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迷宮1)プロローグ

 もうね、毎回の事なのよ。

 わたしが知らない場所で迷うのは。

 駅を出て右に曲がれば一分で着くはずの場所に、何故か勝手に左に曲がって迂回してて一時間かかったり。


「一本道だから真っ直ぐ進めば、今度こそ迷わないよねっ」


 て思ってたら、まっすぐは真っ直ぐでも真逆に真っ直ぐ進んでたり。

 ずっと着かないからおかしいなーとは思ってたんだけどね?

 目的地と反対の隣町まで突き進んで、行き止まりだったから間違いに気づいたんだよね。

 あれ、行き止まりじゃなかったら、きっともっと何時間も迷ってたわ。

 駅で待ち合わせをしたときもね?

 駅から出たらまた迷うから、もういっそ改札口で待っててねって友達にいわれたのよ。

 ちゃんと待ってたよ?

 でも待ち合わせの時間を何十分も過ぎた頃に、お友達がわたしを探しに来てくれて、


「なんでめーちゃんは西口の改札にいるの? 東口っていったよね」


 って苦笑されたり。

 友達だけじゃないよ?

 弟にもね、


「なんで芽衣は地図に北って書いてあるのに東に行くんだよ!」


 ってとことん呆れられるぐらい。

 わたしはちゃんと目的地を目指しているのに、何故か、そう、ほんとに何故か、別の場所に辿り着いちゃうんだよね。


 でもなんだかんだいって、何時間迷おうと最終的には目的地に着くし、誰かが迎えに来てくれるのよ。

 だから今日も特に慌てなかったの。

 今現在リアルタイムで道に迷ってるんだけどね。

 いつもの事だし。


 迷ってもいいように、迷う時間を考慮して目的地までの時間にプラスして早めに家を出てるしね。

 子供の頃からこの歳になるまでずっと迷い続けてるんだもの。

 いまさらまともに一発で目的地にたどり着こうだなんて、無理無理!

 迷わないのが無理なんだから、それすらも予定に組んでおけばいいだけだからね。

 なんにも困らないのよ。


 ……スマホで地図開いて、明らかにおかしな方向に向かっていることも、一時間程度でつくはずだった目的地に二時間経ったいまも着いていなくても。


 ま、まぁほんと、いつもの事なのよ。

 地図上の目的地からどんどん離れていても、ほら、それは言い換えれば、いま来た道を戻れば目的地に近づくって事だし。

 

 ……いま来た道がどこかわからないだなんて、そんなこと、ねぇ?


 ………。


 …………。


 ……………。


 あああぁ、もう、正直に言いますっ。

 今回はね、もうほんとに、迷いました。


 これがお友達との待ち合わせだったら諦めて迎えに着てーって連絡入れて泣きつくんだけど、向かってる先は悲しい事にアルバイトの面接なのよ。

 自宅からだと電車で一時間もかかるんだけど、駅の側だし、大学からならそれほど時間かからないし、地元のバイトよりも時給が200円も高かったし。

 バイトするのは平日のつもりだったから、自宅からの距離より大学からの距離を選んだのよ。

 200円の差は結構大きいし。


 バイト先は雑貨屋さんで、レンガ造りでね。

 良く見かける茶色いレンガももちろんだけど、ココアブラウンやマホガニー、ピンクベージュにコーヒーブラウンのレンガが使われていて、全体的にクッキーみたいに愛らしくて可愛いのよ。

 売っている雑貨も輸入系でアンティーク中心。


 デンマークの鼓笛隊のような制服を着た小人の兵隊さんの玩具や、不気味なのにどこか憎めない蛙の置物、ウォールナット色のコンソールに飾られた洋風のランプとその隣に佇む妖精からは、光の粉が舞ってるみたいだった。

 壁に飾られた古い世界地図には聞いた事のない国名や地名が記載されていたり、天球儀やジグソーパズルなんかもあってね。


 そうそう、タロットカードみたいなカードもあったよね。

 あとは辞書のように分厚い外国語の本が何冊も積み重ねられて、ドライフラワーで彩られていたり。


 バイトに応募する前にね、ちゃんとどんなお店か見に行ったのよ。

 好みのお店じゃなかったとしても時給が高かったからきっと応募したと思うけれど、とっても好きな雰囲気だったから、帰宅してからうきうきと応募したのよ。


 駅のすぐ側だから大丈夫って思ったし、見に行ったその時は一時間程度しか迷わなかったし。

 でもこれが多分間違いだったんだよね。

 一度いった場所だからって、油断した。

 地元だったらまだきっと、ここまで迷う率は少なかった。

 少なくとも二時間迷っても着かないなんて事は、多分なかったのよ。

 面接の約束時間がもうあと五分と迫ってるっていうのに、現地にたどり着く気配がまったくないって事態は避けられたんだよ。


 何でいつもわたしは道に迷うの?

 道なんて、目的地まで一本ズバーンと繋がってればいいじゃない。

 それでもわたしは迷うんだけどねっ。



 もうもう、世の中すべて皆、道に迷ってしまえ!


 

 ――必死にスマホの地図とにらめっこして世界に八つ当たりしていたわたしは、だから、気づかなかったんだよね。

 信号が赤に変わってることに。


 急ブレーキの音と、悲鳴と。

 スマホから顔を上げたときには、もう視界いっぱいにトラックが広がってた。

 

 こうして。

 わたし、宮路芽衣は、短い一生をきっと終えてしまって。

 


 ……目が覚めたら、わたし、迷宮になってました。


 異世界転生もの、始めました。

 ゆっくり、ゆっくりとした更新になると思いますが、読んでいただけると嬉しいです。

 

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