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迷宮13)盗っていっちゃだめですよ?

~前回までのあらすじ~


 ありえないぐらいの方向音痴な宮路芽衣は、交通事故で異世界転生!

 よりにもよって、迷宮そのものに生まれ変わってしまいましたっ。

 たった四部屋しかなかった迷宮だけど、迷宮仲間の小人のコビットさん、スライムさんにゴーレムさん、ソードさんに、そして人間のお友達ルーくん。

 みんなのおかげでえっちらおっちら部屋数増えてちょっとした迷宮に育ちました。

 えっへん!

 でも、なんか悪意あるへんな視線を感じて……?


 変な気配を感じてから、わたしはしばらくの間迷宮を閉じていた。

 だってほら、ルーくんはもちろんだけど、他の冒険者にも何かあったら嫌でしょう?

 わたしだけだったら気のせいで済ましちゃったけど、迷宮のみんなも感じた事だからね。


 もし、何か良くない存在が近づいてきても、出口と入り口を塞いじゃえば、上からしか来れないと思うの。

 わたしの迷宮は屋外だから、屋根ついてないし。

 つけようと思えば迷宮パワーかレンガの移動でつけれるんだけどね。

 敵の姿が見えない間は、まだそこまでしなくても大丈夫かなって。

 空からだったら小鳥さん達と同じように迷宮に自由に入ってこれるけれど、それって限られた進入経路だよね?

 人間や、飛べない魔獣系なら、まず迷宮にはいって来られない。

 魔族は、会った事がないから分からないけど。


 迷宮を閉じている間にルーくんが一回来てくれたんだけど、『一休み中なのですよ』って言ってごまかしました。

 どのくらいお休みなのか聞かれたけれど、その辺も曖昧に『ちょっとの間ですよ。改装中なのです』って事にした。


 ちなみに、嘘じゃないですよ?

 一番の目的は、ルーくん達を迷宮に近づけさせない事だけど、この機会に迷宮パワーでちょこちょこっと迷宮を弄ってたりもする。


 いま迷宮の入り口には、一見カエルの置物に見えるケロケロさんが鎮座ましましている。

 迷宮の防衛をイメージして迷宮パワーを注いだら、ケロケロさんが生まれたのです。

 ゴーレムさんは本当に頼りになる守り主なんだけれど、手加減が大変でしょう?

 ソードさんももちろん戦ってくれると思うんだけど、むしろ率先して戦いたがると思うんだけどね。

 安全第一で行きたいですし。

 

 なので、危険な相手は最初から迷宮に入れなくて済むように考えたのですよ。

 ケロケロさんがほんのり不気味な容貌になってしまったのは、この世界に生まれ変わる前に思っていた雑貨屋さんの影響かな?

 雑貨屋さんで見かけたちょっと不気味な蛙の置物っぽく。

 不気味なのにどこか憎めない雰囲気なのも、そっくり。


『迷宮様、今日も異常なしケロ!』

『ケロケロさん、報告ありがとうですよ』


 ケロケロさんには、迷宮の門番になってもらいました。

 能力がね、すっごく適しているの。

 相手が嘘を言っているか、本当のことを言っているのか。

 それを見分けることが出来るのです。

 どんな嘘をついているのか、そこまでは判らないみたいなんだけど。

 心を読めるわけではなくて、言っている言葉が嘘か本当かを見抜くっていうのかな。

 なのでケロケロさんは、迷宮の来訪者に毎回、こう尋ねるの。


「汝は迷宮に仇名すものか否か」


 置物だと思って通り過ぎようとしていた冒険者さん、びっくりしてたよね。

 相手が答えないと、迷宮の入り口は開かない。

 何か迷宮に対してやましい事を抱えているなら、それもアウト。


 ケロケロさんは人間と意思疎通できるわけじゃないんだけど、問いかけは出来るのですよ。

 ちょっと不思議なルール。

 たぶんルーくんとなら、わたしと同じようにケロケロさんとも話せそうなんだけどね。

 普通の人々に、わたし達の会話は通じないけど、うれしい例外はあるものだし。


『こびこび、こーびっ☆』

『冒険者さんご一行がきたのね? うんうん、今回は三名なのね。薬草二種類入れるか、毒消し草も混ぜるか、悩みどころですね』


 コビットさんとソードさん、それにスライムさんがいつも通り温室に隠れてから、わたしはいそいそとレンガを動かす。

 ほんと、レンガを動かすのがスムーズになったよね。

 ほとんど音を立てずに、すすすーっと滑らかに動かせるの。

 やっぱり、迷宮が育つとわたし自身もレベルアップですよ。


 三人の冒険者は、ケロケロさんの質問に嘘偽りなく答えてくれたので、さくっと迷宮を開いて迎え入れた。

 ちなみに三人の答えはいたって単純。


「お宝が欲しいです!」


 なんて、素直でいいよね?

