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迷宮3)冒険者さんいらっしゃい!

 前回までのあらすじ。

 究極に方向音痴な宮路芽衣は、アルバイトの面接に行く途中で道に迷い、事故にあってしまった。

 そして異世界に飛ばされ、迷宮そのものに生まれ変わっていました。

「宝箱はっけーん♪」

「敵もいないのねぇ、ここ~」


 冒険者らしきカップル二人組みが最奥の間の宝箱を発見した。

 最奥って言っても四部屋しかないんだけどね。


 迷宮に生まれ変わってから早数日。

 混乱していたのも最初だけで、わたしはさくっと現状に馴染んでしまいました。


 だってほら、泣いててもどうにもならなかったし。

 だったら、楽しい事を考えたいでしょう?

 地下迷宮じゃなくてよかったなーとか。


 地下ってこう、イメージ的に薄暗くてじめじめしていて、ちょっと怖い虫とかぞろぞろいそうでしょう?

 むしろ魔物の巣窟みたいな。

 それに引き換え、わたしの迷宮はいい。

 屋外なのだ。

 広々とした草原にぽつーんとあるのよ。

 意識を迷宮の上のほうに持っていくことが出来るんだけど、そこから見渡したら、一面野原だったの。

 少し離れた所に村があるけれど、それ以外はほんと何もなくて見晴らしがいい。

 時間と共に映りゆく空の色は鮮やかで、いつまでも見ていたくなるぐらい綺麗だったしね。


 屋外とはいえ虫の一匹や二匹いそうだけど、いまのところ迷宮の中には一匹も出てこない。

 わたしが虫を苦手なせいかな?

 多足形の虫はもちろんのこと、恐怖の黒い悪魔、その名もG様が出現したら、わたしは錯乱する自信があるよ。

 だってこの迷宮、わたし自身だからね。

 想像してみて?

 自分の身体の中をムカデやら黒い悪魔が這いずり回るのを!

 しかもわたしは迷宮そのものだから、迷宮を置いて逃げ出す事もできないんだよ。

 ね?

 無理でしょ怖いでしょ。

 あ、ちょっとほんとに想像しちゃった吐きそう。

 迷宮だから吐けないけどね。


 おっと、また冒険者達がきたきた。

 わたしの意識がこの世界に来た時に、この迷宮も生まれたようなのよね。

 それで、まだ見ぬ迷宮を見に、冒険者達がぽつぽつ訪れるのですよ。


「なんだこれ、本当に迷宮か?」

「一本道じゃん……」


 あー、うん。

 そう思うよねぇ。

 わたしもそう思う。

 ごめんなさいね、期待にそえれるような大迷宮じゃなくて。

 あっ。

 さっき宝箱の中身を持っていかれたのに、まだ補充して無いよ。

 

『コビットさん、急いで薬草を宝箱に仕込んでくださいな』

『こびっ☆』


 ぴょこんっ☆


 わたしのお願いに反応して、最奥の女神像の前に小人のコビットさんが現れた。

 コビットさんは玩具の兵隊のような格好をしている。

 子猫ぐらいの大きさで、色々と雑用を担ってくれる可愛い相棒だ。

 予め用意しておいた薬草をいそいそと宝箱にしまいこんでコビットさんが姿を消すのと、冒険者が最奥の部屋に到着するのがほぼ同時だった。


「おい、いまなんかいなかったか?」

「そうか? 気のせいじゃないかなー」


 そうそう、気のせいですよ、気のせい。

 コビットさんが見つかって退治でもされちゃったら、わたしマジで泣く。

 この迷宮、まだコビットさんしかいないんだからね。

 コビットさんがいなくなったら、わたしはぼっち確定ですよ。

 退治されずとも捕まって売り飛ばされでもしたら、ここから動けないわたしは助けにも行けないしね。

 コビットさんは迷宮に棲む妖精みたいな存在だ。

 たぶん、わたしの迷宮のレベルが上がればもっと増える感じなんだけど、いまは一人だけ。

 コビットさんは迷宮の中を自在に行き来できるから、早々掴まったりはしないと思うけどね。 


「……しょぼすぎないか、これ?」


 宝箱の中をあけて、がっくりと項垂れる冒険者さん。

 うん、ごめんね。

 薬草ぐらいしか、まだ用意できないんだよね。

 でもその薬草は、コビットさんが一生懸命迷宮の裏手で育ててくれてたりするのよ。

 さんさんと煌く太陽の光とコビットさんの愛情がたっぷり詰まってるから許して?


「まぁまぁ、こんなちっこい迷宮じゃこんなもんだって。むしろレアなお宝があったらなんかの罠が心配だよ」

「それはそうなんだが」

「この薬草、結構新鮮じゃない? 冒険者ギルドに持っていけば意外と買ってくれるかもよ?」


 うんうん、そうそう。

 その薬草、ちょっと効力お高いらしいのよ。

 一昨日来た冒険者の中に薬草に詳しい人がいてね。

 色々仲間に解説していたのを聞いてたんだけど、同タイプの薬草よりも二割り増しの回復効果が見込めるとか何とか。

 調合に失敗したら無駄になっちゃうけどね。

 コビットさんが一生懸命育ててくれた薬草だから、捨てないで欲しいな。


「一応持って帰るかぁ」


 冒険者はがさごそと腰のバッグに薬草を詰めて去って行った。

 良かったよかった。

 昨日来た冒険者さん達ってば、宝箱開けた瞬間に「ゴミじゃん!」って叫んで薬草投げ捨てたからね。

 泣きじゃくるコビットさんなぐさめるの大変だったよ。


 そして冒険者が立ち去ると、わたしの身体にちょみっと増える迷宮パワー。

 勝手に迷宮パワーなんて呼んでいるけれど、この迷宮に人が訪れると、わたしの力が増えていくのですよ。

 経験値みたいなものなのかな。

 それが溜まっていくと、たぶん迷宮を大きく出来るんだと思う。

 増築とか改築とかね。

 まだやったことがないから分からないけど、たぶん出来る。

 誰に教わったわけでもないのだけど、本能的に感じるんだよね。


『こびっ?』


 コビットさんがいつの間にかわたしの目の前に来ていた。

 わたしは迷宮そのものだけれど、意識の塊っていうのかな?

 迷宮のどこかにいたりするんだよね。

 なんとなく女神像の中にいることが多いけれど。


『コビットさん、どうかしたの? うんうん、雲が出てきて雨が降りそう? そうね、薬草が濡れないようにしましょうか』

『こびっ♪』


 コビットさんはほとんど喋らない。

 でも何を言いたいのかなんとなく判るし、わたしの言葉も通じているので困った事はない。

 空を見上げると、コビットさんが言うとおり雲が出てきていた。


 わたしは迷宮の横にあるコビットさんの薬草花壇に意識を集中する。

 迷宮の壁を作っているレンガが少しずつずれて、薬草を守るように屋根を作った。


 うん、これで大丈夫かな。

 そんなに厚い雲じゃないから、ちょっとした小雨程度ならこれで薬草は濡れないはず。

 ちなみに、冒険者が迷宮に入らずに迷宮横に来てしまった場合は、レンガをもっと移動させて花壇を隠してたりする。

 じゃないと根こそぎ抜いていかれちゃったら大変だからね。

 宝箱に入れるものがなくなっちゃうし、コビットさんが大泣きしちゃうよ。

 あ、迷宮パワーが溜まったら増築しようと思っていたけれど、温室なんて作れるのかな?

 コビットさんが喜びそうだよね。

 あ、また冒険者が来た!

 うんうん、どんどん来てね。

 わたしの迷宮パワーの為に!


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