勇者と伝説の剣 後編
パキィィィィンと音がして、ナージャの持っている剣が砕け散り光となって消えた。
アリスと露天商は、それを見てあんぐりと口を開けている。
「なによこれ不良品じゃないの?」
自分の手の平を見つめるナージャ。
アリスの見間違いでなければ、剣が割れた後、黒い髑髏を形取った影のようなものが霧散していった。
恐る恐るナージャに尋ねる。
「お、お姉様? お体に異常はありませんか……?」
「ないわよ?」
キョトンとした顔で答えるナージャ。
「お、お嬢さんは特別な力を持っているようじゃの……」
露天商が言った。
「はい、勇者なもので。あ、ごめんなさい商品壊しちゃって……」
ペコリと頭を下げるナージャ。
「いやいや、良いんじゃよ……。お嬢さんには、お似合いの特別な剣がある」
ごそごそと懐から一枚の紙を取りだし、ナージャに渡す。
紙を受け取ったナージャは、マジマジとそれを眺める。
「これは地図ですか?」
「そうじゃ。宝の地図じゃよ」
「宝!?」
ナージャの瞳が色めき立つ。
「この町から少し離れた場所にある山に宝箱があってな。何でも『伝説の剣』が眠っているそうじゃ」
「聞いた!? アリスちゃん!! 伝説の剣ですって!!」
アリスは、二人のやり取りを胡散臭そうな目で眺めていた。
まず、どう考えても、この露天商は怪し過ぎる。
大体、さっきの剣だって、どう考えても何らかの呪いが掛っていたのではないか?
そこへ都合良く伝説の剣などと言ってくる。
腕を組んで、露天商を睨むアリス。
露天商は気まずそうに、アリスと目を合わせようとしないまま、ナージャと会話を続ける。
「その宝の地図はワシから勇者様への餞別と思ってくだされ」
「ありがとうございます! 早速行くわよ! アリスちゃん!」
ナージャは、露天商にお辞儀をすると、嬉しそうに走って行く。
「ちょ、待ってくださいまし! お姉様!」
アリスは、慌ててナージャを追いかけて行く。
露天商は、二人の姿が見えなくなったのを確認すると、慌てて商品をしまい、路地裏に隠れる。
人通りがない事を確認して、フードを外す露天商。
綺麗な銀髪と真紅の瞳に、褐色の肌をした若い女性だった。
彼女の名前はシルヴィア。魔族であり、魔王軍の幹部である。
これまでも、報告の為に、何度か町を訪れていたシルヴィア。
そこで見たものは、魔王と口喧嘩し、ゲンコツを落とす勇者であった。
それが常習的に行われている事を知り腹を立てていたのだが、今朝の一件が決め手となった。
勇者を、この手で葬り去ってくれる! そう決めたシルヴィアは露天商に化けて、勇者を待っていたのだ。
「おのれ……勇者め! まさか、呪いの剣を抜いただけで砕くとは……!」
悔しそうに歯噛みする。
あの剣は、持っただけで生命力と魔力を吸い取り、抜いたとなれば、死ぬまで手からも離れなくなる代物だったのだ。
「まあ、良い。次の計画に移ろう」
そう呟くと、フードを被り直して雑踏の中に消えて行った。
なお―
「お姉様! いくらなんでも怪し過ぎますってば! あの露天商の顔すら見えなかったんですよ!」
「ああ、魔族だからでしょうね。大変よね。魔王さんがあんなだから、露天商をして稼いでるのよきっと。前に魔王さんから聞いた話だと、シルヴィアさんって名前だったかしら? 酒場の店主さん曰く、かなりの美人さんらしいわよ?」
正体はバレバレであった。
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スミス達は、武器屋で待っていたが一向にナージャ達が来ないので、とりあえず外に出てみた。
と、そこに見えたのは、武器屋を素通りして意気揚々と町を出ようとするナージャと、それを何とか止めようとするアリスの姿だった。
スミス達は顔を見合わせると、二人に駆け寄って行く。
「勇者様ー! どうしたんすかー?」
気軽に声を掛けるスミス。
「ああ! スミスさん! 丁度良かった一緒にお姉様を止めてくださいませ!」
援軍が来たことに喜ぶアリスは、これまでの経緯を説明した。
「魔族から貰った宝の地図ねえ」
目を閉じ、腕を組んで考え込むスミス。
「ちょっと危ない気がしますね」
ギュっと杖を握りしめるマルカ。
