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16/22

迷宮16)宝箱を作ろう


 春になった。

 雪はまだ所々に残っているけれど、日差しはもうぽかぽかだ。


「迷宮さん、宝箱はいくつぐらい作るの?」

 

 今日も迷宮に遊びに来てくれたルーくんが、小首を傾げる。

 わたしは今、宝箱作りに挑戦するのです。


『んー、いくつぐらい作るというか、いくつ作れるんだろ〜?』


 わたしも首を傾げてみる。

 そもそも、作れるかどうかがまず謎なのですよ。


「とりあえず、一個作ってみてよ」

『そうだね〜』


 わたしは、むむむーんと意識を集中してみる。

 貯まりにたまった迷宮パワーが、ぐぐーっと動く感じがする。


 女神像の前の土が、ぽこぽこっと反応した。

 そして、粘土のようにこねこねこねこね動き出してゆく。


「なんかそれっぽい形になってきてる!」

『むむむむむーーーん!』


 ルーくんが金色の瞳を輝かせながら、こねこねしている土を覗き込む。

 わたしは迷宮パワーをぐぐーっと注ぎ込んだ。


「お?」

『わっ?』


 ぽこんっ☆


 最初からあった宝箱の隣に、ピッカピカの宝箱が出来上がった。

 なんだか最初の宝箱よりもちょっと頑丈そうで、色も赤い。

 何か違いがあるのかな?


「開けてみても大丈夫かな」

『どうだろー? あ、コビットさんがあけてくれるの?』

『こーびこび、こび☆』


 えいっ!

 コビットさんがあっさりと宝箱を開けてくれた。

 うん、ちゃんと空っぽの宝箱なのですよ。

 中の色も、いままでの宝箱と違って赤いのね。


『こびこび、こーびこび☆』

「えっ、防炎効果って、凄くない?」

『コビットさん、それって凄い事なのかな?』


 防炎ってことは、燃えづらいんだよね。

 でも、燃えないわけじゃなくて、燃えても炎が広がらないってことだった気がするの。


「ちょっと、永久炎華を入れてみようよ。それで燃えなかったら、レアな宝箱だよ」

『こびっ☆』

 

 ルーくんの言葉に頷いて、コビットさんはポンッと消えて、温室に移動して、すぐに永久炎華を手に戻ってくる。

 花壇から摘み取ったばかりの永久炎華は、まだ燃えていない。

 炎のような赤い色合いが綺麗なお花だ。


「どうだろうなー」


 コビットさんが赤い宝箱に永久炎華をいれて、蓋を閉める。

 どきどき、どきどき。

 なんとなく、わたしもどきどきしてくる。


 煙、また出ちゃったりしないかな?

 摘み取ってから、何分ぐらいで燃え始めるんだろう。

 冬の間にルーくんたちが遊びにきたときは、三十分ぐらいは経っていた気がする。

 ルーくんたち、たっぷり迷ってくれてたものね。


「……開けてみる?」


 かなりじっくり待ってから、ルーくんが赤い宝箱の蓋をコンコンと軽くノックする。

 まだぜんぜん、煙が出ていないけれど、中身はどうなったんだろう。


『燃えていそうかな〜?』

「変なにおいはしないから、宝箱は燃えていないと思うんだ」


 ルーくん、ちょっと逃げ腰気味に後ろに下がりつつ、片手で「えいっ」と宝箱を開いた。

 開いた宝箱の中では、永久炎華がほわほわっと炎を揺らめかして鎮座ましましてる。


『こびっ!』

『わぁ、燃えていないねぇ。すごいすごーい!』

「ぜんぜん燃えてないね。焦げ目もついてない。これ、炎の固まりを入れておいても大丈夫な宝箱だよ」


 コビットさんが胸を張り、ルーくんが目をまん丸にする。

 うん、凄い宝箱が出来ちゃいました。

 特に特殊なイメージはしていなかったのですけど、迷宮パワーの注ぎ具合によるのかなぁ?


