迷宮6)増築と防衛といじめっ子
さてさて~?
迷宮パワーが盛りだくさんになったわたしは、むむーんと意識を集中する。
コビットさんとスライムさんも一緒になって、こびこびぷにぷに真顔になった。
コビットさんの温室の為に、わたしは前世の温室を一生懸命思い出す。
迷宮にあってもおかしくないようなタイプがいいな。
あんまり浮いちゃうと、冒険者達が温室壊そうとしちゃうかもだし?
あっ、薬草花壇の時と同じように、温室も隠せるタイプにすればいいのか。
そうすると、あんまり大きすぎても駄目だよね。
冒険者が来た時に、わたしがレンガを動かして隠せる程度の大きさじゃないと。
わたしは意識を集中したまま、迷宮パワーを迷宮に注ぎ込む。
薬草花壇の周囲に鳥篭のような枠組みが出現した。
枠組みを埋めるようにレンガが出現し、次々と組みあがっていく。
そして途中からはガラス張りだ。
迷宮パワーでちょっとやそっとじゃ割れない。
ガラスをどんどん増やしていって、天井はまぁるく。
そしてこれが一番大事、水汲み場!
コビットさんは、最初の頃花壇の水あげに迷宮のレンガに溜まったお水をミニミニバケツで運んでいたのだ。
そして迷宮のどこにも雨水が溜まっていないと、なんと近くの川まで水汲みに!
わたしは慌てて近くの壁からレンガを移動して積み上げて、簡易の水貯め場を花壇の隣に作ったのだ。
一応、雨水を貯めておく事は出来るけれど、新鮮なお水のほうが薬草も喜ぶよね?
むむむーっと意識を凝らして、わたしは温室の地面を見つめる。
うん、あるね?
わたしは『てーーーーーーーーーーーーーーいっ!』っと気合を入れて、地面に迷宮パワーを込める。
ぼこっ、ぼこぼこぼこっ!
温室の地面が中側から溢れ出す。
ぼこぼこ、ぼこぼこっ、ぼここここっ!
『ぷににっ?』
『スライムさん、まだ危ないから近づいちゃ駄目ですよ。壁の上で待っていてね』
盛り上がる土に興味津々のスライムさんを止めて、わたしはさらに地面を掘るほる掘る!
……あった!
掘り進んだ意識の先、地下の一部に目指していたものを感じて、わたしは穴の内側を一気にレンガで囲っていく。
そしてそのレンガで彩られた穴の中を、ゆっくりと水が満たした。
うんうん、地下水脈バッチリだね?
結界みたいなものはないけれど、迷宮のある地下もわたしのテリトリーなんだと思う。
なんとなく、わかるんだよね。
電動ポンプみたいな自動には出来ないのかな。
迷宮パワーがちょっとたりない感じ。
でも手押しポンプは作れたから、これでコビットさんの作業は軽減されるかな?
『こびっこびっ☆』
出来上がった温室に、コビットさんがくるくるっと踊って喜んだ。
うん、いい感じ!
コビットさんのサイズも考えて、温室は250cm×350cmの六畳程度だ。
高さは迷宮よりちょこっと低い。
周囲のレンガは他のレンガの二分の一サイズ。
小さめのレンガなら、ささっと動かしやすいかなって。
緊急時をイメージして、ぐぐっと温室に意識を集中すると、思った通りレンガが楽に動かせた。
うん、これで大丈夫。
コビットさんが早速温室に入って薬草のお手入れを始めた。
あ、温室の中にも階段を付けておこうっと。
そうすれば上のほうもお手入れしやすいものね。
コビットさんの邪魔にならないように、わたしは温室の中に螺旋階段を設置する。
うん、完璧!
あとは、防衛だよね。
迷宮を守ってくれる守護者みたいな存在。
どんな子がいいかな?
コビットさんやスライムさんと仲良くしてくれて、なおかつ強い子。
……ゴーレム?
レンガの壁と、井戸を掘るのに余った土を見ていたら、そんなイメージが。
他にも迷宮とセットでよく見かけるのはミミックとかかな?
宝箱にそっくりな魔物。
それと、骸骨剣士なんかもいた気がする。
ピクシー系も可愛いけど、防衛って点だといまいち強い子に思えない。
ドラゴンとかも迷宮とセットなイメージだけど、わたしの迷宮レベルじゃまだ呼び出せないと思う。
完全にボスクラスだものね。
もし呼び出せても、まだ四部屋と温室しかない迷宮にドラゴンさんの居住スペース、無いよね?