「十中八九罠ですね」
ダリルが断言する。
「やっぱり、お姉様考え直しましょう?」
アリスが心配そうにナージャに声を掛ける。
ナージャが反論しようとした瞬間、スミスが目を開いて叫んだ。
「伝説の剣とか宝の地図とか最高じゃないですか!」
「そうよね! やっぱりそうよね!」
おバカさん二人が連鎖反応した。
「こうしちゃいられない! ダリル! マルカ! 俺たちも準備するぞ!」
「ありがとう! 遠慮なく力を借りるわ!」
ガシっと手を握り合う二人。
その姿を見て、遠い目をしたアリスとマルカが明後日の方向を見て語り合う。
「マルカさん、ご存知ですか? あの方、貴女のパーティリーダーらしいですわよ?」
「アリスちゃん、知ってる? あそこにいるのが、貴女の憧れの勇者様らしいよ?」
ダリルは無言で頭を抱えていた。
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町から一日ほど歩いたところで日も暮れてきたので、野営の準備を始める一同。
「アリスちゃーん! そっちの紐引っ張ってくれー!」
「はい! 分かりましたわ!」
テントの設営を始めるスミスとアリス。
「なんか楽しそうだね? アリスちゃん」
「ええ。こういった事は初めてですので」
「そっか。じゃあ先輩として色々教えないとな」
「お願いしますわ」
こうして、スミス達の指示の下、アリスはテキパキと手伝いをこなし、野営の準備は無事に終了したのだった。
満天の星空の下、焚火を囲んで語り合う一同。
「しかし、意外だったなー。アリスちゃんが野営初めてなんて。その年で聖騎士だから、てっっきり……」
「家が、お金で買ったような立場ですわ。わたくしは、何も出来ません」
スミスの言葉に自嘲して答えるアリス。
それまで黙っていたダリルがアリスに告げる。
「剣の腕は中々のものじゃないか。少なくともスミスより筋が良い」
「おい!? それ言っちゃう!? 俺だって気にしてたんだからね!?」
頭を抱えて叫ぶスミス。
それに釣られて、笑い出す一同。
「いえ、でも、やはり実践と練習は違いますわ」
「これから経験を積んでいけば良いんだよ」
アリスに微笑みかけるマルカ。
スミスは腕を組んでウンウンと頷く。
「どうせだからさ、俺たちや勇者様と一緒に討伐に行ったりしようぜ! 騎士団式とはいかないけど、きっと良い経験になると思うぜ?」
「ありがとう……ございます」
そう言って、微笑むアリスの目には涙が浮かんでいた。
アリスは涙を拭うと、意を決して言葉を紡いだ。
「ところでお姉様……」
「ん? どうしたの?」
皆の会話を微笑みながら聞いていたナージャだったが、アリスに急に話を振られて戸惑う。
「明日以降、戦闘に参加しないで頂けますか……」
その話題に触れてしまったか―と、スミス達三人組は俯く。
「あれ? やっぱり足を引っ張っちゃってたかな? ごめんね?」
すまなそうに頭を掻くナージャ。
それに対して、フルフルと頭を振って答えるアリス。
「違います! 大活躍だったから言ってるんですわ!」
「え、じゃあ良いじゃない。何か問題あるの?」
すっと片手を上げるスミス。
「うちのマルカにトラウマが一つ増えました」
マルカは隣で両耳を塞いでガタガタと震えている。
「ゴブリンの……ゴブリンの悲鳴が耳から消えないんです……」
それを気不味い顔で見るナージャ。
「あと戦闘中にアリスちゃんがずっと涙目だったのは、魔物が怖かったのではなく、勇者様の戦いぶりが余りに恐ろしかったからです」
ダリルの言葉を聞いて、ナージャがアリスの方を向くと、アリスはビクリと慄き、両手で体を抱きしめて震えはじめる。
「正直、俺も怖いんで止めて欲しいです」
「私も同意見です」
「ちょっとやり過ぎだったかしら……?」
「あれがやり過ぎじゃなかったら、この世の拷問は全て人道的行為になってしまいます」
ここに来るまでに、幾度か魔物と遭遇して戦闘になっていた。
ナージャは、自分が素手だという事も気にせずに戦闘に参加した。
戦い方は、至ってシンプルだった。
相手が動かなくなるまで殴り続けるのである。
