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魔法対科学

次もまた土曜日になるかも……。

───功樹 視点───



 いつものように妙にヌルゥっとする感覚があるゲートを潜ると目の前には一面の銀世界が映りこむ。初めて訪れた南極に感動する暇なく、直ぐにマッチョが居るであろう指揮車両に近づく。


「気持ちわるいよぅ……」


「そう? なんか僕は慣れたけど、そういえば母さんもゲート潜る時は凄い気持ち悪いって言ってたような」


「慣れないよ! こんな気持ち悪いの絶対に無理」


 まぁ、そうそう頻繁に潜るわけでもないし我慢だよアリス。周囲をチェルノボグの人達に護衛されながら第1部隊の様子を窺うと、これといった戦闘が起きている様子もなく橋頭保を確保した後はジリジリと前進しているようだ。直ぐに主力部隊が到着するから急いではいない。


『指揮官殿、いたぞ。指揮車両の直ぐ横だ』


 大尉からの通信どおり前方にある車両の隣で大型の盾を構えたパワースーツに守られながらマッチョのパワースーツが腕を組んで前進している部隊を見つめている。あの仕草的に随分と機嫌が悪そうだ、スーツを装着していなかったらしかめっ面をしながら煙草を咥えている所だろう。


「父さん」


『あぁ? おっ、来たか。アリスちゃんとコンも一緒か?』


「もちろん。それで様子は?」


『さっぱりだな……、攻撃らしい攻撃は無し。ここまで来るまでに魚雷をぶち込まれたのとピースメーカーで頭をぶん殴られただけだ。お前たちと一緒に主力部隊が来るから、先に威力偵察を兼ねて小隊が前進しているところだな』


 ふむ、脳味噌まで筋肉にはピースメーカーをぶち込まれた事は攻撃ではないのか。後から母さんに相談して脳の検査をしてもらおう。それにしても上陸してからの攻撃は無しか───。


「変だよね? どう考えてもさ」


『変だな、どう考えても。兵士どころかお前が言っていたゾンビもそれっぽい生物兵器も展開されていない。防衛能力が皆無って訳ではないだろうから取り合えずはデータリンクを常にチェックしておけ』


「了解」


 俺が返事をするのと同時に会話を聞いていたアリスがモニターにマップと常時更新されている部隊配置状況を表示してくれた。

 氷棚を抜けた先の渓谷入口には第1部隊パワースーツが展開済み、ゲートからはウルスナ帝国の義勇軍が転移を開始しているところか。俺も渓谷に向かうか? 敵の基地がある場所の予測地点は渓谷を抜けた先にあるクレバスの下だ。辛うじて高感度偵察衛星で熱源の補足に成功したがそこが入口とは限らないのが問題だな。


「父さん、僕も渓谷に向かうよ。様子をみて偵察隊についていく」


『了解した。くれぐれも気を付けろよ』


「大尉もいるからそこまで問題はないと思うよ。では大尉、お願いします」


『了解した指揮官殿。パワースーツ隊はこのまま渓谷に向かうぞ! 歩兵隊はこの場で待機、ウルスナとメルカヴァの護衛にあたれ』


 指示を出した大尉はいくつかのハンドサインでチェルノボグの人達に合図をして俺を最後尾にした編隊を組んで前進を開始する。前の隊員に遅れないように歩いているとアリスがモニターの端に映っているマップに光点を付け始めた。


「アリス、なにしてるの?」


「えっとね、この光ってる場所なんかおかしい……、かも」


「おかしい?」


「んー、上手く言えない。スーツに搭載されてる観測装置では異常はないって表示されてるけど、もっと誤差のレベルでは異常だと思う。なんていうのかなモヤモヤしてるっていうか」


 変な感じがしてモヤモヤしてるのか。なんかヤバい予感がするのは気のせいではないと思うぞ。一応だけど大尉に伝えておくか……、問題がないならそれで越したことはないしな。