うん、ないない。
やっぱり、最初の直感通り、ここはゴーレムにしよう。
わたしは土の塊に意識を集中する。
もこもこっと塊が動いて、新しいレンガが周囲に積み重なってゆく。
そして、ぴかっと光った瞬間、目の前にゴーレムさんが出現した。
わ、ゴーレムさん、意外と小さい?
わたしの迷宮パワーが足りなかったのかな。
迷宮のレンガと同じように茶系のグラデーションで纏められたレンガの身体は、子供と変わらない感じ。
でもがっしりとして、強そうだし、コビットさんやスライムさんと仲良くしてくれそうな雰囲気だ。
『ゴーレムさん、こんにちは! 迷宮へようこそ~』
『オレ、守ル。迷宮、守ル』
『うんうん、敵からみんなを守ってね。これからよろしく!』
ウゴーっと雄叫びを上げて、ゴーレムさんは頷いた。
◇◇
ゴーレムさんを迷宮に迎えて早数日。
普段のゴーレムさんは、迷宮を常に巡回しつつ、冒険者が来た時には置物に擬態してもらっている。
ゴーレムさんは緊急時の防衛だから、普段は冒険者と戦わないようにしてもらっているのだ。
お互いに怪我とかして欲しくないしね。
そして今日、久しぶりに冒険者達が来たのだけれど……。
正直、わたしはイライラしている。
「おい、本当にこんな所にハイポーションの薬草があったのかよ!」
「冒険者がいってるの聞いたぜ。しょぼい宝箱だったって」
「だよなぁ」
くすくすと嫌な笑い方をしながら、冒険者の少年達は一際小さな冒険者を小突いている。
小突かれているのはさらさらの黒髪と、金色の瞳の少年だ。
先日、迷いまくってくれた冒険者である。
小突いているほうは見た事がないけれど、黒髪の冒険者より二人とも年上だと思う。
中学生ぐらいかな?
背が高くてひょろっとしているほうは見るからに意地悪そうだし、もう一人は自分がモテることを知っているタイプ。
赤い髪を長く伸ばして、後ろで縛っている。
二人に無理やりこの迷宮に連れてこられたと思える黒髪の冒険者は、悔しそうに歯を食いしばっている。
……むー、わたし、こうゆう意地悪な子、嫌いだなぁ。
『こびー』
『コビットさんも、やっぱり嫌い?』
『こびこびっ!』
『そっか。じゃあ、宝箱の薬草ケチっちゃいましょー』
『こびっ☆』
コビットさんが素早く薬草を回収して、替わりにレンガを詰め込んだ。
わおっ。
冒険者達はさくさくと進み、すぐに宝箱の前に来た。
意地悪そうなほうが、宝箱を蹴りあける。
「なんだよ、薬草なんかやっぱりねーじゃん!」
「そんな事だと思ったよな」
「この間はあったんだよ、本当だっ」
「嘘つくんじゃねーよ。どこかの屋敷から盗んだんだろ」
「違うっ、嘘なんか……」
「うっせーよっ!」
ガッ!
赤髪の冒険者が黒髪の子を殴り飛ばした。
ほっぺたを押さえ、それでも涙をこらえる黒髪の少年。
酷いよ。
なんなのこの二人。
自分よりも小さくて弱い子を苛めるとか。
なんかもう、本当に大っ嫌いですよ?
「さーて、嘘つきはどうしてやろうか」
「二度と冒険出来ない身体にしてやるのはどうよ」
ニヤニヤと笑って、二人は黒髪の少年を部屋の隅に追い詰める。
あーもー、許せないっ。
レンガを落とし……たら危ないか。
二人に上手く命中するかわからないし、当たり所が悪かったら死んじゃうし。
そうだっ。
『オレ、守ル? ソコニ、行ク』
『ゴーレムさん、死なない程度にやっつけて!』
わたしの意思を感じ取ったゴーレムさんが、くわっと動き出した。
即座に宝箱のある最奥の間にやってくる。
「わっ、なんだこいつっ」
「魔物?!」
うががががっ!
ゴーレムさんは雄叫びを上げて意地悪な子をぶっ飛ばす。
もちろん、ほんとに軽くだ。
ゴーレムさんが本気を出したら、この子達のほうが二度と冒険に出れないからね。
「うわ、やべぇっ!」
「逃げろっ」
赤髪の子と意地悪な子は、涙目で逃げ出した。
『オレ、守レタ。迷宮、守ッタ』
『うんうん、ゴーレムさんありがとう♪』
再び雄叫びを上げて、ゴーレムさんは定位置に戻っていく。
黒髪の少年を見ると、金色の瞳を見開いて真っ直ぐにわたしを――女神像を見ていた。
「どうして……女神像がしゃべっているの?」
えっ。