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桜花爛漫に約束を  作者: 暁桜
少年、入学する
1/3

ただの腐れ縁だろ

 彼は一人、桜の花が舞う通学路を歩いていた。



「あ~、クソ眠い」



両手を学ランのポケットに突っ込み、腰の刀を揺らしながらでかい欠伸をする少年。



迦楼羅鵠也。

この春から東京都心に位置する東京第二高等学校に通うことになった。


東京第二高等学校________通称二高。

此処は人間を脅かし、既に世界の三割を支配した「死神」を倒すための優秀な人材を養成する学校。


死神は異世界人である。

その死神を倒すために集結された、言わばエリートの集合体。


と言っても、鵠也の成績は入学試験の段階で中の下ほどなのだが。



そう、成績だけの話ならば。




 「よお!! 鵠也じゃないか。こんな日まで眠そうな顔してんのな」




そう言って鵠也の肩に手を置いたのは彼の幼馴染み、凩優斗。

彼もまた、この学校に通うことになった一生徒である。


「うるせえ」


鵠也は目線も合わせずそう言って、スタスタと歩き始めた。


「そう言うなってぇ」


「うわ!! ちょ、テメッ!!」


鵠也の言う事も聞かず、優斗は無理矢理鵠也の肩に手を回す。


「僕達の仲だろ?」


「ただの腐れ縁だろ」


鵠也はそう言いつつも、優斗のことを邪魔だとは思っていないようだった。



優斗はその事に気づいているのか、ニヤニヤと笑いながら鵠也をからかう。


「フムフムなるほど。やはり鵠也クンには僕、凩優斗という存在がいてこそ、初めて将来に楽観性が持てると。


『俺にはお前が必要なんだ、傍にいてくれマイエンジェル…!!』くらい言ってくれると、僕としても鵠也クンのお手々を繋いでどこまでも…例え北極だろうが大気圏だろうが連いていくさあ。


さあ鵠也クン、今こそ僕と手を繋ぎ、リスキーなホモストーリーを作り上げ…」


「訳の分かんねー妄想ごっこは終わったかー。つーかそれ、いっつも俺に会う度毎朝バリエーション変えるよな。よくネタ切れにならねーわけで。


別の意味で尊敬するわ、お前」


「わぁ、鵠也クンが僕を褒めてくれて…!!」


「前言撤回」


鵠也はピシャリと言い放ち、優斗の頭を軽く叩く。



 刹那。


ゴッという音と共に二人の頭に衝撃が走った。




 振り返るとそこには一人の少女が立っていた。


クセのある黒髪。

吊り上がった大きな栗色の眼。

周りにいる女子生徒と比べても身長は低く、小柄。


その少女はキッと鵠也を睨みつけ、肩をワナワナとふるわせて声を絞り出した。



「鵠也、…。私の気持ちが分かってて、そんな風に優斗と肩を組むなんて…!!」



__何か勘違いしてないか?



鵠也は地面に座り込み、後頭部を押さえながらそう思った。

そして目を細め、目の前の少女を見上げる。



「仕様がないじゃないか、藍。鵠也は僕にベッタリ。僕なしじゃ、ノロマの腰抜けヘロヘロなんだから」



 彼女の名は凛道藍。

先程の言動から分かるよう、彼女は優斗のことを慕っている。



「…っだったら! ほっとけばいいじゃない、そんなノロマ! いっつもいっつも鵠也ばっかり…」


このセリフも光景も、鵠也は中学で藍に出会ってから何度も見てきた。

これから三年間も見ることになるだろう。


鵠也は呆れた様に視線をずらし、腰にかかっている刀を眺める。

その様子に藍はさらに腹が立ったのか、キッと声を張り上げる。


「それに!! 何なのよ、アンタのその刀! 入学初日から腰に刀つけて登校する奴なんて見たことないわ!」


「現に此処にいるんだが...」



そして、いつも通り優斗が藍を止めにかかる。

優斗が宥めれば藍はぱっと明るい笑顔をつくり、同時に鵠也に「ごめん」と謝る。



一言で言うと、彼女は単純なのだ。





これがこの三人のいつもの登校風景であった。



 すると優斗が何か思い立ったのか、鵠也に向かって口を開いた。


「そう鵠也。実は僕も気になってるんだけど、その刀。

中学三年の冬、急に一ヶ月ぐらい休んで、久しぶりに登校してきたかと思えば刀なんか持っててさ。


それ以来卒業するまでずっと浮いてたよね。鵠也に近づく人は僕と藍以外一人もいないんだからさ。


少しは感謝しなよ?じゃなきゃこれから高校でも浮いちゃうかもしれないんだからさ」


「別に俺は頼んでない。それに、そう思ってるんだったらもう近づくな」


「はは。あの日以来、性格も少し曲がっちゃったよね」



 桜並木が揺れ、桜の花びらが舞い上がる。


鵠也は木を見上げ考えた。


優斗に性格が曲がっている言われた。

確かにそうかもしれない。


鵠也は視界に優斗をおさめる。


 相変わらずヘラヘラ笑っていた。

そのどうしようもない笑顔のまま、優斗は口を開いた。



「そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?あの一ヶ月に鵠也に何があったのか」




微笑みながら、それでいて隙がない真剣な眼。





溜め息をついた鵠也は中学三年の十二月を思い出す。

初めまして暁桜と申します。小説投稿は初ですが、読んで頂けると嬉しいです。

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