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南極へ

(´×ω×`) 時間的にやっぱり土曜日の更新になってしまった。誤字報告ありがとうございます! 編集が非常に便利です(`・ω・´) 報告一覧から個別にお礼が伝えられないのでここで失礼します。

───功樹 視点───


『功ちゃん、お父さん達が氷棚に到着したわ。本格的な戦いが始まるから準備して頂戴』


「了解」


腕につけた個人端末から聞こえる母さんの声に返事をしながら、繰り返し読んでいた『もしも、母さんがゾンビウイルスを作ったら~パート1』を強化外骨についてるポケットにしまう。

 だいぶ前に自分で作ったものだが今回、万が一の事態にそなえてプリントアウトしたものをチェルノボグの全隊員に配布してある。もちろんこの本に書いてある知識を使わないで済む事が一番だが、母さんと同じような思考回路をした本物の天才であるサンドラ博士が相手だけに用心しておいた方がいいだろう。


「指揮官殿は本当にソレに書いてあるような化け物が出てくるとお考えで?」


「はい。実際に使ってくるかは疑問はありますが、製造していたゾンビが攻撃の余波で逃げだす事はあるかもしれません。まして敵の南極基地は僕たちの箱根基地とG-88本拠地を合わせたような施設だと推測されています。用心はしたほうがいいと思いますよ」


 重火器分隊を率いているヨシフさんの質問に多少の誇張を含めて答えると、ヨシフさんは神妙な顔になりながら背中に担いでいた連射式の大型ショットガンを取り出してしっかりと弾が装填されているか再確認した。俺も個人携帯用の火器を準備しようかと思ったが、そもそも0式スーツが撃墜された時点で詰みなのでやめておいた。俺ごときが生身でどうあがこうが無理なもんは無理だ……、そのときは潔く諦めて救助を待とう。


「大尉は……、っとちょうど来ましたね」


スキンヘッドもとい、アントンさんの所にいって中々戻ってこない大尉を心配していたらしっかりと強化外骨格に着替えた大尉が部屋に入ってくる。


「すまない遅くなった」


「いえ問題ありませんよ、ちょうど母さんから連絡があったところです。父さん達が氷棚に到着して戦いが始まるところです。これから僕たちはスーツを装着してこちらのゲート前に待機、向こうで簡易ゲートが展開されるのを待ちます」


「了解した。では手順通りに」


「お願いします」


 大尉がチェルノボグの皆さんをつれて自分達のスーツを装着しに向かう中で、俺は1人で別の通路を歩きながら専用機の0式スーツが待機している整備場へ向かう。ついでに端末を起動してクレアさんを呼び出すと微妙に不機嫌そうな顔をしながら応答してくれた。


『……はい』


「あの……、なんで怒ってるんですかね?」


『胸に手を当てて考えてもわかりませんか? 功樹君はまた私を置いて勝手に進めるつもりなんでしょう! この前、ロシアに迎えに行ったときに約束しましたよね? もう二度と黙って勝手な行動はしないと』


「誤解です! 僕はクレアさんに黙って何もしてないですよ。というか基地攻略の手順を事前に説明しましたよね? クレアさんはX-55で上空待機です。その為にわざわざオーディンの機長だったマルティン少佐をこっちに配属してもらったんですよ」


『それは分かっていますが、それでも───』


 黙り込むクレアさん。俺を信用できていないのは身に覚えがありすぎて仕方ないとしても今回に限っては本当に全部の計画を彼女に話してある。というかもしかしてアレか? たしか真面目なクレアさんとマルティン少佐の所にいる微妙に不真面目な空軍の人達は仲が悪かったはずだ。でもさすがに今回だけは我慢して仲良くやってもらわないと俺達が死ぬかもしれない。いや、チェルノボグの人達は余裕で生き残りそうだけど俺が死ぬ。


