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提案

お久しぶりです。久しぶりの休み! 久しぶりのビール! (*´ω`*) 会話が多いのはごめんなさい。

───荒川 功樹───


「中層へのゲートか……」


 俺の目の前には巨大なゲートが厳重なロックをかけられて封鎖されている。ムカデ族とノアの工兵隊によって上層ゲートの入り口をこじ開けて内部に突入したのはいいが、ほんの5階層を突破しただけで広大な空間に設置してある巨大ゲート前で侵入部隊は足止めを食らってしまった。


『工兵隊の話ではノアで使われている高強度の金属とほぼ同じ素材らしい。爆破して突破するのは現状では不可能だそうだ。とりあえず地道に溶かすしか方法はないな』


 通信画面に映る大尉が不機嫌そうに告げてくる。すでにチェルノボグ隊員達は煙草を吸い始めたり携帯してきた糧食をかじったりと一時的な休息を取り始めているが、ノアの部隊やウルスナ・メルカヴァの義勇軍は一切の気を緩めることなくあたりを警戒しているのに随分と適当そうに見える。

 そんな俺の気持ちを察したのかアリスが笑いながら目の前に現在位置のマップ表示してきた。


「功樹君、これ見て」


「うん? これは……、今の僕たちの配置状況だよね?」


「そうだよ。それでね、このマップに表示されているチェルノボグのスーツ位置にそれぞれの視野情報を重ねて表示すると───」


「えっ!? これってもしかして全周囲の監視してるのかよ!」


「そしてさらに、私たちを中心に設定してそこから直線上にある空間を表示するとこうなるの」


「囲まれてる?」


「もし撃たれたとしても必ず私たちに到達する前に別のスーツに当たるようになってるみたい」


 嘘だろ……、こんな適当に見えるのに偶然じゃないのか? とりあえず現状は危険もなさそうだし一歩だけ前にでてみるか。いや、でもなんか悪いような気もする……。だが気になるぞ───。


「ほいっと」


 結局は我慢ができなくなって少しだけスーツの位置をずらしてみる。するとド派手な髑髏のペイントをした大型の盾を持っているスーツが隣のスーツに火を借りに移動したようだ。移動場所はやはり俺の直線上に位置する場所だ。どうやらアリスの予想通りに完全に俺の盾になってくれている。


『指揮官殿、遊んでいるのは良いが不意を突かれて吹き飛ばされても知らんぞ。そこまでは面倒みきれん』


「はい、大尉。申し訳ありません」


 どうやらあっさりと俺の行動はバレたようだ。これ以上、大尉を怒らせるのは非常にマズイから大人しくしておこう。それにして相も変わらずムカデ族がゲートを溶かそうとしているが一向に進む気配がない。たしかにいくらかは溶けているようだが、データリンクから受信できた情報では厚さが最低でも8メートル程あるようだ……。


「かなりの時間がかかりそうですね、大尉?」


『あぁ、作業をしている部隊の指揮官と通信したが最低でもあと15時間程かかる見通しだそうだ。指揮官殿が装着しているスーツはともかくとして、我々が装着しているスーツのバッテリーが不安になる時間だな。それに、あまり時間をかけると相手の防衛能力も───』


「どうしました?」


『いや、すこし待ってくれ』


 大尉からの通信が突然切れるのと同時にチェルノボグの隊員達の動きに変化がでる。すこしずつだがノアの部隊から離れるように移動しているようだ、そして俺も他のスーツに押されるようにあくまでも不自然にならない速度でブラブラと移動する。


『指揮官殿、アリスは手が空いているのか?』


「えぇ、今は特になにもしていません。データリンクを定期的に確認しているだけですが、通信を代わりましょうか?」


『頼む』


 後ろを振り返りうなずくと、アリスは何もない空間でキーボードを操作する動作をしてから大尉に返答した。


「通信を代わりました、アリス・アルフォードです。一応ですが現在秘匿回線に切り替えています」


『すまない、助かる。単刀直入に聞くがアリス、日本国陸上自衛軍のメイン端末にハッキングしてデータを盗めるか?』


「可能ですが、どのデータを盗めば?」


『サトウ・タロウ、元日本国陸上自衛軍、中央即応集団所属・第1空挺団に所属していた。不名誉除隊だが詳しい情報が欲しい』


「少し待ってください」


『了解した』


 さらっと大尉はヤバい事をアリス頼んで、アリスも普通に了承していたがかなりの問題行為なんじゃないのか? 政府機関にハッキングをかましてデータを盗んだのが見つかったらノアが潰されるぞ!? クレアさんやエリスさんあたりに頼んで正規のルートで情報提供を頼んだ方がいいと思うんだが。


「アリス、さすがにマズイと思うんだけどなぁ」


「んーと、大丈夫だと思うよ。ノアのメイン端末に日本の情報防衛軍がちょっかいかけてきてるって美紀さんが言ってたし、たまにだけどデータも抜かせてるって。この前データ抜いてったから今度はこっちが抜いても問題ないと思う。なんかそういう協定みたいのがあるって」


 そんな事をいいながらアリスは猛烈な速さで指先を動かしている。まぁ、母さんと比較すると慎重派なアリスが言うのだから大丈夫なんだろうけど……。またエリスさんあたりの胃を破壊しそうな行為だな。


