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内部へ

今回までゆっくりとお話が進みましたが、次回からは少し加速します。

───荒川 功樹───


 見渡す限りの雪原を魔族達が駆け抜ける。ノアで造られた特殊強化金属を食べたことによって、表皮の硬さが主力パワースーツの装甲よりも強力になったムカデ族を先頭にしながら、無数の魔族が新世界の本拠地である南極基地の正面ゲートに今まさに取り付こうとしていた。

 突入部隊にはアラクネ族も含まれ、背中にはアカトルさんが率いるマンティス族の騎士達が騎乗してムカデ族に随行している人間の強化歩兵を護衛している。


「完全にモンスター映画だ、これ……」


 人間が立てこもる基地に対しての圧倒的物量による波状攻撃、死ぬ前の世界で何度もみたお気に入りの映画にそっくりな光景だ。もっとも違う点といえば、モンスター役が人間と同じようにコミュニケーションをとりながら高度な戦術を使用してくるという敵からしてみれば絶望しか感じないところだろうか。


『指揮官殿、ミキからの連絡だ。箱根基地にG-88からの義勇軍第2部隊が到着した、10分以内に南極に簡易ゲートを使用して転移してくるそうだ』


「まだ増えるんですか?」


『あぁ、敵基地の比較的浅い部分はパワースーツ程度の高さなら十分に動ける事が探査魔法で判明したからな。スーツよりはるかに堅牢な装甲を持つ種族達による強行突破を試みるそうだ』


「ではやはり、箱根基地でいう所の中層以下の状況はまだ分かっていないと?」


「うむ、非常に強力な電子妨害をされているせいで偵察衛星は役に立たん。探査魔法も深すぎると状況がつかめないそうだ。もっとも突入部隊にはメルカヴァの調査隊も同行しているから、基地内部で魔法を使えばどうにかなるかもしれんな」


 流石の魔法もそこまで万能ではないか……。いや、いまですら十分に活躍してくれているからこういう考えは失礼になるな。むしろマーメイド級と同等の大きさの水の塊を運んだり、環境変更で渓谷を消滅させるなんて普通ならあり得えないことだ。

 この作戦が終わったら母さんに頼んで正式に両国にお礼をしないといけないないな。なにか形があるもので喜ばれそうな────、ってアリスはどうしてさっきから黙ってるんだ?


「アリス大丈夫? もしかして具合でも悪い?」


「大丈夫……」


 弱々しい声に驚いで振り返るとアリスはヘルメットのバイザーを上げて青い顔しながら冷や汗を拭いている。思わず大尉に連絡するために通信機のスイッチを押そうとするが、アリスの足元に転がるパックジュースの空き容器が目に映る。

 お前、馬鹿じゃねぇの? 飲み過ぎだろうが! いくら喉が渇いたっていっても320mlのジュース4パックは限度があるだろうと信吾になら怒鳴るがアリス相手には言えない。そしてアリスは明らかに俺からの目線を反らす……、どうやらトイレに行きたいらしい。


「流石に飲みすぎじゃないかな」


「美味しかったの……」


 美味しかったのか、それは良かった。まぁ、緊張したら俺も喉がカラカラに乾くからな。だからとはいえ今この段階でトイレには行けない。俺達が装備しているパワースーツ用の強化外骨格にはそのままトイレを済ませる機能が備わっている。俺自身も何度か使用しているし恐らくだが、クレアさんやエリスさんも普通に使用していると思う。だが、年頃のアリスにそのまま済ませろっていうのも酷な話か。


「アリス、あんまりよくないらしいけど外骨格のアレが限界になった時の薬あるけど飲む? 無理やり分解して汗として体の外に排出するらしいけど、かなり汗でビチャビチャになるらしいよ」


「…………飲む」


「医療パックが僕の足元だからスーツのコントロール頼むわ」


「うん……」


 どうやら一刻の猶予もなそうだ。えっと、確か青が痛み止めで赤が止血剤だから白いのがそうだよな。分解剤と書かれている容器をアリスに渡そうとすると大尉から通信が入った。


『指揮官殿、ムカデ族がゲートへの侵入を開始した! 溶解液で溶けた侵入口が十分な大きさになったら我々も行くぞ』


「了解です! タイミングはお任せします」


 大尉に返答しながら薬を手渡すと、アリスは震える手で容器を掴み中から本能的に口には入れて駄目だと感じる色をした錠剤をつまんで飲み下す。医療パックから取り出すときに流し読みしたラベルには直ぐに分解が始まると書いてあったから、数分もすればアリスの状態も落ちくだろう。


「ふぅ……」


 そのため息は分解が始まった溜息だよな!? いや、別にどっちでもいいんだけどもの凄く気になるぞ。アリスはそんな俺の微妙に変態的な心の声が聞こえたのか目が合うとプイっと顔をそむける。うん? まてよ脳波コントロールって事は俺の考えた行動を処理してるって事だよな……。もしかしてアリスって部分的に俺の考えが読めてるのか? ぼんやりとながらそう考るとアリスはビクっと震える。おい! やっぱり俺の考えてる事が───。


