表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/22

迷宮5)迷子の冒険者

『こびこびっ☆』

『ぷにぷにっ♪』


 コビットさんとスライムさんが、ご機嫌に迷宮をお掃除して行く。

 いつもはコビットさんがお手製のミニミニ箒で掃き掃除をしてくれていたのだけど、今日からはスライムさんが加わった。

 スライムさんが通った所はレンガ作りの迷宮なのに、陶器のようにつるつるですべすべだ。

 迷宮であるわたしを溶かすことなく、表面のゴミだけを綺麗に排除してくれているらしい。

 食べられている時はあれほどぬっとりと苦しかった感触だけれど、いまのスライムさんは気持ちいい。

 エステでマッサージしてもらっている気分だ。


 スライムさんに食べられて大きな穴が開いてしまった壁は、今は透かし模様になっている。

 穴の左右のレンガをずらしたり、他の壁のレンガを移動させたり。

 パズルのように組み合わせて、お洒落度アップである。

 耐久力という点ではちょっと心もとないけどね。

 可愛さ綺麗さは大事だと思うの。


 そして邪悪だったスライムを倒して純粋な(?)スライムさんにした為か、わたしの迷宮パワーがぐぐーっとアップしている。

 増築できそうな感じである。


『こびっ!』

『うーん、わたしはコビットさんの温室を作りたいんだよね。でもコビットさんは、防衛を優先したいの?』

『こびこび、こびー』

『確かに、また魔物がきたら、今度は倒せるかわからないものね』

『ぷに?』

『スライムさんは、もう戦えないのかな』

『ぷに、ぷーにぷに』

『そっかー、もともとは戦わない子だったのね。魔族に操られちゃってたのかー』


 スライムさん、もともとは草原で日向ぼっこするのが好きだったらしい。

 でも角の生えた魔族に何かされて、邪悪になってしまっていたそうな。

 いわゆる正気じゃない状態?

 いまは意思疎通できるけど、邪悪な時はわたしの言葉も聞こえていなかったみたいだしね。

 悪い魔族もいたものである。

 スライムさんは今は戦おうと思えば戦えるらしいけれど、あんまり戦いたくないみたい。

 わたしの壁の穴を見て、しょんぼりしてたしね。

 無理強いは良くない。


 でもそうすると、増築と防衛。

 どちらを優先するか悩むよね。

 迷宮パワーは一杯溜まった感じがするけど、両方実行できるかな。


『こびっ』

『あ、冒険者が近づいてきてるね。久しぶりだなぁ。スライムさんは、迷宮の裏手に隠れていてね。薬草花壇の所よ。薬草は半分ぐらいは食べちゃっても大丈夫だから、食べながら冒険者さんが去るのを待っていてね』


 コビットさんは自由に迷宮を移動できるけど、スライムさんはそうじゃない。

 うっかり冒険者とエンカウントして倒されちゃったら、泣く。

 スライムさんはもともとわたしと一緒で何も食べなくても平気らしいけど、薬草を食べているスライムさんはなんだかつやつやしているのだ。

 ぷるるん感も増しましなので、増えすぎちゃった薬草を食べてもらっている。

 

 スライムさんが薬草花壇にたどり着いたのを確認して、わたしはいそいそとレンガをずらして花壇とスライムさんを隠す。

 コビットさんが張り切って宝箱に目一杯薬草をつめた。

 なんとか宝箱が閉まるぐらいにいっぱいいっぱいだ。

 めったに冒険者が来なくなっていたから、もりもりに増量大サービスである。

 これで準備よし。

 さあ、冒険者さん、いらっしゃい!









 ……この子、大丈夫かなぁ。


 わたしは冒険者の少年を見つめて、首を傾げる。

 最初はね?

 探し物でもしているのかと思ったの。 

 同じ所をいったり来たり、同じ部屋を何度も入ったり。

 でも冒険者の少年はいままでこの迷宮にきたことなかったんだよね。

 迷宮にきた人全員を覚えているわけじゃないけど、今回の冒険者はまだ小学生ぐらいだ。

 冒険者は老若男女いるけれど、こんなに若い子はまだ一度も目にしていない。

 さらさらとした黒髪と、金色の瞳が印象的で、一度見たら忘れないと思う。


 あ、また道を戻ってる。

 真っ直ぐ進めば宝箱の部屋にたどり着くんだけどな。


 冒険者の少年は、迷っているのだ。

 この四部屋しかないちっぽけな迷宮の中で。

 かれこれもう三十分は彷徨っていると思う。

 彼が迷えば迷うほど迷宮パワーが溜まっていくのを感じるんだけど、こんな子供から迷宮パワーをもらっている事にちょっと罪悪感だ。

 別にエナジードレイン能力じゃないから、冒険者さんの生命だとかを奪っているわけじゃないんだけどね。

 それに真っ直ぐな道を迷うなんて、まるでわたしみたいじゃない?

 前世のわたしと同じで、生まれ付きの筋金入りの方向音痴なんだと思う。


 うーん、どうしよう。

 冒険者の少年、泣きそうだ。

 たぶん、部屋から出るとき、自分がどっちの道から来たかわからなくなっちゃってるんだよね。

 泣き出しちゃう前に、宝箱のところに案内してあげたいけど、コビットさんに頼むわけには行かないし。

 小さくても冒険者だからね。

 コビットさんが捕まっちゃったら困るんだ。

 スライムさんに脅かしてもらう?

 でもこの少年、一応剣を持ってるんだよね。

 スライムさんより強いとは思えないけど、万が一はやっぱり避けたいし。


 あ、ついに泣き出しちゃった。


 あとちょっとで宝箱の部屋なんだけど。

 あ、あっ、そっちじゃないのよ。


 うーん……そうだっ。


 わたしは、少年が部屋の奥にいった隙に、ぐぐっとレンガを動かした。

 突然のレンガの音に、少年がびくっと振り返る。

 脅かしてごめんね。

 でもこれでもう、大丈夫。


 少年が部屋を飛び出して、宝箱がある部屋に走る。

 うんうん、そうそう。

 少年がちゃんと正しい道へいけるように、片方の道をレンガで塞いだのよ。

 これなら間違えようがないよね?


「うわぁっ、薬草が一杯だぁっ!」


 少年が金色の瞳を見開いて、嬉しそうに薬草を抱きしめる。

 ふっふっふ、コビットさんが丹精こめて育てた薬草だからね。

 以前よりもさらに効果増しましだと思うの。

 両手に抱えてぎりぎり持ちきれる量だけど、頑張って持って帰るんだよ?


 嬉しそうに薬草を皮袋につめて、入らない分は両手に頑張って抱えて。

 

 あ、また迷っちゃう?!


 出口はそっちじゃないのよ、こっちこっち。


 また少年が変な方に行きかけたから、わたしは慌ててレンガを動かして誘導した。

 最後の最後まで迷い続ける少年だったけど、そのおかげでわたしの迷宮パワーは盛りだくさんだ。

 増築と防衛、いけそうだね?


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