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15/22

迷宮15)火事ですよ~?!

 雪が止み、よく晴れた冬の日。

 ルーくんは以前言っていたように、フェアリアちゃんを連れて迷宮にやってきた。

 フェアリアちゃんのお兄ちゃんのカジンと、その友人のノーチェ。

 それにルーくんの妹さんのシェルリーちゃんで合計五人PTだ。


 ちょっと驚いたのは、シェルリーちゃん以外は、みんなルーくんより背が高いこと。

 カジンとノーチェは以前見てルーくんより大きいのはしっていたけれど、フェアリアちゃんまで大きいとは思わなかったの。

 魔族のせいで病に侵されているって聞いて、なんとなく、小柄なイメージだったのですよ。

 ルーくんの妹さんと仲良しだって聞いていたしね。

 カジンとノーチェと同い年ぐらいに見えるから、年子なのかな?

 それとも、ルーくんがこの世界では小柄なのかも。

 シェルリーちゃんとルーくんはほとんど変わらない身長なのですよ。


「この迷宮は、本当に綺麗ですね……」


 フェアリアちゃんが、うっとりとした顔で迷宮を見つめてくる。

 うふふ、嬉しいなぁ。

 茶系の濃淡のあるレンガ造りの壁は、今日ももちろんぴかぴかです。


 フェアリアちゃんはこれぞザ・美少女って言う容姿。

 サラサラの銀髪に、紫色の瞳。

 透ける様に白い肌は、病気で臥せっていたせいもあるのかな。

 でもとても綺麗。

 こんな綺麗な子に綺麗だって褒めてもらえると、嬉しさもひとしおなのですよ。


 そして得意な魔法は治癒魔法で、容姿と相まって聖女って呼ばれることもあるんだって。

 だからかな。

 魔族に目をつけられちゃったのは。

 ルーくん達の住む村は、この王国の中でも隅っこの田舎で、だからそれほど魔物や魔族も見かけないらしいんだけど。

 もう二度と、魔族に出会わないといいのですよ。


「フェアリア、寒くない?」

「病み上がりなんだから、無理するなよ」


 カジンとノーチェがフェアリアちゃんの両脇に立ち、ルーくんは一歩後ろでシェルリーちゃんの手を握っている。

 シェルリーちゃんは、髪の色以外はルーくんによく似てる。

 くりくりとした金髪で、瞳の色は琥珀色だ。

 色彩がルーくんとは大きく違っているけれど、目鼻立ちかな?

 二人が並ぶと兄妹だって一目でわかるの。

 

「ねぇ、おにーちゃん。今日の宝箱には何が入ってるのー?」

「それは開けてみるまで分からないさ」

「そっかー」


 ほわぁんとした口調で、シェルリーちゃんは小首を傾げる。

 可愛いなぁ。

 でもこんなにおっとりしているのに、魔法がルーくんよりも強いんだって。

 とてもそうは見えないのですよ。


「この迷宮は、部屋数が増えていくというのは、本当なのでしょうか……」

「俺達が最初にここに来た時は、四部屋しかなかったんだぜ」

「そうそう、どう考えても迷宮じゃなかったよね」

「どこまで増えるのでしょうか……」

「魔物もいないのに、宝箱の中身は良いものだし、謎すぎるダンジョンだよな」

「不思議ー不思議~」


「良い迷宮だよ、ここは」


 ルーくんが、わたしのいる女神像の方向を振り返って呟く。

 今日はみんながいるから、わたしに直接は話しかけれないのですよ。

 女神像や壁に向かって話しかけてたら、へんな人って思われちゃうものね。

 うっかりルーくんが返事をしちゃわないように、わたしも静かに見守っているのです。


「ずっと来れなかったけれど、これは迷うな」

「ルーシェルみたいに迷う日が来るとは思わなかったぜ」

「二人とも酷くないか? 僕だって迷わない事もあるんだぞ」

「本当ですか……?」

「おにーちゃん、嘘はめー、だよ?」


 みんなに疑いの目を向けられたルーくんは、「ちょっと見栄はった」と苦笑した。

 でもルーくん、わたしの迷宮だけだったら迷わないから、嘘ではないのですよ。

 あ、でも、わたしの所に向かう以外では迷ってしまうから、やっぱり嘘になっちゃうのかな。


「この間なんて、家に戻れなくなってたよな?」

「あっ、それはたまたまだよ、たまたまっ。道が暗くて、こう、別の場所みたいに見えちゃって」

「おにーちゃん、シェルリーと一緒にお出かけしよう? おにーちゃんが帰ってこれなくなっちゃったら嫌だもん」

「シェルリー、すっごく嬉しいけど、その、ほんとに、あれはたまたまだからな? くっそ、以前は家の位置って絶対分かったんだけどな」


 ルーくん、恥ずかしそうに頭をかいているけれど、ほんと、前世のわたし以上に方向音痴だね。

 迷宮から村までちゃんと帰れるのか、不安になってきちゃいますよ。

 もっと村に近づく感じで迷宮を増築したほうがいいのかな。

 最初の頃よりもずっと村に近づいているんだけどね。

 五人が迷ってくれているから、迷宮パワーが今日ももりもり盛りだくさんなのですよ。


「こっちかな」

「そこはさっき通ったかも~?」

「そうですね、右の通路に入ってみましょうか……」


 ルーくんはわたしのいる方向が判るから、ほんとは最短距離で来れるよね。

 でも、みんなで迷いながら来てくれた方が楽しそうだし、わたしも迷宮パワー的に嬉しい。


「……なんか、へんな臭いがしないか?」


 カジンが鼻をひくつかせて眉をしかめる。


「言われてみれば?」

「何かがこげているような臭いでしょうか……」

「あっちかな?」

「どっちかな~?」


 どんな臭いだろ?