ただ、殴った反動で反応しているのか、生き残っているから反応しているのか分からなかったため、執拗に殴り続けた。殴りつけた部分が潰れるまで。
ゴブリンなど人型の敵に対しては、更に容赦がなかった。
まず、相手の膝など関節を砕き、動きを封じてから殴っていたのである。
目の前で繰り広げられる一方的で凄惨な暴力は、敵は勿論、味方にも効果抜群だった。
魔物の悲鳴と繰り返される打撃音に怯えながら、耳を塞ぎたい衝動にかられるが、それも戦闘中なので出来ない。
こうして少女二人の心にトラウマが植えつけられたのである。
「わ、分かったわよ……」
ナージャは、不満顔であったが了承した。
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一同は夜明けと共に移動を開始して、目的地の山に着いた頃には昼過ぎとなっていた。
「山というか岩山ですね」
マルカが山道を歩きながら呟く。
「こんな所に本当に宝なんてあるのか?」
ダリルが周囲の様子を確認しつつ先に進む。
「道から外れると危険ですわね」
山道から外れると、切り立った崖になっており、足を滑らせた場合を想像して、アリスがいそいそと山道の真ん中へ戻ってくる。
「絶好の宝探し日和ですね!」
「本当! いい天気で助かったわ!」
おバカさん二人は今日も絶好調だった。
「この先が、広場になって……」
言いかけて慌てて身を翻すダリル。
後ろからついてくる皆に、静かにするように小声で言い、覗いてみろとジェスチャーをする。
皆がゆっくりと覗いてみると、そこは大きな広場の様になっており、不自然にぽつんと宝箱が一つ置かれている。
そして、その前には、体長五メートルほどはありそうな、巨大なリザードマンが立って辺りを見回していたのである。
体の表面は鎧のような岩で覆われており、並の攻撃では歯が立ちそうにもない。
また、武器は持っていないが、屈強な前腕が、その代わりを十分に果たすであろうことが見て取れる。
ゆっくりと戻り、小声で作戦会議を始める一同。
「あれ、関わっちゃいけない奴ですぜ」
「あんなの見たこともありませんわ」
「矢も魔法も効きそうにないぞ」
「さすがに宝箱の番人は強そうね」
勇者様は、やる気満々のようである。
マルカは、その様子を見て、一旦溜息を吐くが、気を取り直して話し始める。
「あれは、恐らくタイタンリザードです」
「知っているの?」
ナージャの疑問に、慌てて頭を振るマルカ。
「私も魔王さんに聞いたことがあるだけなんです」
マルカは、魔王に会って以来、暇を見つけては酒場に通い、魔物についての話を聞いていたのだ。
魔王も良い弟子が出来たとばかりに、様々な知識をマルカに教えていた。
「体を覆う岩や、大きさなどの特徴から、そうだとは思うんですが……。本来なら、魔族のいる地域の奥地にしか存在していないはずなんです……」
「やっぱり……」
「罠だったか」
ジトリとおバカさん二人組を睨むアリスとダリル。
慌てて、マルカに話を振るナージャ。
「ま、魔王さんに話を聞いたんなら、弱点も知ってるんじゃない?」
「それは……」
顎に手を当てて考え始めるマルカ。
暫く目を瞑っていたが、ナージャの方をチラリと見る。
ナージャは目を輝かせながらマルカを見つめている。
その様子を見て、嘆息しながら答える。
「言っておきますけど、賭けになるかも分からない勝負ですよ? 全員が賛成しない限りやりませんからね?」
そう言って、作戦の説明を始めるマルカだった。
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シルヴィアは、遠くからその様子を眺めていた。
「ウフフ……」
宝箱を置いて自分の魔力をほとんど費やし、わざわざタイタンリザードを、この地に召喚した。
タイタンリザードは、巨人族の生き残りとも言われており、並大抵の攻撃では倒れもしない。
個体数こそ少ないが、その力は、年を経たドラゴンに匹敵するとも言われている。
「さあ、魔王様を侮辱した罪を、その身で味わいなさい」
愉悦に浸るシルヴィアだった。
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「では、行きます」