「大尉、アリスが妙な違和感を訴えています。データ上では一切問題ありませんが、確認の為にそちらにも場所のデータを送信します」


『これは───、単純な違和感というには数が多すぎるな。一旦停止する。ヨシフ! お前の隊で一番近いポイントF-6を偵察してこい』


 大尉の命令にすぐさま3機のパワースーツが編隊を離れて移動を開始する。恐らく先頭にいるやたらとゴツい装備を背負ったスーツがヨシフさんかな。あの人は重火器分隊の所属だって言ってたけど、腕部に固定されたガトリング砲とかいうロマン溢れる装備は果たして実用性があるのか疑問だ。


「え、この数値……。ダメ! 功樹君、ヨシフさん達を止めて!!」


「大尉っ!」


『聞こえている! ヨシフ! 現在位置より退避!』


 突然のアリスの怒鳴り声に驚きながらも、大尉に呼びかけるとこちらの話を聞いていた大尉はすぐさまヨシフさんに指示を出す。だが大尉が叫んだ瞬間、ヨシフさんのスーツが煙を上げて行動を停止する。一体何がおきているんだ? 疑問に思いながら後ろのアリスに質問しようとした時、スーツ内に耳障りなアラームが鳴り響く。


「こちら0式スーツ、アリス・アルフォードです。全友軍部隊に緊急通達、高エネルギー警報発令。敵は『荷電粒子砲』を使用しています」


『馬鹿な! パワースーツを撃破する威力をもったビーム兵器だと!? 現状の装備では対抗できんぞ』


 アリスの言葉に大尉が驚く。それもそのはずだ、俺たちノアが想定していた新世界側のビーム兵器は車両や船舶を目標として攻撃した場合に辛うじて目標を撃破できるレベルだと考えていた。そのレベルですらノアは未だに試作モデルしか完成していない。それが実際には突貫とはいえ対レーザー減衰塗料と新型装甲版で防御を固めたパワースーツをたったの一撃で撃墜したのだ。

 もはや新世界側の技術力はノアと同等どころか数年先をいっている。だが今は呆然としている時ではない、ビーム兵器は直進しかできないはずだからそのラインから逃れる事さえできればどうにかる。


「アリス、光点の場所から敵のレーザーが当たらない場所を計算してくれ! 今まで撃ってきてないって事は恐らくだけど射撃角度がとれないはず。一度射撃圏内からでないと順番に撃たれる」


「分かった! 10秒待って。………………、見つけた、多分ココなら大丈夫だと思う」


「大尉、安全地帯を見つけました。一度退避して態勢を立て直しましょう」


『了解した! 先に行け、私はあそこで這ってる馬鹿を引っ張ってくる』


 アリスが指定した地点に向かって全速力で移動しながら振り返ると、ヨシフさんのパワースーツがゆっくりとこちらに向かってきているのが見えた。よかった、完全に撃破されたわけじゃなくてまだ自力で行動はできるみたいだな。だけど胴体部分を掠めるようにスーツの装甲が融解しているのが分かる。あの威力なら直撃をくらったら即死だな……。


「ごめんなさい…………」


「うん?」


「ごめんさない、私がもっと早く危険に気づければよかったのに。たぶんさっきの違和感は電子の圧縮だったんだと思う。データ上には表示されなくても脳で処理するときに僅かな乱れが違和感として────」


「いや、アリスは悪くないから。データ上は問題なかったのにおかしいと思えただけでも上等だって」


「でも……、ヨシフさんが……」


『なにシケた会話してるんだいアリスちゃん、俺達はこれくらい日常茶飯事だったんだよ。それよりありがとうな! 警告があと一瞬遅かったら今頃はスーツと一緒に蒸発してたよ』


「ヨシフさん! 装甲が融解してますけど内部は大丈夫ですか?」


『心配いらないよ指揮官殿、チョットばかし脇腹が焦げたが行動に問題無し。これよりスーツを放棄して強化外骨格のみで戦闘を継続する』


 うん、普通は脇腹がチョットでも焦げたら大惨事だからねヨシフさん。だけどスーツのカメラをズームして様子を見る限りは本当に問題なさそうだな。さっそく言葉通りに自分のパワースーツをパージして隣のスーツによじ登って体を固定している。

 というか彼らの国はまだソ連軍だった頃から伝統的に戦車跨乗、つまり戦車の上に直接乗って移動するのを好んでいたけど未だにやっているんだな。

 昔はタンクデサントとかいったらしいけど、わざわざパワースーツに取っ手を追加溶接してまで乗るところをみるとスーツデサントとでも呼んだ方がいいのか?