 臭いはわからないのですよ。

 あっちっていいながら、こっちに向かってくるんだけど……えぇえええええ?


 宝箱!

 宝箱からなんか煙がでていないっ?!


『コビットさん、コビットさーーーんっ?!』

『こびこび、こーびっ?!』

『えっ、コビットさんにも想定外? 一体何を入れたのです?』

『こびこび、こびこーび、こびっ』

『あの赤い、炎みたいなお花? 花壇じゃ燃えてなかったよねっ』

『こび!』


 当たり前って言われちゃった!

 燃えてたら宝箱の中に入れないよね。


 あわわ、なんか煙がどんどん増えてるっ?

 宝箱は女神像の足元だから、わたし、このまま燃えちゃうっ?!

 火事だよ火事!


「こっちだ、こっちっ!」

「うわっ、宝箱からだぞ、どうなってるんだ?!」


「迷宮さん無事なのっ?!」


 次々に最奥の女神像の間に駆けつけてきて、ルーくんが宝箱を蹴っ飛ばして女神像の下からどかしてくれた。

 

 ふぅ、ほっと一安心ですよ。

 でも宝箱が勢いで開いちゃって、中のお花がころころっと飛び出しちゃった。

 宝箱の中の蓋がほんのり黒く焦げているのが見える。


 危なかったかも?

 でもよく考えたら、わたしは女神像から別の壁に移動すれば大丈夫でした。

 ちょっと焦っちゃいましたよね。

 ルーくんも思わず迷宮さんってわたしの事を呼んじゃったけれど、みんなそれどころじゃなかったみたいで気づいていないみたい。

 うん、大丈夫。


「おいこれっ、永久炎華じゃないか?」


 カジンが目を見開いて、散らばった炎の花を見つめてる。

 炎の花は、花壇に咲いていたときと違って、本当に炎のように花弁が揺らめいて、光ってる。

 

「そのようですね……」

「すごい花なの~?」

「日中日当たりの良い窓辺においておけば、夜中の間ずっと灯ってる花だよ。ランプが不要になる」

「この花はまだ小さいけれど、もっとデカイやつなら暖炉に入れておけば暖炉代わりになるレベルだ」


 ルーくんが女神像に寄りかかる振りして、小声で話しかけてきた。


『迷宮さん迷宮さん、煙大丈夫だった?』

『うんうん、ルーくんがすぐにどかしてくれたから、わたしは無事なのですよ』

『そうか、良かった。でもこんな凄い花、貰っちゃっていいの?』

『わたしも今知ったのですよ。コビットさんが用意してくれたのだから、大丈夫ですよ』

『了解。冬は日が短いから、夜の明かりは助かるよ』


「おにーちゃん、なにかゆった?」

「いいや、何も。女神像が汚れてないか気になっただけ」

「一人一花ずつ持ち帰れそうですね……」

「でもこれ、どうやってもって帰るんだ? この花、鞄に入れたら燃えるよなぁ」

「燃えない入れ物っていうと、陶器とかかな。一度村に戻って持ってこようか」

「ううん、土で作れると思うー」

「お、シェルリー本当か?」

「たぶんー。ちょっとまっててですよ~」


 シェルリーちゃんが、迷宮の地面に両手を当てて、意識を集中しだす。

 ぽこぽこっと地面が膨らみ、土がお皿の形を作り出したけど、ちょっとまって。

 すっごく、くすぐったい!

 わきの下をこちょこちょされているみたいなの。

 我慢しないといけないけど、これ、つらいっ。


 わたしが必死に耐えていると、シェルリーちゃんの魔法で土の小皿が五つ、出来上がった。

 そしてシェルリーちゃんも地面から手を離してくれて、わたしのくすぐったさも納まった。

 ほっ。


 いつも増築する時にくすぐったさなんて感じなかったのにな。

 あれかな?

 自分でわきの下を触ってもくすぐったくないけれど、人に触られると弱いよね。

 わたし以外はめったに迷宮の地面に魔力を使ったりしなかったから、わからなかったですよ。


 シェルリーちゃんが作った小皿はレンガみたいな感じ。

 焦げ茶色で、表面は結構つるんとしてる。

 これならたぶん燃えないね。


「シェルリー凄いな。この皿に乗せれば燃えないし、このまま窓辺に飾っておけば良さそうだし」

「えっへん♪」

「素敵なお土産が出来ましたね……」

「焦げちゃった宝箱をちっと磨いていってやるか。貰ってばかりじゃ悪いしな」


 カジンが宝箱の焦げに気がついて、革の鞄から布巾を取り出した。

 えー、えー?

 カジン、いい子じゃない?

 今まで呼び捨てだったけど、今度からはカジンくんって呼んであげようかな。

 彼には聞こえないんだけれどね。


「よし、綺麗になった!」


 カジンくんが磨いてくれた宝箱は、つるつるぴかぴかとまでは行かないけれど、これからも使えそうなほど綺麗になった。

 宝箱って一個しか無いからね。

 焦げて使えなくなっちゃうと困るのでした。

 あ、もしかしたら迷宮パワーで宝箱って作れるのかな?

 今度試してみよう。


『迷宮さん、ありがとうね』


 ルーくんがこそっと女神像に耳打ちして。

 みんなは永久炎華を持って帰っていきました。

 ちょこっとでも暖かい冬が過ごせたらいいね?

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