ダリルは神妙に頷くと、全員を見回して呟いた。
『勇者様の冒険譚に花を添えるのも良いんじゃない?』気楽に言ったスミスに、ダリルとマルカは溜息を吐いて了承した。
この楽観的な部分が、悩みの種であり、またパーティリーダーとしての器なのだろうと、アリスとナージャは考えている。
こうしてタイタンリザードの討伐作戦が開始されることになったのだ。
ダリルは、広場に飛び出すと、タイタンリザードの目に向けて矢を放つ。
「よし!」
矢は見事に命中して、タイタンリザードの右目を潰す。
敵を認識したタイタンリザードは、ダリルに駆け寄ろうとする―
刹那、スミスとアリスが同時に飛び出し、タイタンリザードの股下を駆け抜ける。
『タイタンリザードの弱点は、移動や攻撃のため、剥き出しになっている関節部分です。私達が狙えるのは―』
マルカの言葉を思い出しながら、後ろに回った二人は、足首目掛けて切りつける。
「悪い!浅い!」
「こちらは成功ですわ!」
「グォォォォオオオォォォ!」
切り付けられた左足の腱が切り裂かれたタイタンリザードは、バランスを崩して片膝を着いてしまう。
「やりましたわ!」
「バカ! 立ち止まるな!」
スミスは慌ててアリスの下に走ると、そのまま庇うように飛びつく。
次の瞬間、アリスが先ほどまで居た場所に尻尾が叩きつけられる。
その衝撃で、転がって行く二人。
「スミスさん!」
「生きてるよー!」
心配して声を掛けるアリスと、何とか答えるスミス。
タイタンリザードが、二人を見ようとした瞬間、再び正面から攻撃が飛んでくる。
「ファイアーボルト!」
「ファイアーボール!」
タイタンリザードの顔が炎に包まれるが、そのままダリルとマルカの方向へ駆け出し、拳を振り上げる。
「これで終わりよ!」
後ろに回り込んだ勇者が、タイタンリザードを駆け上り、後頭部を思いっきり殴りつける。
ドゴン! という音と共にタイタンリザードは、ゆっくりと前のめりに倒れていき―
そのまま、崖の下へと落下していった。
「いったい! アイツかったい!」
着地したナージャが涙目で殴った手を振っている。
それを見て、苦笑いしながら近寄ってくるダリルとマルカ。
「俺も痛いんですけどー……」
スミスは、アリスの肩を借りて歩いてくる。
「作戦大成功ね! さっすがマルカ!」
「しょ、正直成功するとは……」
ナージャの言葉に、頬を掻きながら答えるマルカだった。
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シルヴィアは、目の前の光景に口をパクパクさせていた。
勇者がいるとはいえ、冒険者風情の集まりで?
タイタンリザードが?
なぜこうなったのかサッパリ分からない。
マルカの立てた作戦は、魔王の知識によるものだった。
『タイタンリザードの特徴としての。最後に攻撃してきた者を狙うという習性がある』
その言葉を元に、マルカはタイタンリザードに前後の強襲を仕掛け、最終的に崖から突き落とすという作戦を提案したのだ。
まずは正面からダリルによる弓の射撃。
その間に、股下を抜けて、スミスとアリスが攻撃を行い、どちらかの足を潰す。
後ろに気を取られたところで、再度、ダリルとマルカによる正面からの魔法攻撃。
炎で視界を奪った後は、崖に近付いてきた所で、勇者のダメ押し。
正直、勇者のダメ押しは、計算に入れていなかったのだが、成功したのでマルカも何とも言えなかった。
喜んで宝箱に向かっていく冒険者たちを見ながら、シルヴィアはある事に気付いてニヤリと笑った。
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「やべえ。すんげえ嫌な予感がする」
「え!?」
「不味いぞ!」
スミスの言葉に、一番長い付き合いであるダリルとマルカが反応した。
「どういう事ですの?」
「何が……」
そう言って振り返ったナージャが見たものは、崖から這い上がってきたタイタンリザードの姿だった。
「あれで死なねえのかトカゲ野郎……」
アリスの肩を離れ、自力で立ち、剣を構えるスミス。
「ダリル! 三人頼むぞ!」
「マルカ! 二人を頼むぞ!」
「アリスちゃん、勇者様! 逃げてください!」
