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迷宮21)雑貨のお店、始めたのです

~前回までのあらすじ~


 ありえないぐらいの方向音痴な宮路芽衣は、交通事故で異世界転生!

 よりにもよって、方向音痴なのに迷宮そのものに生まれ変わってしまいましたっ。

 たった四部屋しかなかった迷宮だけど、迷宮仲間の小人のコビットさん、スライムさんにゴーレムさん、ソードさんに、ケロケロさんにハーピーさん。

 そして人間のお友達ルーくん。

 みんなのおかげでえっちらおっちら部屋数増えてちょっとした迷宮に育ちました。

 えっへん!

 でも、青い夜に前世の夢を見ていたら、いきなり五年間も経っちゃいましたっ。

 迷宮が汚れまくっていたので、ルーくんの妹のシェルリーちゃんと、お友達のカジンとノーチェ、フェアリアちゃんにお手伝いをお願いして、綺麗にピッカピカに磨いてもらいました。

 そして今日は、雑貨屋さんを作ることになりましたが、はてさて~?



「いらっしゃいませ、迷宮ショップへようこそ~」


 のほほん、のほほん。

 わたしは、迷宮の横に作った小さな雑貨屋さんで、冒険者さんを笑顔で出迎えた。

 この冒険者さんは常連さんで、迷宮の中に入らなくても、ちょこちょこお店に買い物に来てくれるのです。


 冒険者さんは、お店の中をくるりと見回して、色々雑貨を手にとっています。

 お店はね、ほんとにすぐに作れたのですよ。

 迷宮パワーをむむむむむーってすれば、前世で見た雑貨屋さんのイメージのまんまに、迷宮の横にちょこんと出来上がりました。

 もともと迷宮が前世の雑貨屋さんと似ていたせいか、レンガ造りの建物が一般的なせいか、違和感があまりないのです。

 ただ、前世の雑貨屋さんみたいに品揃え豊富というわけにはいかなくて、冒険に必要なポーション類が主だったり。


 ……冒険者さん、何か探し物かな?

 あの辺りの棚は、解毒系のポーションが置いてあると思うのだけど。

 そう思って見つめていたら、冒険者さんも目線に気づいて困ったように苦笑した。


「えっとね、ポーションある? 出来れば解毒系」


 言われて、側まで行って棚を見上げると、あ、在庫が切れちゃってました。


「奥の部屋に行くとあるのですよ。三種類ほどあるのですけど、どのレベルにされますか?」

「そうだな。ここの店のポーションは性能いいから、真ん中のレベルでいいかな。五本ある?」

「はい、ございます。少々お待ちくださいませ」


 わたしは、雑貨屋さんと迷宮の間に作っておいた在庫の部屋に行き、解毒ポーションを五本、藤籠に入れてお店に戻る。

 あ、この籠もコビットさんの手づくりです。

 コビットさん、本当に何でもできちゃうの。


「こちらでよろしいですか?」

「おっ、それそれ。代金は二万キュールだね。あ、通常のポーションは頼んでないぞ」


 籠の中に体力回復のポーションを見つけて、冒険者さんが取り除こうとするけど、わたしは止めました。

 これはおまけなのです。


「はい~。いつも来ていただいていますのでおまけですよ」

「えっ、ほんと? 悪いね。助かるよ。じゃあ俺からもおまけで、一角鶏のスモークチキンやるよ」

「あわわっ、それは申し訳ないのですよっ」

「いいからいいから。今度は料理も買いにくるからさ。一角鶏の料理も楽しみにしてるよ」


 冒険者さん、背負ったリュックから大きなスモークチキンをわたしに渡して、ご機嫌に立ち去ってゆきました。

 残されたわたしの手には、ずっしりと大きな一角鶏のスモークチキン。

 どうしましょう。

 迷宮ショップで出しても大丈夫かな。

 コビットさんなら調理も出来る?

