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20/22

迷宮20)大掃除!

 

 さてー。

 ものすっごく汚れている迷宮。

 今日はそのお掃除です!


「迷宮さんって、本当にいらしたのですね……」


 女神像なわたしを見て、フェアリアちゃんが小首を傾げる。

 今日は、ルーくんがみんなにお願いして、カジンくん、ノーチェ、フェアリアちゃんにシェルリーちゃんもお掃除のお手伝いに来てくれました!


「ルーシェルが泣くからさー、マジでどうするかと思ったよ」

「あっ、そればらすなよっ!」

 

 カジンくんは、軽く頭をかいてルーくんに笑う。

 みんなの話しだと、わたしが眠ってしまったあと、ルーくんが物凄く泣いたらしいのです。

 迷宮さんが消えちゃった、って。

 戸惑うみんなに、いままでのことを全部話して、だからみんな、わたしの存在を知っているのです。


「迷宮さん迷宮さん、おにーちゃんね、迷宮さんを探す為に転移魔法をいっぱい練習したんだよ〜」

「転移魔法です? なにに使うのでしょう〜?」

「それはー……むぐぐっ!」

「シェルリー、余計な事いわないっ!」


 ルーくん、シェルリーちゃんのお口を両手で後から抱きしめるように塞いだ。

 お顔、真っ赤です。


 それにしても、みんな本当に育ったなぁ。

 ルーくんを見た時も思ったけれど、五年間って長いよね。

 美少女だったフェアリアちゃんは、より一層綺麗さが増して美女になってる。

 いじめっ子風味だったカジンくんは骨格がしっかりとして、頼りがいのある兄貴風味に。

 ナンパ少年な感じのノーチェは、うん、結構そのまんまかな?

 でも相変わらずもててそう。

 くりくりっと愛らしかったシェルリーちゃんは、フェアリアちゃんとはまた違った可愛らしさで、でも女性らしい体つきになっている。


 そして極め付けが、村!

 ううん、もう、村って言えない。

 街だよね。

 レンガ作りの壁なんて前はなかったのに、今ではくるりと街を取り囲んでいるの。

 以前、コビットさんがあげた白い花。

 あの花が、実はよい収益になったそうで。

 他の町では育たなくてすぐに枯れてしまって、ルーくんたちの町の特産物となったんだって。

 あの花を乾燥させると、ずっと長もちするポプリで、害虫除けにもなるんだとか。

 コビットさんの育てた植物って、やっぱりすごいのですよ。


「壁の汚れが落ちそうにないな」


 ノーチェが、雑巾片手に肩をすくめる。

 うー、やっぱり、五年の歳月のせい?

 ずっと磨かなかったレンガの壁は、雨風にさらされて、雨のシミとか色々混ざって本当に汚いの。

 

『ぷにぷーにっ♪』

「お? スライムさんは落ちたみたいだぜ?」

 

 汚れを落とせないノーチェに、スライムさんがえっへんと胸を張る。

 そうして、ぷにににっと何匹もに分裂した。


「あぁ、そうか。スライムさんを借りればいいのか」


 ノーチェがスライムさんを一匹、ひょいっと掴む。

 

「えぇえ? スライムさんを潰しちゃだめですよ?」

「潰さない潰さない。スライムさん、痛くないよな?」

『ぷにっ♪』


 ノーチェにつかまれて、壁をごしごしされているスライムさんは、元気に返事を返してくれた。

 

『ぷにぷに、ぷーにぷに♪』

「ふむふむ? 自分で磨くより、楽に磨けるのですね? それならよかったのですよ〜」


 ノーチェがスライムさんで磨いてくれた壁は、どんどん綺麗になっていく。

 以前のようなすべすべつるるんには程遠いけど、汚い状態からは脱した感じ。


 迷宮って、ほんとうにわたしの身体で。

 だから、昨日女神像から迷宮へ意識を移動したときは、あまりの気持ち悪さに叫びそうになってしまったのですよ。

 ねっとりというか、べっとりというか。

 自分の身体を覆う感触の気味の悪さ。

 何日間もお風呂に入っていないような、そんな最悪気分なのです。

 

 あ、カビも見っけちゃったのですよ。

 スライムさん、届くかな?