スミスの横で、弓を構えるダリルと杖を構えるマルカ。
それを横目で見て、嬉しそうにスミスが笑う。
「やった! おバカさん三号と四号が増えた!」
「生憎、私は生き残るつもりなので、二号だけ永久欠番だな」
「私は魔王さんから一番弟子の称号を頂いているので、そこには入らないです!」
三人は笑いあうと、這い上がってきたタイタンリザードに対峙する。
「ちょっと、邪魔だからどいてくれる? 巻き込まれても知らないわよ?」
その声に三人が振り向くと、ナージャが片手を前に出して魔法の詠唱を始めていた。
慌ててスミスの肩を抱えて逃げ出すダリル。
意味も分からずぼーっと立っていたアリスを抱えて逃げるマルカ。
「ライティング!」
何とか三人は勇者の後方に回り込むと伏せたまま頭を抱えている。
「あれ? おかしいわね?」
発動した手応えはあったのだが、何も起こらないので、自分の手を不思議そうに眺めるナージャ。
「へ?」
「失敗か?」
「何も起こらない?」
目を開けてキョロキョロと見回す三人の横で、座り込んだまま上空を見つめるアリスが呟いた。
「な、何ですのあれ?」
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「な、何なのよあれは!?」
シルヴィアが見たものは、タイタンリザードの頭上に展開された巨大な魔方陣だった。
次の瞬間、魔方陣から、光で構成された剣がゆっくりと沸いて出てくる。
そして、それはタイタンリザードに目掛けて大量に降り注いだ―
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「よし! 成功ね!」
満足そうに手を握りナージャが宣言する。
大量の光の剣は豪雨の様にタイタンリザードに降り注ぎ、その全てを貫いて消えて行った。
残ったのは、一面に広がった挽肉だけである。
「なにあれ! ちょ、なにあれ!」
「やはり勇者様は破壊神……?」
「見たことも聞いた事もないんですが!?」
「わー、おねえさますごいですわー」
アリスは思考を放棄したらしい。
「帰ってきて! 帰ってきてアリスちゃん!」
マルカがアリスの肩を揺らしながら叫ぶ。
スミスはダリルの肩を借りて立ち上がるとナージャに向けて言った。
「勇者様! そろそろ報酬見せてくださいよー!」
「ああ、そうね!」
ナージャが走って行って宝箱を開ける。
その中には―
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蔦の模様で構成された柄。
柄の真ん中には希少な魔石があしらわれている。
刃は歪みもなく輝いており、恐らく構成されているのは、ミスリルを基準とした様々な鉱石。
下手をすると、オリハルコンまで使われているかもしれない。
「まあ、伝説とまでは言わんが間違いなく名品の中の名品だの」
魔王はそう言うと、剣を鞘に納める。
場所はいつもの酒場。
集まっているのもいつものメンバー。
「でしょう? でしょう?」
得意気な顔で頷くナージャ。
「恐らく、名匠と言われるドワーフ、ウェッソンが作った物だろうの」
魔王は嘆息しながら答える。
「やっぱりねー! 勇者にはそれ相応の剣が必要よねー!」
デレデレと顔を赤くしてクネクネしているナージャ。
何で、そんな物が山の中に?
しかもタイタンリザード?
そういえばシルヴィアが前に来たときにウェッソンの剣を―
「ちょっと聞きなさいよ! 魔王さん!」
「ちょ、聞いておるからの! 近いの!」
「魔王さんずるいですわ! わたくしだってお姉様に近付きたいのに!」
「アリスが入ってくると、ややこしくなるんだの!」
ナージャの自慢話は夜明けまで続いた。
---
シルヴィアは山の中で膝を抱えていた。
なんだアレは。
不条理の塊だ。
魔王様の言っていたことは間違っていなかった。
『勇者には関わるな』
念のためにと宝箱に入れておいた剣が功を奏した。
あれがなかったら、暴れ回った勇者によって何が起こるか分かったものではない。
それが魔王様や魔族に向けられたとすると―
ブルリと体を震わせる。
「でも、いくらなんでもねえ……」
そう愚痴りながら、魔族の国へ帰るシルヴィアだった。