「迷宮さん、この宝箱はどこに置く? このまま、女神像の前に二個並べるの?」

『うーん、どうしようかなぁ。ちょこっと、迷宮の手前のほうにおいて見ましょうか』


 迷宮の部屋数も増えて、一杯迷うのですよ。

 最奥の間にたどり着けなくても、何かお土産があったほうが嬉しいかなって。


「それじゃあ、ゴーレムさんの隣とかどうだろう?」

『それは素敵かもですよ。ゴーレムさんが宝箱を守っている感じで、それっぽい気がするのです』


 ゴーレムさん、危険な侵入者が来ないときは、迷宮の片隅で置物の振りしてくれているし。

 その側に宝箱があるのは、なんだか開けるときどきどきできそうです。


「よし、じゃあ運んじゃうね」

『よろしくお願いするのですよ』


 ルーくんが、ひょいっと宝箱を担いで歩き出す。

 もちろん、コビットさんが先導してくれる。

 だって、ルーくんもわたしも方向音痴だからね。

 案内してもらえないと、無事に目的地にたどり着けないのですよ。

 わたしもコビットさんにくっついていくように、女神像の中から壁に沿って意識を移動させる。


 女神像の首にかけている羅針盤懐中時計の感触が、女神像を抜けてもしっかりとわたしについてたり。

 ずっと身につけているからかな?

 もう意識に刻み込まれているような、そんな感じで、ちょっと不思議。


 コビットさんの案内で無事にゴーレムさんのところにたどり着いたルーくんは、宝箱を置くと軽く額の汗を拭った。


『ルーくん、宝箱重かったかな? 最初から、ゴーレムさんの側に作ればよかったですよ』

「ううん、へーきへーき。今日ちょっと暑いからさ」


 ルーくん優しいなぁ。

 きっと将来はイクメン系だねっ。


『ゴーレムさん、お隣に宝箱置きますよ〜』

『オレ、宝箱モ守ル』

『うんうん、よろしくですよ。あ、でも、冒険者さんは脅かしちゃ駄目ですよ〜?』

『ワカッタ』


 うん、これで一個目はオッケー。

 次も作れるかな?

 でもその前に、置く場所決めないと。


『ルーくん、次の宝箱はどこにしよう〜?』

「うーん、よく迷いやすいのは、右側、だった気がする。なんども同じ部屋に入っちゃったんだよ」

『あー、入り口から右側に行くと、そうかもしれないのですよ』


 わたし、四角いばかりのお部屋じゃつまらないかなって思って、ついつい、レンガで入り込ませてしまったのです。

 上から見ると模様みたいで綺麗なのですけど、迷うほうは辛かったかも。


『じゃあ、右奥のお部屋の中に、むむむむむーん!』


 右奥の部屋に移動して、わたしは土に迷宮パワーを注ぎ込む。

 あんまり一杯注ぎ込むと不思議な宝箱になってしまうようだから、ほどほどにほどほどに。

 気をつけながら完成させると、宝箱はごくごく普通の見た目のものが出来上がった。

 色も茶色いし、最初からある宝箱をちょこっと新しくした感じ。

 うん、普通普通。


「この宝箱は、このまま部屋に置いておくの?」

『うーん、どうしようかなぁ? 壁の中にいれてみる?』


 前世の弟くんがやっていたゲームに合ったのですよ。

 壁の中に宝箱があるの。

 一個一個壁を調べていて、何をやっているのかなーと思ったら、宝箱探しだった。

 確かあれは、どこかのお城の城壁だったような。

 壁にしか見えないのに、宝箱があってびっくりしたのですよ。

 

「壁の中? どうやっていれるの?」

『えっと、ルーくん、宝箱をこっち、えーっと、わたしのほうに持ってきてもらってよいです?』


 壁の中にあるわたしの意識のほうへ、宝箱を持ってきてもらう。

 右とか左とか言うより、わたしのほうって言ったほうが、ルーくんには伝わりやすいのです。


「このへん?」

『うんうん、そうなのです。待っていてね、いまぐぐーっとレンガを移動させるのですよ』


 ルーくんが宝箱を持ち上げて側に来てくれたから、わたしは壁のレンガをぐぐーっと移動させて、宝箱を入れられるスペースを作り出す。


「……迷宮さん」

『どうしました? 宝箱、入らないかなぁ?』


 丁度良い大きさだと思うのですけど。


「ここに入れたら、宝箱開けられないよね?」

『こびこびー』

『あ……』


 ルーくん、コビットさん、そんな呆れた目で見つめないで?

 弟くんがやっていたのはゲームだったから、壁に宝箱が埋め込まれていても中身が取り出せたのですね。

 でも、現実には宝箱がぴったり壁に入っていると、蓋が開かなかったです。

 ちょみっと失敗。


 気を取り直して、わたしは、ぐぐーっとレンガをもう少し動かす。

 上のほうのレンガを動かして、蓋が開くスペースを確保です。


「これなら開くね。完璧」

『こびこびっ☆』


 二人から合格もらっちゃいました。

 やったね!