『ぷににん♪』


 任せて、って?

 頼もしいなぁ。


「これ、今日中に終わらないかもだね」

「そうかな?」

「うん。ちょっと、魔法使っちゃうけど、いいかな?」

「たぶん大丈夫、と思うの」

 

 シェルリーちゃんの確認に、わたしはこくりと頷く。

 以前土を魔法で掘り起こされたときは、とってもくすぐったかったのですよ。

 でも、女神像の中に入って移動していると、迷宮との感覚が弱まるっていうのかな?

 迷宮に意識があるときよりも、迷宮を遠くに感じるというか。

 全体も把握できなくなる感じだから、たぶんきっと、くすぐったさも我慢できると思う。


「よーし、いっくよーーーー!」


 シェルリーちゃんが、おもいっきり風の魔法を発動させた。

 ごぉおおおおおおっと音を立てて、地面に降り積もっていた落ち葉がぶっ飛んでいく。


「わぁああっ、凄いですよっ。掃除機みたいです」

「掃除機?」

「あ、えっと、風魔法みたいに、ごごごーって、ゴミを吸い取ってくれる道具なの」

「ふぅん? そんな便利な道具、見た事がないな」

「迷宮さん、どこでみたの?」


 シェルリーちゃんとルーくんが小首をちょこんと傾げる。

 二人一緒に、同じ方向にかしげるから、ちょこっとだけ笑ってしまった。

 仲良し兄妹、いいなぁ。


「えっとね、わたしの前世の世界なのですよ。この世界じゃない所ですよ〜」

「えっ。迷宮さんって、異世界の人だったの?!」

「生まれた時から迷宮さんなんだと思ってた……」

「迷宮になる前は、みんなと同じ人間でしたよ? あっ、でも、魔法は使えなかったから、同じじゃないのかなぁ?」

「あー、でも、だからか。さっきから、何で箒とか使えるのかなって不思議だったんだよ」


 箒が使えるのが不思議?

 わたしは、自分の両手を見る。

 右手に箒、左手にちり取り。

 ちなみに作ってくれたのはコビットさん。

 女神像なわたしに、ぴったりサイズです。


「迷宮さんって、迷宮だったでしょ? なのにどうして、手足を普通に動かせるのかなって」


 そっか。

 確かに迷宮に手足は付いていないのですよ。

 

「きっと、前世で使っていたから、使えるのですよ。ちょこっと、小さくなった気がするのですけど」

「前世も女の子だったの?」

「そうですねぇ。でもいまを女の子といっていいのでしょうか」


 女神像が女性の姿だから女の子風ですけれど、本体は迷宮だから。

 迷宮に性別って、あるのかな?

 