 お店に出せるちょこっとした携帯用の軽食になればいいかもです。

 

 そんな事を思っていたら、ルーくんが温室から薬草を抱えてお店のほうに来ました。

 ポーション類も良く売れるのですが、薬草も同じぐらい売れるのですよ。

 調合するのに必要だとか。

 ちょっと腕が悪くても、その辺で売っているポーションよりも上手く作れてしまうのがコビットさんの薬草なのですよ。

 なんだか日々パワーアップです、うん。


「迷宮さん、いい食材もらえたね」

「良すぎるのですよ。でもスモークチキンですから、かなり日持ちしますよね?」

 

 こちらの食材の常識はあまりよくわからないのです。

 でも、前世の知識と照らし合わせれば、恐らくナマモノは日持ちせず、スモーク系は長持ちしたような気がするの。


「いや、どうだろう。せいぜい五日間ぐらいじゃないか?」

「えっ、そんなに短いのです?」

「迷宮さん、一体どれぐらいを想像してたの」

「一ヶ月ぐらいかなーって」

「それはチーズでしょ。肉を一ヶ月も放置しちゃったら食べられなくなるよ」


 そっか、前世で冷蔵庫に保存していたのも、チーズでした。

 スモーク系はみんな一ヶ月っていうのは、気のせいなのですね。

 

「……迷宮さん、お店には一ヶ月も放置した料理とか出していないよね?」

「だ、出していないのですよ。……たぶん」

「たぶん?!」

『こびっ! こびこーび、こびっ☆』


 ぽんっ☆


 コビットさんが転移してきて、即座に全力で否定してくれました。

 よかった、期限切れの食材は一切出していないそうな。

 さすがコビットさんです。


「やっぱり、ポーション系はよく売れるよな」

「みんなのおかげなのですよ」


 ルーくんはもちろんのこと、カジンくんやノーチェ、フェアリアちゃんにシェルリーちゃんもお手伝いにきてくれるのです。

 あとあとっ、わたしは自分の事を女神像姿だと思っていたし、今でも半分はそうなのですが。

 フェアリアちゃんが貸してくれた鏡を見ますと、一見、人間に見えるのですよ。

 ちょっと肌の色が白すぎたり、髪が少し癖のある白銀で、瞳もすごく色素が薄くって、全体的にやっぱりちょっと違和感はあるのですが。

 動く石像とは思われない感じです。

 だからお店を経営してても、怖がられたり警戒されたりしなくてほっとしました。


 ほら、わたしは迷宮ですから。

 魔物扱いで討伐されちゃうと怖いのです。

 ちなみに女神像は、わたしの意識が迷宮に戻るとその場で石像になってしまいます。

 人のように見えるのは、わたしが中に入っているときだけみたいです。


「ルーくんは、スモークチキンですと、どんなふうにして……きゃっ?!」

「迷宮さん?!」


 ぞわっと、嫌な気配が背筋を走りました。

 何かが迷宮のほうに反応したのですよ。

 しかも一箇所じゃない、何箇所も。

 そしてすぐに、迷宮の入り口で防衛を担っているケロケロさんから声が飛んできた。


『ケロケーロ、ケロケーロ、迷宮様、緊急事態だケロッ』

『ケロケロさん、どうしましたか? わたしも変な感触を感じているのですよっ』

『迷宮の周囲に、スライムが出現ケロッ! いっぱいケロ!!』

『え、スライムさん……?』

『違うケロ、スライムケロ! 危険ケロッ!!』


 スライムさんじゃなくて、スライム?