 三人の冒険者は、ちょっと体格のいいお兄さんと、セクシー系の美人さん、それに小柄な男性だ。

 三人ともルーくんよりちょっと年上かな。

 高校生ぐらいのイメージだ。

 歴戦の冒険者というよりは、仲良し三人組がちょっと冒険している感じ。

 三人は楽しげに笑いながら迷宮を迷い、でも少しずつ最奥の間に近づいてくる。

 

 うんうん、今日もいい感じ。

 楽しそうだから、見ているわたしも楽しくなっちゃう。

 ついでに迷宮パワーもぐんぐん上がっていくの。

 もっと迷ってくれてもいいですよ?


 わたしが楽しく見守る中、三人組の冒険者達はついに最奥の間の女神像の前に辿りついた。


「おっ、すっげぇ! 毒消し草だぞ」

「噂は本当だったのね。これは薬剤師に頼めば最高級の毒消し薬を調合してくれるわ」

「こんな辺鄙な村の側のダンジョンにあるなんてなぁ。てっきり、眉唾だと思ったぞ」

「他には薬草か。これもまた、上等な品だな」

「量も多いわね。特に敵がいるわけでもないのに、不思議ね」

「まぁ、頂いていこうか。ちょうど三人で分けれるし」


 うんうん、コビットさんがちゃーんと分けれるように入れてくれてるからね。

 奪い合うのはよくないのです。


「……おい、もう一個お宝忘れてるぜ」

「まだ入ってたか?」

「違うわ。あれをみて」


 冒険者のうち二人が、じっと女神像を見つめている。


 えっ、なんだろ?

 ……って、まってまってまって!

 ルーくんがくれた羅針盤懐中時計を指差してない?!


「見たことのない品だ。王都で鑑定してもらうべきだろ」

「ちょっと待てよ、それは女神像が下げているものだぞ」

「埋め込まれているわけじゃないんだから、問題ないだろ」

「そうよ。お宝はきちんと回収しなくちゃ」


 !!!!!

 駄目だよ、駄目。

 絶対駄目。

 盗らないでっ!


 伸びてきた冒険者さんの手から逃げようと、咄嗟にわたしは立ち上がる。

 その瞬間、迷宮全体がガクガク、ガクンッと激しく揺れた。

 

「ほ、ほらみろぉっ、トラップだ!」

「えぇ? 女神像に触れるなって、そういう意味だったの?!」

「逃げるぞっ!」


 青ざめた冒険者達が全力で迷宮を脱出して行った。

 

 あうぅ、ごめんなさい。

 驚かすつもりも怖がらすつもりもなかったの。

 ただ、羅針盤懐中時計を盗られない様に動こうとしちゃっただけなのですよ。

 でも、わたし迷宮そのものだから。

 急に動こうとすると、動けないけど迷宮自体がぐらんぐらんに揺れちゃうのですよ。


 冒険者さん達が悪いわけじゃないのですよね。

 だってここは迷宮だし、最奥の間に宝箱が置いてあって、側の女神像が不思議なネックレスをしていたら。

 それって普通にレアアイテムだって思うじゃない?


 冒険者さん、涙目だったなぁ……。


『こびー……』


 ぽんっ☆


 わたしの隣に出現したコビットさんが、なぐさめるように女神像の頭をなでてくれた。

 温室のレンガをどかすと次々にみんながわたしの周りに集まってきてくれる。


 驚かしてごめんね、ほんと、迷宮のみんなは優しいね。


 でも困ったな。

 このまま羅針盤懐中時計を首から下げていたら、また冒険者さんたちに見つかっちゃうよね?