 じゃあ次は、どの部屋にしようかな。

 宝物だらけも入れるものがなくなっちゃいそうだから、あと二つぐらいかな。 


 適当な場所を探しに、てくてくと迷宮の中を歩くルーくん。

 ふと立ち止まって、壁を見上げた。

 

「迷宮さん、宝箱の置き場所はこの壁の上なんてどうかな?」

『えっ、壁の上?』


 ルーくんが指差すのは、ほんとに迷宮の壁の上。

 コビットさんとスライムさんぐらいしか、とれないんじゃないかなぁ?


「ちょっと取るのが難しい宝箱って、もえるんだよね」


 ルーくん、うきうきといった雰囲気で壁を見上げてる。


『じゃあ、とりあえず宝箱を作っちゃうね』


 わたしはさっきと同じ感じでさくっと普通の宝箱を作ってみる。

 うん、だんだん慣れてきた気がするの。


「よーしっ、がんばるぞー!」


 ルーくん、ご機嫌に出来たてほやほやの宝箱を持ち上げて、どうにか壁の上に置けないか試しだす。

 でもそれ、無理じゃないかなぁ?

 わたしの迷宮の壁は、たぶん三メートル以上の高さはあるのですよ。

 小柄なルーくんだと、ジャンプしても壁の上は手が届かない気がするの。


 えいっとジャンプしても乗せれそうになくて、ルーくんは隣のコビットさんに目を留める。


「コビットさんなら、これ置ける?」

『こびー……』

「そっかー、無理かぁ」


 ルーくん、頭をかいてちょっと不満げ。

 でもそれよりも何よりも、ルーくん何気にコビットさんと会話が成立しちゃってる。

 いつからだろう?

 さっきからずっとナチュラルに会話してたから、スルーしちゃってました。

 いつも迷宮に遊びに来てくれているからかな。


「宝箱って結構大きいよね」

『こびーこびこび』

『持ち上げようとすると、とっても大きいかもなのです』

『こびこび、こーび?』

「ゴーレムさんも、上のほうには届かないからなぁ」


 ゴーレムさん、ルーくんよりも背は低いものね。

 カジンくんか、ノーチェならどうかなぁ?

 

「カジンとノーチェは、また稼ぎにいっちゃってるから、当分戻ってこれないんだよね」

『そうすると、やっぱり無理せず、宝箱はどこかの床に置いておけばいいとおもうの』


 無理に無茶な所に置こうとしなくても、宝箱は宝箱。

 中身が素敵なら、置いてある場所はそんなにこだわらなくてもいいんじゃないかな?

 さっき変わったところに一個は置いたし。

 コビットさん達が作ってくれる薬草類は、とっても魅力的な宝物ですしね。


 ちなみに、いまも温室ではソードさんとスライムさんが花壇の草むしりに精を出している。

 春になると、薬草の育ち具合も良いのだけれど、雑草の生え具合もぐぐーっとアップなのですよ。


『ぷにぷに♪』


 噂をすれば影。

 スライムさんが、温室からこっちに来てくれた。

 ソードさんも一緒だ。


『みんな、宝箱を上にのせれる方法、あるかなぁ?』

『ぷに!』

「え、簡単なの?」

『こびこび、ソード、こびっ!』


 なんと、その手があったのです!

 わたしは、ソードさんがえっへんと剣を構えるのに、こくこくと頷く。


 そうして、スライムさんがぷにぷにっと分裂して重なって、さらにその上に宝箱を持ったルーくんが乗っかった。

 そしてスライムさん、ルーくんを乗せたまま、ぐぐーっと縦に伸びた。


「おおー、すごいっ。上に届いた!」


 ルーくんが嬉しそうに宝箱を壁の上に置く。

 うん、すごい!


『あっ』

「わっ」


 ぐらり。

 宝箱を置いた瞬間、ルーくん、バランス崩したっ。


『あーーーーーーーーーーーーーっ!』

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ、って、痛くないし?!」


 ぷにんっ♪


 思いっきり落下したルーくんを、すかさずスライムさんがむにーんと広がってキャッチした。

 まるでウォーターベットだ。

 スライムさん、すごいっ。


「スライムさんマジありがとー。絶対、落ちたと思った!」

『ぷにぷに♪』


 ぷにぷにんと、みんなして広がったスライムさんに乗っかる。

 いいなー、わたしもぷにぷにしたいな。

 

 そんな事を思いながら、あと一個だけ宝箱を作って、床にぽつんと置いてみる。

 冒険者のみんな、喜んでくれるかな?




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