 えっと……。


「あっ」

「迷宮さん、何があったんだ? 説明してくれ」


 青ざめるわたしに、ルーくんが真剣な表情で迫ってくる。

 

「えっと、スライムさんじゃないスライムが、迷宮の外にいっぱいいるみたいなのです」

「スライムさんじゃないスライム? えっ、それって普通の?」

「たぶんっ。わたし、迷宮の中に戻りますっ、ルーくんは、温室に逃げてください、絶対に守りますから」 

 

 急いで店の置くの部屋に駆け込むわたしの腕を、ルーくんが掴んだ。


「ルーくん?」

「迷宮さん、忘れてる? 俺は冒険者だよ」

「それってつまり」

「一緒に戦うってことさ。ケロケロさん、場所はどの辺りに出現してる? 包囲されているわけじゃないよな?」


 お店の周囲には今の所見当たらない。

 でも、迷宮の壁にスライムが複数、触れているはずなのです。

 女神像の中にいる状態でもわかるのだから、たぶん、ううん、かなり大きい。


「ルーくん、スライムさんじゃないスライムで、すごく大きい感じなのです。だから、みんなと一緒に温室に逃げて欲しいのですよ」

「馬鹿いうなよ。スライムなんて、敵じゃない。通常のダンジョンなら、初歩も初歩、低レベルで倒せる雑魚モンスターなんだ」


 うぅ、ルーくん、逃げてくれそうにない。

 わたしも分かるのですよ。

 前世の記憶的にも、ゲームでよく出てくるスライムは、初級モンスターですよね。

 この世界の冒険者達の発言からも、たぶんそう変わらないと思う。


 でも、うまくいえないのですけど、すっごく嫌な感じなのですよ。

 五年間も眠ってしまう前に感じた、変な視線のような、悪意というのでしょうか。

 スライムは大きいだけじゃなくて、危険だからこそ、女神像の中にいる状態でも存在を感じ取れるんだと思う。

 

 わたしは、店の奥の壁に手をつく。

 ルーくんが止めようとしたけれど、わたしのほうが早かった。

 わたしの意識は瞬時に迷宮と同化して、全体を把握できるようになる。


 うあっ、身体中が、気持ち悪い……っ。


 何匹ものスライムが、外壁を這いずっているのがダイレクトに伝わってきて、わたしは鳥肌がたつような感覚に襲われる。

 でもここで蹲るだけなら、迷宮に戻った意味がないのですよ。

 わたしは、ぐぐーっと意識を凝らして、迷宮の中を冒険している冒険者達を、レンガを動かして誘導する。

 間違ってもスライムのいる方向へ行かないように。

 

 そしてみたくないけれど、わたしはスライムに意識を向ける。

 スライムは、町とは反対側の草原から来たのか、そちら側の壁に密集している。

 

 昔の、スライムさんみたい。


 毒々しい紫色をしたスライムは、真っ白く生まれ変わったスライムさんとは似ても似つかないほど大きくて禍々しい。

 ねっとりと絡みつくように迷宮の壁を這い登り、ぼとり、ぼとりと中に進入してきた。


 えっ、進入?


『ケロっ?!』

『ケロケロさん、許可を出したりしていませんよね?』

『当然ケロ、入れないはずケロッ』


 そう、ケロケロさんが許可しなければ、迷宮の中には入れないはずなのです。

 上空は範囲外ですけれども、壁を伝ってきたスライムが入れるはずない。

 そういうルールが、ケロケロさんが迷宮に生まれたときに出来たはず。 

 なのに、なぜ?


 考えている暇はなく、スライムは何匹も迷宮の壁をよじ登って中に進入してくる。

 あー、そっちはダメ、冒険者さんたちのほうに行っちゃう!


 何で進入できるのかを考えるのは後なのです。

 わたしは慌ててレンガを動かし、スライムの侵入を阻んでいく。


 敵の進入に気づいたソードさんとゴーレムさんが、間に合った。


『ソード、こびこびっ!!』

『オレ、敵を倒ス。迷宮。守ル!』

『二人とも、敵がいっぱいなのですよっ。油断しないで、危なくなったら逃げて』

「俺も戦うって言ったよね?」


 外壁のスライムにルーくんが走りよる。

 えっ、なんでルーくんスライムのところに駆けつけれたのです?