 今回は盗られずにすんだけれど、このままじゃ時間の問題な気がする。


 うーん……。







◇◇



「おおー、噂通り綺麗な迷宮だねぇ」


 冒険者の女の子が、楽しそうに迷宮に入ってくる。

 肩には小鳥が乗っていて、一緒におしゃべりするようにピッピと鳴いている。


 うんうん、綺麗でしょう綺麗でしょう?

 スライムさんとコビットさんが今日も綺麗に磨いてくれましたからね。

 言うなれば湯上りつるるん卵肌です♪


「部屋数多いなぁ。何部屋あるんだろ?」


 冒険者の女の子が小首を傾げながら、今まで通った部屋の数を指で数える。

 

 えーっと、改装で部屋の数も増やしたから、三十部屋ぐらいだったかな?

 部屋数が多ければ、悪い侵入者が来たとしても、時間稼げるかなって。


「ほんと、敵がいないよねぇ。試し切りしたいなぁ」


 えぇっ?

 冒険者の女の子、可愛いのに物騒だよ?

 みんな、絶対に温室から出ちゃ駄目ですよ。


 わたしは、温室に意識を向ける。

 うん、今日もみんなでスライムさん当てごっこしてるね。

 大丈夫、問題ない。


 あ、ゴーレムさん、動いたりしないでね?

 冒険者さんに見つかったら、斬りつけられちゃうかも。

 でもこの冒険者さん、剣は持っていないような?


 わたしが首をかしげていると、疑問は一瞬で解けた。

 正確には、わたしの見守る中で、冒険者の女の子がいきなり空に向かって風を繰り出したからなんだけど。

 ぶんっと女の子が腕を振るった瞬間、風が刃のように鋭くなって、青空にぶっ飛んでいったの。

 

「斬るものがないと身体が満足しないなぁ。……壁でも斬っちゃう?」


 えぇええ?

 お願いだから、止めてね?


 ほんのり涙目になって冒険者さんを見つめていると、冒険者さんは壁に手を当ててクスッと笑った。


「こんな綺麗な壁、壊せないから駄目だけどね♪」


 ほっ。

 コビットさん、スライムさん、いつも綺麗にしてくれてありがとう!


「そろそろゴールについてもいい頃だと思うんだよね~?」


 肩の小鳥に話しかけながら、冒険者の女の子はさして迷わず最奥の間に近づいてくる。

 わたしは意識を集中して、女神像の髪の毛をふわりと動かして、羅針盤懐中時計を毛先で覆って隠した。


 羅針盤懐中時計を冒険者さん達に盗られないためにはどうしたらいいか。

 わたし、すっごく考えたのですよ。

 コビットさんが預かってくれる案もでたんだけどね?

 でもわたし、せっかくの贈りものだから、ずっと身につけていたくて。


 最近、冒険者さんが訪れる回数も増えているのですよ。

 その度に羅針盤懐中時計をはずすのも、ね?


 なので、うーんうーんと悩みぬいて、ふと気がついたのですよ。

 女神像も、もしかしたら動かせるんじゃないかと。

 レンガをぐぐーっと動かすように、毛先に意識を集中すると、ふわっと動かせた。

 女神像はレンガと違ってほぼ白に近い灰色の石像だから、無理かなーって思ったんだけれどね。

 レンガみたいにパーツが一個一個ばらばらではなくて、一つの石から削りだしたような感じだから。

 でも実際にやってみると、レンガよりも大変だけれど、毛先なら動かせることが判明したの。


 だから、冒険者達が最奥の間に近づいてきたら、いそいそと髪の毛で羅針盤懐中時計を覆い隠してる。

 こうやって女神像の髪の毛で隠してしまうと、外からではわからない。

 物騒な冒険者の女の子も、わたしの大切な羅針盤懐中時計には気づかずに、宝箱だけを見て喜んでいる。

 

 うん、今日の宝箱の中身は毒消しオンリーなのね。

 冒険者達が来る回数が増えているし、スライムさんは食欲旺盛だし、毒消しのほうが今は余っているのかな。

 薬草も毒消しも、どちらも冒険者さんが喜んでくれるから、コビットさんは本当にすごい。

 

 今度、わたしも育て方を教わろうかな?

 レンガを積むぐらいしかできないけど、がんばったら土とかを上手く動かして何か出来るかもしれないしね?

 女神像を動かせたのですもん。

 ね?


 わたしは、ご機嫌に去っていく冒険者の女の子を見送りながら、同じぐらいご機嫌になっていた。


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