『指揮官殿、箱根基地にいるミキからの情報だ。どうやらアリスがマークした光点すべてが敵のビーム兵器トーチカのようだ。衛星で確認したところ旋回砲塔ではなく固定砲塔だと判明した』


「ならここにいる限りは安全ですね」


『あぁ、ヨシフが這っている間に撃たれなかった状況から射角もそう多くはとれないと考えられる。しかし未だに圧倒的脅威であることに変わりない、実際に最前線の渓谷にいる部隊と我々は完全に孤立した状態だ。当面の間は本隊からの救援も望めない……、これで敵の主力が湧いてきたら確実に各個撃破されるぞ』


「誘いこまれましたか」


『そのようだな』


 まいったな、ここまでの高威力ビームならアリス型陸上戦艦でも結構マズイぞ。かといってドラゴン族に航空支援を求めてもアレに耐えられるかわからない……、いっそのこと俺が囮になるか? いやでもビーム兵器を避けきれるわけは無いか。そもそも射程はどれくらいなんだよ、再射撃までの時間もわかないから迂闊な行動はできない。


『功樹、聞こえるか?』


「聞こえるよ父さん」


『えーとな、ウルスナ軍っていうかウルスナの錬金術師っていうヤツと魔術師がそっちの救援に行くそうだ』


「はぁ!?」


 なに考えてるんだよマッチョ、止めろよ! パワースーツどころか強化外骨格すら装着してない生身の人間が来たところでどうにもならんだろうが。しかもニュアンス的に2人だろ? 今そんな人数がきてもビームで撃たれて蒸発しちまうって!


『お前の考えてる事はよくわかるぞ、だからちょっと落ち着いて俺の話を聞け。あのな、その錬金術師なんだが……、母さんから荷電粒子砲の原理を説明されて理解したんだわ』


「ごめん父さん。なにをいっているのかよく分からない」


『おう、俺も同じ気持ちだ。だが母さんが錬金術師と話をして大丈夫だと判断した』


「えぇ……、母さんもなんで許可したんだよ。あのそれでどうするって言ってたの?」


『【つまり高速で飛んでくる塵の塊っぽい物を止めれば良いのですね】って言ってたぞ。今は大量の水を浮かべてそっちに向かってる。スゲェぞ旗艦マーメイドと同じくらいの大きさの水だ』


 たしかにビームは水の中だとあっと言う間に威力減衰をおこすから無力化ができるが……。うん? おいちょっと待てよ、マーメイドって700メートルくらいあるぞ!? そんな大量の水を運べるのか────。


『どこの世界にも1人くらいは本気でヤバイ天才っているんだな、あんな簡単な説明だけで理解するとは思わなかった。あと錬金術師がそっちに着いたらでいいから、悪いが渓谷にいる部隊を連れて一旦こっちに撤退してくれ。邪魔だから【渓谷を更地にする】そうだ』


「そんな事できるの?」


『できるそうだ、ちなみに訓練だが天候も局所的とはいえ変更できた。G-88世界の人達はな最初に出会った時は俺達ノアに対する有効な対処法を知らなかっただけだ。だが今ではその対処法と効果的な攻撃方法を知っている……。俺は同盟軍でよかったと心から思うぞ』


「どうしよう。なんかかなりヤバい集団を目覚めさせた気がするんだけど」


『ハハッ、そうかもしれんな。おっと忘れるところだった、ヴィクトリア陛下とアドリエンヌ殿下からお前に伝言があるぞ』


「なんて?」


『【魔法を舐めるな】だってよ』


 2人からの伝言で呆然としている俺を無視してマッチョからの通信が切れる。それと同時にヨシフさんが指をさして大笑いを始めた。その指の先を眺めると、ビーム攻撃を平然と受け止めながらこちらに向かって来る水でできた巨大な壁があった────。


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[一言] 魔術じゃなくて魔法だからマジでやばい
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