 方向音痴のルーくんは、わたしが誘導しないとまともに目的地に辿りつけないですのに!

 

「外周走ったよ! まったく、迷宮さんは心配性すぎるんだっ」


 言いながら、ルーくんはスライムに迷う事無く剣で切りつけた。

 外壁を這い登っていたスライムは、真っ二つになって地面にべシャリと落下する。

 でもスライムはやっぱり魔物だから、切られてもすぐに二つはくっついて、元の大きさにぶにゅりと再生した。


 あぁ、みているだけで怖いっ。


 目を逸らしたくなる不気味な姿を頑張って睨みつける。

 ソードさんもゴーレムさんも、迷宮の中に進入してしまったスライムを叩き潰したり、切り刻んだり、勇敢だ。

 どうみても二人は強いし、ルーくんだって本当に強くなった冒険者だと思う。

 でも、スライムには攻撃が効いてない。

 大きすぎるせい?

 ぶにゅぶにゅとしたゼリー状の身体は、切っても潰されても再生しちゃう。

 いっぱい切り刻めばその分全部くっつくまでに時間がかかるし、心なしかぐったりしてきているような気はする。

 でも細かく切っても、切ってるそばからくっついて再生してしまうなら、どうすれば倒せるの?


『ぷに、ぷーにっ、ぷににっ』

『えっ、薬草?』


 スライムさんが、わたしの意識のすぐ隣に来てうんうんと頷くように白い身体をぷるるんと揺らす。

 そうだ。

 スライムさんが邪悪なスライムだった時。

 なんとか戦ってスライムさんが弱ったタイミングで、コビットさんが薬草をスライムさんに放り込んで正気に戻せたのでした。

 この邪悪なスライム達も、本当はスライムさんと同じで魔族に邪悪に変えられちゃった状態なら、薬草で元に戻せる?

 答えはやってみるしかない。


 わたしがそう思ったときと、コビットさんが転移してくるのは同時だった。

 ぽんっといい音を立てて、コビットさんがルーくんの隣に出現する。

 その両手には、抱えきれないほどの薬草がいっぱいだ。


「馬鹿っ、コビットさんは出てきちゃダメだ! 危険なんだぞっ」

『こびこーび、こびこびっ!』

「えっ、こいつらスライムさんの仲間かもしれない? 魔族に邪悪に変えられたかもって……うぉっと、危なっ」


 ブシュッと、スライムが液体を吐き出した。

 迷宮の壁に飛んだ液体は、じゅぅっと嫌な音を立てながら迷宮の壁を溶かしていく。


 痛くない、でも、気持ちが悪い……っ。


 わたしは、溶けて穴の開き出す壁の感覚を必死に耐えた。


『ルーくん、どうにかスライムを弱らせて欲しいのです。もしかしたら、薬草でスライムさんみたいに白くなれるかもしれないの!」

「よし、全力でやってやるぜ!」


 ルーくんが金色の瞳を強気に輝かす。

 タンッと地面を蹴ると、そのまま剣でスライムを横薙ぎに払い、振り向きざま突き刺した。

 のみならず、後ろに迫っていたスライムに回し蹴りを食らわせ、剣を抜いた勢いを使って切り裂く。


 えっ、ルーくんって、本当に強い?


 一瞬たりとも立ち止まらず、風のようにくるくると身軽にスライムを切り裂いていく。

 細身の身体は一見か弱そうなのに、バネのようにしなやかで、スライムに隙を見せない。

 

『こーびこび、こびっ!』


 ルーくんの攻撃で動きの鈍ったスライムの一匹に、コビットさんが思いっきり薬草を投げ込んだ。

 瞬間、カッと光るスライム。

 そして光が収まると、そこにはつぶらな瞳の真っ白いスライムが!


『……ぷに?』

『大っ成功ですっ!』

「やったぜ!」

『こびこびっ☆』


 全員、ガッツポーズ!

