャが笑う。


「こんな事が……」


 ヴァレントはその光景を見て呆然となる。

 そこには、朝日に照らされ、無数に押し寄せる魔物たちと戦う人々の姿があった。


 領主と冒険者たちが―


「何としてでも町を守り抜け!」

「冒険者の意地を見せてやれ!」


 様々な国の騎士団が―


「俺に続け! 魔物なんて敵じゃねえ!」


 人とエルフが―


「ユーリ、しっかり狙えよ!」

「ダリル、これだけいるんだ! 適当に撃っても当たるさ!」


 聖騎士団と獣人が―


「聖騎士団! 今こそその力を見せる時ですわ!」

「オラオラ! 猫族なんかに負けるなわん!」

「犬族なんかに後れを取ってたまるかにゃん!」


 魔族とドワーフが―


「敵は魔物だ! 人には構うな!」

「ドワーフの底力見せつけてやれ!」


 全ての種族が一丸となって魔物の群れに立ち向かっていた。

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