帰還
そういえば、最近同じお話内で勘違い描写していない……。どっかでやらなければ(義務感
----功樹 視点----
不意に目がさめた。時計で時間を確認すると05:18と表示されている。そのまま暫く簡易ベッドの上で頭を覚醒させていると、隣のベッドで寝ていた男性が声をかけてきた。
「ヴォルカ、起きたのか? というかお前よく起きれたな。ほぼ3日徹夜した後で5時間の睡眠しかとらなくていいのか?」
「腹が減りました……。それに今日も忙しいですし」
「確かにな。さっさと飯を食ってから制服を受け取りいくか」
男性はそう言うとベッドから起き上がってブーツを履いた。というかこの人の名前なんて言ったかな? 寝る前に聞いた覚えがあるんだが覚えていない。確か、ヨハン……、違う。そうだ!! ヨシフさんだ! 重火器分隊のヨシフさんって自己紹介された。
「ヨシフさん、付近の住民の避難は終わっていますか?」
「あぁ、昨日の夜に周囲50キロ圏内からの離脱は終わらせてある。しかし、アレは本当なのか?」
「はい。クレアさんの事や救出部隊の事を考えれば間違いないと思います」
ヨシフさんは、ヒゲをさすりながら未だに信じられなそうな顔をしている。その後は二人とも無言のまま狭い通路を歩き食堂に着いた。炊事当番の隊員から食事を受け取ると空いている席に座り食べ始める。
「そういやお前、少将の制服を受け取るらしいな」
「えぇ、でもまともな訓練も教育も受けてないですし問題しかないですよ。特務少将といってもノアでの階級ですから」
「ははっ、そんな事いったら俺達だってまともな教練なんかされてねぇよ。この時代に核戦争を想定した部隊だぞ?」
俺の言葉にヨシフさんは大笑いしながら突っ込んでくる。それはそれで凄いと思うけどな……、マッチョの所属していた部隊だって精々がテロリストが使う戦術核兵器までしか想定していなかった。それなのにヨシフさん達は戦略級を使用する全面核戦争を想定している。だからこそ今の『俺たちが居る場所』があるんだが───。
「それより申し訳ありませんでした、大見得きって堂々とロシアから出て行きましょうなんて言ってしまって。結局はこうやって敵に怯えながらコソコソしています」
「気にすんな。国家維持部隊のやつから新品の制服を見せてもらっただろ? 俺は……、嬉しかったよ。ちゃんとした制服なんて着れると思ってなかったからな」
そうか、ヨシフさん達は制服すら与えてもらえなかったのか。極秘部隊といえば聞こえは良いが、上層部からしたら非正規戦闘をこなすだけの丁度良い部隊だったのかもしれん。
「よし! 飯も食った事だし俺は制服を貰ってくる。お前は大尉の所に顔を出してこい」
「わかりました」
辛気臭くなったのを払拭する為なのか、ヨシフさんはやけに元気のある声を出しながら去っていった。暫く後ろ姿を眺めていた俺も席を立ち大尉のいる場所に向かう。途中で既に新しい制服に着替えたクレアさんと出くわした。
「おはようございます。クレアさん」
「おはようございます。予定通り15分後に作戦開始、箱根基地に通信を送ります」
「了解です。この作戦の成否は情報担当官のクレアさんに掛かっています。頼みますよ」
「任せてください」
自信ありげに笑うクレアさんの笑顔で少し安心する事が出来た。目的の場所に着くと大尉が火のついていない葉巻を咥えながら指示を出しているのが見える。相変わらず元気だなあの人……、疲れるって事はないのかな?