 あ、わたしは心の中でですよ?

 ほんとにやったら迷宮がぐらぐら揺れちゃいますからね。


「おっし、この調子でどんどん正気に戻すぜ!」

『こびーーー!』


 ルーくんが腕まくりして、外壁に張り付いているスライムを次々と弱らせ、コビットさんが薬草で正気に戻していく。

 そして迷宮の中に進入した数匹のスライムは、ゴーレムさんとソードさんが迎撃して、壁の外まで追い払った。

 ぼとりぼとりと迷宮の外へ、ルーくんたちのほうへ落っこちたスライム。

 あとは、薬草をたっぷりと与えればいいのです。


 でもここで、コビットさんが両手を挙げた。


『こびっ、こーびっ』

「えっ、薬草がもうない? 急いで取って来るって? マジか、時間稼ぎ頑張るぜ」

『こびっ』


 コビットさんが頷いて転移しようとした時、パタパタと羽音を響かせて、小鳥さんが飛んできた。

 その両手には、薬草がたっぷり!


「薬草が足りなくなったのではなくて? 詰んできて差し上げましたわ」

「小鳥さん、流石!」

『こびー、こびーこびっ!』

「褒めても何も出なくてよ。迷宮の敵はわたくし達の敵でしてよ。さぁ、これで一気に片付けて下さいな」


 ふふんと顎をそらし、小鳥さんはルーくんとコビットさんへ薬草を渡す。

 

『こーーーーびーーーーーー!!』

「たっぷり食うといいんだよ!」


 ルーくんとコビットさんが、スライムに薬草を突っ込んだ。

 ……と、思ったら。


 ぼよんっ☆


 ルーくんとコビットさんが、薬草を持ったまま思いっきり弾き返された。

 紫色のスライムが、さっきの数倍に膨れ上がった。


『えっ、なんか巨大化してるのです?!』

『こびっ?!』

「数匹分の感じだろこれ。……あ、まさか」

『薬草で巨大化しちゃいましたかっ』

「違う。こいつら、合体しやがった!」


 ぶしゅーーーーーーーーーーっ!


 合体スライムが思いっきりルーくんに液体を吐き出す。

 コビットさんを突き飛ばして逃がしたルーくんは、利き腕に思いっきり液体を浴びた。

 紫色の液体は、瞬時にルーくんの衣類を溶かし、即座にルーくんは服を脱いだけれど間に合わず、その白い腕が火傷のように赤く爛れだす。


「くっそ、みんな離れて! やばいっ」


 コビットさんも小鳥さんも、合体スライムから距離をとる。

 

「ブーーーーーーーーーーーーーーニィーーーーーーーーーーーー!」


 合体スライムは勝ち誇ったように咆哮をあげ、ぶるるんと身体を震わす。


 え、やだちょっと、わたしを見てる?

 

 にいっと笑うような気配と、同時に、紫の液体がわたし目掛けて浴びせかけられた。

 即座にわたしは壁を移動したけれど、今までいた場所がどろどろと無残に溶けさった。

 

 なにこれ、さっきまでの威力と桁違い。

 こんなのをルーくんやみんなが浴びたら、死んじゃうから!


『ルーくん、全力で逃げて! 危なすぎるのっ』

「いや、逃げれないだろ。逃げたら迷宮さんが全部溶かされるよ」

『で、でも、近付く事ももうできないのですよ。薬草を身体に入れられなきゃ、倒せないし正気にも戻せないでしょう?』


 薬草は、身体の表面にくっつけても意味がないとおもう。

 さっきルーくんとコビットさんが弾かれたのですし。

 弱ったスライムの身体の奥深くに、ぐいっと突っ込まないとダメなんだと思う。

 そしてそうするには近付かなきゃいけないけど、近付いたらみんな溶かされちゃう。


 迷宮の壁に開いた穴から、ゴーレムさんとソードさんが外に出てくる。


『ゴーレム、近ヅケナイ』

『ソード、剣、投げる!』


 ゴーレムさんはレンガを、ソードさんは手にした剣を合体スライムに投げつける。

 でも合体スライムは二つをその身体でどぷりと飲み込み、瞬時に溶かした。

 口をにぃっと横に伸ばす。


『二人を溶かさせたりしないんですからっ』


 ブシュゥーーーーーーーーーーーー!