「あった! えっとね、佐藤太郎さんの階級は少佐。6年前のアラスカ紛争に海外派遣の空挺隊員として参加。ロシア軍部隊との戦闘時に捕虜に対する暴力で軍法会議にかけられたみたい。有罪判決で30年の禁固刑───、でもなんか変だよ。詳細情報は抹消済み? というかこの人の過去の情報もないよ? あと収監されてる刑務所にも該当する人物はいないっぽい。それに所属部隊もおかしいよ、第1空挺団に第12補給中隊なんて存在してない。偽の情報なのかなコレ」


『やはりそうか……』


アリスの読み上げた資料の内容を聞いた大尉が大きく頷いている。というかこの佐藤って人はまるで───。


『サトウが通信をしてきた、そいつはこの基地にいる。そして、我々チェルノボグの事を知っている』


「じゃこの人はもしかして、前に大尉から教えてもらった例の?」


『あぁ、日本が隠し持っていると噂の最強の切り札。極秘部隊【桜】だろうな。サトウの名前も偽名だろうさ。不名誉除隊とやらも怪しいもんだ』


「それで、その佐藤さんはこの基地の何処に?」


『我々の足元だよ指揮官殿。面倒になるから他の部隊に気づかれない様にしろ。ちなみに相棒と一緒に条件付きで投降したいそうだ』


 大尉に言われた通りに足元をみると金網状の床下にオイルと埃で薄汚れた人物がこちらを見上げながらにこやかに手を振っている。目の端に表示されたままのアリスが盗んできたデータに添付されている佐藤太郎少佐の顔写真と同一の人物だ。こちらが気づいた瞬間からずっと鳴っている俺の個人端末の着信はきっとこの人からなんだろうな。とりあえず端末をスーツに接続して出てみるか。


「はい……」


『いやぁ! 初めまして荒川君。実はさ投降したいんだけどちょっとオジサンの話を───』


 思わず秒速で回線を切断する。駄目だ! この人はマッチョと同じで面倒そうな感じがする。ここは大尉に通信を引きついでもらうのが正解だ。大尉に佐藤の番号教えようとすると再び端末の着信音が鳴り響く───。


「はい……」


『ちょっと酷くないかい!? いきなり切ることもないだろう。少しでいいからオジサンの話をきいてくれないかな?』


「…………いいですけど、先に質問があります。まずあなたの本名を教えてください。それと自衛軍に所属していた時の部隊と除隊理由。さらになぜチェルノボグを知っているのか」


『名前は佐藤太郎、元日本国陸上自衛軍、中央即応集団所属の第1空挺団の補給部隊所属。除隊理由は捕虜をぶん殴ったのと補給部隊の物資を横流しをした為。チェルノボグを知っているのはアラスカ紛争の時に偶然にも交戦したことがあるから。もっとも戦闘後に説明があって知ったんだけどね。そこにいる髑髏を書いたデカい盾のスーツいるだろう? その髑髏と同じパーソナルマークを見たことがあったからピンときたのさ』


 まるでメモを読み上げるかのようにスラスラと答える佐藤少佐は怪しすぎて溜息しかでない。とりあえず大尉にも確認してみるか。


「大尉、アラスカ紛争の事は本当ですか?」


『すべて真実だ。我々は威力偵察部隊として派遣された。実際に陸上自衛軍の物資集積所を襲撃したが、襲撃完了後に精鋭部隊による逆襲を受けて撤収した。その時にそこにいる盾持ちのアンドレイが狙撃されたが、推定された敵の射撃地点は3500メートル以上だったな』


後方支援部隊の兵士が3500メートルの狙撃を成功させるとかありえないだろう。間違いなくなんらかの理由で南極基地に潜入しているんだろう。ということはここは話に乗った方が良いな。


「了解しました、少佐。投降を受け入れます。それで貴方をここから脱出させる部隊はいつ着きますか? 周りはノアの艦隊が囲んでいるので空路ですかね」


『いやいや、荒川君は何かを勘違いしているみたいだね。今のオジサンはただの傭兵だよ。脱出を援護する部隊なんて来ないからね? だからそれとなくキミの部隊に紛れて静かに消えたいのがこちらの望みかな。そのかわり目の前のゲートを迂回して中層域に侵入する手段と新世界側の部隊の配置情報を提供する。さらにもう一つお願いを聞いてくれたら追加のプレゼントもあるんだけど…………』


「それくらいならどうにかなりますけど、追加のプレゼントとは?」


『合衆国の一部とフランス政府が新世界と手を組んでいる証拠を提供しよう。そのかわりにオジサンの相棒の奥さんが病気なんだけどノアの病院に入れてくれないかな? イタリアのリゾートに新しい病院ができたよね。そこにいれて欲しい、もちろん費用はそっち持ちで』


それが本当ならいくらでも手配するがイタリアに病院なんて出来てたのか。というか佐藤少佐はなんでも知っているな……。むしろ、俺の個人端末の番号なんてどこで知ったんだよ。さすがにここら辺で一旦クレアさんに相談しておかないとまずいな。

 母さんには例の計画がばれたら面倒だし────。とりあえず少佐には回答を保留して上空待機しているエリスさんに通信をつなげてもらってから考えるか……。






名もなき傭兵の佐藤さん。その真実は誰も知らない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れさまでした。 佐藤さん、今後も活躍しそうなひょうひょうとしたキャラだなぁ。 何処かの最強傭兵さんに物資提供していそうな自称ブローカーみたいな奴のように(笑)
[一言] 第一空挺団。別名狂ってる団。北海道から暴力団が消えたのは彼らが遊び半分でヤクザ狩りをしたからである。
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