「クレアさん、繰り返しますが隠し事はしてませんよ。それにクレアさんにお願いしたことは本当に重要なことです」


『了解しました。信じましょう、ですからどうかご無事で……』


「もちろんです。それでは後程……、って忘れるところでした。準備ができたら離陸してくださいね」


 X-55の離陸許可を慌てて付け足してからクレアさんからの通信を切った頃には待機場についていた。膝立ち状態で俺の到着を待っている0式スーツは2人乗り、コンも含めると3人乗りのため通常のスーツより二回りほど大きくなっている。

 もっともその分だけ本来なら余分な燃料と電源設備が必要なのだが今回はコンが燃料の替わりなので重さによる機動性は損なわれていない。


「むしろ無駄にSFっぽい反物質反応炉とか乗っけるより、ずっとコンを搭載してたほうが最高効率な気がするけどな」


「うみゅ……」


「キュ……」


 独り言をつぶやきながらスーツの内部に入ると、眠っていたであろうアリスとコンが目を覚ました。フルフェイス型のヘルメットを被ったアリスの表情は分からないが、恐らく前に見たことのある昼寝後のようにぼんやりとした顔をしていると思う。コンは尻尾で器用に顔をかいてから大きなあくびをしている。自分で女の子と言い張るぐらいならもう少し恥じらいをもてよ……。


「アリス起きた?」


「うーん、うん。大丈夫」


「コンは?」


「コン!」


「よっしゃ、じゃ今からゲート前に待機するよ。アリスはスーツの完全起動をお願い」


 俺の言葉に頷くとアリスはまるで端末に繋がっているキーボードを操作するかのように何もない空間に指を走らせる。G-88にあるノア島の訓練施設でもやっていた事だが何度見ても不思議な光景だ。どうやらアリスはキーボードを操作していると脳に『錯覚』させることによって実際に情報を処理している脳の負担を極限まで下げているらしい。

 本人は『なんか私の心をくすぐる格好良さがあるから好き』と言っていたがそれは中二病というんだよアリス。


「システムの起動を開始……、起動を確認。続いてオペレーティングシステムのアップデートを確認中。運動制御プログラムに更新を確認……、更新終了。功樹君の脳波コントロールを一部承認……。火器管制システム及び通信システムは全て私が処理。衛星へのデータリンクを要請中……、エラー。予備回線からデータリンクを要請……、エラー。25番回線をハッキング……、接続成功」


「まって! 今なんか凄い不穏な言葉が聞こえたんだけど?」


「全兵装の使用許可を要請……、許可。機関出力のリミッターを解除……、0式スーツ完全起動」


 起動したスーツを動かして立ち上がるとまるで俺が自分で立ち上がったかのような感覚を覚える。それほどまでにこの0式は操作に違和感がない。むしろ操作をしているというより俺がそのままスーツと同じ大きさになったイメージだ。流石に完全に脳波コントロールに移行しただけの事はあるなと考えていると、アリスが備え付けのオレンジジュースのパックをくわえながら補足情報を教えてくれる。


「えっと、今は動いたり飛んだりすることだけ功樹君のコントロールを許可してるの。基本的に通信とか火器管制システムとかは私が制御するけど、姿勢制御のアシストと射撃のコントロールはどうしよう?」


「射撃コントロールだけほしいかな。アリスが撃つときに僕が変な動き方したら困るでしょ」


「うん。えっと……、はい。これでそっちに渡したよ」


「ありがとう」


 さてゲート前に行くか。今頃はマッチョ達が簡易ゲートを設置するために頑張っているだろうしウルスナ帝国の人もいるからそんなに時間もかからんだろ。アリスがパックジュースを飲むチュウチュウ音を聞きながらゲートへと急ぐことにした。




───ユリヤ 視点───




「大尉、皆が気にしています。本当にアラカワの予想どおりに例の怪物が出現すると思いますか?」


 スーツを装着していると部下の一人が真剣な表情をしながら質問してきた。


「あのゾンビとかいう化け物のことか? ふん、本来なら笑い飛ばすところだが……、あいつはG-88でもグールが出ることを知っていたからな。今回も似たような生物が出る事は覚悟しておいた方が良いぞ」