 わたしがレンガを即座に動かして壁を作るのと、合体スライムの攻撃は同時だった。

 ゴーレムさんとソードさんの前に出来上がった壁は、瞬時に合体スライムの液体に溶かされて消え去った。


『ゴーレムさんとソードさんは迷宮の中に戻って!』

『ゴーレム、悔シイ。守レナイ悔シイ』

『こびこびっ、戦いたかった!』


 文句を言いながらも、二人はちゃんと迷宮の中に戻ってくれた。


『コビットさん、ルーくん、二人もですよっ。一旦迷宮の中に戻って』

「……いや。俺に考えがあるんだ。迷宮さん、合体スライムの周辺に壁をいっぱい出現させれる?」

『うん、出来ると思うわ』

「じゃあそれで時間を稼いでくれ」

『ルーくん、何をするつもりなの』

「説明時間が惜しい。俺を、信じて」


 ルーくんは合体スライムから距離をとり、リュックから杖を取り出すと、何かの模様を地面に描いていく。

 合体スライムがルーくんに方向転換しようとしたから、わたしは慌てて壁を出現させて進行を妨げた。


 ルーくんが何をするのか分からないけれど、終わるまでわたしは壁を出現させ続けるよ!


 合体スライムの周囲をレンガの壁で覆い、溶かされても溶かされても二重三重に壁を構築していく。

 何度目の壁を作ったときだろう。


「出来た! 迷宮さん、見ててくれよ?」


 ルーくんが、地面の魔法陣に薬草を置いた。

 そして意識を集中し、静かに、呪文を唱える。

 魔法陣が輝きだし、そして同時に、壁に囲まれた合体スライムの身体の中に魔法陣が出現し、紫色の身体をほのかに光らせた。


「ヴェルグベルグ、ギュエインザーガ、ポップルベップル、ガーレンド。我は望む、空間と空間を繋ぎし魔法陣に。ヴェルクベルグ!」


 トンッとルーくんが杖で魔法陣を叩く。

 瞬間、一際強く輝く魔法陣の中心から薬草が消え、合体スライムの身体の中心に薬草が出現した。

 今までの何倍も強く光るスライム。


『…………ぷーにぷに?』


 ばらばらと崩れるレンガ壁。

 でもそれはどろりとした液体のせいじゃない。

 合体スライムが小首をかしげるように身体を傾けたら、反動で壁が壊れた。


「正気に戻ったみたいだけど、迷宮で暮らすんだったら分裂してもらわないとダメだね、これ」


 ルーくんがぽりぽりと頬っぺたをかく。

 うんうん、わたしも同意なのです。

 合体スライムさんは大きくてぷにっとしてて柔らかそうだけど、ちょっとぶつかっただけで壁が壊れちゃうと、一週間ぐらいで更地に変わってしまいそうな気がするの。


『ぷにっ!』


 スライムさんが、ルーくんの赤く爛れた腕に飛びついた。

 ぐんぐんとスライムさんに癒されていくルーくんの腕は、元の白くて細くて、そして頼りがいのある腕に戻った。


「あ、忘れてた。スライムさん、ありがとう」

『ぷにぷに♪』

 

 うん、これでもう邪悪なスライムはいなくなったかな?

 わたしは迷宮の隅々まで意識を走らせる。

 うん、大丈夫。


 でも、なんで迷宮が狙われたのかな。

 偶然?

 わたしは、ちょっぴり気になりつつ。

 迷宮の修復に意識を向けることにしました。


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