多種族同盟軍、再び
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----修一 視点----
G-88にある第五演習場の監視塔から地上で訓練を行っている部下を眺める。攻撃側にとって圧倒的に不利な地形は、やはり部隊間の連携を取りにくくしているのだろう。
「B中隊! さっさと進め! お前らのケツにいるC中隊がつまってるぞ!」
無線機を掴みB中隊に向けて怒鳴り声をあげるが、隠れている正面の敵から猛烈な制圧射撃を受けている彼らは進むことができない。迂回攻撃を仕掛けているA中隊も、同じように側面に回り込んできた少数の敵パワースーツ部隊に足止めをされている。
「司令官、沖合を遊弋中の空母セイレーンからの気象連絡です。低気圧の発達により視界が急速に閉ざされています。これ以上の上陸部隊の派遣、及び上陸支援は困難だと……」
エリスの報告で気象レーダーを確かめると、すでに上陸地点が見えなくなっていた。作戦開始で4時間で上陸できた人員は約600人か───、やはり上陸用舟艇だけでは限界がある。ここは撤退させて第二次上陸作戦に賭けるしかないな。
「訓練終了。現在上陸している攻撃側の半数は撤退戦で戦死したものとする。各部隊にはそのつもりで再編成を行うように伝えろ」
「了解」
無線で訓練の終了が伝えられると、吹き荒れていた吹雪が急に止まり空から太陽の光が差し込んできた。さすがウルスナ帝国の高位術者達だ、200人も集まれば周囲50キロの程度の気象状況をある程度変えられるなんて俺たちからしたら信じられん。だが、そのおかげで南極大陸侵攻作戦の訓練ができるのだから感謝だな。
「隊長、やはり過去に功樹君が使用して改良を施した作戦を採用したほうが宜しいのではないですか?」
訓練が終了したので司令官ではなく、隊長と呼びかけてきたエリスは顔を伏せながらそんな事を言った。確かに功樹が立案した極地作戦用のプランはもっとも成功率が高いモノだろう。しかし問題が一つだけある。
「精鋭部隊による敵司令部に対する強行突入プラン。たしかに成功率は高い、大陸間弾道ミサイルを使った大気圏外からの侵入だからな。だけどなそれを実行するのには『飛行』しないといけないんだ」
「それは……」
パワースーツに飛行用の外部パーツをつけた状態で飛行できるのは功樹だけだ。俺たちはせいぜいが短時間だけ浮いているのが精一杯、飛行なんてどれだけ訓練すればできるかわからない。そして美紀の話では功樹がそれを会得するためにどれだけの経験を積んだのか……。
「2時間後に訓練を再開する。それまで───」
コンコンとノックの音が聞こえた。誰だ? ノア島から1800キロ以上離れているこんな訓練場に来客なんてくるわけないのだが。
「入れ」
入室を許可するとノアの警護兵と共に二人の美女が部屋に入ってきたのだが、思わず驚きの声をあげてしまった。
「アドリエンヌ殿下!? それにヴィクトリア陛下まで……。失礼しました! つい部下かと思いましたので……」
「お気になさらず。お久しぶりです、シュウイチ様」
「久しぶりなのじゃ」
二人は俺の非礼を気にする事もなく笑顔で挨拶してきた。しかし、いったい何の用だ? ヴィクトリア陛下に借りているウルスナ帝国の高位術者達の待遇は士官として遇している。観戦武管として数名を預かっているメルカヴァ王国の騎士に対しても礼を失する態度は働いてはいない筈なんだが。
こんな所までわざわざ会いに来る事を疑問に思っているとヴィクトリア陛下が口を開いた。
「先日、ミキ殿からノアの状況を知らせてもらった。それにお主の息子であるコウキ殿の事もな。その後、妾たちウルスナ帝国とメルカヴァ王国はノア側には極秘で会談を行ったのじゃ」
「会談の内容はノア側に送る義勇兵の事です。つまり、シュウイチ様達の世界に多種族同盟軍の兵を送ろうと考えています」
帝国と王国が共同で兵を送ってくれるのは嬉しい申し出だ。だが、彼女達の文明レベルの兵を借りたところで新世界側に通用しないどころか即座に殲滅されるだけだろう。
「その顔を見れば考えている事はわかる。妾達の兵など役に立つ訳がないと思っておるのだろう?」
「いえ、そんな事は……。しかしこちらの世界で戦うとなれば我々の使っている装備を敵に回す事になります」
「わかっておる。そなた達の使うライフルの前に立てば簡単に撃ち倒される。地下に隠れればミサイルとやらに押しつぶされる。奇襲をしかけようとしてもパワースーツの前に薙ぎ払われるだけだろう」
わかっているならなぜ兵を送ろうとするんだ。この二人は自国の兵士を無駄に消耗させるような暗君ではない。なにか考えがあっての事だと思うが……。
「私達は戦いません、そのかわりに徹底的な嫌がらせを行います。敵が隠れているのなら地形をかえましょう。天候がこちらに不利ならそれをかえましょう。パワースーツに勝てないのならその中にいる人間の精神へ魔法をかけましょう」
「妾達はお主からすれば未開の蛮族かもしれん、だが先駆者から学ぶ事はできるのじゃ。お主達はこの帝国と王国を守ってくれた。今度はこちらが助ける番じゃ」
「魔力についても心配はありません。コン様が創る宝石に魔力を充填していけばそちらの世界でも魔法を使用できます」
俺は彼女達を……、いやG-88世界に住む人々を勘違いしていた。いつまでも俺たちの技術には対抗できないと考えていた。だが実際にはどうだ? 説明された戦法を取られれば、状況によっては俺たちを撃退するどころか簡単に撃破できるだろう。地形や環境の変更など恐ろしい事この上ない。地図も戦術もまったく違うものになってしまうのだから───。
「わかりました。それでは正式に帝国と王国に対し義勇軍の派遣を要請します」
「お任せください」
「任せるのじゃ。それと忘れていたが魔族側の派遣する兵力じゃが、戦う場所が極寒の海と聞いて名乗りを上げた種族がいる」
「それは?」
なんだか嫌な予感がする。これはそう、功樹のアホがとんでもない事をする前触れのような。
「クラーケン族じゃ。先の大戦では主戦場が陸だったので参加しなかったが今回は参加するみたいじゃの。この前の模擬試合ではホレなんと言ったか……げ、げんすい?」
「原子力潜水艦の事ですか?」
「おお! そうじゃその原子力潜水艦のトルストイとやらに勝ったぞ。クラーケンには魚雷なんていう鈍足な兵器なんぞ通用せんと言っておったな」
トルストイの装備している魚雷はロシア製の改良型ZS-115-グロームを元にしたスーパーキャビテーション魚雷だったよな。水中推進速度が200ノット、時速370キロ以上で接近してくる魚雷が鈍足ってどんな生物だよ───。
ちなみにグローム魚雷は名称は違いますが実際にあります。モデルはロシア製のシクヴァール魚雷で、水中を時速370kmでぶっとんでくるロケット推進式の魚雷です。弾頭は通常の炸薬の他、核弾頭に変更可能だそうですよ。やっぱロシアは変態だなぁ(褒め言葉