「功樹君! 着弾警報! 今撃たれた!」


「狙撃!? アリス、コントロールを僕に戻して! あとなんでもいいから武装を展開!」


 アリスが指示通りにスーツのコントロールを戻してくれたが、お互いに慌てたせいで微妙な姿勢のままコントロールを引き継いでしまった。雪上の為かパワースーツの足が滑って踏ん張りが利かない。アリスが姿勢制御スラスターを点火してアシストしてくれるがむしろ一旦倒れてから姿勢を立て直した方がいいな。


「とりあえずナイフを出した」


 腕に格納してあるナイフが展開される。ナイス判断だアリス! スーツのOSに組み込まれているプログラムが自動的にナイフを構えて近接格闘モードに移行しようと強制的に姿勢制御を開始する。普段はスーツに強烈な負荷がかかるためにオフになっている機能だがこの状態だと人間が動かすよりも的確に姿勢を安定させてくれる。だがそう思ったのもつかの間、凄まじい衝撃音とともにスーツが後ろに吹っ飛ばされた。


「クソッ、一体なんだよ! アリス! コン! 怪我は!?」


「私は大丈夫だよ」


「キュ」


 2人とも大丈夫っぽいな。むしろ吹っ飛んだ時にヘルメット越しとはいえ頭をぶつけた俺がちょっとヤバい。痛む頭を擦りながら損傷個所を調べる。


「頭部、胴体、腕部、脚部、すべてグリーン。武装もナイフ以外は無事か」


「キュ、コンコン。キュー」


「コンがそのナイフお気に入りのだったのにションボリだって」


「このナイフってコンがドラゴン族の人から貰ったんだよな。模様も綺麗だったのになぁ、やっぱり搭載するの止めた方が良かったかもね」


「コン! コンコンコン。キュキュ」


「お守りとして貰ったから整備場に飾っておくのは失礼、実際に身代わりになったでしょ。だって」


 未だに俺は何を言っているのか全く理解できないのに、相変わらずアリスはコンと普通に会話してるのかよ。まぁ確かにコンの指摘通りお守りとして機能してくれたけどな。むしろこのナイフが砕けるなんて一体何に撃たれたんだ? 技術者の人に聞いたら未知の素材で造られた非常に硬いナイフって教えられたシロモノなんだぞコレ。


『指揮官殿、無事か!?』


「大尉、こちらは大丈夫です。大尉の方は攻撃を受けなかったのですか?」


『良かった、後ろに吹き飛んだ時は肝が冷えた。こちらは歩兵が携帯するミサイルランチャーからの攻撃を受けた。ところでそのナイフ……、着弾痕から推測するにレールガンからの射撃だな。あんなもので撃たれてたのに躱した挙句、咄嗟に弾くとは驚きを通りこして呆れるぞ』


「えぇ、まぁ……」


 大尉が何か勘違いしているがそこを説明するとアリスがトイレに行きたかった所から詳しく説明しないといけないのでスルーしておこう。あっ! 今ものすごい重要な事を思い出した、アリスのやつ俺の考えを読めるのに黙っていたんだった。むしろ頻繁に更新される0式スーツ使用に対する注意事項に記載されていないってことは、医療部にも報告してないと思う。まったく、あれだけなにかあったら報告するように指示されているのになんで報告していなんだ?


『つれない返事だな、いや指揮官殿からしたら朝飯前の事か。さて、侵入口が十分な大きさになり敵の防衛部隊の撤退を確認した───。これより突入する』


「了解」


 ゲートを見るとすでにチェルノボグの先導隊が確保作業に入っていた。大尉のスーツを追って俺もライフルを構えて最後尾について移動する。しっかりと通信が切れているのを確認してからアリスに先ほどからの疑問をぶつけてみる。


「アリス、僕の考えが読めてるの? あ、怒ってるわけじゃないよ」


「…………えっとね、私もさっき初めて知ったの。多分なんだけど基地にある電源設備からのエネルギー供給じゃなくて、コンの魔力からのエネルギーでスーツが完全に起動していて、なおかつ功樹君がいるのにも関わらず私がコントロールしている時に少しだけ」


「それはまた随分と微妙な……」


「美紀さんが月面遺跡で手に入れた装置が原因なんだと思う。資料で読んだけどアダム人って表層意識を読んで会話してたらしいし」


「確かに、イヴもそんなことを言ってたような」


「それで、その……、功樹君が考えている事が少しだけ分かってそれが嬉しくなって、でも────」


「でも?」


「なんか私のこと見ながらへんな事考えてるから、あの……、トイレが気になるとか…………」


「キュ、コン!?」


「うん、今初めてコンの言葉が分かってちょっとだけ感動した。その鳴き声はマジで? って意味だろ。それは勘違いだ、僕はそんな意味で考えたわけじゃない。アリスの体調を心配していたんだ」


 間違いなくこの勘違いは絶対に解かなければならない。そして今回のような疑いを持たれた事を誰にもバレないようにしなければ、社会的に俺は死んでしまう。本当にどうしよう……、どうしたら穏便にアリスに恥ずかしい思いをさせる事なくこの勘違いを正すことができるのだろうか? 母さんが月面遺跡から漁ってきた便利アイテムの中に相手の記憶を消す装置とか無いのかな────。




次回の更新日は帰宅予定の7月20日となっておりますので、よろしくお願いいたします。

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