「いいんじゃね? そのほうがルーシェルも喜ぶし。なー?」

「こらっ、カジンは変なこというなよっ!」


 くくくっと笑うカジンくんに、ルーくんがしがみ付いて口をぎゅーーーっと塞いだ。

 でもシェルリーちゃんのときと違って、カジンくんはルーくんより背が高いから、ルーくんの手から顔をするっと逃げさせて、逆にルーくんを捕まえちゃった。


 みんなで笑っていると、コビットさんがポンッと転移してきた。


『こびっ☆』

「え、お料理を作ってくれたの?」

「コビットさんの手料理? なにそれ食べたい!」

「ダンジョン妖精が料理を作れるのですか……ほんとうに、ここの迷宮は他とは違うのですね」

「わーわー、どんなお料理? 人間が食べても大丈夫なのかなっ」

「みんな、喜ぶのは良いんだけど、とりあえず掃除道具は片付けてからにしようね?」


 ノーチェが呆れたように肩をすくめて、わたしたちはコビットさんの温室に歩き出す。


「迷宮さん、どっちに行くのさ?」

「あ……間違ってしまいました」

「おいおい、自分の迷宮で迷うのか?」

「この身体ですと、方向がよく分からないのですよ〜」


 迷宮と同化すると分かるのですけど。

 女神像で動いていると、意識を迷宮の上に持っていくこともできないのです。

 だから、全体を見渡せなくて、いま自分がどこにいるのかまったく判らないの。

 迷宮に生まれ変わったけれど、方向音痴は死んでも治らないのね。


「迷宮さんは、おにーちゃんみたいだねぇ」

「ううん、ルーくんよりは迷わないのですよ? 家にはいつも帰れましたし」

「迷宮さん待って。俺だって家にはまともに帰れるからね?!」

「ルーシェル、嘘はよくない。迷宮さんが眠ってる間に何度も間違えただろ」

「そうそう。何故か俺の家の前でうろうろしているから、フェアリアに用事かと思ったら、思いっきり迷ってたよな」

「あーーーーっ、みんな黙って。暴露しないでっ」


 ルーくん、みんなに言われてお顔が真っ赤です。

 

「わぁっ?!」


 温室につくと、テーブルに既にお料理が並べられていて、わたしは思わず声を上げた。

 だって、凄くきれい。

 コビットさんが丹精込めて育てた野菜たちのサラダに、赤い木の実がパラパラと散りばめられている。

 永久炎華をコンロみたいにして、どこからか持って来たフライパンでソードさんが『ソードソード、美味しくそーどっ♪』とか歌ってるし。

 ちなみにフライパンは最初ぼろぼろで錆びていたのですけど、コビットさんとスライムさんがピッカピカに磨き上げてくれました。

 

 あ、焼いているのは卵?

 えっと、ハーピーさんたちが生んだのかな???


 そんな事を思ったら、目が合った小鳥さんがわたしの所に飛んできた。


「まぁ、迷宮さんったら残酷ですわね。わたくし達が生んだ子供を食べちゃうおつもりですの?」

「ううん、ちがうのですよ? でも玉子だと、小鳥さんたちしか思いつかなかったのです」

「まぁ、それはそうですわね。でも違いましてよ」


 じゃあ、どこで手に入れたんだろー?


『こびこーびっ☆』

「えっ、そこの村、じゃない、町から?!」


 そそそそ、それは、泥棒になってしまうのではっ。


『こびこび、こーびこびっ』

「うんうん? ちゃんと御代を支払ったから大丈夫? そ、そうなのかなぁ」


 お代って、コビットさんはお金を払ったわけじゃないですよね。

 何を支払ったんだろう、

 むしろ、どうやって支払ったのかなぁ?


「あー、もしかして、俺の家の前に薬草が山ほど置いてあったあれのこと?」

「ノーチェの家に?」

「そう。言われてみれば、卵がなかったね。でも凄まじい量の薬草が置かれてたから正直卵の存在忘れてたよ」

『こびっ☆』


 コビットさん、誇らしげに胸をそらすけれど、それ、たぶん普通だったらやっぱり泥棒、ですよ?

 

「コビットさん、薬草を置いても、勝手に卵を持ってきてはだめ、ですよ?」

『こびー……』


 あ、コビットさん、凹んじゃった?

