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第10世代機『0式』

----美紀 視点----


「少し寝たほうがいいんじゃないか?」


 修一さんは部屋に入ってくると、ベッドに居なかった私に向かってそんな事を言った。功樹が立て篭もっていた地下鉄跡が崩落してから、もう72時間が経とうとしている。生存限界───。人は72時間以上の間、水も食料も無しで生きるのは難しい。崩落から三日も経てば生存率は6パーセント以下にまで低下する。だが低下するだけで零になるわけじゃない……、きっとあの子は生きている。


「大丈夫よ。それより何か分かったの?」


「技術部からの報告が上がってきている、新世界の使っていたスーツの解析が終わったそうだ。ヤツらが装着していたのは第6世代機、指揮官だったと思われるスーツは第8世代機とほぼ同等の性能を持っている」


「そう……、だからアレだけの被害が出たのね」


「あぁ。救出に向かった国連常備軍の精鋭パワースーツ中隊がたった8分で壊滅。最終的に撃墜した新世界のスーツは65機、こちらの被害は241機だ」


 勝負にすらなってないなんて笑いそうになる。だけど、アリスちゃんと取り組んでいる実験さえ成功したらスーツの性能差なんて関係なくなる筈だ。その為にも早くデータを纏めなければ……。


「13時からノア島で0式の起動試験を行うわ。関係職員以外は全員退去を命じているから、もしもの事があったら後は宜しく頼むわ」


「だがあのシステムは不完全なんだ危険すぎないか? それに、功樹がこうなっているのもアリスちゃんの責任ではないだろ。大体なぜアリス計画の事を子供達に伝えたんだ!? どうかしてるぞ!!」


「遅かれ早かれ彼女達は知る事になる。それなら後で知らされて蚊帳の外に置かれたと感じるよりは今知ったほう良いでしょ。それに、起動実験はアリスちゃんの強い要望でもあるから今更止めれないわ。責任を感じているのよ」


「功樹に恨まれるぞ……、アイツは今の俺たちが行おうとしている事を阻止したくてアリスちゃんの秘密を守ろうとしてたんだ。それなのに───」


 そんな事は分かっている。だけど、功樹が生きてあの場を脱出していたら0式スーツは絶対に必要になるのだ。そして子供達は功樹が必ず生きていると信じている。その為には数年は掛かる開発期間を短縮しなければいけない、たとえどんな方法を使っても後1日で仕上げてみせる。

 未だに納得の行かない顔をしている修一さんを押しのけ廊下に出ると、思わず自分の不甲斐なさに苛立って噛み締める。口の中に広がる血の味を感じていくらか気分が和らいだような気がした───。





----アリス 視点----


「コン、大丈夫? 頑張ってね」


『キュー』


 ディスプレイに映るコンちゃんに笑いかけると、美紀さんに準備が出来た事を知らせる為に頷く。


「試験開始。変換機を稼動しなさい!」


「変換機を稼動します。───、出力安定。0式スーツ稼動状態に入ります」


 良かった。本来搭載する予定だった反物質反応炉が間に合わなかったから急遽別に開発していた魔力変換機を搭載、コンの魔力を燃料代わりにするって美紀さんから聞いたけどちゃんと稼動したみたい。これなら私も皆の役に立てるよね! 思わず安心していると、美紀さんが悲しそうな顔をしてこっちを見ていた。やっぱりまだ気にしてるのかな?


「私は大丈夫ですよ!」


「ごめんなさい……。恨んで構わないわ」


「私が言い出した事です。私は普通の人と違う───、でも別に気にしてません。それよりも早くスーツを使えるようにしないと」


「ありがとう。さっきも説明したけど、これから0式スーツと物理的に接続します。火器管制システム・運動制御システムは勿論のことデータ通信含めた全システムをアナタの脳で処理する事になるわ」


「生きてるコンピュータ、というより生体部品になるわけですよね。響きはなんかカッコいいですよね」


 私の言葉で美紀さんの目が死んだ魚の様になったのが分かった。ちょっとした冗談のつもりだったのに……、むしろ功樹なら笑ってくれるレベルの冗談なのにそんな顔をされると罪悪感しか感じない。なんかごめんさなさい。


「…………、それで、恐らく脳に掛かる負担は尋常じゃないものになるわ。月面遺跡から持ち帰った脳の働きを助ける装置を使用するけど最悪の場合───」


「大丈夫ですって! 昨日計測したデータでは私の脳は人の処理能力を完全に凌駕しているって結果がでましたよね。余裕です」


 『人ヲ凌駕セシモノ』なんて凄いカッコいい、実験が成功したらメグミンに自慢しないと……。それに功樹君にも脳の処理能力だけなら勝っているって事は私にも天才の素質はあるってことだよね? つまり頑張れば私も美紀さんみたいな人になれるんだから、絶対に成功させて色々教えてもらわないといけない。


「それじゃ、いってきます」


 美紀さんにそう言った後で研究員の人に手を貸してもらいながら操縦ユニットの後ろに作られた専用のカプセルに入る。頭だけではなく顔まで完全に覆うくらい大きなヘルメットを自分で装着、一瞬だけ気を落ち着けてから内蔵されているマイクにむかって声を出す。


「準備できました」


『了解、ナノマシンを注入するために極めて細い針で脳を刺します。動かないでね』


「分かりました」


 痛かったらどうしようと考えながら身構えたけど痛みはまったくなかった。そのかわり一瞬だけ冷たいような感覚を感じた後で急に視界が開けた───。


「凄い!! 後ろまで全部見えてる!?」


『アリスちゃん落ちついて! 今アナタはスーツの外部カメラと感覚を共有しているの。これから電源を低出力モードから通常モードに移行するわ』


「りょ、了解」


『移行まで5秒、4、3、2、1、通常モードへ移行。0式スーツ完全起動!!』


 特に何も感じないけど大丈夫かな? 不安になって管制センターにいる美紀さんを見つめると視界の真ん中に赤い丸が表示された。なんだろこれ? そのままジッと見つめていると美紀さんの隣に居る研究者の一人がプルプルと震えているのに気付いた。そっちに視点を移すと赤い丸が増える。その瞬間、震えていた人がビクっと痙攣した。


『アリスちゃん、言い難いんだけど……』


「なんですか?」


『火器管制システムが起動しているわ。私達をロックしているの』


 ふぇ!? 待ってこれどうやってきるの? えっと、なんとなく分かる気がするけど上手くいかない。心の中で焦っていると視界の端で『システム最適化完了』のメッセージログが表示され、その瞬間急に使い方を『理解』できた。慌てて覚えたての方法でロックを解除、ついでに火器管制システムも一旦オフにしておく。


「ごめんなさい」


『良いのよ、初めてで戸惑ったでしょ。それより最適化が完了して───、ちょっと待って』


 美紀さんが急に通信を切って内線電話に向かって何かを叫んでいる。そしてこちらを見ながら功樹が行方不明になってから初めて『いつもの笑顔』を見せてくれた。


『アリスちゃん、功樹が見つかったわ!! チェリャビンスクにいるそうよ、無事で元気にしてるって』


 やった!! 良かった、本当に良かった。やっぱり功樹は無事だったんだ! 信じていつでも使えるようにスーツを準備してて正解だった。喜びの余り感情が爆発しそうになったところで、視界の端にメッセージログが表示される。

 

『爆発を認識、反応炉を暴走させますか?』───。


 ふぇぇぇ、もう嫌だ、このスーツ…………。




アリスは強い子、そして中二病。(`・ω・´)

コンの名前をつけるときも中二病を発症してましたよね。



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