「そうですか。しかし、完全に閉鎖環境に置かれた研究所内での感染型生物兵器の大量発生に備えた危機管理手順ですか。これってどう考えても南極基地を想定したことですよね」


 返事の代わりにアントンから貰って来たオイルライターで煙草に火を付ける。まぁ、そうだろうな。題名こそふざけた名前だが、対応手順はそれこそ何十回、何百回と試行しないと書けないほど洗練されている。特に普段なら問題ないと考えられる僅かな意識の隙間に入り込むような不測な事態についても細かに記述があったのは素直に称賛すべき点だ。


「厳しい戦いになるな……」


「えぇ。ですから万が一に備えてクレア中佐を上空待機にしたのでしょう?」


「まぁな。最悪、炸薬をたっぷりと積んだX-55を南極基地に突っ込ませる予定だ。理論上はピースメイカーより威力が上だがアラカワ本人は嫌がっていたな。なんでもサンドラ博士に聞きたいことがあるそうだ」


「そりゃまた……、素直に答えてくれるとも思いませんがね」


「元いた世界に帰る方法……、いや違うな。そんなことくらいアイツならもう解明しているはずだ。恐らく随分と惚れ込んでいるあの娘に関することだろう」


「アリス・アルフォードですか。────サンドラのクソビッチが! 弄りまわすならせめて兵隊だけにしておけばいいものをなぜ人工生命体なんてもんを造りやがったのか」


「殺すなよ? とりあえずアラカワが質問を終えるまではな。それと始末するならアリスが見てない所で消せ。あの娘は優しすぎる」


 箱根基地でアリス・アルフォードに出会った時、あの娘は私達に恐怖を抱かなかった……。アラカワのように驚きもしていなかった……。ただ頭を下げてお礼を言ってきたのだ、『功樹君を助けてくれてありがとうございます』と────。

 そして次にでた言葉は金属で補強された私の顔を指でふれながら『痛くありませんか?』だったのだ。そんな心配はいらないと、多少の疼きはチェルノボグの隊員ならばだれしも強化兵士になったときからずっとあることを伝えたら何を勘違いしたのか痛み止めを持ってきた。そんな錠剤など私達に効くわけもないのに。


「そうですね。彼女は優しすぎる」


 いつのまにか横に立っていたヨシフが笑いを堪えながら答える。おそらくコイツもあの時の事を思い出しているのだろう。あの時の私はそんなアリスの行動を美しいと思ったのだ、大抵の人間には嫌悪しかされないであろう私達に優しく微笑みながら薬を差し出す彼女を。軍に所属していた時なら唾棄すべき感情だったはずなのに何故だかすんなりとそう思えたのだ。


「そうだ、だから我々は彼女を守る。確実に最優先にな。アラカワは共に戦う同士だがアリス・アルフォードは違う。それを忘れるな」


「了解! さて、噂をすればってやつですかねアラカワがきましたよ」


 ヨシフの視線の先を見ると0式スーツが丁度ゲート前に来たところだった。私もタバコを足でもみ消してから完全にスーツを装着して部隊内のデータリンクに接続する。なぜか通常とは違う回線で衛星に接続されているのを疑問に思っていると、思い出したようにヨシフが口を開いた。


「そういえばアントンはどうしたんですか?」


「うん? あぁ、眠らせてからベッドに縛っておいた」


「えっ」


「だから麻酔薬で眠らせてからベッドに縛り付けてきた。当分の間……、そうだな少なくとも丸二日程度は目を覚まさないだろうな」


 ひきつった顔で固まっているヨシフを無視してデータリンクを確認していると、どうやらミキからの出撃許可が下りたらしい。ぼんやりと明かりが灯ったゲート前でそれぞれが銃を構えながらアラカワを中心とした編隊を組む。さて、待っていろよサンドラ博士。もうすぐ我々がそちらに行くぞ────。


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