 

「迷宮さん、いいよ、別に。お金の代わりに薬草を置いて言ってくれたしね。卵よりも高価だよ」

「ですが、勝手にもってきてしまうのは泥棒になってしまうと思うのです」

「コビットさんが普通に購入する事って出来ないからね。購入できるなら別なんだけど。この場合は仕方がないんじゃないか」


 うーん。

 街の人たちからきちんと購入するのは無理ですよね。

 わたし達は魔物だから。

 でも、だからといって、勝手に持ってきてしまうことは許容できないのですよ。

 今回はノーチェの家で、ノーチェがいいって言ってくれている。

 でも、今後別の家でされた時、トラブルになるかもだから、やっちゃ駄目って思うのですよ。


「じゃあさ、こうしない? 迷宮さん、お店開こうよ」

「えっ、お店?」

「そそっ。冒険者ご用達のお店。迷宮の横辺りに作ればさ、必要なものとポーション類を交換とか出来るんじゃないかな」


 お店……。

 そういわれて思い浮かぶのは、前世の雑貨屋さん。

 可愛らしくて、働きたかったなぁ。


『こびこび、こーびっ!』

「あ、わりぃ。そうだよな。卵がさめちゃうな」


 コビットさんが、とりあえずご飯ーってみんなを促した。

 わたしも一緒に席に着く。

 食べれないのですけどね。

 あ、食べようと思えば食べれるのかな?

 でも女神像でつまり動く石像ですよね、わたし。


 コビットさんとソードさんが卵焼きを切り分けて、サラダと一緒に木皿に盛って、みんなに配っていく。


「あっ、これ、めっちゃうめぇ!」

「コビットさんってお料理上手だねっ」

「この木の実は初めて食べました……とても甘くて美味しいですね……」

「ピンクの果物もいけるいける」


 みんな、美味しそうで、なんだか嬉しくなる。


『こび』

「えっ、怒ってはいませんよ? 最初から、怒ってはいないのです」


 うん、怒ってるわけではないのですよ。

 そもそも、わたし達魔物は玉子食べませんし。

 コビットさんが持ってきてくれたのは、今日、ルーくんたちが来てくれるからですしね。


『こびこび、こびー』

「どうして食べてくれないの、って? わたしは、迷宮、ですよ〜?」

『こーびー……』


 あわわ、コビットさんが落ち込んじゃった。

 あわてて、わたしは木の小皿に自分用の玉子焼きを切り分ける。

 一口、ぱくっと食べてみる。

 瞬間、なんだかぐぐっと迷宮パワーが増える感じがした。

 え、なんでだろう?

 もう一口食べてみる。

 甘みのある卵焼きは、美味しくて、もっと食べたくなる。


『こびっ☆』

「うん、美味しいのですよ。わたしも味を感じれるのですね。コビットさん、ありがとう」

『こーびー☆』

「僕は料理上手って、コビットさん自信満々だなぁ」

「でも本当に美味しいですね……」

「お店開くなら、コビットさんのお料理も出して欲しいなぁ」


 ノーチェとフェアリアちゃんがコビットさんに頷いているし、シェルリーちゃんも笑ってるけど、あれ?

 みんな、コビットさんの言葉、理解しているような?


『こびこびっ、ソード、こびっ!』

「お? なんだなんだ、食後の運動か? いいぜ、手合わせしてやるよ」

『こびっ!』

 

 ソードとカジンくんが立ち上がる。

 うん、間違いない。

 迷宮のみんなと、カジンくんたち会話が通じてる!


「ルーくんだけでなく、みんな、言葉が通じているのですよ」

「あ、やっぱりそうだよね。さっきまでそんなことなかった感じなのにな」


 ルーくんも首を傾げた。

 でも、通じないよりは通じたほうがいいよね?


「さーて、腹も膨れたし、もうひと頑張りすっか」


 ルーくんが伸びをして、わたしも同じように伸びをする。

 迷宮だと出来なかったけれど、女神像のいまなら出来ちゃいます。


「……迷宮さん、そっちはさっき掃いたからね?」

「あっ」

「もう俺から離れないで。なんか、迷宮さん自分の迷宮で出られなくなりそうだよ」


 あわわ、ルーくんにさえも呆れられちゃいました。

 迷宮状態なら迷わないのにな。

 

 わたしはルーくんに案内されるように、地面の掃き掃除を精一杯頑張った。 

 

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