「おはようございます。大尉」
「おはよう。こちらの準備は出来ているぞ、準備に手間取ったが箱根基地の全通信を傍受できるようになっている」
「レベルAAAクラスの通信もですか?」
「あぁ、クレア中佐が一時的にだがノアのメインコンピュータをハッキングした。次の通信帯変更までの短時間に限るが可能になっている」
なら今すぐ始めた方がいいな、あまり時間をおくとエリスさん辺りが俺達と同じような考えに到って通信帯を変更する可能性がある。そうなっては全てが水の泡だ。
「わかりました。それでは少し早いですが、現時刻をもって作戦開始。ノアに通信を送ってください」
俺の命令で大尉の部下たちが一斉に行動を始める。俺が無事だと知らせるのは保安部だ、まずはそこから始まる。
「通信送りました」
「ノアの通信量、増大しています」
クレアさんは設置してあるコンピュータに自分の端末を接続してデータを解析している。俺の無事を知らせてから1分経過、そろそろマッチョ達の即応部隊に連絡が行く頃だ……。次が母さん達のいる技術部に連絡が行くと思うが、さてどうなるか。
「AAAクラスの通信を確認。恐らくアラカワ・ミキに宛てた通信だと思われます」
ふむ、2分ちょいで母さんまで連絡が行ったか、結構早いんだな。次は母さんからの折り返しの通信……、その後に全部署に緊急通達の形になる筈だが───。
「見つけた! 通常の通信規定を守っていないわ。これは……、冗談でしょ」
「どうしました?」
「功樹君と大尉の勘が当たったわ、ノアの中に新世界に情報を漏らしている奴がいる。それも使っているのはAクラス通信、保安部の中にスパイがいるわ」
どうりでこちらの行動が全て筒抜けになってるわけだ、まさか保安部にスパイがいるとはな。しかしどうやって潜り込んだ? 職員には月面遺跡で見つけた表層意識が読める装置を使ってスパイがいないか判定している筈だ。まぁ、それはマッチョ達に任せるか。
「クレアさん、父さんに連絡して保安部を閉鎖するように言ってください。ノアの中で武器の携帯を許されているのは保安部と軍事部だけですから、アリスや母さん達の身が危険です」
「了解しました」
さてと、スパイが通信を送ったという事はチェリャビンスク基地はどうなっているかな……。担当の人にお願いして偵察衛星からの映像で基地を映してもらうと、基地の周囲を守るように配置してある戦車が閃光に包まれる瞬間だった。
「どこからですか?」
「120キロ東に駐屯している航空部隊からの対地攻撃です」
「よくやりますね。誰もいないのに」
「そうですね。でもこれで我々や国家維持部隊の中にはスパイがいないのは証明できました」
暢気な会話をしている最中も基地には猛烈な攻撃が加えられている。あそこにいたら死んでたな……。そんな事を考えているとクレアさんが声をかけてきた。
「功樹君、学院都市の防衛ラインに差し掛かります。新世界の襲撃のせいで対潜哨戒網が強化されていますので、そろそろ浮上しないと撃沈されるかと」
「わかりました。では大尉、後の指揮は任せます。この脱出は潜水艦が大好きな新世界に対する最高の皮肉になる予定ですから、恰好よく頼みますよ」
大尉は大きく頷いてから、真新しいロシア海軍のコートを羽織ると艦内放送用のマイクを掴み命令を下す。
「総員緊急浮上にそなえよ! これより当艦は日本領海内の学院都市沖に浮上する。浮上後は海上自衛軍の護衛を受ける事になる。我々はロシア海軍所属、原子力潜水艦マリア・フョードロヴナの乗員だ。アラカワを救い出し送り届けた英雄としてノアに亡命する事になるのを忘れるな」
わかってますって、日本政府に拘束されてもすぐに身柄を回収しますよ。俺は大尉達をロシアに送り帰すつもりも日本政府に渡すつもりもない。こんな危機的な状況で俺を送り届けたっていう実績があるからあまり文句もいわれないだろう。
それにしてもやっと日本に帰ってきたのか、たった4日なのに随分と長い間離れていた気がする。帰ったら母さんからどうなっているのかの事情聴取で忙しくなりそうだけど、とりあえず母さんの飯を食べて風呂に入りたい───。
スパイ、功樹が本当に基地にいると勘違いして尻尾をだす回。
0様のコメント通り、スパイがいる設定でした(`・ω・´)
気付くのはえーよ!!
さてさて、やっと帰ってきた功樹と始まるノアの反撃! 次回をご期待下さい!!




